2020年10月28日水曜日

京都市京セラ美術館開館記念展「京都の美術 250年の夢(第1部~第3部 総集編-江戸から現代へ-)」

京都市京セラ美術館では、開館記念展「京都の美術 250年の夢 第1部~第3部 総集編-江戸から現代へ-」が開催さています。

本来であれば第1部から第3部まで3回に分けて開催される予定でしたが、コロナ禍の影響で第1部から第3部までを1回にまとめて総集編として開催されることになったリニューアルオープン記念展。
江戸時代後期の京都画壇に始まって、明治の日本画、書、洋画、工芸、大正・昭和の京都画壇、戦後から現代アートまでバラエティーに富んで、ボリュームもあって、京都美術の250年の粋がギュッと詰まった見ごたえのある展覧会です。

京都市京セラ美術館



【展覧会概要】

会 場  京都市京セラ美術館 本館北回廊 1階・2階
会 期  10月10日(土)~12月6日(日)
   前期 10月10日(土)~11月8日(日) 後期 11月10日(火)~12月6日(日)
   ※前期・後期で作品が大幅に入れ替わります。また、出展会期が限られた作品が
    複数あります。
開館時間 10:00~18:00
休館日  月曜日 ※ただし、11月23日は開館
観覧料  一般 1,600円ほか
※ 展覧会は予約優先制ですが、定員に達していない時間帯は予約なしでの当日観覧受付が可能です。入館方法、展覧会の詳細は公式サイトでご確認ください⇒https://kyotocity-kyocera.museum/



展覧会公式図録は、3部に分けて展覧会が開催される予定でしたので各部ごとに図録が作られていて、出品予定の作品も掲載されています。
もっともっとスケールが大きかった展覧会の全体像が実感できます!

第1部 第2部 2,300円+税
第3部 1,800円+税



それではさっそく展示室内をご案内したいと思います。
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真はプレス内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

展示は3部構成になっています。

第1部 江戸から明治へ:近代への飛躍
第2部 明治から昭和へ:京都画壇の隆盛
第3部 戦後から現代へ:未来への挑戦



第1部 江戸から明治へ:近代への飛躍


江戸後期の絵画・書・工芸


今から約250年前の京都画壇は、百花繚乱、多士済々。
円山応挙や伊藤若冲はじめ、今でも人気の絵師たちが綺羅星のごとく輝いていました。

冒頭に登場するのは、やはりこの人。当代人気ナンバーワン(※)、円山応挙

円山応挙 重要文化財《藤花図屏風》
(根津美術館) 前期展示

円山応挙《藤花図屏風》は前期展示ですが、後期には応挙の奔放な弟子・長沢芦雪の重要文化財《龍図襖》《虎図襖》(無量寺 串本応挙芦雪館)が展示されるのでこちらも楽しみ。

そして、円山応挙と人気を二分した伊藤若冲も(※)。
10/10-10/25には《雪中雄鶏図》(細見美術館)、11/23-12/6には《糸瓜群虫図》(細見美術館)が展示されます。

第1部展示風景



※京都在住文化人の番付ともいえる『平安人物志』安永4年版と天明2年版の画家部門では、1位 円山応挙、2位 伊藤若冲でした。

そして、応挙の円山派に対して、与謝蕪村に俳諧、絵を学び、応挙と交流した四条派の祖・呉春の重要文化財《白梅図屏風》(公益財団法人 阪急文化財団 逸翁美術館 前期展示)が続きます。
夜明けの様子を表現した緑色の地が何ともいえないロマンチックな雰囲気を醸し出しています。
その隣は呉春の師・与謝蕪村の重要文化財《鳶・鴉図》(北村美術館 前期展示)。
絶妙の配置です。

第1部展示風景

11/10-11/15には、写生を重んじた応挙にライバル心を燃やし、「画を望むなら我に乞え、絵図を求めるのなら応挙がよい」と言い放った曽我蕭白の派手な重要文化財《群仙図屏風》(文化庁)が6日間限定で展示されるのですから、まさに会場入ってすぐの空間は江戸後期の京都画壇そのもの。
冒頭から最高潮に盛り上がっている展示です。

明治の日本画・書・洋画・工芸


明治に入っても京都画壇の流れは続きます。
円山派、四条派両方の流れを汲み、1880年の京都府画学校(現 京都市立芸術大学)開設に尽力するなど明治初期に京都画壇の発展に力を注いだ幸野楳嶺と、その門下で四天王と言われた菊池芳文竹内栖鳳谷口香嶠都路華香の作品が勢ぞろい。


第1部展示風景



第1部展示風景


菊池芳文《孔雀》ほか、ここに紹介した作品はすべて前期展示ですが、後期には、大胆で奔放な画風の富岡鉄齋らしい屏風《妙義山図・瀞八丁図》(布施美術館)、11/17から12/6には、幸野楳嶺とともに京都府画学校開設に尽力した久保田米僊の屏風《漢江渡頭春光 青石関門秋色》が展示されます。

明治の洋画



京都洋画界は、やはりこの方、浅井忠抜きには語れません。

第1部展示風景


日本初の官立美術学校、工部美術学校でフォンタネージに学び、東京美術学校(現 東京藝術大学)教授に就任。フランス留学後は京都に転身し、京都高等工芸学校(現 京都工芸繊維大学)教授、初代関西美術院院長を務めた浅井忠。門下には梅原龍三郎安井曾太郎ら、その後一時代を築く洋画家たちがいました(梅原らの作品は第2部に展示)。

明治の工芸


明治の工芸も逸品ぞろい。
江戸時代まで受け継がれてきた工芸は、明治に入って危機を迎えますが、明治政府の輸出促進策によって振興されました。
今では「超絶技巧」としてすっかり固定ファンを獲得した明治工芸の逸品が並びます。

第1部展示風景
 


第2部 明治から昭和へ:京都画壇の隆盛


大正・昭和の日本画・書


明治から昭和にかけての京都画壇の重鎮といえば、やはりこの方、「東の大観、西の栖鳳」と並び称された竹内栖鳳ではないでしょうか。

第2部のタイトルにあるとおり、この時期の京都画壇も盛り上がり、「百花繚乱、多士済々」。
西村五雲土田麦僊上村松園小野竹喬村上華岳はじめ栖鳳門下の画家たちを中心に、新たな日本画表現に挑む画家たちの作品40点近くが前期後期で展示されます。


中でも特に目を引いたのは、小野竹喬《海島》(笠岡市立竹喬美術館 前期展示)や千草掃雲《上賀茂の初夏》(京都国立近代美術館 前期展示)といった、西洋絵画の影響を受けて、はっきりとした色合いで描かれた風景画。
まるでここに窓があって、部屋の中から外の景色を眺めているようです。

第2部展示風景

当時、日本画のジャンルの中でも人気を博した「美人画」の上村松園《娘》(松伯美術館)は10月25日までの展示。10/27-11/8には《夕暮》(京都府立鴨沂高等学校)が同じく期間限定で展示されます。


第2部展示風景


大正・昭和の洋画・彫刻


洋画界も盛り上がっています。
第1部で紹介した浅井忠の弟子たち、梅原龍三郎安井曾太郎らの作品が並びます。
日本史の教科書で必ず見る麗子像も。こちらは、岸田劉生が娘麗子をモデルにした連作のうちの一つ《童女図(麗子立像)》(神奈川県立近代美術館 通期展示)。
油彩画は第1部から第3部まで、できるだけ多くの作品を来館者にお見せしたいとの趣旨から、ほとんどが通期展示。ぎっしり詰まったこの密集感がいいです。

第2部展示風景

一方で、京都に住み、独自のシュルレアリスム世界を探求し続けたのが北脇昇
独活(ウド)が挨拶をするという不思議な光景の《独活》(東京国立近代美術館 通期展示)が展示されています。

第2部展示風景

明治末から大正期の工芸


1900年(明治33年)に開催されたパリ万国博覧会に日本の美術界は総力を挙げて作品を出品しましたが、当時はアールヌーヴォーが隆盛していた時。日本の工芸は時代遅れとされて評価は芳しくありませんでした。
そこでパリから帰国後、アールヌーヴォーや琳派の影響を受けた浅井忠らが絵付や図案を手掛けた工芸作品が作られました。


第2部展示風景



続いて、琳派の影響を受けた京都の工芸図案家、神坂雪佳図案の工芸作品が並びます。

第2部展示風景



第2部の明治末から大正期の工芸作品は、第1部で紹介した明治の工芸と並んで、横に長い展示ケースにずらりと展示されているので(呉春《白梅図屏風》他が展示されている展示ケースの向かい側)、明治から始まって、大正期までの工芸の流れが一目でわかる展示になっています。

連続していませんが、上で紹介した3枚の写真を並べてみました。




昭和初期の工芸


昭和初期の京都の工芸界の大きな動きの一つは、明治40年(1907)に創設された最初の官展、文展(文部省美術展覧会)が大正8年(1919)に帝展(帝国美術院展覧会)に移行した後、昭和になって工芸部門が新たに設けられたこと。
京都からも陶芸をはじめ多くの作品が出品されました。

そしてもう一つの動きは、河井寛次郎らが進めた、民衆の日用品の中に美があるとする「民藝運動」。
明治から大正期までの工芸作品と同じく、昭和初期の工芸も横に長い展示ケースに逸品がずらりと展示されています。


第2部展示風景




第3部 戦後から現代へ:未来への挑戦



日本画


日本画のコーナーは、戦後、「日本画滅亡論」まで出てくる危機的な状況の中、新たな境地を切り開いた画家たちの作品が展示されています。

はじめに、福田平八郎堂本印象徳岡神泉ら、戦前から活躍した画家たち。
福田平八郎《新雪》(大分県立美術館 前期展示)、徳岡神泉《雨》(静岡県立美術館 通期展示)のように対象の抽象化が進んでいるのが特徴です。

第3部展示風景

そして、寺院の障壁画、ヨーロッパの風景画と大きく画風を変えて見る人を驚かせた堂本印象の抽象画の《交響》(京都府立堂本印象美術館 通期展示)も。

第3部展示風景



続いて、三上誠山崎隆ら京都の若手日本画家が日本画の可能性を求めて結成した「パンリアル美術協会」の画家たちの作品群。
大野俶嵩は、従来の岩絵具の殻を破り、麻袋用の布を使った作品《コラージュ No.21(コンポジション)》(京都市美術館 通期展示)を制作しています。

第3部展示風景



洋画・彫刻・版画


西洋絵画のコーナーで私たちを迎えてくれるのは、第2部でも紹介したシュルレアリスムの北脇昇が戦後に描いた《クォ・ヴァディス》(東京国立近代美術館 通期展示)。

荷物の入った袋を肩に立つ後ろ姿の男性。
「どこへ行くのか?」という作品のタイトルどおり、左右に分かれる標識を前に、大勢の人が向かっている青空の方に行こうか、誰も向かっていない嵐の方向に向かっていこうか迷っている様子。
昭和24年に描かれたこの作品は、戦後の混乱期に日本がどこに向かっていくのか、さまよっている姿を映し出しているようです。

第3部展示風景

戦前からの巨匠、梅原龍三郎安井曾太郎須田国太郎も健在です。

第3部展示風景


工芸


広々とした工芸の展示コーナーに入ると、1970-80年代に新たに出てきた、立体的な繊維造形(ファイバーワーク)の作品群。
素材が繊維なのでぬくもりを感じさせてくれます。

第3部展示風景


現代美術


最後は、1980年代以降の現代美術の作品が壁面や床、さらには壁の上の方まで展示されている展示室。


第3部展示風景


第3部展示風景

まるでタイムマシンに乗ったかのような、江戸後期から巡ってきた京都美術250年の旅もここまでですが、「この先に何があるのだろう」と、これからの京都美術の展開を期待させてくれる展示で終わります。

新たに出発した京都市京セラ美術館。
スタートとなった展覧会で、ぜひ京都の美術の夢をご覧ください!

2020年10月21日水曜日

東京国立博物館 特別展「桃山-天下人の100年」

東京・上野公園の東京国立博物館では、豪華絢爛な桃山文化の逸品が勢ぞろいした特別展「桃山-天下人の100年」が開催されています。

天下人好みの勇壮な襖絵や障壁画、南蛮文化の影響を受けた美術品、侘びの趣の茶道具。
室町時代末から江戸時代初期にかけて激動の100年に生まれた文化の粋が楽しめる展覧会です。



【展覧会概要】

会 場  東京国立博物館 平成館 
会 期  2020年10月6日(火)~11月29日(日)
   前期展示 10月6日(火)~11月1日(日)
   後期展示 11月3日(火・祝)~11月29日(日)
開館時間 9:30~18:00(会期中の金曜・土曜は21:00まで)
休館日  月曜日(ただし、11月23日(月・祝)は開館。11月24日(火)は休館)
観覧料金  一般 2,400円ほか
※ 本展は事前予約制です。オンラインでの日時指定券の予約が必要です。詳細は展覧会公式サイトをご確認ください⇒https://tsumugu.yomiuri.co.jp/momoyama2020/

それではさっそく会場内をご案内いたしましょう。
※会場内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で博物館より特別に許可をいただいて撮影したものです。

会場内は7つのエリアに分かれています。

第1会場
 A「桃山の精髄-天下人の造形」
 B「変革期の100年ー室町から江戸へ」
第2会場
 C「桃山前夜-戦国の美」
 D「茶の湯の大成-利休から織部へ」
 E「桃山の成熟ー豪壮から瀟洒へ」
 F「武将の装い-刀剣と甲冑」
 G「泰平の世へー再編される権力の美」

どのエリアも見どころいっぱいの展覧会で、どれも紹介したいのですが、今回は特に注目のポイントを3点に絞ってご紹介したいと思います。

見どころ1 桃山の二大天才絵師の対決が見られる!
見どころ2 狩野派の師弟の華麗な競演が見られる!
見どころ3 甲冑や刀剣、茶道具も充実!



見どころ1 桃山の二大天才絵師の対決が見られる!


桃山の天才絵師といえばまず思い浮かべるのは、織田信長、豊臣秀吉に仕え、天下人が好む迫力の大画面作品を描いた狩野永徳(1543-90)。
そして狩野永徳の代表作といえば、京都の神社仏閣、祇園祭の山鉾巡行、2,500人近くもの人物が細かく描かれた黄金色に輝く国宝《洛中洛外図屛風(上杉家本)》
こちらは、A「桃山の精髄-天下人の造形」のエリアに展示されている作品で、前期のみの展示です。


狩野永徳筆 国宝《洛中洛外図屛風(上杉家本)》
室町時代・永禄8年(1565)
(山形・米沢市上杉博物館) 前期展示

時の権力者に仕えたため戦火に遭い、安土城、大坂城、聚楽第はじめ、狩野一門の総力を挙げて制作した障壁画がことごとく焼失する中、国宝《洛中洛外図屛風(上杉家本)》と並んで残った永徳の代表作が《唐獅子図屛風》(宮内庁三の丸尚蔵館)。こちらは後期展示です。

東京国立博物館正面の案内看板

そして、永徳最大のライバルは能登から上京した長谷川等伯(1539-1610)。
A「桃山の精髄-天下人の造形」のエリアには、永徳と等伯、二人の天才絵師の屛風対決が見られるコーナーがあります。

右 狩野永徳筆 国宝《檜図屛風》
安土桃山時代・天正18年(1590)
(東京国立博物館) 前期展示
左 長谷川等伯筆 重要文化財《牧馬図屛風》
室町~安土桃山時代・16世紀
(東京国立博物館) 展示期間10/6-10/18



長谷川等伯の台頭をおそれ、「はせ川(等伯のこと)と申す者に内裏の対屋の襖絵を描かせることにしたのは迷惑である。」と、狩野永徳が公家の勧修寺晴豊に申し出たことはよく知られているエピソードですが、まさか当時は火花を散らした永徳も等伯も、400年以上たって仲良く並んで作品が展示されるとは夢にも思わなかったでしょう。
私たちにとってはありがたいことですが。

この屛風対決のコーナーは微妙に展示替えがあるのでご注意を。
10月20日からは長谷川等伯 国宝《松林図屛風》(東京国立博物館)が登場します。

10月6日~10月18日
 狩野永徳 国宝《檜図屛風》、長谷川等伯 重要文化財《牧馬図屛風》
10月20日~11月1日
 狩野永徳 国宝《檜図屛風》、長谷川等伯 国宝《松林図屏風》
11月3日~11月29日
 狩野永徳 《唐獅子図屛風》、長谷川等伯 国宝《松林図屏風》

下の写真は、東京国立博物館が所蔵する高精細複製画の《松林図屛風》。
以前、本館で畳の上でろうそくと同じ明るさの中に展示されている時に撮影したものです。
長谷川等伯筆 国宝《松林図屛風》
安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵


見どころ2 狩野派の師弟の華麗な競演が見られる!


今回の展覧会の特徴は、屏風や障壁画といった大画面の作品が、広い平成館特別展示室の中にぎっしり展示されていること。見応え十分の展示です。

中でも、徳川の時代に移り、江戸に下った狩野探幽のあと京都で狩野派の基礎を築いた狩野山楽(1559-1635)と、山楽の弟子で、のちに養子となって京狩野を継いだ狩野山雪(1589/1590-1651)の襖絵の競演も見どころのひとつ。
E「桃山の成熟ー豪壮から瀟洒へ」のエリアに展示されています。

山楽の襖絵は、京都・大覚寺を飾る《紅梅図襖》と《牡丹図襖》。
この二つの襖絵は同じ襖の両面に描かれているので、ご覧のように敷居のついた展示ケースに入っていて、どちらの面も見られるようになっています。

うねるような梅の木の大胆さと、画面いっぱいに広がる紅梅の優雅さが感じられる《紅梅図襖》や、白い牡丹がまるで音符のようにリズミカルに舞う《牡丹図襖》。

狩野山楽筆 重要文化財《牡丹図襖》
江戸時代・17世紀
(京都・大覚寺) 通期展示



山雪の襖絵は、京都・妙心寺塔頭の天球院を飾る《籬に草花図襖》と《竹林虎図襖》。こちらも襖の両面に描かれているので、敷居のついた展示ケースに入っています。
山楽と山雪の襖が展示ケースに入って一直線に並んでいる様は壮観です。

垂直に描かれた竹の安定感と咆哮する虎の迫力の対比が見事な《竹林虎図襖》や、竹垣の壁のような安定感と草花の踊るような動きの対比が見事な《籬に草花図襖》。
狩野山雪筆 重要文化財《籬に草花図襖》
江戸時代・寛永8年(1631)
(京都・天球院) 通期展示



そして、勇壮な桃山文化の有終の美を飾るのにふさわしい、大胆にうねる松の巨木と獲物を狙った眼光鋭い鷹が描かれている、二条城を飾る狩野山楽の《松鷹図襖・壁貼付》。
G「泰平の世へー再編される権力の美」に展示されています。

狩野山楽筆 重要文化財《松鷹図襖・壁貼付》(部分)
江戸時代・寛永3年(1626)
京都市(元離宮二条城事務所) 通期展示



見どころ3 甲冑や刀剣、茶道具も充実!


桃山文化が花開いた時代は、江戸幕府が開かれて天下泰平の世になるまで戦いが絶えませんでした。屛風や障壁画だけでなく、優れた甲冑や刀剣もこの時代のシンボルなのです。
F「武将の装い-刀剣と甲冑」のエリアでは、有力な武将にゆかりの刀剣や甲冑が展示されています。

まるで後ろの《関ヶ原合戦図屛風》から飛び出してきたような甲冑群と刀剣。
合戦のときの法螺貝の音や鬨(とき)の声が聞こえてきそうな空間。このレイアウトは絶妙です。

F「武将の装い-刀剣と甲冑」展示風景



F「武将の装い-刀剣と甲冑」展示風景

《関ヶ原合戦屛風》は、徳川家康の愛蔵品で、前期は家康と家康の本陣が描かれた右隻、後期に本戦と西軍の敗走の様子が描かれた左隻が展示されます。

重要文化財《関ヶ原合戦図屛風》右隻
江戸時代・17世紀(大阪歴史博物館) 前期展示

豪華絢爛な桃山文化の中、「侘びの趣」を追求したのが千利休。

D「茶の湯の大成-利休から織部へ」展示風景

茶道具はD「茶の湯の大成-利休から織部へ」以外のエリアにも数多く展示されていますので、ぜひじっくりご覧になっていただきたいです。

こちらは、C「桃山前夜-戦国の美」に展示されている、上品な趣の青磁と茶入。

右 重要文化財《青磁筒花入 大内筒》
南宋時代・13世紀(東京・根津美術館) 前期展示 
左 《唐物瓢箪茶入 上杉瓢箪》
南宋~元時代・13~14世紀(京都・野村美術館)
 通期展示



展覧会オリジナルグッズも充実してます


第1会場と第2会場の間にある特別展のミュージアムショップでは、展覧会オリジナルグッズを販売中!どれも欲しくなるものばかりで、財布のひもがついゆるんでしまうかも。

屛風の大判絵はがき(200円+税)。専用の大判絵はがき用フレーム(1,500円+税)に入れて部屋に飾ることができます。


すっかりミュージアムグッズの定番になった絵入りマスキングテープ(500円+税)や、コロナ禍の今では必需品のマスクケース(500円+税)はじめ小物類も充実。


厚さ約3.5㎝、図版も多く解説も詳しい展覧会図録は税込3,000円。



お帰り前に撮影スポットで記念に一枚!


1階ラウンジには撮影スポットがあります。来館記念にぜひパチリ!

撮影スポット


こちらは2020年に制作された、狩野長信筆 国宝《花下遊楽図屛風》(東京国立博物館)の高精細複製画。関東大震災で失われた右隻中央部も見事に復元されています。
原品は会場内のE「桃山の成熟-豪壮から瀟洒へ」のエリアに通期で展示されています。

豪華絢爛な桃山文化の展覧会にふさわしい内容充実の展覧会です。
会期は10月6日(火)から11月29日(日)までですが、前期後期で展示替えや、細かな展示替えもあるので、出品目録をチェックして、お目当ての作品をぜひお楽しみください!

2020年10月20日火曜日

山梨県立美術館 特別展「クールベと海」

山梨県立美術館では11月3日(火・祝)まで特別展「クールベと海 フランス近代 自然へのまなざし」が開催されています。

今回の特別展は、全国各地の美術館のコレクションを中心に30点近くのクールベ作品、さらにターナーやブーダン、モネはじめ日本でもよく知られた画家たちが描いた海や海岸など、全部でおよそ70点の作品が一度に見られる、とても内容の充実した展覧会です。

山梨県立美術館外観


展覧会概要


会 場  山梨県立美術館(山梨県甲府市)
会 期  9月11日(金)~11月3日(火・祝)
開館時間 午前9:00~午後5:00(入館は午後4:30まで)
休館日  月曜日(11月2日は開館)
観覧料  一般 1,000円ほか
新型コロナウィルス感染症予防対策、展覧会の詳細は同館公式サイトでご確認ください⇒https://www.art-museum.pref.yamanashi.jp/


「クールベと海」チラシ(表と裏)

それではさっそく展示室内をご案内していきましょう。
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は同館から提供いただいた広報用画像です。


甲府に国内のクールベ作品が大集結!



展示を見てはじめに驚いたのは、国内の美術館が所蔵するクールベ作品が質・量ともに充実していること。
地元・山梨県立美術館はもちろん、北は山形県の山寺後藤美術館から、国立西洋美術館、千葉県立美術館、茨城県近代美術館、西は島根県立美術館、ひろしま美術館、愛媛県美術館まで、国内各館のクールベ作品が大集結しているのです。

ギュスターヴ・クールベ《波》
1869年 愛媛県美術館蔵


コロナ禍の影響で、今では海外作品中心の展覧会の開催は難しく、国内の美術館といっても、アートを巡る旅というのも時にはいいのですが、さすがに全部の美術館を回っている時間はありません。

今回の特別展「クールベと海」のように、一人の画家、あるいは一つのテーマで、国内の美術館が所蔵する作品を集めた展覧会を開催してもらえるのは本当にありがたいことです。


岩のようにごつごつした波



クールベ(1819-1877)といえば「海」、うねるような「波」というイメージがあって、特別展のタイトルも「クールベと海」なのですが、実はクールベが生まれたのは、スイス国境に近いフランス西部の山や森に囲まれたフランシュ=コンテ地方の小さな町オルナン。
裕福な地主の家に生まれたクールベは、1840年に画家をめざしてパリに出て、その後、フランス北部のノルマンディーで初めて海を見たのです。

広々とした海原、ひゅーと吹き続ける風の音、絶え間なく続く波の音、そして潮の香り。

波は海岸に打ち寄せて消えてしまうものなのですが、クールベの波はモニュメントのようにがっちりして、岩のようにごつごつしています。クールベが初めて海を見た時の驚きや感動が作品から伝わってくるようです。


ギュスターヴ・クールベ《波》
1869年 ふくやま美術館蔵

エトルタの海岸を描いた作品では、夕日に映える海は穏やかですが、象の鼻のような岩ががっちりと描かれています。

ギュスターヴ・クールベ《エトルタ海岸、夕日》
1869年 新潟県立近代美術館・万代島美術館蔵

以前、モネが同じエトルタの景色を描いた作品を見たのですが、やはりモネらしく、おだやかな海岸の印象をもちました。

モネの描いた海の作品も2点展示されています。
社交の場としての海岸を、多くの人物を入れて描いたブーダンの作品などとあわせて、少し後の世代の画家たちが描いた海と比べられるのも今回の特別展の楽しみの一つです。

クロード・モネ《アンティーブ岬》
1888年 愛媛県美術館蔵


森や山、岩に囲まれたクールベの故郷



波や海だけでなく、クールベが故郷を描いた作品も多く展示されています。

中でも印象的だったのは、見る人を圧倒するような岩山、その下にひっそりとたたずむ集落、穏やか流れの小川。

ギュスターヴ・クールベ
《フランシュ=コンテの谷、オルナン付近》
1865年頃 茨城県近代美術館蔵

水車小屋や農場の景色、那智の滝を思わず想像してしまうような滝を描いた作品も展示されています。

まるでオルナンの町や周囲の自然の中を歩いているような気分が味わえる空間です。


クールベが描く雪景色、狩猟



「海」や「波」と並んでクールベ作品のイメージは「雪景色」と「狩猟」。
自分でも森の中で狩猟をして、獲物や厳しい自然と対峙したクールベならではの作品といえるでしょう。

ギュスターヴ・クールベ《雪の中の鹿のたたかい》
1868年頃 ひろしま美術館蔵

1855年に開催されたパリ万国博覧会に作品を送りつけたのに審査員によって出展を拒否され、それに怒ってわざわざ万博会場の向かいの建物を借りて個展を開いたクールベ。
1871年のパリ・コミューンに参加して、投獄されたのちにスイスに亡命してそこで客死したクールベ。
時代に反逆したクールベですが、描いた作品には自然に対する畏怖、尊敬のまなざしが感じられます。

特別展のキャッチコピーも「山国育ちの反逆児が出会った海」。
まさに山に囲まれた甲府の地で開催されるのにふさわしい展覧会。
残りの会期もわずかになってきましたが、11月3日(火・祝)の文化の日まで開催されていますので、ぜひご覧ください。


ミレー館はじめコレクション展も見逃せない!


山梨県立美術館といえば、《種をまく人》はじめジャン=フランソワ・ミレーのコレクションでよく知られています。

左 山梨県立美術館パンフレット
右 コレクション展観覧券



ミレーやバルビゾン派の作品が展示されているミレー館はじめコレクション展も充実の内容。
コレクション展のみの料金は一般520円ですが、特別展とセットになったお得なチケットがあります。

 ⇒ パスポート(コレクション展+特別展)  一般1,260円ほか

そしてテーマ展示室は、秋にちなんだ絵画が展示されていて、日本画のコーナーは「野口家コレクション」の後期展示(10/20-12/6)。

野口家とは、幕末から明治大正期に活躍した日本画家で、1904年に女性として初めて帝室技芸員を拝命した野口小蘋が嫁いだ先。
野口小蘋や師の日根対山はじめ、さすがに逸品ぞろいです。

コレクション展の作品リストは同館公式サイトからダウンロードできます⇒https://www.art-museum.pref.yamanashi.jp/

ミレーの《種をまく人》と《落ち穂拾い、夏》は海外での展示を好評のうちに終えて無事に帰国したところ。
せっかくの機会なのでぜひコレクション展もあわせてご覧ください。