東京・日本橋の三井記念美術館では、館蔵の茶碗100撰—国宝から手造茶碗まで—が開催されています。
今回は、同館が所蔵する200件を超える茶碗の中から、国宝、重要文化財を含む名品・優品、和物や唐物、高麗茶碗や三井家ゆかりの茶碗をはじめ、さまざまな種類の茶碗100件が選ばれて展示されている、とても豪華な内容の展覧会です。
遅ればせながら、先日展覧会におうかがいしましたので、展示の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2026年9月12日(土)~11月23日(月・祝)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 月曜日(ただし、10月12日、11月2日・23日は開館)、10月13日(火)
主催 三井記念美術館
入館料 一般 1,200円、大学・高校生 700円、中学生以下無料
※展覧会の詳細、各種割引等については同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.mitsui-museum.jp/
展示構成
展示室1:重要文化財と当館を代表する名碗
展示室2:国宝 志野茶碗 銘卯花墻
展示室3:如庵 茶道具取り合わせ
展示室4:唐物茶碗・高麗茶碗・和物茶碗
展示室5:樂の茶碗・永樂の茶碗(保全)
展示室6:永樂の祥瑞写(保全)
展示室7:永樂の茶碗(保全・和全)・手造茶碗
※展示室内は、展示室4を除き撮影禁止です。掲載した写真は美術館より広報用画像をお借りしたものです。
国宝・重要文化財の名碗が勢揃い!
独立ケースが並んだ展示室1には三井記念美術館が所蔵する重要文化財の名碗5点が勢揃い。千利休が所持したと伝わる《古三島茶碗(二徳三島)》などの名物とされる名碗とともに展示されています。
《重要文化財 中興名物 玳皮盞(鸞天目)》の見込に描かれた尾の長い鳥は瑞鳥の鸞(らん)。
独立ケースの中に展示されているので、360度ぐるりと回って見込みを眺めると、まるでアニメのように二羽の鷺が動き出して大空を優雅に飛んでいるように見えてきました。
重要文化財《粉引茶碗(三好粉引)》は朝鮮半島で16世紀に焼かれた茶碗で、戦国武将・三好長慶(1522-1564)が所持していたことから三好粉引と呼ばれています。
正面にある笹の葉のような模様がアクセントになってかっこいいなと思ったら、これは釉薬の掛け外れによるものだったのですね。
| 重要文化財 粉引茶碗(三好粉引) 朝鮮時代・16世紀 三井記念美術館蔵 |
そして茶碗で注目したいのは「銘」。
濃淡をつけた釉薬が作る模様がどんより曇って今にも雨が降ってきそうな様子に見える本阿弥光悦作の黒楽茶碗の銘は「雨雲」。昔の人たちの粋な銘を付けるセンスにはまさに「感銘」を受けてしまいます。
いつも展覧会を代表する作品が1点のみ展示されている「VIPルーム」展示室2には、日本で焼かれた和物茶碗で国宝に指定された2碗のうちの1碗、ご存じ《国宝 志野茶碗 銘卯花墻》が展示されています。(もう1碗は本阿弥光悦作の白樂茶碗(銘不二山)(サンリツ服部美術館蔵)です。
垣根文様は鉄絵で描かれていて、付属の小色紙に記された和歌「やまざとのうのはながきのなかつみち ゆきふみわけしここちこそすれ」から「卯花墻」という銘が付けられました。昔の人たちの感性はどこまでもおしゃれです。
個性的な茶碗も勢揃い!
三井記念美術館の中でも一番大きい展示室4には、唐物茶碗、高麗茶碗、和物茶碗がずらりと並んでいます。(展示室4は撮影可です。展示室内で撮影の注意事項をご確認ください。)
国宝や重要文化財でないからといって決して見劣りするものではありません。
個性的な茶碗が20点以上も展示されているので、どれもじっくりと見たくなる名碗ばかりです。その中から特に気になった茶碗をご紹介します。
唐物茶碗で気になったのは《染付雲堂手鉢の子茶碗》。
一見すると何が描かれているのかわからなかったのですが、胴から腰にかけては雲堂模様と呼ばれ渦巻状の雲などが描かれ、見込には草花と花弁文が描かれていて、とても斬新なデザインに感じられました。
| 御所丸茶碗 朝鮮時代・17世紀 三井記念美術館蔵 |
和物茶碗で気になったのは野々村仁清作の《色絵薄絵茶碗》。
仁清にしては控えめな色使いですが、秋の落ち着いた雰囲気が感じられます。
この茶碗は北三井家六代の三井高祐が入手したもので、展示室1に展示されている《青磁人形手茶碗》とともに、明治23年(1890)に京都府高等女学校において皇后陛下への献茶に用いられました。北三井家こだわりの仁清茶碗だったことがうかがえます。
三井家ゆかりの樂茶碗・永樂茶碗・手造茶碗も勢揃い!
《赤樂茶碗 銘再来》は、初代長次郎から数えて樂家三代道入の作。
この茶碗は三井越後屋創業者の元祖三井高利が所持したもので、出身地の松坂時代に一族が集まる椀飯振舞(おうばんぶるまい)で濃茶を点てて飲んだといわれ、高利所持の茶道具として唯一伝わったとても貴重な樂茶碗なのです。
余談ですが、気前よくもてなすことを「大盤振舞(おおばんぶるまい)」といいますが、これは一家の主人が親類縁者を招いて盛大な宴会を催す「椀飯振舞」から転じたものです。
| 赤樂茶碗 銘再来 三井高利所持 樂道入作 江戸時代・17世紀 三井記念美術館蔵 |
室町時代に初代宗禅により始まり、西村姓を名乗った永樂家と三井家の交流は、十代了全の代から見られ、十六代即全まで続き、中でも十一代保全(1795-1854)、十二代和全(1823-1896)の作品は150件近く三井記念美術館に所蔵されています。
今回の展覧会では、保全と和全の茶碗に限って32件(35点)が展示されています。
《赤地金襴手鳳凰文天目》は、明治20年(1887)2月1日、京都御苑で行われた京都博覧会で、北三井家九代高朗と十代高棟が席主となって行われた明治天皇への献茶で使用された由緒ある茶碗です。
明治もこの頃から日本文化見直しの機運が高まってきましたが、この京都博覧会における明治天皇への献茶は、明治23年(1890)の京都府高等女学校における明治天皇の皇后への献茶とともに伝統文化振興における画期的な出来事でした。
そのような場面で重要な役割を担った茶碗を目の前で見ることができて、とてもうれしい気分になってきました。
| 赤地金襴手鳳凰文天目 永樂和全作 明治時代・19世紀 三井記念美術館蔵 |
とても可愛らしい亀が何匹もスイスイと泳いでいる絵が描かれた《赤樂亀絵茶碗》は、文政2年(1819)に和歌山の西郊西浜御殿の偕楽園で行われた御庭焼において、紀州徳川家十代藩主徳川治宝(1771-1853)に命じられて北三井家六代高祐が手造りした茶碗で、亀の絵は徳川治宝が描いています。
「亀が可愛い」というのは率直な感想ですが、当時、大名の描いた亀を「可愛いですね」と言ったら大変なことになっていたかもしれません。
手のひらに乗るほどの小さな茶碗ですが、そこには色鮮やかな絵が描かれていたり、釉薬の偶然が生み出す文様が表れていたり、とても魅力的な小さな宇宙が広がっています。
このような味わい深い小宇宙が楽しめるので、ぜひ多くの方にご覧いただきたいおすすめの展覧会です。


