2021年4月18日日曜日

DESIGN MUSEUM BOX展 集めてつなごう 日本のデザイン

※本展覧会は、緊急事態宣言の発令に伴い、4月24日(土)で終了しました。

東京メトロ日比谷線の銀座駅改札を出て地下道を歩き始めると、大きな箱が見えてきました。その名もDESIGN MUSEUM BOX。

Ginza Sony Park会場入口

広いスペースの中には、タイトルのとおり大きな箱型のものがいくつも重なって置かれています。

Ginza Sony Park展示風景

さて、箱の中には何が入っているのでしょうか。
とても気になったので、さっそく会場内に入ってみることにしました。

展覧会概要


展覧会名  DESIGN MUSEUM BOX展 集めてつなごう 日本のデザイン
会 期   2021年4月10日(土)~5月9日(日) 11:00~19:00
会 場   Ginza Sony Park(東京都中央区銀座5-3-1)
入場料   無料
主 催   NHK/協力:一般社団法人Design-DESIGN MUSEUM

「DESIGN MUSEUM BOX展 集めてつなごう 日本のデザイン」について

NHK Eテレで放送中の「デザインミュージアムをデザインする」にこれまで出演した5人のクリエーターがデザインの視点から日本各地で「デザイン宝さがし」を行う模様が3月に番組で放送されました。本展では、5つの地域で見つけ出した”宝物”を共通のフォーマットである「DESIGN MUSEUM BOX」にまとめ、”宝物”の魅力を説き起こす言葉や映像が添えられた5人の「DESIGN MUSEUM BOX」を一堂に展示いたします。

※展示室内は撮影可です。

さっそく個性的な5人のクリエーターたちが選んだ”宝物”を見てみることにしましょう。

【奄美】森永邦彦(ファッションデザイナー)×宇検村生涯学習センター 元気の出る館/瀬戸内町立図書館・郷土館 「ノロの装束”ハブラギン”」


森永邦彦さんが選んだのは、奄美で祭祀を司ったノロが着用した装束”ハブラギン”。
ハブラ(ハベラ)とは、奄美の言葉で人の霊が乗っているされる蝶や蛾のこと。三角形は蝶や蛾の群れ、浮遊している人間の霊魂を表し、その霊力で着ている者を守護すると伝えられています。

Ginza Sony Park展示風景
(森永邦彦「ノロの装束"ハブラギン"」)

こちらはカラフルな三角形が主体のパッチワークで、これを着ていたらとても目立つのですが、これには仕掛けがありました。

Ginza Sony Park展示風景
(森永邦彦「ノロの装束"ハブラギン"」)

手前にある懐中電灯の光を当てると、ところどころが光るのです。

Ginza Sony Park展示風景
(森永邦彦「ノロの装束"ハブラギン"」)

白い三角形の生地のパッチワークも光を当てるとこのとおり光るのです。

Ginza Sony Park展示風景
(森永邦彦「ノロの装束"ハブラギン"」)

※新型コロナウィルスの感染が拡大していますので、懐中電灯使用前後は手指の消毒を忘れずに!

【姫路】辻川幸一郎(映像作家)×日本玩具博物館
「ぶちゴマ、そこから広がるさまざまなコマ」


辻川幸一郎さんが紹介するのは、世界各地のコマ。

子供の頃、正月になるとコマを回して遊んでいたので、とても懐かしく思いましたが、なんとコマの歴史は古くて、古代エジプトや6世紀の日本の遺跡からも発見されているとのこと。

Ginza Sony Park展示風景
(辻川幸一郎「ぶちゴマ、そこから広がるさまざまなコマ」)

世界じゅうのコマがぎっしり詰まった展示です。
Ginza Sony Park展示風景
(辻川幸一郎「ぶちゴマ、そこから広がるさまざまなコマ」)

これが側面を叩きながら回すぶちゴマ。これは初めて見ました。

Ginza Sony Park展示風景
(辻川幸一郎「ぶちゴマ、そこから広がるさまざまなコマ」)


【金沢】田川欣哉(デザインエンジニア)×柳宗理記念デザイン研究所「柳宗理のデザインプロセス カラトリーを例に」



田川欣哉さんが紹介するのは、戦後日本のプロダクトデザインを代表するデザイナー柳宗理の工房。

一本のスプーンが作り上げられるまでのプロセスがよくわかる展示になっています。

Ginza Sony Park展示風景
(田川欣也「柳宗理のデザインプロセス カラトリーを例に」)


まるで空飛ぶカラトリー(スプーン、フォーク、ナイフ)!

Ginza Sony Park展示風景
(田川欣也「柳宗理のデザインプロセス カラトリーを例に」)


眼に映るものすべてが大切、という柳宗理の意外なコレクション。
野球ボールも新品でなく、実際に使われて選手たちの汗がしみ込んだボールというところが渋いです。


Ginza Sony Park展示風景
(田川欣也「柳宗理のデザインプロセス カラトリーを例に」)


【浜松】水口哲也(エクスペリエンスアーキテクト)×ヤマハ イノベーションロード「トランスアコースティックピアノ 匠とテクノロジーの出会い」


水口哲也さんが紹介するのは、ピアノ全体がスピーカーになるトランスアコースティックピアノ。


Ginza Sony Park展示風景
(水口哲也「トランスアコースティックピアノ 
匠とテクノロジーの出会い」)


上の写真左の小箱はオルゴール。

Ginza Sony Park展示風景
(水口哲也「トランスアコースティックピアノ
 匠とテクノロジーの出会い」)


これをピアノの背面にくっつけてハンドルを回すとピアノ本体に響いて美しい音色が聴けるのです。

Ginza Sony Park展示風景
(水口哲也「トランスアコースティックピアノ 
匠とテクノロジーの出会い」)

※近くに消毒液が設置されているので、手指の消毒は忘れずに!


【岩手】田根剛(建築家)×御所野縄文博物館
「縄文のムラのデザイン」



「デザインとは近代だけでのものではない。1万年前、縄文時代からデザインはあった。」と考える、田根剛さんが紹介するのは、岩手・一戸にある御所野縄文博物館が所蔵する御所野遺跡の出土品など。

Ginza Sony Park展示風景
(田根剛「縄文のムラのデザイン」)


Ginza Sony Park展示風景
(田根剛「縄文のムラのデザイン」)


まるで土の中に埋まっていたものが、発掘された時のような展示です。
のぞき込むと見えるものは?
Ginza Sony Park展示風景
(田根剛「縄文のムラのデザイン」)


日本各地や世界から、年代も超えて集められたデザインが箱の中にギュッと詰まっています。
来て、見て、体験して楽しめる展覧会。

ぜひふらりと訪れてみてはいかがでしょうか。

2021年4月13日火曜日

国文学研究資料館とアメリカ・フリーア美術館のコラボで日本美術が楽しめる!

アメリカ・ワシントンD.C.にあるフリーア美術館といえば、俵屋宗達の「松島図屏風」はじめ豊富な日本美術のコレクションで知られていますが、作品を収集したチャールズ・ラング・フリーア氏の遺言により所蔵作品は門外不出。

琳派の祖・俵屋宗達の名作《松島図屏風》も日本に里帰りすることはないのです。

 
俵屋宗達「松島図屏風」(右隻)
江戸時代 17世紀 六曲一双 紙本着色
フリーア美術館蔵
F1906.231-232 Freer Gallery of Art,Smithsonian

一方で、所蔵作品をデジタル化して公式サイトで公開するという、うれしい取組みをいち早く行ったのがフリーア美術館。
商業目的以外の利用であれば制限がなく、研究者も、アートファンも見たい作品を検索して画像を見ることができるのです。

そして、さらに作品の里帰りを実現しようという、うれしい試みもありました。

それは、2年前に東京・墨田区のすみだ北斎美術館で開催された「フリーア美術館の北斎展」(2019年6月25日~8月25日)。
フリーア美術館が所蔵する葛飾北斎の肉筆画13点の高精細複製画を綴プロジェクトが制作して、すみだ北斎美術館に寄贈するのをきっかけに開催された展覧会でした。

この展覧会の様子は以前のブログで紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください⇒すみだ北斎美術館「フリーア美術館の北斎展」

「フリーア美術館の北斎展」
展覧会チラシ

この時は前期後期で13点全部を見ることができましたが、今でもすみだ北斎美術館3階ホワイエにそのうちの1点が展示されることもあるので、ぜひご覧になってください。
こちらは、前回の特別展、筆魂展(2021年2月9日~4月4日)の後期に3階ホワイエで展示されていた葛飾北斎「琵琶に白蛇図」(高精細複製画)。
ご覧のとおりの見事な出来栄え。撮影も可でした。

葛飾北斎「琵琶に白蛇図」(高精細複製画)
原画  フリーア美術館蔵

そして、さらにうれしいお知らせがありました。

今年(2021年)3月26日から国文学研究資料館「新日本古典籍総合データベース」でフリーア美術館所蔵「プルヴェラー・コレクション」の高精細画像が公開開始されることになったのです。

東京・立川市にある国文学研究資料館は、「我が国の古典籍及びその関連資料を大規模に集積し、様々な分野の研究者の利用に供するとともに、それらに基づく先進的な共同研究を推進する機関」(同館公式サイトより⇒国文学研究資料館)。

そして、「プルヴェラー・コレクション」は、2007年にフリーア美術館が収蔵した、江戸時代以降に制作された絵本(絵入り本)のコレクションで、ドイツの著名な医学研究者ゲルハルト・プルヴェラー博士と妻のローズマリー氏が30年以上にわたり世界中を旅して取集したもので、その数は900点以上に及びます。
今回はそのうちの12点が先行公開され、今後はすべての画像データが閲覧できるようになるという、アートファンにとって、とてもうれしいプロジェクトなのです。

こちらは、フリーア美術館と国文学研究資料館の共同プロジェクトについて、国文学研究資料館のロバート・キャンベル館長(2021年3月26日現在)とフリーア美術館の学芸員フランク・フェルテンズさんが紹介している動画です。約8分の動画ですので、ぜひこちらもご覧ください。



3月26日に先行公開された絵本は次の12点です。

八島岳亭『天保山勝景一覧』
葛飾北斎『絵本隅田川両岸一覧』
葛飾北斎、鳥文斎栄之『錦摺女三十六歌僊』
鳥居清長『彩色美津朝』
土佐光茂『光悦三十六歌仙』
奥村政信『絵本風雅七小町琴碁書画』
菱川師宣『小袖姿見』
中邑長秀『絵本義経島巡り』
勝川春潮『絵本千代秋』
窪俊満『絵本多能志美種』
一筆斎文調、勝川春章『絵本舞台扇』
歌川豊広『陸奥紙狂歌合』

それぞれの画像のリンクは、国文学研究資料館のプレスリリースで見ることができます。


さて、さっそくですが、12点の豪華ラインナップの中から、葛飾北斎の絵本の画像を見てみることにしましょう。


この本は上中下の3冊。こちらは上巻の表紙です。

葛飾北斎『絵本隅田川両岸一覧』
Freer Gallery of Art Study Collection, Smithsonian Institution, Washington, DC: Purchase, The Gerhard Pulverer Collection — Charles Lang Freer Endowment, Friends of the Freer and Sackler Galleries and the Harold P. Stern Memorial fund in appreciation of Jeffrey P. Cunard and his exemplary service to the Galleries as chair of the Board of Trustees (2003-2007), FSC-GR-780.230.1-3

画像もとても鮮明で、色合いもよくて、まるで本物の絵本を自分でページをめくるような感覚で見ることができます。

葛飾北斎『絵本隅田川両岸一覧』
Freer Gallery of Art Study Collection, Smithsonian Institution, Washington, DC: Purchase, The Gerhard Pulverer Collection — Charles Lang Freer Endowment, Friends of the Freer and Sackler Galleries and the Harold P. Stern Memorial fund in appreciation of Jeffrey P. Cunard and his exemplary service to the Galleries as chair of the Board of Trustees (2003-2007), FSC-GR-780.230.1-3


国文学研究資料館の公式サイトでは、作品を見るだけでなく、オンライン会議の壁紙に利用したり、ブックカバーを作る方法も紹介されています。


今回はブックカバーを作ってみました。
作り方は簡単です。画像をA4サイズで印刷して、本のサイズに合わせて折り込むだけ。
今回は文庫本なので、絵の周囲の余白は切取りました。

これでオリジナルのブックカバーの出来上がり。
ちょうど遠くに見える富士山が表紙に出てきました。

葛飾北斎『絵本隅田川両岸一覧』
Freer Gallery of Art Study Collection, Smithsonian Institution, Washington, DC: Purchase, The Gerhard Pulverer Collection — Charles Lang Freer Endowment, Friends of the Freer and Sackler Galleries and the Harold P. Stern Memorial fund in appreciation of Jeffrey P. Cunard and his exemplary service to the Galleries as chair of the Board of Trustees (2003-2007), FSC-GR-780.230.1-3


デジタル画像は、鑑賞するだけでなく、こうやって手に取って楽しめる気軽がいいところです。
みなさんもぜひ、お好みの画像を選んで、古典籍に親しんでみてはいかがでしょうか。

2021年4月9日金曜日

【7月24日開幕!】京都国立博物館 特別展「京(みやこ)の国宝-守り伝える日本のたから-」

 7月24日から9月12日まで京都国立博物館で開催される日本博/紡ぐプロジェクト 特別展「(みやこ)の国宝-守り伝える日本のたから-」の報道発表会にオンライン参加しました。


展覧会チラシ

京都国立博物館では2017年に国宝展が開催されたので、「えっ、また国宝展?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、今回は「千年の(みやこ)」京都ゆかりの国宝を展示する展覧会

2021年3月時点で、国宝66件、重要文化財3件、皇室文化財5件、総数で120件弱の名品が展示されることがアナウンスされていますが、今後、追加される可能性もあるというので、質量ともに充実した内容の展示が期待されます。

展覧会概要

会 期  2021年7月24日(土)~9月12日(日)
 前期展示 7月24日(土)~8月22日(日)
 後期展示 8月24日(火)~9月12日(日)
 ※一部の作品は上記以外にも展示替を行います。
開館時間 午前9時~午後5時30分(入館は午後5時まで)
     ※夜間開館は実施しません。
休館日  月曜日 ※ただし8月9日(月・休)は開館、10日(火)休館
観覧料(税込)  一般 1,600円、大学生 1,200円、高校生 700円
主 催  文化庁、京都国立博物館、独立行政法人日本芸術文化振興会、読売新聞社
特別協賛 キヤノン、JR東日本、日本たばこ産業、三井不動産、三菱地所、
     明治ホールディングス
協 賛  清水建設、髙島屋、竹中工務店、三井住友銀行、三菱商事
特別協力 宮内庁(宮内庁三の丸尚蔵館) 
※本展は、政府が推進する「日本博」及び「日本美を守り伝える『紡ぐプロジェクト』の一環として開催するものです。
※本展は、新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡大防止のため、事前予約<優先制>を導入します。
※日時指定券は6月1日(火)よりローソンチケットで発売予定です。チケット購入方法、新型コロナウイルス感染予防・拡大防止、展覧会の見どころなど詳細は展覧会公式サイトでご確認ください⇒特別展 京の国宝-守り伝える日本のたから-

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は、主催者よりお借りした広報用画像です。

展覧会は次の4章構成になっています。
 第1章 京都-文化財の都市
 第2章 京の国宝
 第3章 皇室の至宝
 第4章 今日の文化財保護


展覧会の見どころご紹介


見どころ1 京都にこだわった国宝の名品が見られる。

第1章 京都ー文化財の都市では、昭和26年6月9日に、戦後初めて国宝に指定された名品が展示されます。

中でも注目は、平安時代中期、摂関政治の最盛期を築いた藤原道長(966-1027)の日記『御堂関白記』

国宝 御堂関白記 自筆本 寛弘元年上巻(部分)
平安時代(10-11世紀) 京都・陽明文庫蔵
(通期展示<寛弘元年上巻は前期展示>)

『御堂関白記』は、歴史的史料として重要なのはもちろんですが、千年以上も経って本人の自筆本が残されているという貴重なものなのです。

この世をば わが世とぞ思ふ 望月のかけたることも なしと思へば

と詠んで、栄華を極めた藤原道長の直筆をぜひご覧いただきたいです。



こちらも昭和26年6月9日に国宝指定された、京都の粟田口派を代表する名工、久国作の太刀。久国の銘の入ったものは現存するものが少なく貴重な名品です。

国宝 太刀 銘久国
鎌倉時代(13世紀)
文化庁蔵(通期展示)

他にも、同じく昭和26年6月9日に国宝指定された、「瓢箪で鯰をおさえとる」ことができるかという不思議なテーマの「瓢鮎図」(如拙筆 室町時代(15世紀) 京都・退蔵院蔵)<後期展示>などが展示されます。


第2章 京の国宝では、美術工芸品の区分(絵画、彫刻、工芸品、書跡・典籍、古文書、考古資料、歴史資料)ごとに名品の数々が展示されます。

絵 画

日本の画家の中でもっとも国宝指定作品が多いのが、誰もが知っている室町時代の絵師・雪舟。6件の国宝のうち、今回は京都国立博物館所蔵の「天橋立図」が展示されます。

国宝 天橋立図 雪舟筆 室町時代(16世紀)
京都国立博物館(前期展示)

今回の展覧会は京都市だけでなく、京都府ゆかりの国宝の展覧会。
雪舟も京都・相国寺の僧、日本三景のひとつ天橋立も京都府の日本海に面した宮津市にあるので、今回の展覧会にふさわしい国宝といえるでしょう。


続いて、桃山時代の京都で狩野永徳と人気を二分した長谷川等伯の豪華絢爛な金箔の屏風「松に秋草図屏風」(京都・智積院蔵)<前期展示>。
もとは豊臣秀吉が、夭逝した鶴丸の菩提を弔うために建立した祥雲寺の障壁画として描かれたもので、現在では祥雲寺の地を引き継いだ智積院に所蔵されています(智積院は京都国立博物館のすぐ近です)。


国宝 松に秋草図屏風 長谷川等伯筆
桃山時代 文禄元年(1592)頃
京都・智積院蔵(前期展示)

そして、江戸時代初期に京都で人気のあった、琳派の祖・俵屋宗達の国宝「風神雷神図屏風」は8月24日から9月5日までの限定展示(下の展覧会チラシ右下)。
後期はぜひこの時期に見に来たいです。

展覧会チラシ





なお、長谷川等伯「松に秋草図屏風」と俵屋宗達「風神雷神図屏風」は、今回の報道発表会で新たに出展が発表されたもの。
これからも新たにどんな名品が出てくるか楽しみです。

考古資料

「金装大刀」は、平安時代初期の武将で、蝦夷征討を行った征夷大将軍坂上田村麻呂の遺品とされる大刀。金装の輝きをぜひその場で見てみたいです。
坂上田村麻呂は、京都・清水寺の創建者とも伝えられています。

国宝 山科西野山古墓出土品のうち金装大刀
奈良~平安時代(8~9世紀)
京都大学総合博物館蔵(通期展示)

彫 刻

新幹線で京都駅に着いてすぐに目に入ってくるのが東寺(教王護国寺)の五重塔。
東寺の五重塔を見て「京都に来たんだ」と実感される方も多いかと思いますが、私もその一人。

世界遺産に登録されている東寺からは、展覧会チラシの表紙にも掲載されていて、まさに今回の展覧会の顔「梵天坐像」が展示されます。
国宝 梵天坐像 平安時代(9世紀)
京都・東寺(教王護国寺)蔵
通期展示

工芸品

平安時代に隆盛を誇った藤原氏一門の氏神・春日大社からは、波濤や波間を舞う千鳥が蒔絵で見事に表現されている箏が出展されます。
平安王朝の優美さが伝わってくる逸品。後期展示も見応えありそうで楽しみです。


国宝 本宮御料古神宝類のうち山水蒔絵箏
平安時代(12世紀)
奈良・春日大社蔵(後期展示)





見どころ2 京都ゆかりの皇室の至宝が見られる。

今回のもう一つの見どころは、京都ゆかりの皇室の至宝が見られること。
第3章 皇室の至宝では皇室の名品の数々が展示されます。

中でも楽しみなのが、700年の時を超えて今に伝わる鎌倉時代の絵巻物の傑作「春日権現験記絵」
「春日権現験記絵」は、藤原氏一門の氏神・春日大社に奉納されていましたが、江戸時代後期に流出し、その後、収集されて皇室に献上されたもので、20巻すべてが現存するという貴重な絵巻物。数奇な運命をたどった絵巻物ですが、保存状態の良さに驚かされます。

春日権現験記絵 巻二(部分)
絵:高階隆兼筆 詞書:鷹司基忠ほか筆
鎌倉時代 延慶2年(1309)頃
東京・宮内庁三の丸尚蔵館蔵
(通期展示<巻二は前期展示>)

同じく東京・三の丸尚蔵館からは、藤原佐理、藤原行成と並んで平安時代中期の3人の能書家「三跡」のひとり、小野道風の「玉泉帖」が展示されます(後期展示)。
「玉泉帖」は、当時の貴族の教養書のひとつ『白氏文集』を抄出したもので、ご覧のとおり、自由でのびのびとした筆さばきを見ることができます。

玉泉帖(部分) 小野道風筆
平安時代(10世紀)
宮内庁三の丸尚蔵館蔵(後期展示)

見どころ3 文化財保護の取組みが実感できる。

全国で1万件を超える国宝・重要文化財の指定を受けた美術工芸品のうち6分の1は京都府内あるので、京都が長年取り組んでいた文化財保護の取組みが見られるのも今回の展覧会の大きな見どころの一つ。
第4章 今日の文化財保護では、映像で文化財修理の過程が映され、文化財を守り伝える営みの大切さが感じられる名品が展示されます。

文化財保護にとって大きな課題は、もちろん経年劣化ですが、ただ修理をすればいいというのではなく、修理をする技術を持った人、修理をするための道具を作る人、修理の材料となる植物を栽培する人が少なくなっていることも大きな課題なのです。

そして、文化財保護にとって、災害や盗難も大きな難敵。

関東大震災で被災して右隻中央部が失われた国宝「花下遊楽図屏風」(狩野長信筆 桃山時代(17世紀) 東京国立博物館蔵)も、9月7日から12日まで期間限定で展示されます(下の展覧会チラシの上が右隻)。


展覧会チラシ






今回の展覧会は、海外にもポータルサイトで発信されるとのこと。
コロナ禍の影響で、海外との交流が自由にできない中ではありますが、国内の方はもちろんのこと、世界中の多くの方にも見ていただきたい展覧会です。

2021年4月4日日曜日

東京藝術大学大学美術館「渡辺省亭-欧米を魅了した花鳥画-」

 待ちに待った展覧会が開幕しました!

明治から大正にかけて活躍して、花鳥画が海外から高い評価を受け、国内でも実力を認められながらも、今では「知る人ぞ知る日本画家」渡辺省亭の大回顧展が、東京・上野の森の東京藝術大学大学美術館で開催されています。

東京藝術大学キャンバス内の案内看板

展覧会概要

渡辺省亭「-欧米を魅了した花鳥画-」
会 期 2021年3月27日(土)~5月23日(日)
 前 期 3月27日(土)~4月25日(日)
 後 期 4月27日(火)~5月23日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は閉館の30分前まで)
休館日  毎週月曜日(ただし5月3日は開館)
観覧料  一般 1,700円 高校・大学生 1,200円
※本展は事前予約制ではありません。ただし、新型コロナウィルス感染拡大防止のため、混雑状況により入場をお待ちいただく場合があります。
※展覧会の詳細、新型コロナウィルス感染症対策等については展覧会公式サイトをご参照ください⇒https://seitei2021.jp   

※本展覧会は、緊急事態宣言の発令に伴い、4月25日(日)から臨時休館していましたが、5月23日の会期終了を以て閉幕します。
※下記の会場に巡回しますので、ご興味のある方はぜひご覧ください!

その後、岡崎会場(岡崎市美術博物館 5/29-7/11)、三島会場(佐野美術館 7/17-8/29)に巡回します。

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可を得て撮影したものです。

展覧会の見どころご紹介!

見どころ1 海外からの里帰り作品や貴重な個人コレクションが見られる

今回の展覧会の見どころの一つは、海外からの初めての里帰り作品や貴重な個人コレクションを含む省亭の画業の全容が見られること。

コロナ禍の影響で海外との交流が制限される中、スタッフのみなさまのご努力は並大抵のものではなかったと思います。このような時期に海外の作品が見られることはありがたいことです。今回を見逃すと二度と見ることのできない作品もあるかもしれません。

「欧米を魅了した花鳥画」のコーナーには、明治11(1878)年、万博の開催を機にパリを訪れた省亭が滞在中に交流したエドガー・ドガの旧蔵品《鳥図(枝にとまる鳥)》(アメリカ・クラーク美術館)や、アメリカの実業家が河鍋暁斎に依頼して、暁斎没後に省亭に引き継がれ完成した『花鳥魚鰕画冊』(メトロポリタン美術館)の作品ほかが展示されています(いずれも通期展示、日本初公開)。
※海外の新型コロナウィルス感染症拡大状況により、変更される場合があります。

第二会場「欧米を魅了した花鳥画」展示風景

今回の展覧会で初めて気が付いたのは、省亭の描く動物たちの愛らしい瞳。
飛び跳ねる鰈もつぶらな瞳でこちらを見ているので、ぜひ探してみてください。

第二会場「欧米を魅了した花鳥画」展示風景

公開される機会があまりない個人コレクションが多いのも今回の展覧会の特徴です。

第二会場展示風景



見どころ2 展示室のレイアウトが凝っていて、とてもいい雰囲気

地下2階の第一会場で映されているビデオで予習をしたあと、第二会場に入って驚いたのが、とてもいい雰囲気のレイアウト。

入口でお出迎えしてくれるのは、国宝・迎賓館赤坂離宮の「花鳥の間」に飾られている、七宝作家・濤川惣助との共作「七宝額絵」の原画。

ご覧のとおり、おしゃれな飾りのついた額におさまって、落ち着いた茶色系の壁に架かった「七宝額原画」。描かれているのは色とりどりの花鳥や海の幸。
まるでここは「ミニ迎賓館」。最高のおもてなしの間です。

「迎賓館赤坂離宮 七宝額原画」(東京国立博物館)
前期後期で展示替えあり

3階の第三会場もまったく想定外のレイアウト。
広々とした空間に個別の展示ケースに入った作品が、まるでダンスを踊るかのように展示されています。
とは言っても展示ケースは動かないので、動くのは見る人の方。
ダンスホールで次々とパートナーをかえてダンスを踊るかのように、一つひとつの作品に向かい合って楽しむことができます。

第三会場展示風景



第三会場展示風景




見どころ3 江戸名所や美人画を描いても「省亭風」。省亭の画業の全容が見られる。

海外から高い評価を受けた省亭ですが、実は東京・神田に生まれ生涯のほとんどを浅草界隈ですごした生粋の下町の江戸っ子。
そして、省亭の師は歴史画家として知られた菊池容斎。
江戸の名所や歴史に取材した作品も、のちに鏑木清方に影響を与えた美人画も描いています。

第二会場展示風景

第二会場展示風景


ほかにも省亭が積極的に引き受けた小説や雑誌の口絵・挿絵、濤川惣助との共作の七宝作品も展示されています。

第三会場展示風景


鮮やかな色遣い、色の濃淡を巧みにつけたグラデーションで表現される動物たちのモフモフ感や花の立体感。省亭らしい作品が並ぶ省亭づくしの展覧会です。
ぜひ近くでじっくりご覧になって、省亭作品の魅力を感じ取っていただきたいです。


展覧会グッズもカラフル!

色遣いの鮮やかな渡辺省亭の展覧会なので、展覧会グッズも色とりどりで、どれにしようか目移りしてしまいます。

1階ロビーのミュージアムショップ

出展作品すべてが掲載された展覧会公式ガイドブックもおススメ。
これだけ省亭の作品が揃った展覧会は二度と開催されないかもしれないので、永久保存版ですね。


展覧会公式ガイドブック
(税込2,600円)

後期に展示される作品の中で特に楽しみなのが、《十二ヶ月花鳥図》。
《十二ヶ月花鳥図》と言えば江戸琳派の祖・酒井抱一の名前が思い浮かんできますが、省亭の《十二ヶ月花鳥図》は、やはり省亭風の味わい。
十二幅がずらりと並ぶさまは、さぞかし壮観なことでしょう。後期展示も楽しみです。

画風も円熟味を増してきた明治30年代以降は、画壇との距離を置いて、我が道を進んだ省亭の生きざまにも惹かれます。
孤高の日本画家、渡辺省亭の作品が存分に楽しめる展覧会です。