東京・墨田区のすみだ北斎美術館では、企画展「あ!っと北斎~みて、みつけて、みえてくる浮世絵~」が開催されています。
3階ホワイエのフォトスポット |
今回の企画展は、日本を代表する画家・葛飾北斎の作品の中にある「あ!」っとおどろく多くのしかけを発見する楽しみが体験できる展覧会です。
学校の夏休み期間中に開催されて、クイズ形式のワークシート「浮世絵で謎解き!~北斎の言葉~」と関連ワークシート「北斎で自由研究」も用意されているので、子どもたちのはじめて美術館見学や、夏休みの自由研究にもおすすめです。
それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2025年6月24日(火)~8月31日(日)
※前後期で一部展示替えあり
前期:6月24日(火)~7月27日(日)
後期:7月29日(火)~8月31日(日)
休館日 毎週月曜日
※開館:7月21日(月・祝)、8月11日(月・祝)
休館:7月22日(火)、8月12日(火)
会 場 すみだ北斎美術館 3階企画展示室
開館時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
観覧料 一般1,000円、高校生・大学生700円、65歳以上700円、中学生300円、
障がい者300円、小学生以下無料
※観覧日当日に限り、4階『北斎を学ぶ部屋』、常設展プラスも観覧いただけます。
※展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式ホームページをご覧ください⇒https://hokusai-museum.jp/at-hokusai/
展示構成
プロローグ 浮世絵と北斎 早わかり案内所
1 北斎の作品をみてみましょう
2 「あ!」っとみつけて、みえてくる!?
3階企画展示室に入ると、「浮世絵で謎解き!~北斎の言葉~」と「北斎で自由研究」がテーブルの上に置いてあるので、それを手に取ってさっそくスタート!
プロローグでは、浮世絵や葛飾北斎(1760-1849)についておさらいをして、浮世絵師が直接描いた「肉筆画」、絵師の他、版木を彫る彫師、版画を摺る摺師など手分けして作業される「木版画」、版画の中でも、「冨嶽三十六景」のような一枚ものの版画(錦絵や摺物など)と、『北斎漫画』のような本の形の「版本」の代表的な作品を見ていきます。
1 北斎の作品をみてみましょうでは、「冨嶽三十六景」シリーズの中でも代表的な作品、「神奈川沖浪裏」を見ていきます。
海外では「Great Wave」とよばれる大きな波と、波に翻弄される船が前面に描かれ、それとは反対に画面奥にどっしりと構える富士山との対比が見事な作品ですが、北斎は富士山の三角形と、手前の波の大きな三角形をシンクロさせる構図をつくっていたのです。
荒れ狂う海が描かれているのに、なぜか構図がびしっと決まっていると感じていましたが、二つの三角形が大きなポイントだったのですね。
ほかにも、陰陽師で知られる安倍晴明が主人公の版本『敵討裏見葛葉』四 妖婦ふたゝび形をあらはし保名童子に見えて仇人悪右衛門が事を告る(通期展示)では、薄墨で闇夜の怪しい光が効果的に表されていたものが、同じタイトルの版本の後摺(あとずり)では省略されて空白になっているのが比較できたり、イカやアワビ、魚やエビなどが描かれた肉筆画の《魚介図》(前期展示)では、イカを貝殻を粉末状にした胡粉(ごふん)と墨で着色して質感を出したりなど「あ!」と驚くポイントを見ていくことができます。
2 「あ!」っとみつけて、みえてくる!?では、「冨嶽三十六景」シリーズの中でも「神奈川沖浪裏」「凱風快晴」と並んで人気のビッグスリーにあげられる「山下白雨」の変わり図が紹介されています。
こちらは普段から私たちが見慣れている「山下白雨」。
画面右下の雷の稲妻は、すみだ北斎美術館のロゴマークのデザインの元になっているので、これもおなじみですね。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 山下白雨」すみだ北斎美術館蔵(前期) |
そしてこちらが「山下白雨」(変わり図)。
全体的に明るくなって、空の青が薄くなったり、稲光が太くなったり、下には松林が浮かんできたりと構図は同じでも全く違う絵のように見えてきます。
今回の企画展では、上でご紹介したすみだ北斎美術館蔵の「山下白雨」は前期展示で、後期は解説パネルの展示、「山下白雨」(吉野石膏コレクション すみだ北斎美術館寄託)は後期展示、「山下白雨」(変わり図)は、前期が解説パネル、後期はオリジナルが展示されるので、前期後期とも同じ絵なのにどれも少しずつ違いがあるのが比較できます。
さて、さきほど「後摺」という言葉が出てきましたが、今回の企画展では詳しく解説されていて、はじめて知ることもあったのでとても参考になりました。
浮世絵版画は1回に最大200枚摺ることができるといわれていて、1組の版木から最初に摺られたものは「初摺(しょずり)」と呼ばれています。初摺では、版元や絵師が立ち会ったといわれ、作者の意図がよく反映されるという特徴がありました。
2回目以降に摺られるのが「後摺」といわれ、版木の凹凸がつぶれたり、版木がいたんだりして、初摺に比べて後摺は輪郭線が太くなったり、線が途切れたりすることもあるのです。
さらに後摺では絵師が立ち会わなくなるため、さきほどご紹介した『敵討裏見葛葉』四のように薄墨が省略されたり、「山下白雨」(変わり図)のように絵に改変が加えられることもあったのです。
これから浮世絵版画を見るときは、輪郭線などをじっくり観察してみたいと思います。
続いて北斎の肉筆画をご紹介します。
今回の企画展では前期に「柳に燕図」「魚介図」、後期に「南瓜花群虫図」「蛤売り図」のそれぞれ2点が展示されます。
「柳に燕図」は、風になびく柳と上から下に飛んでいく5羽の燕が描かれていて、燕のスピード感が伝わってくる作品です。
北斎は、よく知られている『北斎漫画』をはじめ数多くの絵手本を制作していますが、「柳に燕図」と並んで『三体画譜』の燕のページが展示されているので、絵を描くときに絵手本がどのように活用されるのかがよくわかりました。
手前にいる人たちは何を見ているのだろう、と視線を遠くに向けると見えてくるのは、雪を頂いて堂々とした姿の富士山でした。
このように絵を見る人に視線を誘うような仕掛けを読み解くのも北斎作品の楽しみの一つかもしれません。
さて、手すりにもたれる人のうち、一番右の人が見ているのは何でしょうか?
葛飾北斎「冨嶽三十六景 五百らかん寺さゞゐどう」すみだ北斎美術館蔵(通期) |
3階ホワイエには、葛飾北斎「富士田園景図」の高精細複製画が展示されています。
※この作品は撮影可です。
葛飾北斎「富士田園景図」高精細複製画 (原画:スミソニアン国立アジア美術館蔵) National Museum of Asian Art, Smithsonian Institution, Freer Collection, Gift of Charles Lang Freer, F1902.48, F1902.49.(8月31日まで) |
4階では、常設展プラスが開催中。
「隅田川両岸景色図巻」の高精細複製画が展示されていて、『北斎漫画』をはじめとする北斎の絵手本のレプリカ約15冊は手にとって見ることもできます。
※常設展プラス内は撮影不可です。
同じく4階の『北斎を学ぶ部屋』では、実物大高精細レプリカやタッチパネルで北斎の画業の流れをたどることができます。北斎と娘の阿栄(おえい)が住んだ北斎アトリエの再現模型もあります。
※『北斎を学ぶ部屋』は一部を除き写真撮影が可能です。
北斎のアトリエ再現模型 |
作品のカラー図版もあって、わかりやすい解説がついた企画展オリジナルリーフレット(税込350円)は1階ミュージアムショップで発売中。おすすめです!
3階の企画展はもちろん、あわせて4階の常設展プラス、『北斎を学ぶ部屋』を見れば、北斎作品に隠された秘密もわかって、北斎さんにも会えて、北斎のことがより身近に感じられます。
楽しさいっぱいのすみだ北斎美術館にこの夏ぜひお越しください!