2025年7月11日金曜日

泉屋博古館東京 企画展 死と再生の物語(ナラティヴ)  ー中国古代の神話とデザイン             同時開催「 泉屋ビエンナーレSelection」

 東京・六本木の泉屋博古館東京では、企画展「死と再生の物語(ナラティヴ)ー中国古代の神話とデザイン」が開催されています。

泉屋博古館東京エントランス


展覧会開催概要


会 期  2025年6月7日(土)~7月27日(日)
休館日  月曜日(7/21は開館)、7月22日(火)
開館時間 午前11時00分~午後6時00分
     *金曜日は午後7時まで開館
     *最終入館は閉館30分前まで
入館料  一般1200円、学生600円、18歳以下無料
展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式ホームページをご覧ください⇒https://sen-oku.or.jp/tokyo/

展示構成
 第Ⅰ章 天地つなぐ動物たち(展示室①)
 第Ⅱ章 聖なる樹と山(展示室①)
 第Ⅲ章 鏡に映る宇宙(展示室①)
 第Ⅳ章 西王母と七夕(展示室②)
 第Ⅴ章 神仙への憧れ、そして日本へ(展示室③)
 特集展示 泉屋ビエンナーレSelection(展示室④)


※撮影はホール、鴟鴞尊(展示室①・独立ケース)、展示室④のみ可能です。
 館内で撮影の注意事項をご覧ください。
※掲載した写真は主催者より広報用画像をお借りしたものです。


泉屋博古館(京都)のアイドル《鴟鴞尊》が、2023年に泉屋博古館東京で開催された「不変/普遍の造形 住友コレクション中国青銅器名品選」からおよそ2年半ぶりに東京にやってきてくれました。そして今回は、青銅器とともに世界屈指と称される住友コレクションの中から選りすぐりの青銅鏡も展示されるというので、とても楽しみにしていました。
開幕から日にちが経ってしまいましたが、遅ればせながら展覧会を見てきましたので、展示の様子をご紹介したいと思います。

古代中国の青銅器や青銅鏡にはさまざまなデザインがほどこされていますが、一見しただけではそこにどのようなメッセージが込められているのかよくわかりません。
それでも丁寧な解説を読みながら見ていると、当時の人たちがどのような死生観、世界観をもってたのかがよくわかり、今まで以上に親しみがわいてくるように感じられました。

それではさっそく、今回の企画展のタイトル「死と再生の物語(ナラティヴ)」にちなんで、青銅器や青銅鏡自らが語る「物語(ナラティヴ)に耳を傾けてみたいと思います。

はじめにご紹介するのは《鴟鴞尊(しきょうそん)》。

《鴟鴞尊》中国・殷(前13-12世紀) 泉屋博古館


鴟鴞とはフクロウ、ミミズクのことで、古代中国では不吉の鳥とされていたのですが、さらに歴史をさかのぼった殷代には、フクロウやミミズクをあらわした青銅器などがつくられ、墓の副葬品として用いられていました。
それは、フクロウ・ミミズクが夜行性なので、闇夜に跋扈する邪霊から死者を守る役割が期待されていたり、死後の世界と通ずる存在と考えられた可能性があるからなのです。
現代の私たちから見たら、きょとんとしたような可愛らしい表情をして、心を癒してくれる《鴟鴞尊》ですが、殷代にはこんな重要な役割を担っていたのですね。


続いては、《弋卣(かゆう)》。


《弋卣》中国・殷(前12-11世紀)  泉屋博古館

こちらは二羽の
鴟鴞が背中合わせになっていて、鴟鴞の頸部や脚の付け根など死角にあたる部分には眼をもつ別の文様があらわされているという念の入りよう。
四方八方ににらみをきかせて邪霊を追い払いたいという、殷代の人たちの想いがひしひしと伝わってくるようです。
それにしても、フクロウやミミズクには似つかわしくない、まるで象のような太い脚が印象的です。この四本脚でのしのしと歩いたらきっと邪霊も恐れをなすのではないでしょうか。


次は青銅鏡。
青銅鏡の楽しみは何といっても、そこにあらわされた文様の意味を読み解くことです。

《蟠螭樹木文鏡》中国・前漢(前2世紀) 泉屋博古館

蔦がからまるような文様は、よく見ると何匹もの龍の頭が見えてきて体をくねらせているのがわかります。そして根をはった3本の樹木からは8本の枝が伸びて、その先にはつぼみのようなものが見えてきます。
右斜め上の樹木の枝には鸚鵡のような鳥がとまっていますが、これを見つけるのはかなり難しいので、作品右のパネルを参照しながらぜひ探してみてください。

古代中国では、太陽は10個存在していると考えられ、それの太陽がぶら下がっているのが東方のかなたに生える扶桑樹で、太陽は「金烏」という鳥に背負われて順に天に昇っていき、また扶桑の枝のもとに帰ると信じられていたので、この《蟠螭樹木文鏡》の樹木は扶桑樹を文様化した可能性が考えられるのです。


日本では、月にはウサギが住んで餅を搗いていると信じられていましたが、古代中国の人たちはどのように考えていたのでしょうか。
八枚の花弁が開いたような形の《月兔八稜鏡》に描かれているのは、中央に月桂樹、右側には仙人、左側には仙薬を搗いているウサギ、そしてその下の蟾蜍(せんじょ=ヒキガエルのこと)。

《月兔八稜鏡》中国・唐(8世紀) 泉屋博古館


これは、嫦娥(姮娥)が西王母のもつ不老不死の仙薬を盗んで月に逃げ、蟾蜍に姿を変えられたという「嫦娥奔月」の伝説をあらわしたものなのです。

「嫦娥奔月」の伝説は日本でも画題として描かれていますが、今回の企画展では、明治から大正にかけて大阪で活動した上島鳳山(1875-1920)の《十二ヶ月美人》のうち《八月 嫦娥》が、同じ《十二ヶ月美人》のうちの《七月 七夕》とともに展示されています。

上島鳳山《十二ヶ月美人》のうち《八月 嫦娥》
日本・明治42年(1909) 泉屋博古館東京



鏡の縁の断面が三角形をしているので「三角縁神獣鏡」と呼ばれる青銅鏡は、邪馬台国の女王卑弥呼が中国・魏の皇帝から授かった鏡百枚が「三角縁神獣鏡」ではないかといわれ、銘文に中国の元号があるのに中国では1枚も出土されていないなど、謎が多い日本古代史とあいまって、とてもミステリアスなところに惹かれます。


こちらは、京都・久津川車塚古墳から出土した重要文化財の鏡7面のうち《三角縁四神四獣鏡》。この《三角縁四神四獣鏡》と《画文帯同向式神獣鏡》は中国製、それ以外の5面は日本で模倣して制作された倣製鏡(倭鏡、倭製鏡ともいう)とされています。

重要文化財《三角縁四神四獣鏡》中国・三国(3世紀)
泉屋博古館



同時開催「泉屋ビエンナーレSelection」

2021年と2023年に泉屋博古館(京都)で開催された「泉屋ビエンナーレ」は、新進気鋭の鋳金作家たちが中国古代青銅器からインスピレーションを受けた新作を展示する展覧会でした。今回は、「泉屋ビエンナーレ」出展作品の中から選りすぐりの作品4点が展示されています。

梶浦聖子《地上から私が消えても、青銅》令和5年(2023)
泉屋博古館

古代中国の青銅器・青銅鏡から、現代作家による最新作まで、時空を超えて想像力がかきたてられるとても刺激的な展覧会です。
会期は7月27日(日)まで。
暑い日が続きますが、熱中症には気を付けて、ぜひご覧いただきたい展覧会です。

展覧会チラシ


ロビーでは《魁星像》がお出迎えしてくれます。

《魁星像》中国・明(16世紀) 泉屋博古館