2025年11月30日日曜日

大倉集古館 企画展「人々を援(たす)け寄り添う神と仏ー道釈人物画の世界ー」

私たちのそばに寄り添い、困ったときに私たちを援(たす)けてくれる神さまや仏さまたちが描かれた作品が見られる展覧会が東京・虎ノ門の大倉集古館で開催されています。
タイトルは企画展「人々を援(たす)け寄り添う神と仏 - 道釈人物画の世界 ー」
こんなありがたい展覧会は見逃すわけにはいかないと思い、開幕初日にさっそく行ってきました。

大倉集古館外観

展覧会開催概要


会 期   2025年11月22日(土)~2026年1月18日(日)
       前期 2025年11月22日(土)~12月21日(日)
       後期 12月23日(火)~2026年1月18日(日)
開館時間  10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日   毎週月曜日(ただし1/ 12は開館)、12/29-12/31、1/13
      ※年始は1/1から開館!
入館料   一般 1,000円、大学生・高校生 800円、中学生以下無料
※展覧会の詳細、ギャラリートークなどのイベント、各種割引等は同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.shukokan.org/

展示構成
 第1章 七福神
 第2章 江戸のヒーロー
 第3章 仏教の神と仏
 第4章 洛中洛外の瓦鐘馗

 
※本展では、3点の作品を除き撮影が可能です。会場内で撮影の注意事項をご確認ください。


第1章 七福神


私たちにとって正月の風物詩としておなじみなもののひとつは、福徳をもたらす神として信仰される七神が祀られた神社仏閣をめぐる七福神めぐりではないでしょうか。

恵比寿、大黒天、毘沙門天、布袋、福禄寿、寿老人、弁財天。
第1章ではそれぞれ特徴をもった七神が描かれた作品を見ることができます。

最初にご紹介するのは、七福神が描かれた三幅対の掛軸《七福神図》です。
作者は、下野国(現在の栃木県)の神主の家に生まれ、幼少より絵を好み、藩主の御用などで多くの作品を残した小泉斐(あやる)(1770-1854)。


《七福神図》小泉斐筆 [中幅]江戸時代・嘉永元年(1848)、
[左右幅]嘉永2年(1849) 個人蔵 通期展示

左後方には富士山がそびえ、すそ野には厳島神社のような社が描かれ、空には鶴が舞い、地には亀が這い、右幅には大黒天、恵比寿、中幅には弁財天、福禄寿、寿老人、左幅には布袋、毘沙門天が配置されて、おめでたいもの尽くし。自宅に広い床の間があれば正月に飾りたくなる掛軸です。

七福神には、それぞれアイコンともいえる服装や持ち物、連れている動物などの特徴があります。

たとえば、布袋さんなら太鼓腹に長い杖、日用品を入れた大きな袋。もとは唐末五代の僧で、弥勒の化身ともいわれています。
いつも笑顔で子どもたちに人気があったのも布袋さんの特徴ですね。

《布袋図》逸見(狩野)一信筆 江戸時代・19世紀
個人蔵 前期展示

一方、須弥山の中腹で北方を守護する毘沙門天は、外敵を退けなくてはならないので武具を身に着け、怒った表情(忿怒相)をしています。
単独では毘沙門天ですが、四天王の一尊としては多聞天と呼ばれます。

    
《毘沙門天立像》北川喜内作 江戸時代・18世紀
大倉集古館 通期展示 

毘沙門天は、インド神話のクベーラが仏教に取り入れられたもので、今回の展覧会では並んで展示されています。

クベーラ像 インド・グプタ朝時代(5-6世紀) 
大倉集古館(山内コレクション) 通期展示


毘沙門天のルーツであるクベーラの像は初めて拝見しましたが、太鼓腹で、左手に長い財布、右手に杯をもつ姿はまるで布袋さん。財宝の神様なので、ぜひともご利益にあやかりたいものです。


第2章 江戸のヒーロー


中国・三国時代、蜀漢の初代皇帝・劉備に仕えた2人の武将、関羽、張飛はともに非業の死を遂げましたが、死後、神格化されました。

横浜や神戸の中華街にある豪華絢爛な関帝廟で知られるように、関羽は武神として、また財神として祀られ、張飛は、中国で「桓侯大帝」という名で鐘馗のように門神とされたり、民を守護する神として祀られています。
それにしても、青龍偃月刀を持ち、髭をなでながら前に進む、武将姿の関羽の迫力は半端ではありません。(下の写真左)
江戸中期の京都画壇の巨匠・円山応挙筆で、高さは4m近くにも及ぶ大作です。


第2章江戸のヒーロー     展示風景
左が重要美術品《関羽図》円山応挙筆 江戸時代・18世紀
大倉集古館 通期展示  
    

伝説上の魔除けの神で、邪気を打払う鐘馗の迫力も負けてはいません。
江戸時代の5人の絵師や画僧が描いた鐘馗様がずらりと並ぶ中、ひときわ目立つのは葛飾北斎の門人・二代葛飾戴斗が描いた《鐘馗図》。この鐘馗様は今回の企画展のメインビジュアルになっています。


第2章江戸のヒーロー 展示風景
右が 《鐘馗図》二代葛飾戴斗筆 江戸時代・文政13年(1830)
大倉集古館 通期展示


第3章 仏教の神と仏


「道釈人物画」とは、仙人や高僧、羅漢、観音など、道教や釈迦(=仏教)に関係のある人物を描いた絵のことで、至ってまじめに描かれると思いがちですが、現代人の目から見ると必ずしもそうでないものもあって、現代のゆるキャラに通じるものがあるということに気が付かされたのが今回の企画展でした。



第3章仏教の神と仏 展示風景


上の写真右の《釈迦十六善神像》には、中央に金色の釈迦、その両脇に獅子に乗る文殊菩薩、白象に乗る普賢菩薩、周囲には十六善神、手前には玄奘三蔵が描かれています。
誰もが真剣な表情をしている中、口を大きく開けて吠えている獅子の愛嬌のある顔に気が付いて、なんだか和んだ気分になってきました。
よく見てみると、ほかの作品でも獅子や白象は可愛らしく描かれているのがわかります。


《釈迦十六善神像》鎌倉~南北朝時代・14世紀
大倉集古館 通期展示


こんな達磨さんとにらめっこをしたら、すぐに笑ってしまうので、勝てるはずがありません。
座禅を組んでいたり、にらみつける表情や、葦に乗って揚子江を下る姿はよく見かけますが、あかんべいのようなしぐさをしている達磨さんには初めてお会いしました。

《達磨図》岩井江雲画 萬輝宗旭賛
江戸時代・安永8年(1779) 個人蔵 通期展示


羅漢像が露出展示されていました。
もとは十六羅漢であったと考えられ、十六羅漢の像は羅漢単体で作られていることが多いのですが、侍僧や動物、持物が作られているのがこの羅漢像の特徴です。
一番左の羅漢さんに甘えている龍の表情に癒やされます。

《阿羅漢像》江戸時代・18~19世紀 大倉集古館
通期展示


ほかにも、いつも不気味な笑みを浮かべているはずなのに、ユーモラスに描かれた寒山拾得や、補陀落山中で、荒れた海の岩の上で悠然とたたずむ観音様はじめ、心が和んでくる作品が展示されています。


第4章 洛中洛外の瓦鐘馗


地下1階では、屋根瓦の鐘馗様の人気投票実施中です。

第4章 洛中洛外の瓦鐘馗 展示風景


写真家・服部正実さんが京都を中心に長年撮りためた瓦鐘馗作品50点の中から、気に入った鐘馗2点まで赤丸のシールを貼っていくのですが、どの鐘馗も特徴があって、選ぶのに苦労しました。


展示作品のカラー図版や詳しい解説が掲載された展覧会公式図録を購入したら鍾馗様のカードをいただきました。
道釈人物画とゆるキャラとの関わりを論じたコラムは必読です!
公式図録は地下1階のミュージアムショップで発売中です(税込1,800円)。



今年一年の厄落としにも、来年一月の初もうでにもぴったりの展覧会です。
おすすめです!

2025年11月17日月曜日

古美術から現代工芸、近代洋画から現代美術まで、時代を横断して作品を展示販売する「CURATION⇆FAIR」が京都で初開催!

古美術から現代工芸、近代洋画から現代美術まで、時代とジャンルを横断して作品を展示販売する「CURATION⇆FAIR」が京都で初めて開催されています。
会場は、京都西陣の日蓮宗大本山・妙顕寺、主催は、ユニバーサルアドネットワーク株式会社。11月15日(土)から18日(火)まで4日間限定の開催です。


さらに今回は、創立約120年の歴史をもつ東京美術倶楽部が初めて京都で開催する特別展示 「工+藝」京都2025が JR京都駅から徒歩10分ほどの距離にある渉成園(枳殻邸)で併設開催されるという豪華な内容になっています。

それでは11月15日(土)に開催されたプレス・関係者向けのプレビューに参加しましたので、さっそく会場の様子をレポートしたいと思います。

※「CURATION⇆FAIR Kyoto」の開催概要等は公式サイトでご確認ください⇒https://curation-fair.com/kyoto2025

「CURATION⇆FAIR Kyoto」


大本山妙顕寺は鎌倉時代に創建され、京都洛中における日蓮宗最初の寺院で、伽藍はたびたび移転を繰り返しましたが、本能寺の変ののち、豊臣秀吉の命により堂宇を現在の地に移転した由緒ある寺院です。    
春は桜が咲き誇り、秋は紅葉が境内を覆い、特別公開時には多くの参拝客が訪れる妙顕寺ですが、今回は少し様子が違う賑わいを見せています。

大本山妙顕寺「四海唱導の庭」

そうです。
このたび堂内を埋め尽くしているのは、各地のギャラリーから出展された美術作品なのです。

<出展者一覧>

akamanma/ARTDYNE/Artglorieux GALLERY OF TOKYO/hatonomori art/
ギャラリー広田美術/ギャラリー北欧器/KANEGAE/TATSURO KISHIMOTO/
Maki Fine Arts/水犀/名古屋画廊/日動画廊/RED AND BLUE GALLERY/
しぶや黒田陶苑/ギャラリー 志/ATSUHIKO SUEMATSU GALLERY/瀧屋美術/Wa.gallery/ZEAL HOUSE

<企画展示> 

超適応2:新しい時代の工芸と表現




勅使門を正面に臨む客殿にもこのとおり、8軒の出展者がブースを出しています。

妙顕寺客殿


日本で最も長い歴史をもつ洋画商・日動画廊からは、梅原龍三郎、藤田嗣治、安井曾太郎はじめ、近代日本美術を代表する作家たちの作品が展示されています。

Booth15日動画廊 展示風景

一方、こちらはBooth13水犀の立体作品。
さまざまなジャンルの作品が見られるのもアートフェアならではの楽しみです。

Booth13水犀 展示風景


妙顕寺を訪れる来賓をお迎えするための施設・大玄関に出展しているATSUHIKO SUEMATSU GALLERYでは、なんとドイツ・ルネサンスを代表する画家、版画家、デューラーの版画を発見!(下の写真右)
これでもかというくらい細かい描写、氏名の頭文字A(アルブレヒト)とD(デューラー)を組み合わせた独特のロゴからすぐにわかりました。

Booth19 ATSUHIKO SUEMATSU GALLERY 展示風景


三方を特徴的な庭園に囲まれた和室(書院)には6軒の出展者が作品が展示されています。
違い棚を利用したお寺ならではの展示風景が見られるのは、鎌倉の瀧屋美術のブース。
ここでは岡本太郎などの近代洋画と古美術が組み合わされた展示が見られます。岡本太郎の作品と縄文土器が何の違和感もなく並んでいるところがすごいです。

Booth06瀧屋美術 展示風景


樹齢400年の赤松と樹齢100年の黒松を臨む茶室で気になった作品は、現代作家によるインスタレーションでした。

Booth07ギャラリー志/KANEGAE 展示風景  


茶室に行く途中の圓窓から見る「光琳曲水の庭」の眺めもまた格別です。



「CURATION⇆FAIR Kyoto」は、普段はあまり訪れる機会の少ないギャラリーの作品や、時代やジャンルを超えて受け継がれてきた名品が古刹を舞台に集まったアートフェアです。
「自分の部屋に飾りたい。」と思える作品にめぐり合えるチャンスかもしれないので、ぜひ会場に足を運んでご覧いただきたいです。


渉成園(枳殻邸) 「工+藝」京都 2025


「工+藝」は、東京美術倶楽部が、工芸の新たな魅力や可能性を国内外に発信するために2024年に初めて開催した特別展示で、今回初めて京都で開催されることになりました。
「工+藝」京都 2025の会場は、渉成園の中でも一番広い閬風亭(ろうふうてい)。
現代の工芸界をけん引する作家46人の作品が京都の地に集結しています。

<出展作家一覧> 

浅井康宏、伊藤秀人、伊藤航、内田鋼一、ウチダリナ、王雪陽、大室桃生、隠﨑隆一、
月山貞伸、加藤高宏、加藤亮太郎、川端健太郎、岸野寛、小曽川瑠那、五味謙二、
佐故龍平、新宮州三、スナ・フジタ、関島寿子、孫苗、高橋奈己、田中里姫、佃眞吾、
土屋順紀、出和絵理、時田早苗、戸田浩二、豊海健太、新里明士、西村圭功、橋本雅也、
福村龍太、藤川耕生、桝本佳子、前田正博、増田敏也、松永圭太、三上亮、見附正康、
宮入陽、ミヤケマイ、十三代三輪休雪、三輪太郎、山村慎哉、吉田泰一郎、和田的


「工+藝」京都2025 展示風景

中には抽選に当たらないと入手できない作品あります。

「工+藝」京都2025 展示風景


渉成園では、ほかにも棟方志功の襖絵の特別公開、裏千家による呈茶席や和舟体験など多彩なプログラムが開催されます。
夜間特別拝観「渉成園 秋灯り」は11月30日(日)まで開催されます。
詳しくはこちらをご覧ください⇒https://www.higashihonganji.or.jp/news/shoseien/015410564/

渉成園 夜間特別拝観「渉成園 秋灯り」

期間限定の「CURATION⇆FAIR Kyoto」が見逃せません!

2025年11月7日金曜日

根津美術館 在原業平生誕1200年記念 特別展「伊勢物語 ー美術が映す恋とうたー」

東京・南青山の根津美術館では、在原業平生誕1200年記念 特別展「伊勢物語 ―美術が映す王朝の恋とうた―」が開催されています。

展覧会チラシ


今回の特別展は、美男子の誉れ高く、情熱的な和歌が多いことで知られる平安時代初期の歌人、在原業平(825-880)の生誕1200年を記念して、業平の和歌にまつわる物語を集めた短編物語集『伊勢物語』が生み出した書、絵画、工芸が一堂に会する展覧会です。

展示室内には、きらびやかな料紙に書かれた『伊勢物語』の写本の断簡、金泥や彩色で彩られた掛軸、絵巻物、屛風、さらには細やかな文様が描かれた優美な蒔絵の硯箱はじめ、平安王朝の華やいだ雰囲気が伝わってくる作品が展示されています。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2025年11月1日(土)~12月7日(日)
     ※会期中、前期(11/1-11/16)と後期(11/18-12/7)で、一部作品の展示替、頁替え等
      があります。
休館日  毎週月曜日 ただし、11月24日(月・祝)は開館、翌火曜日休館
開館時間 午前10時~午後5時(入館は閉館30分前まで)
入場料  オンライン日時指定予約
     一般 1500円 学生 1200円
     *障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、中学生以下は無料
会 場  根津美術館 展示室1・2・5

展覧会の詳細、オンライン日時指定予約等の情報は同館公式サイトをご覧ください⇒根津美術館

※展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。

展示構成
 第1章 在原業平と伊勢物語 ―古筆と古絵巻―
 第2章 描かれた伊勢物語 ―歌とともに―
 第3章 伊勢物語の意匠 ―物語絵と歌絵のあわい―


第1章 在原業平と伊勢物語 ―古筆と古絵巻―


展示の冒頭では在原業平ご本人がお出迎えしてくれました!

《在原業平像》室町時代 16世紀 根津美術館蔵
通期展示


実はこの《在原業平像》は、今まで公開する機会がなく、今回が初公開とのこと。生誕1200年の今年(2025年)、満を持してご登場いただいたという貴重な肖像画です。
服装は貴族が朝廷に参内する際の束帯(そくたい)、そして左手に料紙を持ち、筆を持った右手は頭の横に上げ、視線を遠くに向ける様子は、ちょうど新たな和歌を案じているところのようです。
まさに天皇の孫で、六歌仙や三十六歌仙に名を連ねた和歌の名手にふさわしいお姿。そのうえ、美丈夫(美男子)といわれたように端正な顔立ちをしています。
もちろん、生前の姿を伝えるものが残されていないので、実際にこのような顔立ちをしていたかどうかはわかりませんが、この《在原業平像》は、南北朝時代(14世紀)の《在原業平像》(重要文化財、個人蔵)に次ぎ制作年代の古いものとしても貴重な作品です。


印刷技術が発達していなかった時代には、物語は写本や書写した本文に絵を添えた絵巻や絵本の形で伝わりました。
『伊勢物語』の写本は古くても12世紀までのものしか残っていないのですが、第1章には平安時代(12世紀)の写本の断簡はじめ貴重な作品が展示されています。
流れるような文体はもちろん、料紙の装飾の美しさにも注目したいです。

第1章展示風景

そして、こちらは室町時代(16世紀)の《伊勢物語絵本》(個人蔵)。
5世紀も前の絵本なのに、色がこれだけ鮮やかに残っているのは驚きです。

《伊勢物語絵本》室町時代 16世紀 個人蔵
前期・後期で頁替


第2章 描かれた伊勢物語 ―歌とともに―


『源氏物語』とならんで、日本の古典文学ではその名がよく知られている『伊勢物語』。
主人公は業平その人ではないかともいわれていますが、作者や成立年は未詳で、「古今和歌集」が成立する延喜5年(905)以前から物語の原型ができ、その後、章段の数が増え、125段からなる形が定着しました。そして、収められている和歌は全部で209首にも及びます。


江戸時代初期に出版され、その後の『伊勢物語』を主題とした絵画に大きな影響を与えたのが嵯峨本『伊勢物語』。

嵯峨本『伊勢物語』江戸時代 慶長13年(1608) 個人蔵
前期・後期で頁替

次にご紹介する《白描伊勢物語図屛風》も影響を受けた作品のひとつ。場面数も一致し、絵の構図もほぼこの嵯峨本『伊勢物語』を踏襲しているのです。
章段ごとの区切りに金砂子が撒かれた白描の《白描伊勢物語図屛風》には、44の章段から49の場面が描かれています。

《白描伊勢物語図屛風》江戸時代 17世紀 根津美術館蔵 通期展示


『伊勢物語』は、「八橋」「隅田川」「宇津の山」など断片的には知っているけど、どの場面が描かれていて、どのような物語なのかはよくわからない、という方もいらっしゃるかもしれませんが(筆者もその一人)、ご心配なく。
展示室内には、《白描伊勢物語図屛風》のそれぞれの場面の章段とタイトルや、その中から選ばれた10の名場面の物語のあらずじが記された解説パネルが掲示されているので、とても参考になります。


125段すべての詞書が描かれ、そのうち63段の77場面が描かれているという豪華な内容の絵巻は《伊勢物語絵巻》(全6巻 東京国立博物館蔵)
作者は、土佐派から分かれ、江戸幕府の御用絵師となった住吉派の祖、住吉如慶。
今回の特別展では、6巻のうち巻1と巻6が展示されています。(前期・後期で巻替)

住吉派の《伊勢物語絵巻》(下の写真右奥)と、土佐派の土佐光起による《伊勢物語図屏風》(下の写真左、個人蔵)が並んで展示されているのも何かのご縁でしょうか。

第2章展示風景


上の写真右の独立ケースに展示されている扇子は、『伊勢物語』第87段「海人の漁火」の絵を描いた鈴木其一、そして反対側の和歌を書いた其一の師・酒井抱一という、江戸琳派を代表する二人の絵師による師弟競演の作品です。


鈴木其一(絵)酒井抱一(書)《伊勢物語歌絵扇子》江戸時代 19世紀
個人蔵 通期展示

今回の特別展では、琳派の祖・俵屋宗達、宗達に私淑した尾形光琳、光琳に私淑した酒井抱一という、江戸時代における琳派の系譜をたどることができます。
宗達作と伝わるのは、登場人物の表情やしぐさが可愛らしい《伊勢物語図色紙》。

第2章展示風景

次に宗達派の屛風、尾形光琳、酒井抱一と続き、さらには江戸初期の絵師で、浮世絵の祖といわれた岩佐又兵衛、幕末に活躍した復古大和絵派の絵師・冷泉為恭はじめ、江戸時代を代表する絵師たちが描いたそれぞれ特徴のある『伊勢物語』が並びます。

第2章展示風景



第3章 伊勢物語の意匠 ―物語絵と歌絵のあわい―


展示は、2階の展示室5に続きます。

和歌とその歌の内容を描いた扇型の絵を集めた「扇の草子」と呼ばれる《扇面歌意画巻》は、扇面がパタパタと音をたてて空中に浮かんでいるように見えて、にぎやかで華やいだ雰囲気が感じられます。


《扇面歌意画巻》(部分)江戸時代 17世紀 根津美術館蔵
通期展示

今まで見てきた作品は物語の場面が描かれた「物語絵」でしたが、こちらは和歌の情景が描かれた「歌絵」。全部で100首が描かれた和歌のうち、『伊勢物語』からは29首もの和歌が取られているのがこの作品の特徴です。

右から左に物語を追っていくのが絵巻物ですが、はじめに蓋の絵、次に蓋を開けて裏蓋の絵、最後に箱の中の見込の絵という具合に、蓋を開けながら物語の展開を見ていくのが蒔絵の硯箱。
蓋の下には鏡が置かれていて、裏蓋の絵を見ることができるので、蓋を開けた気分で物語の展開を楽しむことができます。

第3章展示風景 


『伊勢物語』はいくつかの章段のあらすじを知っている程度だったのですが、物語にちなんだ作品を見ているうちにその魅力に引き込まれ、『伊勢物語』についてもっと詳しく知りたいと思わせてくれる展示でした。


同時開催


展示室3 仏教美術の魅力 ー近世の仏像ー


見た瞬間、大きなインパクトが感じられた、忿怒相の不動明王や愛染明王、すべてを包み込んでくれるやさしいお顔の大日如来。
展示室3には、根津美術館が所蔵する室町時代から江戸時代の仏像の優品が展示されています。


右から 《不動明王坐像》日本・室町時代 15世紀、
《愛染明王坐像》日本・ 江戸時代 17世紀、
小沼正永作《大日如来坐像》日本・江戸時代 正徳2年(1712)
いずれも根津美術館蔵 通期展示



展示室6 口切 ー茶人の正月ー


11月は、茶席で茶壺の封を切り、この年の初夏に摘んだ新茶をいただき、茶の湯の新しい一年の始まりの月。茶人たちの正月にふさわしい茶道具が展示されています。

《肩脱茶壺 銘 長門》福建 中国・元~明時代 14~15世紀
根津美術館蔵 通期展示

「肩脱」とは口から肩にかけて釉薬が施されていない茶壺のことで、この作品は、封をするときに使用された紙が残存する加賀藩前田家伝来品です。


ミュージアムショップ


展示作品のカラー図版はもちろん、各分野の作品の鑑賞ポイントに関するコラムも充実した特別展図録はおすすめの一冊です。

特別展図録「伊勢物語―美術が映す王朝の恋とうた―」



新年のカレンダー、オリジナル香「伊勢物語」はじめオリジナルグッズも盛りだくさん。
ミュージアムショップにもぜひお立ち寄りください。



三館合同キャンペーン 秋の三館美をめぐる2025

 
今秋も、三井記念美術館・五島美術館・根津美術館では三館合同キャンペーン実施中!
詳しくはこちらをご覧ください⇒秋の三館美をめぐる2025




2026年度の展覧会スケジュールが発表されました⇒年間スケジュール
来年度も充実のラインナップなので、毎回の展覧会か楽しみです。