2023年7月20日木曜日

根津美術館 企画展「物語る絵画 涅槃図・源氏絵・舞の本・・・」

東京・南青山の根津美術館では、企画展「物語る絵画 涅槃図・源氏絵・舞の本・・・」が開催されています。

展覧会チラシ

今回の企画展では、お釈迦さまや聖徳太子の生涯、源氏物語や平家物語の主な場面など、私たちになじみのある歴史上の人物や物語が描かれた掛け軸、絵巻、屏風などが展示されていて、シリアスな場面も、なごめる場面もあって、作品の細部まで見れば見るほど楽しめる展覧会です。


展覧会開催概要


会 期  2023年7月15日(土)~8月20日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  毎週月曜日
入館料  オンライン日時指定予約 一般 1300円、学生1000円
     *当日券(一般1400円、学生1100円)も販売しています。同館受付でお尋ねください。
     *障害者手帳提示者および同伴者1名は200円引き、中学生以下は無料。
会 場  根津美術館 展示室1・2

展示構成
 神仏と高僧のものがたり
 源氏絵と平家絵
 御伽草子と能・幸若舞の絵画 

展覧会の詳細、オンラインによる日時指定予約、スライドレクチャー等の情報は同館公式サイトをご覧ください⇒根津美術館 

※展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。


神仏と高僧のものがたり


冒頭には、お釈迦さまの生涯の主な場面が描かれた掛け軸が2幅《釈迦八相図》《仏涅槃図》、巻物が1巻《絵過去現在因果経 第四巻》が展示されています。

「神仏と高僧のものがたり」展示風景

《釈迦八相図》は、久遠寺所蔵の3幅とともにもとは8幅であった可能性があるもので、出家した釈迦が6年におよぶ苦行ののち、苦行が無益であったことを知り、山を下りて尼連禅河で沐浴する場面までが描かれています。
いくつもの場面が一つの画面に描かれているので、作品だけ見るとどれがどの場面かわかりにくいのですが、作品の手前の解説パネルに場面説明があるので、作品と解説パネルを見比べながら見るとわかりやすいです。

右 重要文化財《釈迦八相図》日本・鎌倉時代 13世紀
左 重要文化財 行有・専有筆《仏涅槃図》日本・南北朝時代
康永4年(1345) どちらも根津美術館


釈迦入滅の場面が描かれた《仏涅槃図》の中央には左半身を下にして横たわる釈迦、天空には釈迦の元へ向かう釈迦の母・摩耶夫人、釈迦の近くには嘆き悲しむ弟子たち、さらに画面下には悲しむ動物たちの姿が見えます。

「涅槃図」を見るとき、筆者が特に注目するのは動物たち。
日本にはいなかった動物や、想像上の動物など、さまざまな種類の動物たちを見つけることができるからなのです。

重要文化財 行有・専有筆《仏涅槃図》(部分)
日本・南北朝時代 康永4年(1345) 根津美術館

この《仏涅槃図》の画面下にも、全身で悲しみを表わす獅子、嘆き声がこちらにまで聞こえてきそうな白象、さらには龍や虎なども描かれているのがわかります。


続いては、弘法大師(空海・774-835)の伝記と業績を描いた十巻本の絵巻(巻第一を欠く)のうち《高野大師行状図画 巻第二》。

《高野大師行状図画 巻第二》日本・室町時代 16世紀
根津美術館


巻第二には、仏教を極めるため入唐した空海が唐で起こしたさまざまな奇蹟が描かれています。なかでも特に驚いたのは、唐の宮廷の壁に書を書くことを命じられた空海が、両手・両足、口に筆を執って五行の書を同時に書く場面でした(下の写真左上)。

《高野大師行状図画 巻第二》(部分)日本・室町時代 16世紀
根津美術館


真言宗の開祖というだけでなく、嵯峨天皇、橘逸勢と並んで平安初期の三筆のひとりで、優れた書家としても知られる空海ですが、まさかこのような逸話が伝わっていたとは!
真剣な空海の横顔が印象的です。

こちらも誰もが知っている歴史上の人物、聖徳太子の絵伝。
この《聖徳太子絵伝》は6~8幅構成であったものの一部で、廃仏派の物部守屋との息詰まる合戦シーンや、四天王寺の建立、甲斐国から献上された黒駒に乗って富士山に登るエピソードなどが画面いっぱいに描かれています。



《聖徳太子絵伝》日本・南北朝時代 14世紀
根津美術館 

いくつもの場面を順番に追っていくのは難しく、昔は僧が絵を傷つけないように鳥の羽を先端につけた棒で指し示しながら、それぞれの場面について信者に説明していたとのことですが、今では作品手前の解説パネルが頼りになります。


中世の絵巻物には、今で言えば「ゆるキャラ」のようになごめる人物や動物たちを探す楽しみもあります。
《十二因縁絵巻》を見ていたら、国宝《鳥獣人物戯画》(高山寺蔵)にも出てきそうな愛嬌がある動物たちを発見しました。
恐ろしいはずの鬼たちも従順そうで可愛らしく描かれています。

重要文化財《十二因縁絵巻》(部分)日本・鎌倉時代 13世紀
根津美術館



源氏絵と平家絵


日本文学のロングセラー『源氏物語』や『平家物語』は、早くから絵巻物や画帖、屏風などに描かれていましたが、今回の企画展でもさまざまなタイプの作品を見ることができます。

6曲1双の《源氏物語図屏風》には『源氏物語』54帖の中から、右隻、左隻にそれぞれ4つの場面が描かれていますが、物語の順番でなく、各場面が季節の順に配列されているので、季節の移り変わりがよくわかる作品として見ることができます。
ここでも解説パネルで各場面の説明をチェックしてみてください!


《源氏物語図屏風》日本・桃山~江戸時代 17世紀
根津美術館

いくつかの場面がチョイスされる作品がある一方、『源氏物語』の全54帖からおおむね各1場面が白描で描かれた8曲1隻の《源氏物語図屏風》(下の写真右)や、匂宮が浮舟を宇治の山荘から連れ出し小舟に乗せた第51帖「浮舟」のワンシーンが大きくクローズアップされた屏風も展示されています。


右 《源氏物語図屏風》 左 《浮舟図屏風》
どちらも日本・江戸時代 17世紀 根津美術館


『平家物語』の印象的な場面が描かれた《平家物語画帖》は、3帖の折帖に120場面の小型の扇面画を貼り込み、金箔と金泥下絵で装飾した台紙に詞書が書かれた、とても豪華なつくりの画帖です。

《平家物語画帖》(部分)日本・江戸時代 17世紀
根津美術館

小さな画面一つひとつに細部まで丁寧に描かれているので、いつまでも見ていたい気分になってきます。
こちらは那須与一が扇の的を射る有名な場面です。

《平家物語画帖》「下帖-24 那須与一の事」
日本・江戸時代 17世紀 根津美術館


御伽草子と能・幸若舞の絵画


御伽草子などの題材となった酒呑童子が描かれた絵画というと、都で人をさらう悪事を働き、源頼光と頼光四天王に退治されるという凄惨な場面が思い浮かびますが、今回の企画展で展示されている《酒呑童子絵巻 巻第三》は少し趣きが違います。

住吉弘尚筆《酒呑童子絵巻 巻第三》日本・江戸時代 19世紀
根津美術館

『伊吹童子』の物語を前半に加えたこの《酒呑童子絵巻》では酒呑童子の生い立ちから語られているのです。

幼児の頃から酒を好み、酒癖が悪かったので飲酒禁断の比叡山に修業に出された酒呑童子でしたが、帝の前で舞った鬼舞が人々の喝采を浴びて、踊り手たちにふるまわれた酒を呑んだところ、かつての狂気がよみがえり比叡山を追放されることになってしまいました。

赤い仮面をつけて中央で踊るのが酒呑童子。
住吉弘尚筆《酒呑童子絵巻 巻第三》(部分)日本・江戸時代 19世紀
根津美術館

ご褒美の酒を呑みすっかりいい気分になった酒呑童子。
(ここで飲まなければ悲惨な結末を迎えないで済んだのですが。)
住吉弘尚筆《酒呑童子絵巻 巻第三》(部分)日本・江戸時代 19世紀
根津美術館




正面手前は、今回の企画展では唯一の工芸作品《鈴鹿合戦蒔絵硯箱》。
能『田村』で語られる、田村丸(坂上田村麻呂)が千手観音の霊験で鈴鹿山の鬼神を征伐する場面が彫金と象嵌の技法で表された逸品です。


《鈴鹿合戦蒔絵硯箱》日本・江戸時代 19世紀 根津美術館

《鈴鹿合戦蒔絵硯箱》の後方左は、同じく田村丸の鬼退治の場面であることが最近判明した伝 岩佐又兵衛筆《妖怪退治図屏風》。
妖怪に向かっておびただしい数の矢が放たれていますが、よく見ると矢を射っているのは田村丸一人だけ。実はこの矢は千手観音の千の手から射られたものなのですが、千手観音の姿はどこにも見えません。
それは、千手観音の姿は描かないという決まりごとがあったので、《鈴鹿合戦蒔絵硯箱》にも同じ理由で千手観音の姿は見えないのです。

左 伝 岩佐又兵衛筆《妖怪退治図屏風》日本・江戸時代 17世紀 個人蔵
右 《祇王・卒塔婆小町図屏風》日本・江戸時代 18~19世紀 根津美術館 


上の写真右は今回が初公開の《祇王・卒塔婆小町図屏風》ですが、こちらも今回が初公開の《舞の本絵本断簡》。


《舞の本絵本断簡》日本・江戸時代 17世紀
根津美術館

「舞の本」は、「築島」「敦盛」はじめ語りを伴う舞曲「幸若舞」の台本を読み物としたもので、上の写真のように各丁ごとに切り離されて収納箱に保管されていたものです。


同時開催展


展示室5 物語で楽しむ能面


展示室5には、安珍・清姫伝説で知られる「道成寺」、三保の松原の羽衣伝説で知られる「羽衣」など、私たちになじみのある演目で用いられる能面と能装束が展示されています。

展示風景


『羽衣』に登場する天人などが用いるきらびやかな鳳凰天冠(銕仙会蔵)は特別出品です。

《鳳凰天冠》日本・平成時代 21世紀 銕仙会


展示室6 盛夏の茶事


展示室6では涼しさを感じさせてくれる茶道具が展示されています。
なかでも注目は《緋襷耳付水指 備前》(根津美術館蔵)。(左奥右)


展示風景

備前焼の茶道具はたっぷり水で濡らして茶室に置いたので、水が気化する時に吸収する気化熱で周囲に涼感をもたらしました。
ただし、そのまま置いたので畳がびしょびしょになってしまったそうです。
それでもエアコンのない時代に涼をとるためには致し方なかったのかもしれません。


細部まで見て楽しめる企画展「物語る絵画 涅槃図・源氏絵・舞の本・・・」は8月20日(日)まで開催されています。
暑い日々が続いていますが、くれぐれも熱中症にはご注意のうえ、ぜひご覧いただきたい展覧会です。

2023年7月18日火曜日

東京国立近代美術館 企画展「ガウディとサグラダ・ファミリア展」

東京・北の丸公園の東京国立近代美術館では企画展「ガウディとサグラダ・ファミリア展」が開催されています。

企画展ギャラリー入口のパネル


6月13日の開幕以来、連日大入りで賑わっている「ガウディとサグラダ・ファミリア展」ですが、何がこれだけ多くの人を惹きつけるのでしょうか。
さっそく展覧会の魅力に迫ってみたいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2023年6月13日(火)~9月10日(日)
会 場  東京国立近代美術館 1階企画展ギャラリー
開館時間 10:00~17:00(金・土曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
休館日  月曜日(ただし7月17日は開館)、7/18(火)
観覧料  一般 2,200円、大学生 1,200円、高校生 700円、中学生以下無料

【巡回情報】
 滋賀会場:佐川美術館   2023年9月30日(土)~12月3日(日)
 愛知会場:名古屋市美術館 2023年12月19日(火)~2024年3月10日(日)

展覧会の詳細等は展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://gaudi2023-24.jp/

展示構成
 第1章 ガウディとその時代
 第2章 ガウディの創造の源泉
 第3章 サグラダ・ファミリアの軌跡
 第4章 ガウディの遺伝子

※掲載した写真は、プレス内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。
※第3章のみ一部を除き撮影可です。館内で撮影の注意事項をご確認ください。


第1章展示風景「建築学校図書館での独学」


今回のガウディ展の見どころのひとつは、サグラダ・ファミリア聖堂の二代目建築家アントニ・ガウディ(1852-1926)が活躍したスペイン・バルセロナにあるグエル公園をはじめ、ガウディのユニークな造形の建築物を見ながら旅行気分が味わえることです。
そしてさらには、長らく「未完の聖堂」と言われ、完成時期が視野に収まってきたサグラダ・ファミリア聖堂を飾る彫像群や内部の装飾を間近で実感できることではないでしょうか。


見どころ1 ガウディの建築物でバルセロナ散策


サグラダ・ファミリア聖堂の二代目建築家ガウディが活躍したスペイン・バルセロナには、カサ・ミラ、グエル公園をはじめ、ガウディが手がけたユニークな造形の建築群が随所にあって観光客を楽しませてくれます。

このようにユニークな造形の建築物を生み出したガウディですが、ゼロからの創造ではなく、すでに存在するものを発見して、そこから出発するのが人による創造だと考えていました。

ひとつめのキーワードは「歴史」。

「何ごとも過去になされたことに基づくべきだ」と唱え、15世紀末までイスラム勢力がイベリア半島を支配していたという特有の事情によってスペイン南部に多くあるイスラム建築の研究や、中世ゴシックをはじめとするリバイバル建築に取り組んだことでした。

キリスト教建築とイスラム建築の両様式が混在するムデハル建築の影響を受けたフィンカ・グエル(グエル別邸)はそのひとつ。
パラペットや壁面のレンガと切張りタイルの組合わせ装飾が特徴で、歴史の重みも斬新さも感じられる不思議な雰囲気の建物のように感じられます。


手前 フィンカ・グエル、馬場・厩舎模型/1:25
奥 フィンカ・グエル、換気塔(門番小屋上部)模型/1:5
どちらも 1984-85年/西武文理大学

もう一つのキーワードは「自然」。

発見されるべき形は大自然の中にすでに存在しているというのがガウディの考えでした。
それが植物だったり、洞窟だったりとすでに私たちが見ているものなのですが、それを建築に取り入れてしまうところがガウディの天才たるゆえんなのでしょう。

手前 アントニ・ガウディ カサ・ビセンス、鉄柵の棕櫚の模型
/1886年頃/サグラダ・ファミリア聖堂
奥 アントニ・ガウディ カサ・ビセンス、正面のセラミックタイル
/1883年/サグラダ・ファミリア聖堂


そして、3つめのキーワードは「幾何学」。

ガウディ建築に特徴的なのは「パラボラ・アーチ」。
それまであまり使われてこなかった放物線(パラボラ)を初期の作品から取り入れたのがガウディの真骨頂。図形や空間の性質を研究する幾何学の考えを建築に取り入れたものでした。


こちらは1908年にガウディが手がけたといわれる、高さ300mを超える超高層ホテル計画案の模型。
このずんぐりとした塔のフォルムは、サグラダ・ファミリア聖堂の塔にも通じるものがあるように見えます。

ニューヨーク大ホテル計画案模型(ジュアン・マタマラのドローイング
に基づく)/1985年/制作:群馬県左官組合/伊豆の長八美術館

このニューヨーク大ホテル計画案模型を所蔵しているのは、西伊豆・松崎町にある伊豆の長八美術館。江戸末期の左官の名工・入江長八の「漆喰鏝絵(しっくいこてえ)」の代表作作品を所蔵することで知られています。
日本の左官職人とガウディが接点があったことは初めて知りました。


見どころ2 間近で体験できるサグラダ・ファミリア聖堂



黄金色に輝いてそびえ立つサグラダ・ファミリア聖堂。
縮尺1:200の模型ですが堂々とした風格があります。

 サグラダ・ファミリア聖堂、全体模型/1:200/2012-23年
/制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室/サグラダ・ファミリア聖堂


そして、横から見るだけでなく、こうやって歩行者の視点から見上げるとその場で見るような気分になって、迫力が感じられるので、ぜひお試しいただきたいです。


続いて聖堂の入口から入り、両側に高くそびえる円柱の間を通って祭壇に向かう身廊部の模型です。

 サグラダ・ファミリア聖堂、身廊部模型/2001-02年
/制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室/西武文理大学

樹木式円柱の細部の模型が展示されています。
このようなパーツも聖堂が完成したら、はるか下から見上げることになるので、こうやって目の前で見るのは今だけですね。

円柱模型展示風景


サグラダ・ファミリア聖堂は未完成ですが、クリプタ(地下礼拝堂)での礼拝は可能で、すでに聖堂として機能していたからこそ、未完であることが許されたといういきさつがありました。
キリスト磔刑像や燭台が後方のクリプタのパネルとともに展示されていて、厳かさを醸し出しています(キリスト磔刑像のみガウディの指示で彫刻家カルロス・マニに作らせたもので、燭台はガウディ作)。

クリプタ(地下礼拝堂)展示風景


サグラダ・ファミリア聖堂の彫刻に長年携わっている日本人彫刻家・外尾悦郎氏が制作した「降誕の正面の彫像群」は、1990年~2000年まで実際に「降誕の正面」に設置されていたものなので、間近で見られるのは今がチャンスです。

外尾悦郎 サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面:歌う天使たち
/サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面に1990-2000年に設置
/作家蔵(外尾悦郎氏)


「第3章 サグラダ・ファミリアの軌跡」の展示は、サグラダ・ファミリア聖堂の中に入り込んだように感じられる心地のよい空間です。


展示作品のカラー図版と詳細な解説はもちろん、バルセロナにあるガウディ建築群の写真もふんだんに使っているので、バルセロナ旅行のガイドブックにもなる「ガウディとサグラダ・ファミリア展」公式図録もおすすめです。

展覧会公式図録



楽しい展覧会関連グッズもたくさんありますので、展覧会特設ショップにもぜひお立ち寄りください!


展覧会特設ショップ


バルセロナに行ったのはかれこれ20年前。
展示を見ていたら、バルセロナにまた行きたくなってきました。

スペインに行ったことがある人も、行ったことがない人も行ってみたくなる。
こんな魅力的な展覧会ですので、暑さにめげずにぜひご覧ください! 

2023年7月10日月曜日

東京ステーションギャラリー 甲斐荘楠音の全貌

東京ステーションギャラリーでは、甲斐荘楠音の全貌が開催されています。

展示室出口のパネル

サブタイトルは、絵画、演劇、映画を越境する個性

「甲斐荘楠音の全貌」展は、歌舞伎が好きで自ら女形として舞台に立ったり、時代劇映画の衣裳のデザインに携わるなど、日本画家としてだけでなく、演劇人や映画人としてジャンルを越えて個性を発揮した甲斐荘楠音の、まさに全貌がわかる内容盛りだくさんの展覧会です。

展覧会開催概要


会 場  東京ステーションギャラリー
会 期  2023年7月1日(土)から8月27日(日)
     *会期中、展示替えがあります。[前期7/1-7/30、後期8/1-8/27] 
休館日  月曜日(7/17、8/14、8/21は開館)、7/18(火)
開館時間 10時~18時(金曜日は20時まで) *入館は閉館30分前まで
入館料  一般 1400円、高校・大学生 1200円、中学生以下無料

展覧会の詳細等は同館公式サイトをご覧ください⇒東京ステーションギャラリー     

展示構成
 序章   描く人 
 第1章 こだわる人
 第2章 演じる人
 第3章 越境する人
 終章   数奇な人

※展示室内及びミュージアムショップは撮影不可です。掲載した写真はプレス内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

序章   描く人


3階展示室の冒頭に展示されているのは、甲斐荘楠音が注目されるきっかけとなった第1回国画創作協会展(1918(大正7)年)に出品された《横櫛》(下の写真右 広島県立美術館 前期展示)(※)はじめ女性美を追求した美人画の名品の数々。
(※)もう一点の《横櫛》(下の写真中央 京都国立近代美術館)は通期展示。

序章展示風景


甲斐荘の美人画は、上村松園や鏑木清方ほかの美人画とは違う独特の雰囲気がありますが、その秘密は画学生時代に傾倒したレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロなどの陰影をつけて立体感を表わす西洋絵画の人物表現だったのです。

序章展示風景


第1章 こだわる人


第1章に展示されているのは、甲斐荘が集めた写真や新聞の切り抜きなどを貼り付けたスクラップブックや、本画に至るまでに描いたスケッチなど。

スクラップブックは現在60冊ほどが確認されているとのことで、ページ一面には多くは女性の写真が貼られていますが、中には田中角栄や三島由紀夫といった男性著名人もあって、とてもユニークな「人選」だと思いました。
今でこそどんな画像でもネットで検索すればすぐに見つかりますが、そんな便利なものがなかった時代の甲斐荘にとって、スクラップブックは貴重な画像のデータベースだったのでしょう。

第1章展示風景

何枚も描いたスケッチと本画を比べてみると、甲斐荘が人物表現にこだわりをもって描いたことがよく分かります。


第1章展示風景


甲斐荘が美人画を描くときの「こだわり」がよくわかるので、創作の源泉となったスクラップブックやスケッチを見てからもう一度序章の美人画を見ることをおすすめしたいです。

第1章のもう一つの見どころは、ニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵する《春》(下の写真右)。
第1回新樹社展(1929(昭和4)年)に出品されたこの作品は、甲斐荘本人が意図したように、ボッティチェッリの《プリマヴェーラ(春)》を思わせる明るい雰囲気が感じられます。

第1章展示風景


ここまでは私たちが知っている甲斐荘楠音なのですが、2階展示室に移ると様相はがらりと
変わります。


第2章 演じる人


歌舞伎や文楽などを題材にした作品やスケッチと並んで、自らが女形を演じた場面がパネル展示されています(下の写真奥)。


第2章展示風景

美人画を描き、自らも美人を演じるという、ここでも「こだわる人」甲斐荘の側面が垣間見えたような気がしてきました。

そして、このような芝居好きの素養が開花したのが、次の章で見られる映画人としての甲斐荘でした。

第3章 越境する人


赤レンガの壁面の空間にずらりと着物が展示される光景がいきなり出現したら誰もが驚くのではないでしょうか。

第3章展示風景


甲斐荘は、1940(昭和15)年頃、絵画から映画制作の世界に越境して、衣裳制作などで活躍するようになりました。甲斐荘が係わった映画の数はおよそ250点もあるとのことです。

ここには時代劇映画全盛期の人気シリーズ、「眉間に冴える三日月形、天下御免の向こう傷」の名セリフで知られる市川右太衛門主演の「旗本退屈男」をはじめとした時代劇衣裳が展示されています。

第3章展示風景

衣裳とその衣裳を着た市川右太衛門が写っているポスターが並んで展示されているので、ぜひ見比べてみてください。

甲斐荘が衣裳を手がけた「雨月物語」がアメリカ・アカデミー賞衣裳デザイン賞(白黒部門)にノミネートされた時の資料も展示されています。
ノミネート状には「Tadaoto Kainoscho」と書かれています。甲斐荘の名はアメリカにまで響きわたっていたのですね。

第3章展示風景


終章 数奇な人


展示の最後には甲斐荘が終生にわたり手を加えた大作が2点展示されています。
ひとつは若い頃に影響を受けたレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロへの思いが強く感じられる未完成作《畜生塚》。
そして、もう一点が《虹のかけ橋(七妍)》(下の写真右)
(どちらも京都国立近代美術館)。

終章展示風景

どちらの作品もスケッチなどがあわせて展示されているので、本画を描くまで過程がよくわかるようになっています。


展覧会オリジナルグッズも充実してます!


飛魚かばん(一澤信三郎帆布コラボグッズ:50個限定)や、絵はがき、和紙しおりセットなど展覧会オリジナルグッズも充実してます。
ぜひミュージアムショップにもお立ち寄りください!

ミュージアムショップ

全作品のカラー画像、充実のエッセイ群や甲斐荘の携わった映画作品リスト、年譜など貴重な資料が収録された展覧会公式図録(税込3,200円)もおすすめです。

展覧会公式図録


年譜の1974(昭和49)年の項に「4月から6月にかけて、東京国立博物館で開催の「モナ・リザ展」を観るため東京に出かける。」との記載がありました。
この時、甲斐荘は御年79歳。
青年期から憧れていたレオナルド・ダ・ヴィンチの最高傑作の実物にようやく巡り合えた甲斐荘の感動はきっと大きかったことでしょう。この一行を読んでジーンときてしまいました。


「甲斐荘楠音の全貌」展は、京都で生まれ育ち、京都の太秦で活躍した甲斐荘楠音の地元、京都国立近代美術館で今年(2023年)2月から4月にかけて開催された展覧会の巡回展です。
京都の魅力がいっぱい詰まった展覧会が東京で見られる絶好の機会ですので、ぜひご覧ください。