2022年9月19日月曜日

大倉集古館 企画展「合縁奇縁~大倉集古館の多彩な工芸品~」

 東京・虎ノ門の大倉集古館では、同館の前身・大倉美術館の公開から120周年、財団法人大倉集古館の設立から105周年となる節目の年を記念して、企画展「合縁奇縁~大倉集古館の多彩な工芸品~」が開催されています。



今回の企画展はサブタイトルにあるように、螺鈿、刀剣、中国の陶俑、清朝の染織、タイの仏像・工芸品と、まさに大倉集古館ならではの多彩な工芸品が見られる展覧会です。

展覧会概要

展覧会名  企画展 合縁奇縁~大倉集古館の多彩な工芸品~
会 期   2022年8月16日(火)~10月23日(日)
開館時間  10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日   毎週月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
入館料   一般:1,000円
      大学生・高校生:800円※学生証をご提示ください。
      中学生以下:無料
※展覧会の詳細、各種割引料金等は同館公式サイトをご覧ください。
大倉集古館公式サイト⇒https://www.shukokan.org/

展示構成
 第1章-1 大倉集古館・大倉美術館の歴史(大倉美術館から大倉集古館へ)
 第1章-2 大倉集古館・大倉美術館の歴史(関東大震災から伊東忠太設計の大倉集古館)
 第1章-3 大倉集古館・大倉美術館の歴史(ホテルオークラ建設から現在へ)
 第2章  世界一と謳われた幻の漆工コレクション
 第3章  大倉財閥ゆかりの刀剣
 第4章  日本における最初期の陶俑蒐集
 第5章  清朝の染織
 第6章  喜八郎と喜七郎、それぞれのタイの美術

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より特別にお借りしたものです。
※掲載した作品はすべて大倉集古館所蔵です。


所狭しと並ぶ名品の数々がすごかった!


第1章 大倉集古館・大倉美術館の歴史

今回の企画展の冒頭を飾るのは、大倉美術館から大倉集古館、そして関東大震災を経て現在に至るまでの変遷がわかる絵画や写真パネル、設計図などです。

こちらは、大倉喜八郎氏が自邸の一部を美術館として開放した当時の様子が描かれた作品。


「大倉邸之図(含大倉美術館)」山本昇雲(松谷)画  明治36年(1903) 

斜面の傾斜を利用して建てられた邸宅や日本庭園が見えて、現在とは違う地形になっていますが、今でも大倉集古館横の道路がかなり急な下り坂になっているので、周囲を歩いてみると往時の地形を想像することができます。

続いて美術館の内部の様子。

天井や柱、壁面などにはそれぞれ手の込んだ装飾がほどこされていて、まさに豪華絢爛。
内装そのものが美術作品といってもいいくらいです。
来場者も、羽織袴の男性に髷を結った和服の女性、洋装の男女というのも和洋折衷の服装で、いかもに明治期らしい雰囲気が出ています。


「大倉邸美術館内之図」山本昇雲(松谷)画 明治36年(1903)

同じアングルの写真パネルも展示されいてます。
蔵王権現など今はなき仏像群が見えます。
関東大震災前の展示の充実ぶりが偲ばれるシーンです。

「大倉美術館(集古館)内部」大正6年(1917)頃

関東大震災がなければと、ついつい思ってしまいますが、今でも大倉集古館を訪れて、充実したコレクションが見られるのは幸せなことだとあらためて思いました。

現在の大倉集古館外観




今でもアジア各地の工芸品のコレクションがすごい!


第2章  世界一と謳われた幻の漆工コレクション

大倉集古館設立当初の目玉の一つが漆工品で、約400点の漆工品を所蔵し、中でも約150点の堆朱コレクションは世界一と謳われていましたが、関東大震災で数点を残しほどんどが灰燼に帰してしまいました。

今回展示されているこの重要美術品「唐草文螺鈿手箱」は、災禍を免れた貴重な作品。

重要美術品「唐草文螺鈿手箱」朝鮮 高麗時代・13世紀


現在の所蔵品は、当時、大倉家で使用されていたものが中心ですが、所蔵されている螺鈿の中には、喜八郎氏と親しかった奉天軍閥の総帥・張作霖から贈られた作品も含まれている可能性があるとのこと。

張作霖は、1927年、日本の支援を受け北京政府を掌握しましたが、1928年、蒋介石の北伐軍に押され奉天(現在の瀋陽)に撤退する途中、中国東北地方の直接支配をはかった関東軍によって乗車していた列車が爆破され暗殺されたことで知られています(張作霖爆殺事件)。

写真嫌いだった2人が写っている写真が、刀剣のエリアに続いて展示されています。


第3章  大倉財閥ゆかりの刀剣

刀剣の展示は照明の当たり方が絶妙でした。
50口弱の刀剣を所蔵する同館のコレクションから、今回は7口の刀剣が展示されていますが、どの刀剣も見る角度によって天井からの照明が刃に当たるようになっていて、刃がキラッ、キラッと輝くのです。
刀剣を前に左右に動いて、刃の輝きをご覧いただきたいです。

この章のタイトルは「大倉財閥ゆかりの刀剣」。
政商として軍部とのつながりがあり、折にふれ刀剣の寄贈を受け、また、戦前は輸入鉄鋼の最大手であった大倉財閥が開発した中国東北部の本渓湖炭鉱で採掘された鉄鉱石を使った刀剣も展示されています。


「刀 銘 以本渓湖高純鉄 
果(花押)/皇紀二千六百参季十月吉日」
柴田果作、昭和18年(1943) 


第4章  日本における最初期の陶俑蒐集

2階展示室にずらりと並ぶ中国の陶俑は壮観です。

所蔵していた陶俑約124点すべてが関東大震災で被災して、現在は、後に収蔵した1点を含め43点が所蔵されているとのことです。

こちらは被災した「白釉女子」ですが、火災の灰が自然釉となって独特の雰囲気を醸し出しています。

「白釉女子」中国 唐時代・7~8世紀 


震災後に収蔵された「加彩駱駝」は、荷物を入れた大きな袋、夜営テントの部材(板)の質感がとてもリアルで、重たい荷物を背負いながらもシャキッと立っている姿が印象的でした。
顔を見たら、今にも草を食んで口をもぐもぐさせそうな気がしてきました。


「加採駱駝」中国 唐時代・7~8世紀


東京国立博物館所蔵の陶俑も並んで展示されていましたが、被災して損傷が激しい「三彩馬」が色彩が残っている東京国立博物館所蔵の「三彩馬」と並んで展示されているなど、被災前の姿が想像できるように工夫されていました。



第5章  清朝の染織

鮮やかな藍色の装束は、清朝の典礼に官吏が着用する「蟒袍(マンパオ、ぼうほう)」。

全体を埋め尽くす「霊芝雲」の中、一番目立つのは龍の姿ですが、ほかにも法螺貝などの仏教の「八宝」はじめ吉祥を表すものが数多く描かれているので、解説パネルを見ながらどこに何が描かれているのか探してみてはいかかでしょうか。

「蟒袍」中国 清時代・7~8世紀


蒙古の鎧冑も展示されていますが、こちらはいかにも頑丈そうな作りでした。



第6章  喜八郎と喜七郎、それぞれのタイの美術

東アジアの仏教美術だけでなく、大倉集古館がタイの仏像や仏画を所蔵していることは知りませんでした。
仏教美術を愛した喜八郎氏はタイやチベットの仏像も蒐集したとのことです。

喜八郎氏時代の蒐集品「宝冠仏立像」は、全体にものすごく手の込んだ細かい彫刻がほどこされているので、近くでじっくりご覧いただきたいです。

「宝冠仏立像」タイ タラナコーシン時代・19世紀

両方の手のひらをこちらに向けていますが、このお姿は洪水を両手でせき止めるという奇蹟をおこした場面を表現したとされています。
昔も今も洪水に苦しめられてきた人々の思いが伝わってくるようです。

喜八郎氏の嫡子、喜七郎氏がケンブリッジ大学在学中にタイ(当時はシャム)の王族と同窓であったご縁から、タイを訪問し、王族から寄贈された工芸品も展示されています。

まさに、今回の企画展のタイトルどおり「合縁奇縁」で結ばれた多彩な工芸品が展示されている展覧会です。

作品のカラー写真入りの解説パンフレットも受付でいただくことができるので、この解説パンフレットを手にぜひお楽しみください!