2021年8月15日日曜日

【再訪!】『巨大映像で迫る五大絵師』ー北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界-

 東京大手町の大手町三井ホールで開催中の『巨大映像で迫る五大絵師ー北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界ー』に再訪してきました。





巨大スクリーンで見られる五大絵師の名作はABそれぞれのプログラムがあって、前回見たのはBプログラムでしたが、今回はAプログラム。
どちらもそれぞれ違った魅力があるので、どちらもおススメですし、両方見てもけっして飽きることはありません。


それではさっそく、Aプログラムの見どころをご紹介していきたいと思います。


展覧会開催概要


会 場  大手町三井ホール(東京都千代田区大手町1-2-1 Otemachi One 3F)
     東京メトロ・都営地下鉄各線「大手町」駅 C4出口直結
会 期  2021年7月16日(金)~9月9日(木) 会期中無休
開館時間 10:30-19:30 ※最終入館は閉館の60分前まで
観覧料  一般 2,000円、大学生・専門学校生 1,500円、中学生・高校生 1,000円
     ※満70歳以上、小学生以下は入場無料。
     ※障がい者手帳をお持ちの方(付添者は原則1名まで)は無料。
     ※ご来場時、年齢証明ができるもの、または学生証をご提示ください。

展覧会の詳細等は展覧会公式ウェブサイトをご覧ください⇒巨大映像で迫る五大絵師
展覧会公式ツィッター⇒https://twitter.com/faaj_staff
You Tubeチャンネル⇒巨大映像で迫る五大絵師

会場は次の3つのエリアで構成されています。

【解説シアター】

 超高精細デジタル画像で作品の緻密な部分を拡大表示し、ナレーション(英文字幕)とともに作品をわかりやすく解説します。(上映時間20分)

【メイン会場】

 縦7m、横45mの3面ワイドスクリーンによる圧巻の巨大映像空間。先進デジタル技術と高輝度4Kプロジェクター複数台を駆使した映像と、音楽のコラボレーションによる大スペクタクルを体験いただけます。(上映時間約20分)

※プログラムは、A、B二つの作品リストがあって毎日入れ替わります。上記公式サイトで「開催カレンダー」「上映作品一覧」をご確認ください。

五大絵師の主な作品(カッコ内は、ABそれぞれの作品リストを表します。)
 葛飾北斎 冨嶽三十六景「神奈川沖浪裏」「凱風快晴」「山下白雨」他(ABとも)
 歌川広重 東海道五拾三次「日本橋 朝之景」「蒲原 夜之雪」「庄野 白雨」他(ABとも)
 俵屋宗達 国宝「風神雷神図屏風」(ABとも)国宝「源氏物語関屋澪標図屏風」(Bのみ)
 尾形光琳 重要文化財「風神雷神図屏風」(ABとも)「菊図屏風」(Bのみ)「雪松群禽図屏   
      風」(Aのみ)
 伊藤若冲 重要文化財「仙人掌群鶏図」(ABとも)「百花の図」(Aのみ)


フォトタイム(約7分)には巨大名画の写真撮影ができます。

目の前に迫りくる大波!
葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」
所蔵:山梨県立博物館


【Digital北斎×広重コーナー】

 超高精細デジタル画像による「冨嶽三十六景」と「東海道五拾三次」からベストセレクション58作品を大型モニター12台で紹介します。

※解説シアター及びメイン会場の3面シアターの上映プログラムはともに撮影禁止です。
3面シアターにて約7分のフォトタイムがあります。
また、Digital北斎×広重コーナーは撮影可です。
掲載した写真はメイン会場のフォトタイムとDigital北斎×広重コーナーで撮影したものです。

それではまず、メイン会場のフォトタイムからご紹介!

巨大スクリーンでは、やはりこの作品をはずすわけにはいきません。
俵屋宗達「風神雷神図屏風」です。

俵屋宗達 国宝「風神雷神図屏風」
所蔵:大本山 建仁寺

こちらは俵屋宗達の影響を大きく受けた尾形光琳が、宗達の約80年後に描いた「風神雷神図屏風」

尾形光琳 重要文化財「風神雷神図屛風」
所蔵:東京国立博物館


Bプログラムのフォトタイムでは葛飾北斎「冨嶽三十六景」の「凱風快晴」が上映されましたが、Aプログラムは「山下白雨」
葛飾北斎 「冨嶽三十六景 山下白雨」
所蔵:山梨県立博物館

白雨とは、夕立、にわか雨のこと。富士山のふもとの不穏な黒い雲と稲光が目の前に迫ってきます。


展覧会では「五大絵師」だけでなく、同時代の絵師の作品も紹介されます。
Aプログラムでは、狩野邦信「源氏物語図屏風」作者不詳「平家物語図屏風」の2点。

狩野邦信は、江戸時代後期に活躍した狩野派の絵師。
巨大スクリーンで見ると、女性の十二単や男性の服の文様が細かいところまで丁寧に描き込まれているのがよくわかります。

狩野邦信「源氏物語図屏風」
所蔵:岡田美術館

伊藤若冲のアジサイも一つひとつの「がく」が丁寧に描かれています。

伊藤若冲「百花の図」
所蔵:金刀比羅宮 ※通常非公開

香川県の金刀比羅宮の奥書院上段の間を飾るこの「百花の図」は通常非公開ですが、目の前でじっくり見ることができるのもデジタルアート展ならではのことでしょう。

作者不詳「平家物語図屏風」も細部まで緻密に描かれています。
武将たちの鎧、おびただしい数の兵士たちの表情、さらに絵の中に描かれた襖や掛軸などの画中画。美術館で単眼鏡で見てもわからないくらい細かい描写がよくわかります。

作者不詳「平家物語図屏風」
所蔵:岡田美術館


作者不詳「平家物語図屏風」
所蔵:岡田美術館


作者不詳「平家物語図屏風」
所蔵:岡田美術館


このように拡大されても細部までくっきり見えるのは、超高精細デジタル画像だからこそではないでしょうか。

迫りくる巨大な風神雷神や大波、細部まで緻密に描き込まれた花や人物の表情。
巨大画面ならでは迫力をぜひ実感してみてください!


続いては、【Digital北斎×広重コーナー】

ここでは葛飾北斎「冨嶽三十六景」と歌川広重「東海道五拾三次」の中から58作品がセレクトされて大型モニターに映し出されます。

葛飾北斎「冨嶽三十六景」展示風景

1つの大型モニターでは3~5作品を約1分で見ることができるので、お目当ての作品が出てくるまで長く待つことはありません。
どこから描かれた富士山なのかは、マップで見ることができます。

葛飾北斎「冨嶽三十六景」展示風景

こちらは歌川広重「東海道五拾三次」のコーナー。

歌川広重「東海道五拾三次」展示風景

超高精細デジタル画像なので、色合いが鮮やかです。
ほとんど雪が降らない蒲原なのに、なぜ雪景色なのか謎に包まれている「蒲原 夜之雪」では、白い雪と、黒のグラデーションが見事に再現されています。

歌川広重「東海道五拾三次 蒲原 夜之雪」
所蔵:大阪浮世絵美術館


展示は以上ですが、最後はミュージアムショップでのお買い物タイムをお楽しみください。

五大絵師の作品にちなんだグッズが数多くあるので、どれにしようか迷ってしまいますが、
私のおススメは、ペアルックのデザインのペンが付いた一筆箋。キャップにはゴムバンドがついているので、キャップをなくす心配もありません。
かさばらないし、実用的なので、お友達へのお土産にもピッタリ!



展覧会公式ガイドブックもおススメです。

今回の展覧会のメイキングのお話や、五大絵師のプロフィール、作品のカラー写真など盛りだくさんの内容で税込2,200円。
ミュージアムショップにて会場限定販売。書店ではお取り寄せできませんので、ぜひその場でお買い求めください。おうちでも五大絵師がお楽しみいただけます!


展覧会は9月9日(木)まで。会期中無休です。


五大絵師がお待ちしてます!






2021年8月6日金曜日

京都国立博物館 日本博/紡ぐプロジェクト 特別展「京(みやこ)の国宝-守り伝える日本のたから-」

待ちに待った展覧会、日本博/紡ぐプロジェクト 特別展「(みやこ)の国宝-守り伝える日本のたから-」が、京都国立博物館で7月24日(土)に開幕しました。


平成知新館エントランスホールの展覧会パネル



今回の展覧会では、総計120件のうち国宝が72件(※)。
国宝率なんと6割という豪華な展覧会なのですが、今回の展覧会の見どころは、京都ゆかりの文化財を多数ご覧いただけるだけでなく、文化財保護の様々な取組みとその歴史が見られることにあります。

(※)作品番号23 国宝《三十帖冊子 第十五・十六・二十六・二十九帖》と作品番号24 国宝《宝相華迦陵頻伽蒔絵𡑮冊子箱》(いずれも京都・仁和寺蔵)はセットで1件、作品番号87 国宝《春日権現験記絵 巻二・七》(絵:高階隆兼筆 詞書:鷹司基忠ほか筆)(東京・宮内庁三の丸尚蔵館蔵)は、7月16日、文化審議会が国宝に指定するよう文部科学省に答申したので国宝1件とカウントしています。


さて、すでにSNS等でも話題沸騰の展覧会ですが、開幕に先立って開催された報道内覧会に参加しましたので、さっそく会場内の様子をご紹介したいと思います。

※主な展示作品については、今年3月に開催された報道発表会の記事で紹介しています。こちらもぜひあわせてご覧ください→【7月24日開幕!】京都国立博物館 特別展「京(みやこ)の国宝-守り伝える日本のたから-」


展覧会概要


会 場  京都国立博物館 平成知新館(京都市東山区茶屋町527)
会 期  2021年7月24日(土)~9月12日(日)
 前期展示 7月24日(土)~8月22日(日)
 後期展示 8月24日(火)~9月12日(日)
 ※一部の作品は上記以外にも展示替を行います。
開館時間 午前9時~午後5時30分(入館は午後5時まで)
     ※夜間開館は実施しません。
休館日  月曜日 ※ただし8月9日(月・休)は開館、10日(火)休館
観覧料(税込)  一般 1,600円、大学生 1,200円、高校生 700円
主 催  文化庁、京都国立博物館、独立行政法人日本芸術文化振興会、読売新聞社
特別協賛 キヤノン、JR東日本、日本たばこ産業、三井不動産、三菱地所、
     明治ホールディングス
協 賛  清水建設、髙島屋、竹中工務店、三井住友銀行、三菱商事
特別協力 宮内庁(宮内庁三の丸尚蔵館) 
※本展は、政府が推進する「日本博」及び「日本美を守り伝える『紡ぐプロジェクト』の一環として開催するものです。
※本展は、新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡大防止のため、事前予約優先制を導入します。
※「日時指定観覧券」の購入方法、新型コロナウイルス感染予防・拡大防止、展覧会の見どころなど詳細は展覧会公式サイトでご確認ください⇒特別展 京の国宝-守り伝える日本のたから-

展覧会チラシ


※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は、報道内覧会で特別に主催者の許可をいただいて撮影したものです。

展覧会は次の4章構成になっています。
 第1章 京都ー文化財の都市
 第2章 京の国宝
 第3章 皇室の至宝
 第4章 今日の文化財保護


それでははじめに平成知新館3階「第1章 京都ー文化財の都市」から見ていくことにしましょう。


第1章 京都ー文化財の都市

《1》文化財指定のあゆみと京都

千年の都・京都。長きにわたり天皇の御所が置かれ、神社仏閣も数多く、豊かな財力をもった町衆もいて、所蔵する貴重な宝物もさぞかし多く残されているのでは、と思いがちですが、明治維新以降、実は大きな苦難が待ち受けていたのです。

よく知られているのが廃仏毀釈。

1868年の神仏分離令を機に廃仏運動が激化し、全国的に寺院・仏像などの破壊、寺領の没収が続出し、貴重な文化財が失われ、多くの寺が廃寺になりました。

そしてかろうじて残った寺院も幕府の庇護を失ったことなどから財政状況が厳しくなり、大切な宝物を手放さなくてはなりませんでした。海外に流出した文化財も多くありました。

《1》文化財指定のあゆみと京都では、文化財保護の先進的な取組みを行った京都の足跡がうかがえる資料が展示されています。

第1章 京都ー文化財の都市
《1》文化財指定のあゆみと京都
展示風景

明治30年(1897)には、文化財のためのはじめての法律「古社寺保存法」が制定され、国宝の指定制度が始まりました。
その後、昭和4年(1929)には「国宝保存法」、そして昭和25年(1950)には「文化財保護法」が制定され、戦後初の国宝が昭和26年6月9日に指定されました。

その記念すべき最初の国宝が次の展示室に展示されています。

《2》最初の国宝ー昭和26年6月9日指定

ここには、前回の記事で紹介した国宝《御堂関白記 自筆本》(京都・公益財団法人陽明文庫蔵、通期展示〈前期後期で巻替えあり〉)、京都の粟田口を代表する名工、久国作の国宝《太刀 銘久国》(文化庁蔵、通期展示)はじめ全部で6件の国宝が展示されています。
国宝《御堂関白記 自筆本》は、現存する世界最古の自筆の日記です。
このような貴重な史料を今でも目の前で見ることができるのは、奇跡と言ってもいいかもしれません。

第1章 京都ー文化財の都市
《2》最初の国宝ー昭和26年6月9日指定
展示風景

下の写真左奥の国宝《山水屏風》(京都国立博物館蔵)は前期のみの展示で、後期には国宝《瓢鮎図》如拙筆、大岳周崇等三十一僧賛(京都・退蔵院蔵)が展示されます。


第1章 京都ー文化財の都市
《2》最初の国宝ー昭和26年6月9日指定
展示風景



第2章 京の国宝

《1》絵画

ものすごく豪華な光景が見えてきました。
下の写真右が狩野永徳が描いた国宝《琴棋書画図襖》(京都・聚光院蔵、前期展示)、左は長谷川等伯が描いた国宝《松に秋草図屏風》(京都・智積院蔵、前期展示)。

桃山の2人の巨匠、永徳と等伯の夢の直接対決です。


第2章 京の国宝《1》絵画
展示風景

「はせ川(等伯のこと)と申す者に内裏の対屋の襖絵を描かせることにしたのは迷惑である。」と勧修寺晴豊に申し出をして等伯を排除した永徳も、もちろん等伯も、まさか自分たちの描いた襖絵が仲良く並んで展示されるとは夢にも思わなかったことでしょう。

本人たちにとっては「迷惑」かもしれませんが、私たちアートファンにとってはたまらない組み合わせです。

しかし、この夢の対決も前期だけ。狩野永徳の方は、同じく京都・聚光院所蔵の国宝《花鳥図襖》が展示されますが、長谷川等伯の国宝《松に秋草図屏風》は前期のみの展示です。

このあと展示される俵屋宗達の国宝《風神雷神図屏風》(京都・建仁寺蔵)は、8月24日から9月5日までの期間限定展示ですのでご注意を!


《2》書跡・典籍・古文書

長い年月が経過してもその力強さを失わない水墨の神秘的な世界が広がっています。


第2章 京の国宝《2》書跡・典籍・古文書
展示風景

手前の作品は国宝《後醍醐天皇宸翰「天長印信」》後醍醐天皇筆(京都・醍醐寺蔵、前期展示)。
空海の書を後醍醐天皇が書写したというだけでもすごいですが、空海のオリジナルが失われた今となってはこの作品がより貴重な存在になっているのです。


《3》考古資料・歴史資料


下の写真右の国宝《線刻蔵王権現像》(東京・總持寺蔵、通期展示)は、ニコニコ美術館でも紹介されていましたが、廃仏毀釈の際、奈良の金剛峯寺から流出したものと考えれられ、日露戦争当時、潰し地金として持ち込まれたものを心ある銅鉄問屋の方がお寺に納めたというもの。
価値の分かる方に見つけられたという幸運も文化財保存には欠かせないことなのかもしれません。

第2章 京の国宝《3》考古資料・歴史資料
展示風景



《4》彫刻

1階に移ります。
いつもの仏像コーナーには、京都にあるお寺の国宝の仏像が並び荘厳な光景が広がってます。
今回の展覧会のチラシの表紙を飾る「展覧会の顔」、国宝《梵天坐像》(京都・東寺(教王護国寺)蔵、通期展示)のお姿もこちらで拝むことができます。

第2章 京の国宝《4》彫刻
展示風景

《5》工芸品

京都に来た、と思えるのが、東寺(教王護国寺)の五重塔が見えてきたとき。
その東寺(教王護国寺)から出展されているもう1件の国宝が、空海が遣唐使の一員として唐に渡った時に将来した多くの仏画や経典、仏具の中のひとつ、国宝《金銅密教法具》(京都・東寺(教王護国寺)蔵、 前期展示)です(下の写真左)。
東シナ海の荒波を越えて日本にもたらされた異国風の仏具の輝きにぜひ注目していただきたいです。

第2章 京の国宝《5》工芸品
展示風景


第3章 皇室の至宝

冒頭でご紹介しましたが、このたび東京・宮内庁三の丸尚蔵館が保管する美術工芸品が国宝や重要文化財にはじめて指定されることになりました。
鎌倉時代の絵巻物《春日権現験記絵 巻二・七》(絵:高階隆兼筆 詞書:鷹司基忠ほか筆)(東京・宮内庁三の丸尚蔵館蔵、通期展示〈前期後期で巻替えあり〉)は、国宝指定を祝したはじめてのお披露目。絶妙のタイミングの展示です。


第3章 皇室の至宝 展示風景


第4章 今日の文化財保護

《1》調査と研究

文化財保護にとって大切なのは、専門家による調査と研究であることはもちろんなのですが、調査と研究によって実はものすごい価値のあるものだとわかった事例もあります。


第4章 今日の文化財保護《1》調査と研究
展示風景

上の写真左は、《白磁金彩鳥鈕蓋付馬上盃「金琺瑯」》(京都・公益財団法人陽明文庫蔵、通期展示)。調査の結果、清の雍正帝→琉球国王→薩摩藩主と渡ったことが確実視されるようになったものなのです。
清の雍正帝は、康熙帝(在位1661-1722)、雍正帝(在位1722-35)、乾隆帝(在位1735-95)と続いた清朝全盛期の三代の皇帝のひとり。
国宝にも重要文化財にも指定されていませんが、まさに「国宝級」の逸品です。



《2》防災と防犯

文化財保護にとって大きな難敵は経年劣化ですが、災害や盗難への対策も大きな課題なのです。
下の写真右は、昭和24年(1949)に焼損した法隆寺金堂壁画の模写(《法隆寺金堂壁画模本》桜井香雲筆 京都国立博物館蔵、通期展示)。
文化庁では法隆寺金堂で事故のあった1月26日を文化財防火デーに定めていますが、この日には、全国各地で文化財の建物に放水作業を行う場面をニュースなどでよく見かけます。

第4章 今日の文化財保護《2》防災と防犯
展示風景


《3》修理と模造

文化財を保護するためには、定期的な修理が必要ですが、修理をするための技術を持った人、修理に必要な素材の継承が欠かせません。
そして、精巧な模造を制作することが技術や素材の継承にとって大切なことだと、あらためて実感できる作品が展示されています。

第4章 今日の文化財保護《3》修理と模造
展示風景

技術や素材の継承の大切さがわかる映像が上映されていますので、ぜひこちらもご覧ください。

【シアター上映のお知らせ】
「伝統の紙」(約28分)、「伝統の技」(約25分)
場 所:平成知新館 講堂(地下1階)
※毎週金曜日10~17時に上映


展覧会関連グッズも充実しています。

1階ミュージアムショップ

私のおススメは、全展示作品がカラーで掲載されていて、詳細な解説もある『展覧会公式図録』(税込2,800円)。おうちで展覧会の続きをお楽しみいただけます。




新型コロナウイルス感染症の収束がまだまだ見えない状況ではありますが、密を避けてぜひご覧いただきたい展覧会です。

2021年8月3日火曜日

東京藝術大学大学美術館「藝大コレクション展2021 Ⅰ期 雅楽特集を中心に」 

毎年楽しみにしている藝大コレクション展が始まりました。
そのうえ今年はⅠ期とⅡ期に分かれて開催されるので、一年で二度おいしさを味わうことができるという、うれしい年。
どちらも見逃すわけにはいきません。

現在開催されているのは、Ⅰ期「雅楽特集を中心に」。
先日開催された報道内覧会に参加しましたので、さっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。

藝大キャンパス内の案内看板



展覧会概要


会 場  東京藝術大学大学美術館 本館 展示室1
会 期  2021年7月22日(木・祝)~8月22日(日)
休館日  月曜日、8月10日(火) ※ただし、8月9日(月)は開館。
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
観覧料  一般 440円ほか

※本展は事前予約制ではありませんが、今後の状況により、変更及び入場制限等を実施する可能性がございます。
※展覧会の詳細等につきましては、同館公式サイトでご確認ください⇒東京藝術大学大学美術館

展示構成は次のとおりです。

名品Ⅰ (主に天人、天女の作品が展示されています。)
雅楽特集 舞楽
雅楽特集 奏楽する供養菩薩
雅楽特集 雅楽の楽器と絵画作品
名品Ⅱ 夏の名品 (小倉遊亀のほのぼのとした作品《径》ほかが展示されています。)

※展示室内は、入口すぐの撮影OKゾーンを除き撮影不可です。掲載した写真は内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。

※ 写真を掲載した作品は、注記のあるもの以外は東京藝術大学所蔵です。

撮影OKゾーンから撮った写真はこちらです。

手前 竹内久一《伎芸天》明治26年(1893)
奥 巨勢小石《伎芸天女》明治23年(1890)

展示室入口でお出迎えしてくれるのは、色彩豊かな衣装に身を包んだ「伎芸天」の彫刻と、「伎芸天女」の絵画。
伎芸天は、その名のとおり諸芸の神様なので、まさに今回のテーマにふさわしい展示です。

続いて、国宝《絵因果経》。
この《絵因果経》は天平時代(8世紀後半)のもので、下段には「過去現在因果経」の経文が記されていて、上段にはその内容が描かれているのですが、登場する仏様やお坊さんたちのゆるやかな表情を見ると気分がなごんできて、とても親しみのもてるお経なのです。

国宝《絵因果経》天平時代(8世紀後半)


今回は雅楽特集にちなんで飛天が琵琶を演奏している場面が展示されているので、見ていると作品から厳かな音色が聞こえてくるような気がしてきます。

絵の中に描かれたさまざまな雅楽の楽器の調べに耳を傾けるのも今回の展覧会の楽しみの一つかもしれません。


絵の中に出てくる雅楽の楽器を探してみよう! 


雅楽の楽器には、鞨鼓(かっこ)、太鼓、鉦鼓(しょうこ)などの打楽器、笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)などの管楽器、琵琶(びわ)や箏(そう)などの弦楽器があります。

藝大コレクションの雅楽の楽器
右から 打楽器の《鞨鼓》《太鼓》《鉦鼓》明治時代以前、
管楽器の《笙》江戸時代(1801)、《篳篥》江戸時代(1747)、
龍笛、高麗笛(制作年不詳)

《當麻曼荼羅縁起 下巻》(模本)では、阿弥陀如来とともに現れた供養菩薩が、めいめい楽器を奏でながら現れる場面が描かれています。管楽器や太鼓など藝大コレクションにある楽器も描かれているので、ぜひ見比べてみてください。

《當麻曼荼羅縁起 下巻》(模本)作者・制作年不詳


雅楽の楽器の中でも琵琶は、特におなじみの楽器ではないでしょうか。
琵琶とともに琵琶を弾く人物を描いた作品も展示されています。

手前右が《琵琶》(制作年不詳)、左が《柳に鳥図蒔絵琵琶箱》桃山-江戸時代
奥が福富常三《平経正》明治40年(1907)


平経正は、平清盛の異母弟・平経盛の長男。琵琶の名手で知られ、和歌にもすぐれていましたが、一ノ谷の戦いで敗死しました。

この作品は、木曽義仲討伐の途上、戦勝祈願のために訪れた竹生島で琵琶に向かった場面を描いたものです。琵琶を弾く前に気持ちを落ち着かせながら調弦しているところなのでしょうか。

下の写真右は経政(平経正)が竹生島で琵琶を弾いていると、あまりの音色の良さにつられて龍が現れたという場面が描かれています。
作者は歴史画を得意とし、大和絵復興に力を注いだ小堀鞆音(1864~1931)。門下には安田靫彦、川崎小虎らがいました。

右 小堀鞆音《経政詣竹生島》明治29年(1896)
左 後藤浪吉《重衡》明治35年(1902)

左は、平清盛の五男・重衡が琵琶を弾いている場面。
重衡は文武を兼ね備えた人物で、武将としても源平合戦で活躍しました。
南都の僧兵との戦いの中で興福寺・東大寺の伽藍を焼失させたことが原因となって南都の恨みを買い、一ノ谷の合戦で捕らえられたあと鎌倉に護送されたのですが、南都の要求で奈良に送られ斬首されました。
この場面は、千手の前(源頼朝の侍女)の箏の音色に惹かれ、その後の自分の運命を悟ったかのように、静かに琵琶を弾く姿が描かれています。


そして、こちらは鍋や釜、箏や琵琶が妖怪に化けて練り歩く《百鬼夜行絵巻》。
琵琶の妖怪が箏の妖怪をまるでペットのように引っ張っている場面が展示されています。


《百鬼夜行絵巻》江戸時代




絵の中の舞楽「陵王」を探してみよう! 



展示室中央には彩り鮮やかな舞楽の衣装と面が展示されています。

《陵王装束》明治時代(20世紀)
手前 竹内久一《陵王面》明治37年(1904)


「陵王」は、中国・南北朝時代の北斉(550-577)の蘭陵王が、その美貌を隠すため仮面をつけて戦いに挑んだという故事に由来する舞楽で、そのひときわ目立つ衣装と面をご覧になられた方も多いのではないでしょうか。

そこで、作品の中の「陵王」に注目してみることにしました。


まずは、さきほど《経政詣竹生島》で紹介した小堀鞆音《蘭陵王》。

小堀鞆音《蘭陵王》明治時代(20世紀)


こちらは彫刻と画帖。

右 高村光雲《蘭陵王》明治44年(1911)
左 千頭庸哉《陵王(「含花育英帖」より」)》大正15-昭和2年(1926-1927)


そして圧巻が、土佐光信 伝原作《舞楽屛風》(模本 制作年・制作者不詳)。
12枚の紙面には「陵王」はじめ23種類の舞楽の舞人に加え、数多くの楽器が描かれています。修復が終わったばかりのもので、今回が初公開です。

土佐光信 伝原作《舞楽屛風》(模本)制作年・制作者不詳

今回も作品の詳しい解説付きのパンフレットが展示室入口に用意されていますので、ぜひパンフレットの解説を見ながら一つひとつの舞楽の場面をご覧ください。
(パンフレットは無料。在庫がなくなり次第終了。)

展覧会パンフレット


そして、見逃してはならないのが、数え38歳の若さで亡くなった天才画家・菱田春草の代表作《水鏡》。


菱田春草《水鏡》明治30年(1897)

天人も衰えるという「天人の五衰」を題材にした作品ですが、水面に映し出された天人の顔は描かれていません。見る人の想像に任せたのでしょうか。
春草が、岡倉天心に従って、横山大観、下村観山らとともに東京美術学校(東京藝術大学の前身)を退任する前年の作品です。



そしてこちらは特別出品、昭和天皇立太子礼奉祝記念《御飾時計》。
最上部に雅楽の舞人をあしらった《御飾時計》は、大正5年(1916)の昭和天皇の立太子礼の際に東京美術学校、東京府立工藝学校、尚工舎時計製造所(シチズン時計株式会社の前身)などにより製作され、大正10年(1921)に東京市(当時)から献上されたもので、このたび藝大文化財保存学専攻保存修復工芸研究室とシチズン時計が行った3年がかりの修復が完了して、展示されることになりました。

東京美術学校監造、東京府立工藝学校経始、
尚工舎時計製造完成《御飾時計》大正10年(1921)
秋篠宮家所蔵


完成以来100年前ぶりのお披露目です。
毎正時には時報が鳴り、15分ごとに舞楽の舞人たちが太鼓をたたき、文字盤の横にとまる鳩が羽を広げながら鳴く絡繰りになっているので、タイミングがよければ動く様子が見られるかもしれません。

映像コーナーでは、《御飾時計》の絡繰りの様子や、雅楽の演奏などの映像が上映されているので、ぜひこちらもご覧ください。


3階展示室ではSDGs×ARTs展が同時開催中。観覧無料・予約不要です。
期間は8月31日(火)まで。



次回展「藝大コレクション展2021 Ⅱ期 東京美術学校の図案ー大戦前の卒業制作を中心に」も楽しみです。

会期:2021年8月31日(火)~9月26日(日)