2022年8月13日土曜日

東京都美術館 企画展「フィン・ユールとデンマークの椅子」

 東京・上野公園の東京都美術館では企画展「フィン・ユールとデンマークの椅子」が開催されています。




今回の企画展は、デザイン大国として知られるデンマークの中でも、ひときわ美しい家具をデザインしたフィン・ユール(1912-1989)の椅子の魅力に迫る展覧会。

見た目もよくて、座り心地もよい椅子の数々が展示されているので、夏の暑い日差しの中、ほっとできるオアシスを見つけたような、とても雰囲気のよい空間が会場内に広がっています。

それではさっそく展覧会の見どころをご紹介したいと思います。


展覧会概要


会 期   2022年7月23日(土)~10月9日(日)
会 場   東京都美術館ギャラリーA・B・C
休室日   月曜日、9月20日(火)
      ※ただし、8/22(月)、8/29(月)、9/12(月)、9/19(月・祝)、9/26(月)は開室
開室時間 9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室 金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
観覧料  一般 1,100円、大学生・専門学校生 700円、65歳以上 800円
     ※高校生以下は無料
     ※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康
      手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
     ※いずれも証明できるものをご持参ください。
     ※10月1日(土)は「都民の日」により、どなたでも無料。
     ※特別展「ボストン美術館展 芸術×力」のチケット提示(半券可)にて各料金
      より300円引き(1名1回限り、他の割引とは併用できません)

※事前予約は不要です。ただし、混雑時に入場制限を行う場合があります。

展示構成
 第1章 デンマークの椅子-そのデザインがはぐくまれた背景
 第2章 フィン・ユールの世界
 第3章 デンマーク・デザインを体験する

※展覧会の詳細は同展公式サイトでご確認ください⇒フィン・ユールとデンマークの椅子

※会場内は一部エリアを除き撮影禁止です。掲載した写真は報道内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。



見どころ1 オシャレなデンマーク家具が見られる!



こんなオシャレな椅子なら、音楽を聴きながら読書をしたり、いつの間にかうたた寝をしたりしていつまでも座っていられそう。

第1章展示風景


昼の時間が短かく、長い間続く冬に室内で過ごすことが多い北ヨーロッパのデンマークで生み出されたオシャレな家具ですが、熱中症にならないように日中は外に出ないで家の中で過ごす人も多くなっている今の日本にもピッタリかもしれません。

第1章では、1930年代から1960年代にかけて製作された、色も、形も、素材もさまざまな椅子が展示されていて、「家に置くならどの椅子がいいかな。」と想像をふくらましながら楽しくデンマークの家具デザインの歴史をたどることができます。

第1章展示風景

家具のショールームではありませんが、落ち着いた照明がいい雰囲気を演出しています。

第1章展示風景


見どころ2 心地よさが広がるフィン・ユールの世界

 

どんなにオシャレな椅子でも、座り心地がよくなければ良い椅子とは言えません。
こちらはフィン・ユール邸の室内を再現した空間。

フィン・ユールが自宅で椅子に座る写真も展示されていました。
きっと自分で座ってみてデザインのアイデアを膨らませていたのですね。

第2章展示風景


コペンハーゲン北のオードロップゴーに建つフィン・ユール邸は、現在では一般に公開されているとのことなので、いつかは現地に行ってみたくなりました。

第2章展示風景

「織田コレクション」に注目!

今回の企画展は、東海大学名誉教授の織田憲嗣氏が長年にわたり収集してきた20世紀家具や日用品の「織田コレクション」が東京でまとめて紹介される初めての機会。
世界的にも名高い「織田コレクション」をお見逃しなく!

第2章展示風景




見どころ3 デンマーク・デザインが体験できる!



展覧会では、展示作品を撮影できることはあっても、さわったりすることはできません。
ところが今回の企画展では、実際にデンマーク・デザインの椅子にさわるだけでなく、座って記念写真を撮るエリアも用意されているのです。

展示会場のうちギャラリーB「第3章 デンマーク・デザインを体験する」が椅子に座って写真も撮れるエリアです。

色々な形の椅子に座って座り心地を比べたり、

第3章展示風景


自宅でくつろいでいるような気分で画面に流れる映像を見たり、

第3章展示風景


オフィスにこんなスペースがほしいな、と思ったり、

第3章展示風景

デンマーク・デザインを実際に体感して、ぜひSNSで発信して展覧会を盛り上げて行きましょう!


なぜ東京都美術館でデンマーク・デザインの展覧会?

それには理由がありました。
2012年のリニューアルオープンを機会に、佐藤慶太郎記念アートラウンジと美術情報室にデンマーク・デザインの家具が置かれたので、それ以来、東京都美術館はデンマーク・デザインとのご縁があったのです。

佐藤慶太郎記念 アートラウンジ ©東京都美術館

東京都美術館には美術展を見に来ることは多いのですが、次回はアートラウンジや美術情報室にも入って、デンマーク・デザインの心地よさを体験したいと思いました。


美術情報室 ©東京都美術館


デンマークの椅子はデザインがいいだけでなく、丈夫で長持ち。
長く使われて次世代に引き継がれていくので、SDGs(持続可能な開発目標)が提唱される現代においてもその理念は立派に通用するものなのです。

オシャレなデザインのデンマークの椅子がたくさん見られて、フィン・ユールの世界が楽しめて、デンマークの椅子の座り心地が体験できる、とても素敵な展覧会です。

東京都美術館では特別展「ボストン美術館展 芸術×力」が同時開催中。

紹介記事はこちらです。

【あの二人が帰ってきた!】特別展「ボストン美術館展 芸術×力」は見どころいっぱい

どちらの展覧会もおススメです。ぜひご覧ください!

東京藝術大学大学美術館 特別展「日本美術をひも解くー皇室、美の玉手箱」

東京・上野公園の東京藝術大学大学美術館では、待望の特別展「日本美術をひも解くー皇室、美の玉手箱」が開幕しました。

大学構内の案内看板


皇室の珠玉の名宝と、近代日本美術とともに歩んできた東京藝術大学のコレクションが大集結した豪華なラインナップや見どころについては、報道発表会に参加した時の様子をレポートしていますので、ぜひこちらもご覧ください。



展覧会概要


展覧会名 特別展「日本美術をひも解く-皇室、美の玉手箱」
会 場  東京藝術大学大学美術館(台東区・上野公園)
会 期  2022年8月6日(土)~9月25日(日)
     ※会期中、作品の展示替えおよび巻替えがあります。
開館時間 午前10時~午後5時
     9月の金・土曜日は午後7時30分まで開館
     ※入館は閉館の30分前まで
     ※本展は日時指定予約の必要はありませんが、今後の状況により入場制限等を
      実施する可能性があります。
休館日  月曜日(ただし、9月19日(月・祝)は開館)
観覧料  一般2,000円、高校・大学生1,200円
     ※中学生以下、障がい者手帳をお持ちの方とその介助者1名は無料
     展覧会の詳細、最新情報等は展覧会公式HP公式Twitterをご覧ください。
展示構成
 序章 美の玉手箱を開けましょう
 1章 文字からはじまる日本の美
 2章 人と物語の共演
 3章 生き物わくわく
 4章 風景に心を寄せる  

※会場内は撮影禁止です。掲載した写真は美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。


さて、特別展のテーマは「日本美術をひも解く-皇室、美の玉手箱」ですので、「美の玉手箱」を開けて、絵画、工芸、書跡などさまざななジャンルの日本美術の豊かな世界をひも解くためのポイントを中心に会場内の様子をご紹介したいと思います。


「ひも解く」その1 ワンポイント作家解説


会場は3階と地下2階に分かれているので、まずはエレベーターで3階まで上がって、入口に置いてある出品目録を受け取ります。
今回は「ワンポイント作家解説」も置かれているので、こちらもお忘れなく。

「ワンポイント作家解説」には、狩野永徳、伊藤若冲はじめ本展の展示作品のうち一部の作家について紹介されているので、作品とあわせて読むと一層作品の味わいが深まること間違いなし。

「ワンポイント作家解説」(裏面もあります)


例えば、国宝《唐獅子図屏風》(右隻 狩野永徳 桃山時代(16世紀)、左隻 狩野常信 江戸時代(17世紀) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 展示期間:8/6-8/28)を、「ワンポイント作家解説」を読んでから見てみると、豪快なひいおじいちゃんの永徳の唐獅子に向かって、ひ孫の常信の唐獅子が尊敬のまなざしで見ているような気がしてきます。

「3章 生き物わくわく」展示風景


ちなみに永徳の子は松栄、松栄の子が探幽、尚信、安信の「狩野三兄弟」、そして尚信の子が常信。
江戸幕府の御用絵師の座に君臨した狩野派の中でももっとも格式の高い奥絵師四家の一つ木挽町狩野の祖が尚信で、父・尚信を継いだのが常信でした。
明治に入って東京美術学校(現在の東京藝術大学)の創設に尽力した狩野芳崖や橋本雅邦は木挽町狩野の出身なので、常信の作品が東京藝術大学で展示されるのを見ると何かの縁を感じずにはいられません。


「ひも解く」その2 ワークシート「ひもとけ!玉手箱」


3階会場入口では係の方にお声かけしてワークシート「ひもとけ!玉手箱」をいただきましょう。






中を開いてみると、4つの展示作品のクイズがあるので、作品をじっくりご覧になって答えを探してみてください。




「2章 人と物語の共演」展示風景


クイズの解答を記入したあとは、ワークシートの裏面をめくって、「自分の家に飾りたい」、「かわいい」、「きれい」といったキーワードで自分だけの1品を選んでみましょう。



「自分の家に飾りたい」作品は、どれにしようか迷いましたが、私はこの一品に決めました。
それは、大胆に描かれた雄大な滝の景色の中に、小さいながらも丁寧に描かれた宮殿がアクセントになっている五姓田義松《ナイアガラ景図》(明治22年(1889) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 通期展示)です(下の写真右)。


「4章 風景に心を寄せる」展示風景


このワークシートは前期用のもので、展示替えにあわせて前期の後半用、後期用と3種類用意されるので、いつ来場されてもお楽しみいただけます。


「ひも解く」その3 雲形の解説パネルに注目!


「三跡」「絵所預」「料紙」など聞きなれない言葉が出てきてもご心配なく。
雲形の解説パネルでは、日本美術で用いられる用語などを丁寧に説明しています。

下の写真手前の雲形の解説パネルで解説しているのは「三跡」。
三跡とは、平安時代に特に字が巧みであった小野道風、藤原佐理、藤原行成のことで、下の写真右がその一人、藤原佐理の『恩命帖』(平安時代 天元5年(982) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 展示期間:8/6-9/4)です。


「1章 文字からはじまる日本の美」展示風景

書体からわかるように、藤原佐理は性格も奔放だったようで、この書は、弓技を競う宮廷行事で矢の調達を担当した佐理が、それを忘れてしまったので上司に出した始末書だったのです。

藤原佐理の書では国宝の『離洛帖』(畠山記念館蔵)が知られていますが、実はこれも詫び状。
本人はまさか始末書や詫び状が後世に残されて、それが美術作品として展覧会で展示されるとは夢にも思わなかったことでしょう。

会場では8月21日(日)までの期間限定ですが、平安時代の書の名品、伝藤原行成《粘葉本和漢朗詠集》(平安時代(11世紀) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 期間中場面替あり)(上の写真左)の手習いが体験できるコーナーもあります。

薄く描かれたお手本をなぞっていくのですが、複雑な筆遣いなので意外と難しいです。
ぜひチャレンジを!







「ひも解く」その4 展覧会関連グッズも盛りだくさん!


 
出品作品にちなんだオリジナルグッズも盛りだくさんなので、つい財布のひもがゆるんでしまいそうです。




トートバッグやマスキングテープはもちろんのこと、お菓子類も充実。
食べたあとも巾着や風呂敷としておしゃれなアイテムになります。




そして今回全く予想していなかったのがこちら。


なんと、東京藝術大学が所蔵する重要文化財、高橋由一《鮭》(明治10年(1877)頃 東京藝術大学蔵 通期展示)(下の写真右)の特別ラベルの「鮭ふりかけ」が登場したのです。

「3章 生き物わくわく」展示風景

会場内をめぐりながら日本美術のよさが実感できるとても素晴らしい内容の展覧会です。
ぜひお楽しみください!

2022年7月25日月曜日

山種美術館 【特別展】水のかたち-《源平合戦図》から千住博の「滝」まで- 特集展示:日本画に描かれた源平の世界

雨、霧、川、滝、海、雪。
東京・広尾の山種美術館では水をテーマにした涼し気な展覧会が開催されています。

展覧会チラシ



展覧会のタイトルは、【特別展】水のかたち-《源平合戦図》から千住博の「滝」まで-  特集展示:日本画に描かれた源平の世界

海を舞台に繰り広げられた《源平合戦図》の屏風から、「名所江戸百景」など歌川広重の人気シリーズで描かれた水の景色、横山大観や川端龍子をはじめとした近代日本画界巨匠たちが描いた海や川、そして千住博の「滝」のシリーズまで、さまざまな「水」の景色が楽しめる展覧会です。

それではさっそく展示室内の様子をご紹介したいと思います。

展覧会概要


会 期  2022年7月9日(土)~9月25日(日)
     *会期中、一部展示替えあり。
      前期 7月9日~8月14日、後期 8月16日~9月25日
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
     *今後の状況により会期・開館時間等は変更する場合あり。
休館日  月曜日[9/19(月)は開館、7/19(火)、9/20(火)は休館]
入館料  一般1,300円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要です)
     夏の学割 大学生・高校生500円*本展に限り通常1000円のところ半額です! 
*他にも割引・特典があります。チケットはご来館当日、美術館受付でご購入いただけます。また、入館日時のオンラインチケット購入も可能です。

相互割引サービスについて
下記チケットのご提示で入館料を100円割引いたします。当館の入場受付時にご提示ください。
■Bunkamuraザ・ミュージアム「かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと」との相互割引について

■太田記念美術館「源平合戦から鎌倉へ -清盛・義経・頼朝」「浮世絵動物園」との相互割引について

*いずれも対象券1枚につき1名様、1回限り有効。
*入館チケットご購入時に受付にご提示ください。購入後の割引はできません。
*他の割引との併用はできません。


*オンライン講演会などの各種イベントも開催されますので、詳細は同館公式webサイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/

展示構成
 雨と霧 ー大気の中の水
 川 -流れる水
 滝 -ダイナミックな水
 海 -躍動する水
 雪 -氷の結晶
 特集展示:日本画に描かれた源平の世界
  
*展示室内は次の1点を除き撮影不可です。掲載した写真はプレス内覧会で美術館より特別に許可をいただいて撮影したものです。
*掲載した作品はすべて山種美術館蔵。展示替えのある作品は展示期間を記載しました。展示期間の記載のない作品は全期間展示です。

今回の展覧会で撮影可の作品は、素足を川の流れに入れて涼し気な、小林古径《河風》。「川 -流れる水」のエリアに展示されています。

小林古径《河風》1915(大正4)年
絹本・彩色 山種美術館


雨と霧 -大気の中の水

今ではゲリラ豪雨とか線状降水帯という言葉が一般的になって、「夕立」という言葉はあまり使われなくなりましたが、もくもくと入道雲があらわれて、ザーッと雨を降らす夕立は夏の風物詩でした。

そんな夕立の激しい雨の様子を、雨の線の角度を微妙に変えて見事に表現したのが歌川広重の《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》。

歌川広重《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》
1857(安政4)年 大判錦絵 山種美術館
[前期展示7/98/14



この作品は、ゴッホが模写したことでもよく知られていて、ゴッホの模写《雨の大橋》もパネル展示されているのでぜひ見比べてみてください(《雨の大橋》の原本は国立フィンセント・ファン・ゴッホ美術館蔵)。

実はこの作品でいつも気になるのは、橋の上を急ぎ足で歩く人たちのうち右から2番目、一つの傘の中に入っている男の人たち。
足の数を数えると3人にも見えるのですが、ゴッホの《雨の大橋》で描かれているのは2人。
実際には何人なのでしょうか。ぜひご自身の目で確かめてみてください。

「雨と霧 -大気の中の水」展示風景
左から川端玉章《雨中楓之図》19-20世紀(明治時代) 紙本・彩色、
小茂田青樹《春雨》1917(大正6)年頃 絹本・彩色、
 川合玉堂《水声雨声》1951(昭和26)年頃 絹本・墨画淡彩
 いずれも山種美術館




滝 -ダイナミックな水

千住博《ウォーターフォール》は迫力の大画面。
目の前に立つと滝の音が聞こえて、水しぶきが飛んできそうで、いかにも涼し気。

「滝 -ダイナミックな水」展示風景
左から 千住博《ウォーターフォール》1995(平成7)年 紙本・彩色、
奥村土牛《那智》1958(昭和33)年 紙本・彩色、
中林竹渓《高士観瀑図》19世紀(江戸時代) 紙本・彩色
いずれも山種美術館

古くから、滝は人間を超えた存在として崇められてきました。本作品への視点を変えると、とっても涼し気に見えますね。


中林竹渓《高士観瀑図》19世紀(江戸時代) 
紙本・彩色 山種美術館


滝の作品の前にはベンチがあるので、《高士観瀑図》の高士のように那智の滝やカラフルな滝を見上げて涼んでみてはいかがでしょうか。

千住博《フォーリングカラーズ》2006(平成18)年 紙本・彩色
山種美術館




海 -躍動する水

第一展示室の冒頭でお出迎えしてくれるのは奥村土牛の《鳴門》。
いつもこのポジションにはどんな作品が展示されるのだろうと楽しみにしているのですが、今回も展覧会のイメージにピッタリの作品が展示されていました。

渦を巻く潮の音、ものすごく強い海風が感じられ、まるで渦の中に引き込まれるかのように「水のかたち」の世界に入り込んでいくことができました。


奥村土牛《鳴門》1959(昭和34)年 紙本・彩色
山種美術館




「会場芸術」を唱えた川端龍子らしい豪快で躍動感あふれる海の情景を描いた《黒潮》。
作品の前に立つと、こちらも全速力で走る漁船に乗ってトビウオを追いかけているようなスピード感が感じられます。

川端龍子《黒潮》1932(昭和7)年 絹本・彩色
山種美術館



「海 -躍動する水」展示風景
左から 横山大観《夏の海》1952(昭和27)年頃 紙本・彩色、
黒田清輝《湘南の海水浴》1908(明治41)年 カンヴァス・油彩、
石川響《東海日月》1970(昭和45)年 紙本・彩色
いずれも山種美術館



雪 -氷の結晶

今回の特別展では川合玉堂の作品が3点展示されていますが、雪の白は生地の白をそのまま生かしているのに、なぜか盛り上がって見えるこの雪景色は特に好きな作品です。

タイトルの《雪志末久湖畔》の「志末久(しまく)」とは「風巻(しま)く」のことで、風が激しく吹き荒れるさまを表しているので、雪空の中の寒々とした空気がスーッと吹いてくるように感じられました。

川合玉堂《雪志末久湖畔》1942(昭和17)年 
絹本・墨画淡彩 山種美術館


温暖であまり雪が降ることがないのに、なぜか雪景色の静岡・蒲原。
歌川広重《東海道五拾三次之内 蒲原・夜之雪》は後期(8/16-9/25)に展示されます。
ちょうど残暑厳しい折でしょうから、暑いさなかに見る雪景色も乙なものかもしれません。

 歌川広重《東海道五拾三次之内 蒲原・夜之雪》1833-36(天保4-7)年頃
大判錦絵 山種美術館 [後期展示8/169/25]



今回は「東海道五拾三次」「名所江戸百景」はじめ、歌川広重の人気シリーズから前後期それぞれ7点、全部で14点の浮世絵が展示されるので、広重ファン、浮世絵ファンにとっても見逃せない展覧会です。



特集展示:日本画に描かれた源平の世界


特集展示では、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でも話題になった源平合戦をはじめ、源氏と平氏にちなんだ作品11点が展示されています。

まずは江戸時代に描かれた六曲一双の屏風《源平合戦図》。

《源平合戦図》17世紀(江戸時代) 紙本金地・彩色
山種美術館

「鎌倉殿の13人」では破天荒な源義経の役を演じた菅田将暉さんの演技が光ってましたが、この屏風には義経が指揮する源氏軍が、都から逃げのびようとする平家を追い詰める場面がいくつも描かれています。
作品の左にはそれぞれの場面の解説パネルがあるので、鵯越のさか落とし、義経八艘飛びなどの名場面をじっくりご覧になってください。


続いてこちらは義経が木曽義仲を討った宇治川の合戦での、佐々木高綱と梶原景季の先陣争いの場面。
右隻右上に水墨で描かれた平等院鳳凰堂が渋いです。

森村宜稲《宇治川競先》20世紀(大正-昭和時代)
紙本金地・彩色 山種美術館



オリジナルグッズも和菓子も充実!


歌川広重《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》の額絵(税込550円)や、川端龍子《黒潮》の絵はがき(税込110円)をはじめ、特別展「水のかたち」に合わせた涼し気なオリジナルグッズが盛りだくさん。



今回の注目は、上の写真で川端龍子《黒潮》の絵はがきを支えているガラス製の小さなカードホルダー:キューブ。
クリア、バイオレット、コバルトの3色あってとてもオシャレ(税込各660円)です。
飾る絵はがきの色合いに合わせて色を選ぶ楽しみもありますね。


展覧会出品作品にちなんだ和菓子は今回も充実のレパートリー。
ランチメニューもありますので、美術館ロビーの「Cafe 椿」にぜひお気軽にお立ち寄りください。





上の写真、右上から時計回りに、「やしま(小堀鞆音《那須宗隆射扇図》)」、「うず潮(奥村土牛《鳴門》)」、「涼やか(小林古径《河風》)」、「汐風(横山大観《夏の海》)」、「水の音(千住博《フォーリングカラーズ》)」。
(カッコ内はモチーフにした作品で、すべて山種美術館蔵)


これからも蒸し暑い日がしばらく続きますので、涼しさが感じられる展覧会をぜひお楽しみください。

2022年7月18日月曜日

三井記念美術館 リニューアルオープンⅡ 茶の湯の陶磁器~”景色”を愛でる~

東京・日本橋、三井記念美術館ではリニューアルオープン第2弾「茶の湯の陶磁器~”景色”を愛でる~」が開催されています。


1階ロビーのポスター


今回は、メインビジュアルのとおり桃山時代や江戸時代の茶人たち好みの渋くて落ち着いた雰囲気の陶磁器が楽しめる展覧会。
さっそく会場内の様子をご紹介したいと思います。


展覧会概要


展覧会名  リニューアルオープンⅡ 茶の湯の陶磁器~”景色”を愛でる~
会 場   三井記念美術館
会 期   2022年7月9日(土)~9月19日(月・祝)
      *会期中、一部展示替えを行います。
開館時間  10:00~17:00(入館は16:30まで)
     *ナイトミュージアム:会期中毎週金曜日は19:00まで開館(入館は18:30まで)
休館日   月曜日(但し7月18日、8月15日、9月19日は開館)、7月19日(火)
主 催   三井記念美術館
入館料   一般 1,000円(800円)/大学・高校生500円(400円)/中学生以下無料
      *ナイトミュージアム割引:会期中毎週金曜日17:00以降のご入館で( )内
       割引料金になります。
      
※本展は予約なしで入館いただけます。
※展覧会の詳細、各種割引、新型コロナウイルス感染防止対策などについては同館公式ホームページをご覧ください⇒https://www.mitsui-museum.jp

※会場内は撮影禁止です。掲載した写真はプレス内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。


茶道具の「銘」に注目!

今回の注目は茶碗や茶入、花入、水指などの茶道具につけられた「銘」。

例えば「斗々屋茶碗 銘かすみ」の銘は「かすみ」。

「銘」は、茶道具を所有していた茶人が、釉の変化や器の姿などを見て「いい景色だな。」と愛でて、ひらめいたイメージから名前をつけたものなのです。

この「斗々屋茶碗 銘かすみ」は、全体が枇杷色のところに一部薄青色に変化した釉景色が、春霞を連想されたことから「銘 かすみ」と付けられました。

斗々屋茶碗 銘かすみ 1口  朝鮮時代・16世紀
  三井記念美術館蔵


こちらは8月9日(火)から展示される、本阿弥光悦作 重要文化財「黒楽茶碗 銘雨雲」。
黒いかたまりは雲、縦の黒い筋は雲間から降る雨。
空が急に暗くなって雨が降ってくる光景が目に浮かんでくるようです。

 重要文化財 黒楽茶碗 銘雨雲 1口  本阿弥光悦作
  江戸時代・17世紀  三井記念美術館蔵
(8/9~9/19展示)

ほかにも自然の景色にちなんだ村雨、秋月、和歌をイメージした「歌銘」など優雅な銘の茶道具が出てきます。

茶人たちが付けた銘から連想して景色を思い描くことも今回の展覧会の大きな楽しみの一つですし、「自分だったらこういう銘を付けたい。」と想像してみるのも面白いかもしれません。


展示室1展示風景





国宝、重要文化財の茶道具が勢ぞろい!


毎回メインの一品が展示される展示室2には、国宝「志野茶碗 銘卯花墻」が展示されています。 

展示室2展示風景


日本で焼かれた陶磁器の中で、2碗しかない国宝のうちの1つという貴重な国宝「志野茶碗 銘卯花墻」は8月7日までの展示です。

銘の「卯花墻」は、卯の花になぞらえた白い志野釉の下に鉄絵で垣根が描かれていることから付けられたものなのです。

 国宝 志野茶碗 銘卯花墻 1口  桃山時代・16~17世紀 
三井記念美術館蔵 (7/9~8/7展示)


この展示室2には、8月9日(火)から中国・南宋時代の重要文化財「玳皮盞 鸞天目」が展示されるので、こちらも楽しみです。


茶室のしつらえが雰囲気を盛り上げてます


茶道具ですので、やはり茶室に展示されると、このようにしっくりきます。


国宝の茶室「如庵」を再現した展示室3展示風景


茶室でなくても茶道具や掛け軸を組み合わせた展示が随所に見られ、展示室内の雰囲気を盛り上げていました。

展示室4正面の掛け軸は、明治期に京都で活躍した日本画家、川端玉章の《京都名所十二月》12幅のうち1月から6月までの6幅。
7月から12月までの6幅は展示室7に展示されています。

月ごとに京都の名所や行事が淡い色彩で描かれていて、とてもいい感じの作品です。


展示室4展示風景

今回は、展示室1、2に茶碗、展示室4に花入・水指といった具合に、各展示室には茶道具の種類ごとに並べて展示されているので、それぞれの茶道具の趣きの違いがよくわかります。

茶碗や茶入れと比べて少し大ぶりで、でんと構えているのが水指。
中でもこの「伊賀耳付水指 銘閑居」のごつごつとした感じが気に入りました。
すわりの良いわびた様子を擬人化して「閑居」と名付けられたと思われるとのことです。


伊賀耳付水指 銘閑居 1口   桃山時代・17世紀 
 三井記念美術館蔵


展示室5に展示されているのは茶壷・茶入。
小ぶりながらも、ほっそりしたものや、丸身を帯びたものなど、それぞれ形に特徴があって、釉で彩られた模様も味わいがあるので、一つひとつじっくりご覧いただきたです。


展示室5展示風景

8月9日から展示される茶入の中で特に注目したいのは「唐物肩衝茶入 銘遅桜 大名物」。
あの銀閣寺を建てた室町幕府八代将軍足利義政が、この茶入が天下の名物「初花」より早く世に知られたならば、この茶入が第一であっただろうとしておくったという伝承がある歌銘がこの遅桜という銘なのです。

大名物(おおめいぶつ)とは、千利休以前に選定された名物の茶器のことで、足利義政が東山山荘で選定した茶道具がその代表です。


唐物肩衝茶入 銘遅桜 大名物 1口  南宋時代・12~13世紀
  三井記念美術館蔵(8/9~9/19展示)


近くでじっくり見ることができる展示室6には、小さくても色合いが鮮やかで、ユニークなしぐさの獅子をはじめとした動物たちの姿も楽しめる香合が展示されています。

展示室6展示風景

展示室7に展示されているのは楽茶碗・紀州御庭焼。
正面は、先ほどご紹介した川端玉章の《京都名所十二月》12幅のうち7月から12月までの6幅です。

展示室7展示風景

楽茶碗とは、轆轤(ろくろ)を使わずに手とヘラだけで成形する「手捏ね」と呼ばれる方法で成形するので、いかにも手作り感たっぷりの安定感が感じられます。

こちらは、樂家初代、長次郎作の黒楽茶碗。

千利休が薩摩の門人に三碗を送ったところ、この茶碗を残して二碗は送り返されてきたので、平家を打倒しようとした鹿ケ谷事件に加担して薩摩の国の鬼界ケ島(硫黄島)に流され、その後許されず島に残された僧・俊寛にちなんでつけられたのがこの黒楽茶碗の銘とのこと。

このような銘のつけ方もあるのだな、とひたすら感心するばかりでした。

重要文化財 黒楽茶碗 銘俊寛 長次郎作 1口  桃山時代・16世紀 
 三井記念美術館蔵(7/9~8/7展示)


ミュージアムショップにも茶道具があります!


素晴らしい茶道具を愛でて展示室を出るとすぐに見えてくるのは、改装後広くなったミュージアムショップ。

今回の展覧会にあわせて販売されているのは、現代陶芸作家の作品です。
作家さんたちそれぞれの特徴があって、どれも素敵な形や柄なので、「この茶碗でお茶を飲んでみたい!」「このお皿に料理を盛ってみたい。」と思える器が見つかるかもしれません。

お帰りの際にはぜひお立ち寄りください。

ミュージアムショップ


次回展は、平安時代以来の優美な文化の香りが感じられる特別展「大蒔絵展-漆と金の千年物語」(2022年10月1日~11月13日)。
毎回楽しみな展覧会が開催されるので、リニューアルオープン後も三井記念美術館から目が離せません。


次回展「大蒔絵展」