2013年3月17日日曜日

ルーベンス展ブロガー・スペシャルナイト

先週の水曜日、3月13日に渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催されたルーベンス展『ブロガー・スペシャルナイト』に参加してきました。
これは、Bunkamuraザ・ミュージアム学芸員の宮澤政男さんと、TBSアナウンサーの小林悠さんのトークショーを取材してブログで紹介する人を対象としたもので、閉館後の7時30分から約1時間のトークでルーベンスや今回出展されている作品について解説をいただき、そのあと30分間、作品を鑑賞したり、許可されたゾーンでは写真撮影ができるというおいしい企画でした。
それだけに人気があり、先着50名とのことですぐに締め切られましたが、私は33番目で運よくすべり込むことができました。
そこで今回は「ドイツ・ゲーテ紀行」はお休みして、このときの様子をレポートしたいと思います。
とはいっても、ここはドイツに関するブログ。
ゲーテ先生には引き続きご登場いただきます。

トークショーの様子(背景は作品№16「復活のキリスト」)

展示室風景

 (左は、作品№6「毛皮をまとった夫人像(ティツィアーノ作品の模写)」、左は作品№4「ロムルスとレムスの発見」)

 (左から、作品№9「眠る二人の子供たち」、作品№20「天使からパンと水を受け取る預言者エリア」、作品№18「三美神」)


「ところで君に、デザートとして、いいものを見せてあげよう」とゲーテがエッカーマンに見せたのは、一枚のルーベンスの銅版画だった。
それは、羊の群れ、干草と馬車、馬、家路へ急ぐ農民といった、どこにでもあるような農村が描かれた風景画であった。しかし、ルーベンスの偉大さはこの絵のどこにあるのか。
前景の家路を急ぐ農民は手前からの光を受け、明るく照らし出されているが、それを際立たせるため、木立ちは後ろからの光を浴び、絵を見る人の方へ影を投げている。
まったく反対の方向からそれぞれ光が差すという現実にはありえない絵だ。
ここでゲーテは言う。
「一段と高い域に達した芸術家は、(略)ルーベンスがこの風景において『二重の光』を使っているように、虚構の世界へ足を踏み入れてもかまわないのだ」
(以上、エッカーマン著『ゲーテとの対話(下)』(岩波文庫)P135-P137 1827年4月18日の項より)

宮澤さんのお話によると、ルーベンスは当時の大スター。その版画はヨーロッパ中で大人気で、いくつかの国では独占的版権を持っていて、要はルーベンスの厳しいチェックをクリアしないと出版ができなかった、とのことで、このお話をおうかがいしたとき、「僕はルーベンスの版画をもっているんだよ」と得意げに版画を友人に見せるゲーテの表情が頭の中に浮かんでくるようだった。

ルーベンスは大スター。中年の域に達してもかっこいい。
展示会場に入ってまず目にするのが帽子を被ったルーベンスの自画像。


やはり宮澤さんから、版画だけでなく、肖像画も人気が高かった。ところで、この帽子、じつは髪の毛の薄いのを隠すためという説もある。実際、工房の作品として帽子を被っていない作品もあるので(作品№45 こちらは撮影不可)あとで見てください、とのお話があった。
そういわれてよく見るとこの肖像も額がかなり後退している。


ゲーテは、彼と同時代の画家たちによる版画を見て「ある種の迫力が欠けている」と嘆く。
それに対してエッカーマンは「樹木や、大地や、水や、岩や、雲などは、彼(ルーベンス)の力強い信念が形式の中にしみこんでいます」と返す。
(以上、エッカーマン著『ゲーテとの対話(中)』(岩波文庫)P237 1831年2月13日の項より)

宮澤さんは、ルーベンスは人物画家。特に後期の大きな作品だと、人物は自分で描いて、背景は風景の得意な工房の画家に描かせたりもした。それでも「ロムルスとレムス」のような若い頃の作品や、「ヘクトルを打ち倒すアキレス」(作品№21)は(人物も背景も)本人がかなり書いているし、小品(作品№26~30)はほとんど本人が書いているので、筆の勢いを感じ取ってください、と説明されていた。
本人の筆なのか、工房の画家の筆なのか、そして筆づかいの迫力が感じ取れるかどうか、これもルーベンスの作品を見るときの楽しみのひとつかもしれない。

さて、「二重の光」に戻るが、今回出展された作品の中に風景を描いた版画が2つ(作品№76「井戸のある風景」、作品№77「月明かりの風景」)あったので、よく目を凝らして見てみた。
もちろんゲーテの持っていた作品とは違うので、「二重の光」を感じ取ることはできなかったが、人物画家ルーベンスの風景画も幻想的な雰囲気が出ていて、個人的には気に入っている。



会場を出るとすぐにミュージアムショップがある。そこにルーベンスの風景画の版画が何枚か壁に掛けられていたので見ていたところ、係の女性から声をかけられた。
「ここにある作品はすべて17世紀に刷られた本物の版画です。よかったら1枚どうですか」
なんと縮小版のレプリカでなく、本物なのだ。
値段を見ると128,000円。クレジットも使えるし、買えない金額ではない。
心が動いた。でも買わなかった。
私は美術展で気に入った作品があると絵はがきを買うことがあるが、家でいろいろな絵を並べても、絵はがきと本物ではあまりに不釣り合いすぎる。
ならば絵はがきをと思い、絵はがきのコーナーを見渡したが残念ながら風景画の版画は見当たらなかった。

さて、Bunkamuraザ・ミュージアム「ルーベンス展」、いろんな視点から楽しむことができるのでお勧めです。
そして、本物の版画、少し高価なデザートですが、ご興味のある方はぜひ一度ご覧になってみてください。
最後になりますが素晴らしい企画ありがとうございました。