岩手県立美術館、福島県立美術館と巡回してきた展覧会「東北へのまなざし1930-1945」が、いよいよ東京にやってきました。
場所は、今ではかつての上野駅にかわり、すっかり東北への窓口となっているJR東京駅の東京ステーションギャラリー。
東京ステーションギャラリー入口 |
1930年代以降に、ドイツの建築家ブルーノ・タウトや民藝運動を展開した柳宗悦はじめ、東北に眼を向けた著名な人たちが現地で何を見たのか、そして現地をどのように見たのか、とても興味深い内容の展覧会です。
展覧会概要
会 期 2022年7月23日(土)~9月25日(日)
*会期中一部展示替えがあります(前期7/23-8/21、後期8/23-9/25)
休館日 月曜日(8/15、9/19は開館)
開館時間 10:00~18:00
*金曜日は20:00まで開館 ※入館は閉館30分前まで
入館料 一般 1,400円、高校・大学生 1,200円 中学生以下無料
*障がい者手帳等持参の方は100円引き(介添者1名は無料)
*学生の方は入館の際、生徒手帳・学生証をご提示ください。
*展示室内の混雑を避けるため日時指定制を導入し、各時間で入館人数の上限を設定してい
ます。館内でも当日券を購入できますが、土日祝など混雑する時間帯は入館をお断りする
場合があります。
チケット購入方法は同館ウェブサイトでご確認ください⇒東京ステーションギャラリー
展示構成
Ⅰ章 ブルーノ・タウトの東北「探検」
Ⅱ章 柳宗悦の東北美学
Ⅲ章 郷土玩具の王国
Ⅳ章 「雪調」ユートピア
Ⅴ章 今和次郎・純三の東北考現学
Ⅵ章 吉井忠の山村報告記
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は報道内覧会で主催者より特別の許可をいただいて撮影したものです。
それではさっそく展示の見どころを中心に会場内の様子をご紹介したいと思います。
見どころ1 タウトが見た日本、東北は懐かしい
ドイツの著名な建築家、ブルーノ・タウト(1880-1938)が来日したのは1933年。
その後、わずか3年半の日本滞在では、各地を旅行して多くの手記、写真を残し、『日本美の再発見』(岩波新書)をはじめとした著書を著していますが、市井の人々の暮らしぶりに関心をもったタウトらしく、そこから映し出される日本の姿は、現代の私たちが直接体験したわけではないのに、どれも懐かしさを感じるものばかり。
Ⅰ章展示風景 |
どれも雪深い冬の道具や日用品ですが、これを見て、子どものころ会津の親戚の家に行った時、雪の中、車が立ち往生して、近くを車で通りかかった人たちに協力してもらって車を後ろから押して脱出したときのことを思い出しました。
農村の手仕事の美に魅了されたのは、東京生まれで「民藝」の普及に努めた柳宗悦(1889-1961)。
見どころ2 こけしにも系統があった!
私たちがよく知っている東北の玩具といえば、こけし。
そのこけしにも津軽系、南部系など、それぞれ特長のある系統があることを初めて知りました。
確かによく見てみると、それぞれのこけしには違った可愛さ、魅力があるのです。
東北は郷土玩具の宝庫。
赤べこやお面、郷土人形など、こけし以外にも多士済々。
Ⅲ章展示風景 |
今回の展示を見て、東京ステーションギャラリー2階の赤レンガの壁面は西洋絵画にぴったりと思っていましたが、それだけでなく和風の展示作品でもお似合いなのがよくわかりました。
Ⅲ章展示風景 |
こんなに魅力的な郷土玩具を見れば、欲しくなるのは自然のなりゆき。
ミュージアムショップには、さまざまな種類のこけしや展覧会関連グッズが揃っているので、お帰りの際にはぜひお立ち寄りください。
見どころ3 豪雪が生み出した東北の美の世界
「雪調」という聞きなれない言葉が出てきました。
正式には「積雪地方農村経済調査所」という「雪調」は、昭和初期の経済恐慌や凶作などで疲弊しきった東北地方の豪雪地帯を救うため、雪害対策の研究、民芸品の製作や農産物加工を振興して農村経済の活性化に向けた研究を行うことを目的として1933(昭和8)年に設立された機関でした。
雪調で中心的な役割を果たした人物のひとりが、弘前市出身の建築家、今和次郎(1888-1973)。
除雪に有効な斜め屋根、農家の換気や彩光など、雪国に適した家屋の研究を行いました。
Ⅳ章展示風景 |
東北の近代化と生活改善に力を注いだ和次郎は、都市の暮らしにも着目して、関東大震災で壊滅的な被害を受けた東京の現状を調査してスケッチで表現したのが、考古学に対して和次郎が造語した「考現学」。
Ⅴ章展示風景 |
考現学といってもけっして堅苦しいものでなく、人々の服装や生活用品が詳細に描かれたスケッチなど、当時の生活ぶりがよくわかって、とても興味深く見ることができました。
私のおススメは「本所深川 男の欲しいもの」「本所深川 女に入用な品物」などが値段付でイラストで紹介されているスケッチ。
今では手に入らないものも詳細に描かれています。
和次郎の弟で、東京で洋画家として活躍していた今純三(1893-1944)は、関東大震災を機に青森市に移り、兄の「考現学」調査に協力しました。
こちらは、さりげない日常の瞬間や、港や街の風景を描いたシリーズ『青森県画譜』。
兄・和次郎も高く評価していますが、どれも感じのいいタッチなので、『青森県画譜』のほかの作品も見てみたくなりました。
会津の親戚を訪ねた時に見た雄大な磐梯山を描いた作品が見えてきました。
福島市出身の画家、吉井忠(1908-1999)が描いた《裏磐梯》(福島県立美術館蔵 下の写真右から2つ目)。
戦時下の厳しい状況にあった東北の人たちの暮らしぶりを描いた作品が並んでいますが、苦しみの中にも何かほっとさせられるような響きが感じられました。
展示作品の図版や詳しい解説が掲載されている公式図録もミュージアムショップで販売中です。