2020年11月30日月曜日

【ピカソ、ミロ、ウォーホル】横浜ベイエリアで20世紀西洋美術を楽しんでみませんか~横浜美術館「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」

コロナ禍がまだまだ収まらない中ではありますが、この時期になると街じゅうがクリスマス気分で盛り上がる今日この頃。横浜みなとみらいにある横浜美術館では国内にある20世紀西洋美術の名品が集まった展覧会が開催されています。

ランドマークプラザのクリスマスツリー



今回の展覧会は、国内有数の20世紀西洋美術コレクションを所蔵する横浜美術館、愛知県美術館、富山県美術館の3館のコラボ企画。
コロナ禍の前に企画されたとのことですが、海外どころか、国内の移動も安心してできる状況でない中、一カ所で国内美術館の西洋美術コレクションの名品が見られる、とてもうれしい展覧会です。

展覧会概要


トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション
会 期  2020年11月14日(土)~2021年2月28日(日)
開館時間 10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日  木曜日(2月11日は除く)、2020年12月29日(火)~2021年1月3日(日)、
     2月12日(金)   
観覧料(税込) 一般 1,500円ほか
       本展の観覧日に限り「横浜美術館コレクション展」も観覧可。
       コレクション展については後ほどご紹介します。
※本展は、インターネットでのオンライン日時指定予約が必要です。
※展覧会の詳細、新型コロナウィルス感染症拡大防止の取組み、日時指定予約方法等については同館公式HPをご覧ください⇒https://yokohama.art.museum/


本展覧会は、横浜美術館、愛知県美術館、富山県美術館の3館共同企画展で、以下のとおり巡回します。
愛知県美術館 2021年4月23日(金)~6月27日(日) ※予定
富山県美術館 2021年11月20日(土)~2022年1月16日(日) ※予定

※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。

さて、今回の展覧会のタイトルは「トライアローグ」(以下、「トライアローグ展」)。
ダイアローグは二人の対話ならトライアローグは三人の鼎談。
国内の美術館3館がコラボするとどういった内容になるのか。
ヒントはどうやら数字の「3」と3の二乗の「9」にありそうです。

1 展示構成は20世紀の100年を30年ごとに分けた3章構成


20世紀の西洋美術は第二次世界大戦(1939-1945)前後を一つの区切りにすることが多い中、30年ごとに区切ると何が見えてくるのか?

SectionⅠ 1900s-アートの地殻変動
 フォーヴィスム、キュビスム、ドイツ表現主義、ダダ、秩序への回復、ロシア構成主義
SectionⅡ 1930s-アートの磁場転換
 シュルレアリスム、抽象表現主義、アール・アンフォルメル
SectionⅢ 1960s-アートの多元化
 ネオ・ダダ、ポップ・アート、ヌーヴォー・レアリスム、ミニマル・アート、コンセプチュアル・アート

2 3館の所蔵作品で9人のアーティストをフォーカス(Artist in Focus)


三館が所蔵する9人のアーティスト(ピカソレジェクレーハンス(ジャン)・アルプエルンストミロデルヴォージム・ダインウォーホル)の作品を並べてみると何が見えてくるのか?

3 3館の個性を引き出す展示内容


20世紀西洋美術の中でもそれぞれ特徴の異なる3館の作品を並べると何が見えてくるのか?



それではさっそく展示室内に入って見ることにしましょう。

SectionⅠ 1900s-アートの地殻変動

20世紀初頭で最初に名前が思い浮かんでくるのは、19世紀後半の印象派、ポスト印象派の「地殻」を破って出てきたピカソ

最初のArtist in Focusはピカソです。

SectionⅠ
「Artist in Focus #1 ピカソ」展示風景

上の写真奥から、
《青い肩かけの女》(愛知県美術館)1902年
《肘かけ椅子の女》(富山県美術館)1923年
《肘かけ椅子で眠る女》(横浜美術館)1927年
《座る女》(富山県美術館)1960年。

《青い肩かけの女》は初期の「青の時代」、《肘かけ椅子の女》はキュビスム後の「新古典主義の時代」、《肘かけ椅子で眠る女》はシュルレアリスムに接近した時期、そしてキュビスムに回帰した晩年の作品《座る女》。
このように、3館の所蔵作品を並べると見事にピカソの作風の変遷が見えてくるのです。


第一次世界大戦中(1914-1918)、亡命先のスイスのチューリッヒでダダを立ち上げたハンス(ジャン)・アルプもArtist in Focusの一人。


SectionⅠ
「Artist in Focus #4 ハンス(ジャン)・アルプ」展示風景


上の写真右から、
《森》(愛知県美術館)1917年頃
《瓶と巻き髭》(横浜美術館)1923-26年
《鳥の骨格》(富山県美術館)1947年。

右の解説パネルのタイトルは「ふたりのアルプ」。
テキスタイル・デザイナーで、のちにハンスの妻となるゾフィー・トイバーとの共同作業などを通じて生まれた《森》や《瓶と巻き髭》、そして、1943年に不慮の事故でトイバーを亡くし、悲しみを越えてふたたび彫刻に向き合った作品が《鳥の骨格》。
ここではアルプの波乱の人生と作品の変遷が浮かび上がってきます。

ちなみに、ここに出てくる数字は「2」ですが、この時期は女性作家が少ない中、今回の展覧会を担当された「9人」の学芸員の方が女性作家の位置づけを考えたとのこと。
やはり「3の二乗」が出てきました。

女性作家といえば、第一次世界大戦前にミュンヘンを中心に活躍したドイツ表現主義のグループ「青騎士」のメンバーの一人、ガブリエーレ・ミュンターの作品にめぐり会えたのもうれしかったです。

SectionⅠ 展示風景

上の写真左が、温かみが感じられるミュンターらしい作品《抽象的コンポジション》(横浜美術館 1917年)。ミュンターは、青騎士の画家たちの作品を地下室に隠してナチスの略奪を防いだ勇気の人。おかげで私たちは今でもミュンヘンのレンバッハハウス美術館で彼らの作品を見ることができるのです。(ミュンヘンにはいつかまた行きたい!)
右は同じく「青騎士」の主要メンバーだったカンディンスキーの《網の中の赤》(横浜美術館 1927年)。バウハウス時代の作品です。

ドイツ表現主義の先駆となった「ブリュッケ」結成の中心メンバーのひとりがキルヒナー
下の写真右は、ドイツ表現主義に強い愛知県美術館のキルヒナー《グラスのある静物》(1912年)。
SectionⅠ 展示風景

そして、キュビスムや未来派の影響を受けて1915年頃に興ったロシア構成主義に強いのが横浜美術館。下の写真手前がアレクサンドル・ロトチェンコ《非具象彫刻》(1918年(1994年再制作))、奥がウラジーミル・タトリン《コーナー・反レリーフ》(1915年(1979年再制作))(いずれも横浜美術館)。

SectionⅠ 展示風景

富山県美術館の強みは最後に紹介しますが、3館がそれぞれの個性を出すと、複雑な20世紀西洋美術のさまざまな動きが浮かび上がってきます。


SectionⅡ 1930s-アートの磁場転換

「地殻変動」の後は、第二次世界大戦を契機にアートの中心がパリからニューヨークに移った「磁場転換」。

中でもこの時代の苦難を体現したのがマックス・エルンスト
ドイツ人のエルンストは、第二次世界大戦開戦時にパリにいたのですが、「敵性外国人」ということで収容所に入れられ、収容所から出てドイツに戻ったらナチスに退廃芸術家としてゲシュタポに追われ、辛くもニューヨークに亡命するという波乱に満ちた人生を送った画家。

エルンストもArtist in Focusの一人。

SectionⅡ
「Artist in Focus #5 エルンスト」展示風景

上の写真は右から、
《森と太陽》(富山県美術館)1927年
《少女が見た湖の夢》(横浜美術館)1940年
《ポーランドの騎士》(愛知県美術館)1954年。

3館の所蔵作品を並べると、第二次世界大戦前、大戦中、そしてニューヨークで描いた作品と、ものの見事にエルンストの画風の変化が見て取ることができます。
そして20世紀が30年ごとに区切られているので、エルンストの作品が第二次世界大戦前後で流れが途切れることなくつながっています。

SectionⅡのハイライトは何といってもシュルレアリスム
エルンストはじめ、サルバドール・ダリマグリットデルヴォーミロ。
オールスターキャスト勢ぞろい!

SectionⅡ
「Artist in Focus #6 ミロ」展示風景



パリで名声を得たダリも第二次世界大戦を機にアメリカに亡命して「アートの磁場転換」を体現した画家の一人。
下の写真右が《ガラの測地学的肖像》(横浜美術館)1936年、《アメリカのクリスマスのアレゴリー》(富山県美術館)1943年頃。


SectionⅡ 展示風景

アメリカの写真家で、パリとアメリカを行き来したマン・レイの写真《ガラスの涙》(1932年頃)、《メレット・オッペンハイム(ソラリゼーション)》(1933年)と、鉄と釘で制作したアイロンのオブジェ《贈物》(1921年(1970年再制作))(下の写真右から、いずれも横浜美術館)。
マン・レイといえば、ピンッととがった口ひげのダリの写真も思い浮かんできます。

そして、マン・レイのモデルとなったドイツ生まれでスイス人画家のメレット・オッペンハイムが制作した毛皮のふわふわしたオブジェ《りす》2点(横浜美術館、富山県美術館 いずれも1969年(1970年再制作))。(下の写真左、ガラスケースの中)

SectionⅡ 展示風景

マン・レイをはじめとしたシュルレアリスムの写真も横浜美術館の強みです。


SectionⅢ 1960s-アートの多元化

1960年代に入ると、大量生産・大量消費の時代を反映して、ネオ・ダダ、ポップ・アート、ヌーヴォー・レアリスムなどが出てきて、展示室内も「多元化」。
そして、今までアートのモデルは女性が多かったのですが、ここに展示されている作品は、手前に展示されているアルマン《バイオリンの怒り》(富山県美術館 1971年)を除き、すべてモデルが男性という珍しい空間。

SectionⅢ 展示風景

そしてニューヨークを中心に展開するアートシーンの中で真っ先に名前が思い浮かんでくるのが、アンディ・ウォーホル

SectionⅢ
「Artist in Focus #9 ウォーホル」展示風景

ウォーホルもArtist in Focusの一人。
上の写真右から、
《マリリン》(富山県美術館)1967年
《ムハメド・アリ》ほか(横浜美術館)1977年ほか
《レディース・アンド・ジェントルメン》(愛知県美術館)1975年。

既存の写真を使った1960年代の《マリリン》のシリーズに始まって、自らがスターを撮影するようになった《ムハメド・アリ》ほか、そして性的マイノリティをモデルとした《レディース・アンド・ジェントルメン》。
ここでも作者の制作手法や対象の変遷を見て取ることができます。

そして、締めくくりは、最近、作品が高額で落札されて一躍注目を浴びたゲルハルト・リヒター

SectionⅢ 展示風景


上の写真左は、1980年の開館当初から20世紀後半の作品収集に力を注いだ富山県美術館のリヒターの大作《オランジェリー》(1982年)。


ボリュームたっぷり、見どころいっぱいのトライアローグ展はここまでですが、展示はまだまだ続きます。
続いて横浜美術館のコレクション展です。


横浜美術館コレクション展 「ヨコハマ・ポリフォニー:1910年代から60年代の横浜と美術」

トライアローグ展とあわせて開催されるコレクション展のテーマは音楽用語で多声音楽を意味する「ポリフォニー」。

セザンヌから、藤田嗣治川瀬巴水、そして岡田謙三イサム・ノグチをはじめとしたアーティストまで、1910年代から1960年代に横浜で展開されたアートシーンをたどりながら、横浜にゆかりの作家や作品から聴こえてくる響きに耳を傾けたくなる展覧会です。

展覧会概要


横浜美術館コレクション展 「ヨコハマ・ポリフォニー:1910年代から60年代の横浜と美術」
会 期  2020年11月14日(土)~2021年2月28日(日)
開館時間 10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日  木曜日(2月11日は除く)、2020年12月29日(火)~2021年1月3日(日)、
     2月12日(金) 
(以上はトライアローグ展と同じです。)
観覧料(税込) 一般 500円ほか
  企画展ご観覧当日に限り、企画展の観覧券でコレクション展もご覧いただけます。
※本展は、インターネットでのオンライン日時指定予約が必要です。
※展覧会の詳細、新型コロナウィルス感染症拡大防止の取組み、日時指定予約方法等については同館公式HPをご覧ください⇒https://yokohama.art.museum/

※コレクション展は撮影可です。

展示構成
 序章 憧れの西洋美術
 第1章 横浜美術協会創設前後-川村信雄とその周辺
 第2章 フランスへの旅立ち
 第3章 関東大震災からの復興
 第4章 新版画の興隆-鏑木清方から石渡江逸まで
 第5章 横浜懐古-川上澄生の世界
 第6章 横展写真部創設
 第7章 ニューヨークでの活躍-岡田謙三とイサム・ノグチ
 第8章 前衛美術のパイオニア-斎藤義重
 第9章 ハマ展の洋画家と彫刻家
 第10章 「今日の作家展」
 [特集展示Ⅰ] 宮川香山
 [特集展示Ⅱ] 林 敬二


セザンヌが横浜に来た!

展示会場入口でお出迎えしてくれるのは、横浜生まれの画家・有島生馬、そしてセザンヌ
文芸誌『白樺』でセザンヌを日本でいち早く紹介たのが、1910年に欧州留学から帰国した有島生馬でした。
日本の美術界に大きな影響を与えたセザンヌですが、当時の人たちは、まさかセザンヌの原画が横浜で見られるとは思わなかったことでしょう。
下の写真左の有島生馬がフランス滞在中に描いた《背筋の女》(1909年)とあわせて、フランスの雰囲気を伝えるとても贅沢な空間です。

序章 憧れの西洋美術


アーティストは横浜港からフランスを目指した!

1859(安政6)年に横浜が開港して以来、横浜港は長らく海外への玄関口でした。
1913(大正2)年に横浜港からフランスに旅立った藤田嗣治、1918(大正7)年に渡仏した横浜生まれの長谷川潔はじめ、フランスに学んだ画家たちの作品が中心に展示されています。




第2章 フランスへの旅立ち 

ニューヨークで活躍した横浜生まれの岡田謙三も横浜港からフランスを目指した画家のひとり。岡田謙三の作品は、青春期を横浜で過ごしたイサム・ノグチの作品とともに「第7章 ニューヨークでの活躍-岡田謙三とイサム・ノグチ」に展示されています。

第7章 ニューヨークでの活躍-岡田謙三とイサム・ノグチ



新版画も横浜から始まった!?

新版画運動を推進した版元の渡辺庄三郎は、若いころ横浜の浮世絵店で外国向けに浮世絵を販売していました。そして、伊藤深水の木版画にひかれ、東京・京橋に版画店を開いた渡辺庄三郎のもとで木版画制作を始めたのが、情緒あふれる作品でおなじみの川瀬巴水

第4章 新版画の興隆-鏑木清方から石渡江逸まで

ハマの美術展の系譜がわかる!

横浜画壇の基礎を築いたのが、岸田劉生らとともに結成した個性的な美術家集団「フュウザン会」解散後、横浜に移り住んだ洋画家・川村信雄
川村信雄は、1919(大正8)年の横浜美術協会創立に携わり、1925(大正14)年、横浜・弘明寺に画塾を開設して多くの後進を育てました。

第1章 横浜美術協会創設前後-川村信雄とその周辺

横浜美術協会による横浜美術展は、主催や形式、会場などを変えながら、関東大震災、第二次世界大戦による中断を経て、「ハマ展」として現在でも続いている公募展です。

第9章 ハマ展の洋画家と彫刻家



今日の作家展は横浜市民ギャラリーで1964(昭和39)年から開催されてきた現代美術の展覧会。
今回展示されているのは1960年代の出品作家の作品。
「フット・ペインティング」で知られる白髪一雄の気迫のこもった作品も展示されています(下の写真左《梁山泊》1967(昭和42)年)。

第10章 「今日の作家展」


「トライアローグ展」とコラボした展示は、ロシア構成主義やドイツのダダイズムに傾倒した斎藤義重が1981年の「今日の作家81年展」のために制作した《内部》(1981(昭和56)年)。

第8章 前衛美術のパイオニア-斎藤義重


横浜の超絶技巧といえばこの人、初代宮川香山


明治期に輸出促進のために振興された工芸品は、今では明治の超絶技巧としてアートファンの間ではすっかりおなじみになっていますが、横浜の超絶技巧といえば、やはり何といっても明治に入って横浜に窯(かま)を開いた初代宮川香山の真葛焼。

[特集展示Ⅰ]宮川香山


休館前最後の展覧会をお楽しみください!


横浜美術館は、1989年の開館以来、初めての大規模改修工事のため2021年3月1日から長期休館に入ります(リニューアルオープンは2023年度中の予定)。

横浜赤レンガ倉庫では恒例のクリスマスマーケットも開催されることになり、この冬も横浜は見どころいっぱい。
休館前最後の展覧会をぜひお楽しみください。

横浜美術館前のイルミネーション



東京丸の内で世紀末のパリ気分~三菱一号館美術館「1894 Visions ルドン、ロートレック展」

冬になるとクリスマスのイルミネーションでひときわ輝いて見える三菱一号館美術館の外壁パネルのデコレーション。




今年は開館10周年の最後を飾る展覧会「1894 Visions ルドン、ロートレック展」が開催されています。
「1894」とは、丸の内初のオフィスビルとして三菱一号館が竣工した年。
今回の展覧会は、世界有数のルドン・コレクションを誇る岐阜県美術館とのコラボ企画で、
1894年にちなんでルドンロートレックが活躍した19世紀末のフランス・パリに焦点を当てたものです。
さらにルドンやロートレックだけでなく、同時代の画家や、フランスに留学した日本の洋画家たちも登場して、19世紀末のパリの雰囲気がそのまま展示室内に再現されている豪華な展覧会なのです。

展覧会概要


会 期  2020年10月24日(土)~2021年1月17日(日)
  (前期後期で展示替えがあり、11月26日から後期展示が始まっています。)
開館時間 10時~18時(祝日を除く金曜と会期最終週平日、第2水曜日は21時まで)
     ※入館は閉館の30分前まで
休館日  月曜日(月曜日が祝日の場合と、12月28日、2021年1月4日は開館)
     年末年始の12月31日(木)、2021年1月1日(金)
入館料  一般 2,000円ほか
※本展覧会は日時指定券をお持ちの方を優先的にご案内します。展覧会の詳細、チケット購入方法等は同館公式HPでご確認ください⇒https://mimt.jp/


展覧会チラシ


展示構成
 第1章 19世紀後半、ルドンとトゥールーズ=ロートレックの周辺
 第2章 NOIR-ルドンの黒
 第3章 画家=版画家 トゥールーズ=ロートレック
 第4章 1894年 パリの中のタヒチ、フランスの中の日本-絵画と版画、芸術と装飾
 第5章 東洋の宴
 第6章 近代-彼方の白光

巡回展情報
 岐阜県美術館
「三菱一号館美術館共同企画 1894 Visions-ロートレックとその時代」
  開催予定 2021年1月30日(土)~3月14日(日) 

展示室内は撮影不可です。掲載した写真は、内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。

さて、展示構成にしたがって順番にご案内したいところですが、まずは今回の展覧会を象徴する場面からご紹介したいと思います。

エッフェル塔やセーヌ川を背景に見るロートレック。

第4章展示風景


第4章展示風景

暖炉の部屋で見るルドンやロートレック。

第2章展示風景

第3章展示風景


もうこれだけで気分はパリ!
すっかり19世紀末のパリの雰囲気にひたることができます。

さらに冒頭ご紹介したように、今回の展覧会はこの二人だけではありません。
同時代の画家や、フランスに留学した日本の洋画家たちも登場する豪華なラインナップなのです。


「第1章 19世紀後半、ルドンとトゥールーズ=ロートレックの周辺」では、三菱一号館美術館と岐阜県美術館の所蔵する19世紀後半の名品の「夢の競演」が実現しています。

19世紀後半といえば、やはり一番の人気は印象派
三菱一号館美術館が所蔵するルノワールモネの作品でまずひと安心。

第1章展示風景

そして、岐阜県美術館からは、ゴーギャンを中心にブルターニュ地方の村に集まったポンタヴェン派ベルナールや、ゴーギャンを崇拝するナビ派セリュジエの作品。

第1章展示風景


「第1章 19世紀後半、ルドンとトゥールーズ=ロートレックの周辺」でしっかり19世紀後半のツボを押さえたうえで、「第2章 NOIR-ルドンの黒」に進みます。
ルドンの「黒」とは、主に木炭で描かれた作品群のこと。木炭の濃淡だけで描かれた不思議な世界に引き込まれてしまいそうです。


第2章展示風景

続いて「第3章 画家=版画家 トゥールーズ=ロートレック」へ。
ロートレックのポスターは、街頭に貼り出すためのものと思っていたのですが、蒐集家が室内を飾るために制作された限定版もあったとのこと。
部屋に飾ると室内が華やいだ雰囲気になりますね。

第3章展示風景


「第4章 1894年 パリの中のタヒチ、フランスの中の日本-絵画と版画、芸術と装飾」はすでに一部紹介しましたが、ロートレックの大判ポスター、ゴーギャンがタヒチ文化理解のために刊行しようとした紀行文『ノア・ノア』に自らが描いた挿絵などが展示されていて、当時のパリの華やいだ雰囲気が伝わってきます。

第4章展示風景

第4章展示風景

そして、「第5章 東洋の宴」の注目は明治期を代表する洋画家・山本芳翠
フランス仕込みの洗練された女性像を描く芳翠は好きな洋画家の一人。
岐阜県美術館は芳翠の出身地だけあっていい作品を所蔵しています。

第5章展示風景

ところで、解説パネルに「留学中に描いた作品を積み込んだ海軍の巡洋艦畝傍(うねび)が航海中に消息を絶ち、滞欧中のほとんどが失われた。」とありますが、芳翠の滞欧中の作品は、なぜ海軍の巡洋艦で運ばれたのでしょうか。
明治前半、日本にはまだ自前で大型の軍艦を建造する技術がなかったため、日本海軍がイギリスに発注したのが防護巡洋艦「浪速」「高千穂」、そしてフランスに発注したのが「畝傍」でした。そして、「畝傍」が竣工して日本に向かうタイミングで芳翠の作品を積み込んだのです。芳翠も軍艦なら安全だろうと考えたかもしれません。
しかし、「畝傍」はシンガポール出港後行方不明になり、のちに亡失と認定されましたが、真相は謎のまま。
かえすがえすも残念でなりません。

さて、いよいよ会場は3階から2階に移り、最終章「第6章 近代-彼方の白光」。

暗闇の中に浮かんでくるのは三菱一号館美術館の至宝中の至宝、「黒」の時代から「色彩」の時代に移ったルドンの大作《グラン・ブーケ(大きな花束)》。
《グラン・ブーケ(大きな花束)》が完成した1901年、精神も肉体も病んでいたロートレックは、まるで19世紀が終わったのを見届けるかのように、同年の9月に亡くなりました。

ルドン《グラン・ブーケ(大きな花束)》

こちらは岐阜県美術館が所蔵する「色彩」の時代のルドンの作品群。
ルドンらしい淡い色彩が幻想的な雰囲気を醸し出す、とても上品な名作ばかりです。

第6章展示風景

そして、世紀末のパリを彷彿とさせるこの展覧会は、ルドンを仰ぎ見たナビ派の画家たち、セリュジエやボナールの作品で幕を閉じます。

第6章展示風景

第6章展示風景

コロナ禍の影響で海外に安心して行かれない状況の中、国内の美術館のコラボ企画で海外気分を味わえる展覧会は、今ではとても貴重なものに感じられました。

2021年1月17日(日)まで開催されています。この冬おススメの展覧会です。

2020年11月17日火曜日

SOMPO美術館「東郷青児 蔵出しコレクション~異国の旅と記憶~」

今ではすっかり西新宿のランドマークとして定着した巨大な白亜のオブジェ「SOMPO美術館」。

SOMPO美術館外観

今年7月に新装オープンしたSOMPO美術館の開館記念展「珠玉のコレクション-いのちの輝き・つくる喜び-」に続く第2弾は「東郷青児 蔵出しコレクション~異国の旅と記憶~」

もとは安田火災とゆかりの深かった東郷青児のコレクションを常設する美術館として1976年に安田火災海上(現在の損保ジャパン)本社ビル42階に「東郷青児美術館」として誕生した同館にとって、今回はまさに出発点に立ち返った展覧会。

今まで開催された展覧会でも同館所蔵の東郷青児作品は見ているのですが、今回は普段あまり公開されることのない作品が多く出てくる「蔵出しコレクション」。
さて、どんな作品が蔵から出てくるのか楽しみです。

【展覧会概要】

会 期  2020年11月11日(水)~2021年1月24日(日)
休館日  月曜日(ただし11月23日、1月11日は開館)
     年末年始(12月28日(月)~2021年1月4日(月))
開館時間 午前10時~午後6時(入館は閉館30分前まで)
観覧料
 一般 1,000円、大学生 700円、高校生以下 無料 障がい者手帳をお持ちの方 無料
※本展は日時指定入場制です。事前に日時指定のオンラインチケットをご購入ください。入場無料の方もオンラインによる日時指定をお願いします。

展覧会の詳細、チケット購入方法、新型コロナウィルス感染拡大防止対策等については美術館の公式サイトでご確認ください⇒SOMPO美術館


展覧会チラシ


館内は、ゴッホ《ひまわり》ほか9作品は撮影可(フラッシュ不可)ですが、その他は撮影不可です。掲載した写真は内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。
(撮影可の作品の写真には「撮影可」とキャプションに記載しました。)

さて、今回の展覧会は6章構成になっていて、アトリエの再現に始まり、初期の前衛的な作品から、フランス滞在時の人物画や風景画、「青児美人」と言われたモダンな美人画、青児には珍しい男性の肖像画、晩年の彫刻や厚塗りの試みなど、作品や写真、関連資料などを通じて東郷青児の画風の変遷をたどりながら、いつの間にか青児ワールドに入ることができる展示構成になっています。

東郷青児になじみのない方でもスーッと入ることができる展示構成です!


展覧会の構成
 第1章 1920年代のフランス(1921-28)
 第2章 モダンボーイの帰国(1928-35)
 第3章 イメージの中の西洋(1935-59)
 第4章 戦後のフランス(1960-78) (1)リアルなフランス体験 (2)二科の交換展と受章
 第5章 異国の旅と蒐集品(1960-78)
 第6章 当館の設立と新たなる旅(1976-78)


そして、年代順に青児の画風の変遷をたどりながら、20歳代に留学したフランスに始まり、ヨーロッパ各地、中東、北アフリカ、南米など、世界各地を旅して、そこで青児が見た人物や風景の作品を見ながら、エキゾチックな旅の追体験ができるのも今回の展覧会の魅力の一つ。

世界各地の人物や風景を見て海外旅行気分が味わえる!


5階展示室に入ってすぐは導入ゾーン
入口左には東郷青児のアトリエが再現されています。
展示されているトランク、イーゼル、パレット、絵筆などは実際に青児が使っていたものなので、まるで本物のアトリエにいるような気分。

東郷青児のアトリエ再現
撮影可


続いて正面を見ると、18歳の時に描いた作品《コントラバスを弾く》(1915年)と、翌年の二科展に出品していきなり二科賞を受賞したこの作品を前にポーズを決める東郷青児(下の写真左から)。
「僕の作品どう?」

どちらも撮影可

東郷青児といえば、「東郷様式」と呼ばれたモダンな女性像が思い浮かびますが、初期の東郷青児の「未来派風」の前衛的な作品も実は魅力的なのです。
初めて見たのは「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」時代の2017年に開催された「生誕120年 東郷青児展」でした。この時は青児の生まれ故郷にある鹿児島市立美術館から多くの初期作品が出品されたのをよく覚えています。

《コントラバスを弾く》(1915年)
撮影可

第1章「1920年代のフランス(1921-28)」に展示されているのは、青児の最初のフランス留学時代に描いた風景画や女性たち。

第1章展示風景


《南仏風景》は、在仏中に体調を崩して1ヶ月ほど保養のためすごした南仏の町を描いた作品。
キュビズムやシュルレアリスムの影響と言ってしまえばそれまでですが、不自然にゆがんだ建物や木を見ていると、異郷の地で体調がよくないときに不安げに窓の外を見るとこのように見えるのかもしれません。

《南仏風景》(1922年)
撮影可


第2章 モダンボーイの帰国(1928-35)にはどこかで見たことのある絵が出てきます。


第2章展示風景

そうです、SOMPO美術館のロゴマークになっているのが上の写真中央の《超現実派の散歩》(1929年)に描かれた、宙に浮いて月を捉えようとする人物なのです。

美術館前の案内看板

まだこの頃は、フランス仕込みのシュールな雰囲気が残っていますが、第3章 イメージの中の西洋(1935-59)になるといよいよおなじみの「青児美人」が登場してきます。 


第3章展示風景

1950年代の女性ファッションを象徴するギュッと絞ったウェストの女性を描いた《赤いベルト》。

《赤いベルト》(1953年)
撮影可

戦後になって、まだ海外への渡航が制限されていた時代に、多くの人が憧れる「西洋」の明るいイメージを描いた青児ですが、それだけではありませんでした。
第4章 戦後のフランス(1)リアルなフランス体験では、植民地の独立戦争などで疲弊したフランスの、特に農村部の困窮に衝撃を受けた青児は、その悲惨な状況を作品に残しています。

第4章展示風景

寒さに凍える少女を描いた《子供》(1960年)や物思いにふける女性を描いた《慕秋》(1960年)、おそらく息絶えたであろう娘を力なく見つめる母親と、こちらに鋭い視線を向ける姉を描いた《貧しき子》(1963年)(上の写真右から)からは、インドシナ戦争(1946-54年)からアルジェリア独立戦争(1954-62年)まで長い間続いたフランスの植民地をめぐる戦争の悲惨さが痛いほど強く伝わってきます。


戦後、東郷青児は二科展の中心人物として、パリの美術団体サロン・ドートンヌで二科展を開催するなど海外の美術団体との交流を進めました。
第4章 戦後のフランス(1960-78)(2)二科の交流展と受章では青児が展覧会のためにパリに送った作品が展示されています。
この時期になるとおなじみの青児美人のオンパレード。見る人を安心させてくれます。

第4章展示風景

第5章 異国の旅と蒐集品(1960-78)に展示されているのは、今までの東郷青児展ではあまり見ることがなかった異国の地の風景を描いた作品群。コロナ禍で思うように海外に行かれる時期ではないからこそ、心にじわーっとしみ込んでくる作品ばかり。

砂漠に立つ孤高の男性や、世界各地で見かけた女性たち。

第5章展示風景

上の写真右の《赤い砂》(1967年)もそうですが、男性を描いてもこれが東郷青児の作品とすぐにわかる「青児様式」。

こちらも青児にしては珍しい男性の肖像画《タッシリの男》(1972年)。

《タッシリの男》(1972年)
撮影可

サハラ砂漠中央にある先史時代の壁画で知られた世界遺産タッシリ・ナジェール遺跡に青児が訪れたのは70歳代なかば。この旺盛な行動力を見習いたい!

晩年にも「青児美人」は健在です。

《女体礼賛》(1972年)
撮影可


新たな試みがブロンズ像《日蝕》(1976年)。

《日蝕》(1976年) 撮影可

1972年の二科展に彫刻を出品した青児がこの《日蝕》を制作したのは80歳近くになっていました。
そして、絵画でも新たな試みに挑戦しています。
第6章 当館の設立と新たなる旅(1976-78)に展示されている作品は、晩年に試みた厚塗りの《貴婦人》。


《貴婦人》(1976年) 撮影可

功成り名を遂げても満足することなく、いつまでも新たな表現方法を追求し、制作意欲旺盛な東郷青児の生きざまを見ていると、「こちらも頑張らなくては」と思い、元気をもらったような気分になりました。


収蔵品コーナーも健在です

最後はゴッホの《ひまわり》をはじめとした豪華な収蔵品のコーナー。
今回はうれしいことにこの《ひまわり》が撮影可!

ゴッホ《ひまわり》(1888年) 撮影可


今回の展覧会では撮影可の作品がこの《ひまわり》のほか9点ありますが、どれも鑑賞者優先でフラッシュ撮影や人物を入れての撮影は不可など注意事項があります。
そして《ひまわり》も自分を入れる記念撮影は禁止で、撮影する場所も決められています。
撮影マナーを守って楽しく作品を鑑賞したいですね。

《ひまわり》の前のフォトスポットの表示