2023年1月25日水曜日

泉屋博古館東京「不変/普遍の造形 住友コレクション中国青銅器名品選」

東京・六本木の泉屋博古館東京では、「不変/普遍の造形 住友コレクション中国青銅器名品選」が開催されています。

泉屋博古館東京エントランス

リニューアルオープン記念展のラストを飾るのは、世界有数の中国青銅器を所蔵する住友コレクションの中から選りすぐりの逸品が展示される青銅器名品選。

普段は泉屋博古館(京都)に所蔵・展示されている中国青銅器のオールスターが東京で見られる絶好の機会です。
そして、うれしいことに今回は青銅器の魅力をやさしく紹介する「入門編」なので、青銅器にあまりになじみのない方でも楽しみながら3000年以上前に作られた青銅器の魅力に迫る展示になっています。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


展覧会名  泉屋博古館東京リニューアルオープン記念展Ⅳ
      不変/普遍の造形 住友コレクション中国青銅器名品展
会 期   2023年1月14日(土)~2月26日(日)
開館時間  11時~18時 *金曜日は19時まで開館
      *入館は閉館の30分前まで
休館日   月曜日
入場料   一般 1000円、高大生 600円、中学生以下無料
※展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒泉屋博古館東京

展示構成
 Ⅰ 神々の宴へようこそ
 Ⅱ 文様モチーフの謎
 Ⅲ 古代からのメッセージ-金文-
 Ⅳ 中国青銅器鑑賞の歴史

※写真撮影は一部展示品を除き展示室内で可能です。撮影の際は館内の注意事項をご確認ください。
※展示作品はすべて泉屋博古館所蔵です。


SNSで発信する時のハッシュタグはこちらなのでお忘れなく!

#おでかけしきょうそん #フヘンノゾウケイ #新春は青銅器


「Ⅰ 神々の宴へようこそ」


青銅器は「器」ですので、飲み物や食べ物などを入れたり、音を出す楽器として使われたものですが、それは日常生活に用いられていたものではなく、祖先の神々をもてなすための特別な器でした。

ここでは青銅器が用途別に食器・酒器・水器・楽器に分けられて紹介されています。

「Ⅰ 神々の宴へようこそ」展示風景


中でも注目は、大きな口を開けた虎と今にも食べられそうな人間がかたどられた《虎卣(こゆう)》。

虎卣 殷後期 紀元前11世紀

正面から見たら人間が虎の口の中に入ってしまいそうに見えたのですが、横から見るとこの人は、まるで赤ちゃんのように安心しきった表情をして虎にしがみついているようにも見えるのです。

はたしてこの虎は人に危害を加えるものなのか、それとも人から邪鬼を払ってくれる守護神なのか、ぜひその場で想像をめぐらせてみていただきたいです。

虎卣 殷後期 紀元前11世紀

青銅器は重そうに見えますが、実は厚さはわずか約2mmで、この《虎卣》でも5㎏ぐらいとのこと。
それだけ薄く作る技術もさることながら、酒に香りづけするための香草の煮汁を入れても香りが逃げないように蓋が密閉できるようになっていたり、把手は蓋をぎりぎりではずぜるところで止まるように内部でロックされる構造になっていたりと、当時の鋳造技術の高さに驚かされます。


さらに驚いたのは穀物を盛る器「簋(き)」のうち、方形の台座がついた「方座簋」。
「方座簋」の台座の内部に鈴が取りつけられているものもあって、神々に穀物をささげる儀式で持ち運んだときに鈴の音が鳴るようになっていたのです。

饕餮文方座簋 西周前期 紀元前11-10世紀
 
写真ではわかりにくいですが、鏡を覗き込むと鈴が見えてくるので、鈴の音が鳴り響いて荘厳な雰囲気に包まれた儀式の様子が目に浮かんでくるようです。


「Ⅱ 文様モチーフの謎」


続いて「Ⅱ 文様モチーフの謎」へ。

「Ⅱ 文様モチーフの謎」展示風景


青銅器の表面にはびっしりと文様がかたどられていて動物も多く見られますが、中でも多いのが想像上の謎の動物「饕餮(とうてつ)」。

大きな二つの目が特徴で、真ん中にスッと通った鼻もあって顔だけの動物のように見えるのですが、バリエーションがさまざまあって手足や胴体もあるのです。

こちらは饕餮文方彝(とうてつもんほうい)。

饕餮文方彝 西周前期 紀元前11世紀



実はこの饕餮は邪悪な動物とされていました。
饕餮がにらみをきかせて人に害悪を及ぼす邪気を払うという、まさに「毒をもって毒を制す」という役割があったのですね。

邪悪な動物といえば、西洋では知性の象徴とされているなどプラスのイメージがあるフクロウやミミズクの類を指すとされた「鴟鴞(しきょう)」も、意外なことに当時では縁起の悪い鳥とされていたのです。

マイナスのイメージがある「鴟鴞」の形をした酒器(「尊」)がこの《鴟鴞尊(しきょうそん)》ですが、実際に見てみるとどうでしょうか。
愛嬌のある顔、ぐっと胸を張ったようなユーモラスなポーズから、今なら「ゆるキャラ」として人気が出るかもしせん。
今回の展覧会のメインビジュアルになっているのもうなずけます。

鴟鴞尊 殷後期 紀元前13-12世紀

冒頭でご紹介したハッシュタグ「#おでかけしきょうそん」とは何だろうと思われた方も多いかと思いますが、実は京都からはるばるお出かけしてきてくれた《鴟鴞尊》のことだったのです。


「Ⅲ 古代からのメッセージ-金文-」


泉屋博古館東京のリニューアルオープン前の2019年に開催された特別展「金文-中国古代の文字-」はご覧になられましたでしょうか。
この展覧会では、青銅器に刻まれていた漢字の祖先「金文」から当時の歴史的事件や人々の生活の一端を垣間見ることができたので、発掘されなければ永遠に知りえなかったであろう事柄がわかって、とても興奮したことを覚えています。

今回もこのエリアでは、タイトルどおり3000年前の人たちのメッセージを読み取ることができるので、とても楽しみにしていました。

「Ⅲ 古代からのメッセージ-金文-」展示風景

下の写真の左は、軍功が上司に認められて器を作らせたことが記された《彔簋(ろくき)》、右が西周時代中頃に異民族の侵入に悩まされた時代背景がわかる《競卣(きょうゆう)》。

左から 彔簋、競卣 どちらも西周中期 紀元前10世紀
 
それぞれの器の解説パネルには、金文と金文を現代の漢字に置き換えたもの、そして現代語訳が記載されているので、古代の人たちの思いが伝わってきて興味が尽きません。


「Ⅳ 中国青銅器鑑賞の歴史」


住友コレクションの中心、中国青銅器の始まりは、住友家第十五代当主の春翠氏が、大正期に流行した煎茶会での床飾りのために購入したとされる筒型の卣《夔文筒型卣(きもんつつがたゆう)》(下の写真右手前)でした。

ここでは、煎茶の床飾りが再現されています。
中国古代の青銅器は、近代日本の文人たちの美意識の中にこのように受け入れられていたのです。

「Ⅳ 中国青銅器鑑賞の歴史」展示風景



本場中国で青銅器の本格的なリバイバルが起こったのは、約千年前の北宋時代のことでした。
こちらは北宋の皇帝、徽宗の命で編纂された青銅器図録『宣和博古図録』。
宮廷にコレクションされていた800点以上の青銅器が収録されていて、先ほどご紹介した「饕餮文」はじめ、この時代の命名が現在も用いられているなど、後世の青銅器図録に大きな影響を与えるものでした。
(『宣和博古図録』は泉屋博古館の名称の由来でもあるのですね!)

『宣和博古図録』 初版:北宋 11世紀
亦政堂修版:清 18世紀

それにしても、おそるべし徽宗。
政治には熱心でなかったものの、自ら筆をとり独自の書体「痩金体」を創始し、国宝《桃鳩図》(←昨年、京都国立博物館「茶の湯展」で期間限定で公開された時に見てきました)はじめ絵もたしなんだ徽宗は、古美術を収集して『宣和書画譜』を編纂させるなど文化に力を入れていましたが、まさか青銅器まで収集していたとは。

展示室内では、今回の展覧会にあわせて3Dデータを用いたデジタルコンテンツを制作して公開しているので、こちらもぜひご覧ください。


中国青銅器の入門書発売中!

今回の展覧会の公式ガイドブックも発売中です。
タイトルもずばり『中国青銅器入門』(新潮社 とんぼの本)。
著者は今回の展覧会を担当された泉屋博古館(京都)の山本堯さん。




展覧会のガイドブックですが、とんぼの本のシリーズなので書店でも販売しています。
カラー写真もふんだんにあって、やさしい解説やわかりやすいイラストもあるので、まさに入門にピッタリです。

デジタルスタンプラリーに挑戦してみよう!

港区内の3館(根津美術館、松岡美術館、泉屋博古館東京)に中国古代青銅器が大集結しているのを記念して、3館をめぐるデジタルスタンプラリーが開催されています。
期間は2月5日(日)まで。


今年の新春は港区内の3館をめぐって、青銅器に親しんでみてはいかがでしょうか。
ハッシュタグは「#新春は青銅器」です。

2023年1月20日金曜日

そごう美術館「面構(つらがまえ)  片岡球子展 たちむかう絵画」

横浜駅東口・そごう横浜店6階のそごう美術館では、「面構(つらがまえ) 片岡球子展 たちむかう絵画」が開催されています。

そごう美術館入口パネル

昭和から平成にかけて活躍した日本画家 片岡球子(1905-2008)は、大胆な構図で鮮やかな色彩の赤富士をはじめとした「富士」シリーズがよく知られていますが、今回は、片岡球子がライフワークとした「面構」シリーズのみで構成された初めての展覧会です。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2023年1月1日(日・祝)~1月29日(日) 会期中無休
開館時間 午前10時~午後8時(入館は閉館の30分前まで) 事前予約不要
入館料  一般:1,400円、大学・高校生:1,200円、中学生以下無料 
展覧会の詳細等は同館公式サイトをご覧ください⇒そごう美術館

展覧会チラシ

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は美術館より広報用画像をお借りしたものです。


展示室に入ると、何人もの人物が番傘を振り回して入り乱れている場面が目に飛び込んできて、いきなり驚かされます。


《面構 狂言作者河竹黙阿弥・浮世絵師三代豊国》
1983(昭和58)年 神奈川県立近代美術館蔵

画面左手前の煙管を持っている人物が幕末明治期の歌舞伎狂言作者 河竹黙阿弥、画面右手前が江戸時代後期の浮世絵師 三代豊国。
そして後ろは三代豊国の錦絵から着想した河竹黙阿弥作の「白浪五人男」の5人の盗賊たち。

三代豊国は、「白浪五人男」の面々が急に目の前に現れて驚いているようにも見えますが、このように作者と作品の登場人物が同じ画面に描かれるのが「面構」シリーズの見どころの一つ。
展覧会の冒頭に展示されるのにふさわしい作品だと思いました。


続いて、「面構」シリーズ第1弾となった足利家の将軍、尊氏、義満、義政の3人。

京都・等持院の霊光殿に徳川家康の像とともに安置されている足利歴代の将軍像をモデルにしたとのことですが、こちらも大画面で迫力満点。


《面構 足利尊氏》 1966(昭和41)年
神奈川県立近代美術館蔵 

等持院で尊氏像を見た時には、最初は後醍醐天皇に仕え、のちに反旗を翻して楠木正成らと戦った尊氏だけあって、いくつものいくさを経験した武将としての面構えをしていると感じたのですが、片岡球子の描く尊氏は温和な表情をしています。


《面構 足利義満》 1966(昭和41)年
神奈川県立近代美術館蔵

等持院の足利歴代将軍像の中でもひときわ大きくて目立つのが第三代将軍足利義満像。
明との交易で繁栄をもたらした「面構」シリーズの義満は、いかにも威風堂々とした雰囲気が感じられます。

《面構 足利義政》1966(昭和41)年
神奈川県立近代美術館蔵

応仁の乱をよそに京都東山に隠棲した第八代将軍義政は、やはりたより気なさそうに見えます。

ほかにも豊臣秀吉、今年のNHK大河ドラマの主人公・徳川家康はじめ武将や将軍たちの「面構」が展示されているので、史実や各々の性格などを思い浮かべながら見てみるのも面白いかもしれません。


展覧会のメインビジュアルになっている《面構 葛飾北斎》のように浮世絵師とその代表作が同じ画面に描かれている作品も見かけます。

こちらは歌川広重と『名所江戸百景』シリーズのうち「大はしあたけの夕立」。
「大はしあたけの夕立」は、ゴッホが模写したことでも知られています。

《面構 安藤広重》1973(昭和48)年
神奈川県立近代美術館蔵

浮世絵師と浮世絵に出てくる登場人物が同じ画面に描かれる作品もあります。

右が歌川国貞(のちの三代豊国)、左が歌舞伎作者の四世鶴屋南北。
こちらは歌舞伎役者が出てきても、二人とも動じた様子は見せていません。

《面構 歌川国貞と四世鶴屋南北》1982(昭和57)年
東京国立近代美術館蔵

瀧澤馬琴が文章を書き、葛飾北斎が挿絵を描いた『新編水滸画伝』をはじめとした、当時の売れっ子コンビの読本は大人気でした。
最後はお互いの個性がぶつかり合い、喧嘩別れするのですが、二人が向かいあっていないのはそのせいか、などと勘ぐってしまいます。
背景には二人が手がけた作品が描かれています。

《面構 葛飾北斎・瀧澤馬琴》1979(昭和54)年
愛知県美術館蔵


浮世絵師 歌川国芳とともに描かれているのは、なぜか背広にネクタイの男性。
この方は浮世絵研究などのにすぐれた業績を残した鈴木重三氏。
「面構」シリーズには、このように時間軸を越えた組み合わせも描かれているのです。


《面構 浮世絵師歌川国芳と浮世絵研究家鈴木重三先生》
1988(昭和63)年 北海道立近代美術館蔵

今回の展覧会では、初公開となる片岡球子の小下絵やスケッチが展示されています。
小下絵やスケッチは作品の手前の展示ケースに入っているので、作品と見比べながら見られるように工夫されています。


《面構 浮世絵師歌川国芳と浮世絵研究家鈴木重三先生》小下絵


「面構」シリーズでは、日蓮、白隠はじめ僧侶の姿も描かれています。
こちらは室町時代の禅僧で、画僧・雪舟がモデルの作品。

《面構 雪舟》1996(平成8)年 個人蔵

左に描かれているのは、雪舟晩年の代表作《山水長巻(四季山水図)》(国宝 毛利博物館蔵)の一部。
原本は水墨だけで描かれているのですが、片岡球子独自の解釈で彩色された《山水長巻》はとても新鮮に感じられました。

最後に特別展示として、片岡球子が教鞭をとった横浜市立大岡小学校が所蔵するほのぼのとした作品《飼育》《牡丹》もご覧いただくことができます。


「面構 片岡球子展 たちむかう絵画」は1月29日(日)まで。

武将や浮世絵師など歴史上の人物を独自の解釈で表現した大画面の「面構」シリーズの迫力をぜひその場で感じとっていただきたいです。



2023年1月17日火曜日

静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展Ⅱ「初春を祝うー七福うさぎがやってくる!!」

静嘉堂文庫美術館の展示ギャラリー「静嘉堂@丸の内」では、東京・丸の内の明治生命館1階に移転して初めて迎える正月にふさわしい展覧会が開催されています。

展覧会チラシ

展示室内には、今年の干支の兎にちなんで卯年生まれの三菱第4代社長、岩崎小彌太氏の還暦を祝って制作された木彫彩色御所人形や、兎や七福神をはじめとしたおめでたい題材が描かれた絵画や工芸が数多く展示されているので、新春らしく楽しい気分になれる展覧会です。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

 展覧会開催概要

会 期   2023年1月2日(月・振休)~2月4日(土)
開館時間  午前10時~午後5時(金曜は午後6時まで)
      ※入館は閉館の30分前まで
休館日   毎週月曜日
入場料   一般 1500円、大高生 1000円、中学生以下無料
展覧会の詳細、チケット購入・日時指定予約等は同館公式サイトをご覧ください⇒静嘉堂文庫美術館 

※館内は撮影禁止です。掲載した写真は報道内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※展示作品はすべて静嘉堂文庫美術館所蔵です。

静嘉堂@丸の内はホワイエを中心に4つの展示ギャラリーがあります。

まずはギャラリー1「新春・日の出」から。

最初にお出迎えしてくれるのは近代日本画界の大家、横山大観の《日之出》。
雲海に浮かぶ山々のかなたから昇ってくる太陽を見ていると、初日の出を拝んでいるようなすがすがしい気分になってきます。

横山大観《日之出》


続いてギャラリー2「七福うさぎがやってきたー小彌太還暦の祝い」へ。

ここの展示のメインは、小彌太氏の還暦祝いのために制作された総勢58点に及ぶ木彫彩色御所人形。

まずはこの豪華な御所人形の行列をご覧ください。
後ろの金屏風が彩り豊かな御所人形をさらに引き立てています。

《木彫彩色御所人形》展示風景


布袋さんが乗る宝船には、米俵に鯛、大判小判など盛りだくさんの宝物。

《木彫彩色御所人形》展示風景

ラッパのような楽器を吹く寿老人と、長い杖と巻物を持って鶴を連れた長い頭の福禄寿が先導するのは「輿行列」。後ろから続く輿に乗っているのは弁財天です。

《木彫彩色御所人形》展示風景

行列の中には恵比寿、大黒天、毘沙門天もいるので、可愛らしい七福神の神様全員をぜひ探してみてください。


カラフルな御所人形の反対側に展示されているのは、小彌太氏の還暦祝いに贈られた茶釜。
遠くから見るとよく分かりませんが、近くで見ると愛嬌のある兎の姿が見えてきます。
さて、こちら側には何匹の兎がいるでしょうか。

香取秀真《群兎分姥口釜》



ギャラリー3「うさぎと新春の美術」で最初に目に入ってきたのは、兎や吉祥の題材が描かれた明清時代の中国絵画。

「中国絵画」展示風景

2017年に世田谷区岡本の静嘉堂文庫美術館で開催された「あこがれの明清絵画~日本が愛した中国絵画の名品たち~」で、同館所蔵の明清絵画の名品の数々を楽しませてもらったのですが、今回はその時展示されなかった作品が多く展示されていました。
中国絵画ファンにとってはたまらない光景です。

中でもお気に入りの一品はこちら。
明末蘇州派の画家・李士達の《歳朝題詩図》(重要美術品)。

元旦にお屠蘇を楽しんで揮毫する老人たちが描かれた作品で、正月らしくのどかな雰囲気が伝わってきます。
画面右の子供たちは何をしているのかと思ったら、爆竹に夢中になっていたのですね。

李士達《歳朝題詩図》(重要美術品)


日本の江戸時代の文人画の絵師たちも頑張っています。

右から 池大雅《寿老図》、与謝蕪村《佳気万年図》、
貫名海屋《蓬莱山図》


《寿老図》は、おおらかな性格の池大雅らしく長頭短躯が大胆にデフォルメされた寿老人が描かれていますが、「えっ、寿老人?福禄寿では?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
寿老人は鹿を従えていることが多いのですが、ここに描かれているのは鶴を従えた長頭の老人。
寿老人と福禄寿は、どちらも南極星の化身とされ混同されることがあったので、池大雅は寿老人をこのように描いたのかもしれません。


国の重要文化財に指定されている明治生命館ならではの内装を活かした展示もいい雰囲気を醸し出しています。

展示されているのは、まるで蛸を正面から見たようなユニークな花が描かれている《七宝花唐草文壺》(「万暦年製」銘)。
東洋趣味のヨーロッパ貴族の邸宅に飾られた中国陶磁器といった趣があります。

《七宝花唐草文壺》(「万暦年製」銘)

大きな工芸作品だけでなく、小品の香合もいい味を出しています。

「香合」展示風景


こちらは《蓬莱蒔絵香合》。
松と竹が生える島の上には長寿を寿ぐ吉祥の鳥とされた千鳥が2羽、そして島の下には同じく長寿の象徴の亀が描かれているので、じっくりご覧になって千鳥や亀の長寿にあやかりましょう!


《蓬莱蒔絵香合》



ギャラリー4 七福神と初夢は、主に七福神にちなんだ浮世絵や工芸作品が展示されています。

古くから縁起の良い初夢は「一富士、二鷹、三茄子」や「宝船に乗った七福神」など諸説あって、子どものころには「宝船に乗った七福神」の絵を枕の下に敷いて眠るといい初夢が見られるという話を聞いたことがあります。

こちらは宝船ではなく、七福神の神々の演奏風景。
天照大御神が天の岩戸に籠った時、岩戸の前で神々が天照大御神の気をひこうと宴を催した神話の見立てとなっているこの絵を枕元に置いたら、歌あり踊りありのにぎやかで楽しい夢がみられるかもしれません。

鈴木春信《七福神遊興》


印籠という限られた空間の中に描き込まれた七福神の神々や、鷹、茄子、鶴といった縁起物が私たちを楽しませてくれます。

「印籠」展示風景


そしてしんがりは、ご存じ国宝《曜変天目》。
前回の開館記念展「響きあう名宝」に引き続きお椀の中に輝く小宇宙を見ることができますが、毎回必ず展示されるわけではないので、この機会をお見逃しなく!


国宝《曜変天目(稲葉天目)》



ホワイエの作品は撮影可です。
こちらは、鶴と亀、松竹梅が描かれ、菊の花の形をしたおめでたいものづくしの有田焼(古伊万里様式)の《色絵鶴亀甲松竹梅文菊花形大鉢》です。

有田焼(古伊万里様式)《色絵鶴亀松竹梅文菊花形大鉢》


ミュージアムショップには、今回の展示作品はじめ静嘉堂のコレクションにちなんだグッズが揃っているので、ぜひお立ち寄りください。

ミュージアムショップ

今回の展覧会の小冊子『初春を祝う』は、主な作品が解説付きで紹介されていてオールカラー、値段もお手頃(税込500円)なので、展覧会の来館記念にぴったりです。
木彫彩色御所人形は見開き4ページで紹介されています。


『初春を祝う』



おめでたい気分いっぱいの展覧会「初春を祝うー七福うさぎがやってくる!!」の会期は2月4日(土)までなのでお早めに!