2023年6月20日火曜日

根津美術館 企画展「救いのみほとけーお地蔵さまの美術ー」

東京・南青山の根津美術館では、企画展「救いのみほとけーお地蔵さまの美術ー」が開催されています。

展覧会チラシ

「お地蔵さん」と親しまれ、道端にたたずんで私たちの心をなごませてくれる地蔵菩薩。
子育て地蔵、延命地蔵、とげぬき地蔵など、私たちの身近にあって願い事を叶えてくれる地蔵菩薩。
地蔵菩薩は、おそらく私たちにとって一番親しまれている仏さまではないでしょうか。

ところが意外にも、日本ではいつごろから地蔵信仰が広まったのかはっきりしないところがあります。
今回の企画展は、根津美術館所蔵の仏画や仏像を中心に日本における地蔵信仰の歴史とその広がりをひも解いてくとても興味深い内容の展覧会です。普段見慣れているお地蔵さんも、珍しいお地蔵さんも見られて、お地蔵さんがより身近に感じられますので、ぜひ多くの方にご覧いただきたい展覧会です。

展覧会開催概要


会 期   2023年5月27日(土)~7月2日(日)
開館時間  午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日   毎週月曜日
入場料   オンライン日時指定予約
      一般 1300円、学生 1000円
      *当日券(一般1400円)も販売しています。同館受付でお尋ねください。
      *障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、中学生以下は無料。 
会 場   根津美術館 展示室1・2

展覧会の詳細、オンラインによる日時指定予約、スライドレクチャー等の情報は同館公式サイトをご覧ください⇒根津美術館 

※展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。

はじめに


冒頭には地蔵菩薩像と虚空蔵菩薩像が並んで展示されています。
大地のように広大な恵みを与え、人々の苦しみを引き受ける地蔵菩薩は、古くから虚空のように広い徳や知恵を備えた虚空蔵菩薩と対になる存在として崇められてきました。

右 《地蔵菩薩像》日本・鎌倉時代 14世紀
左 《求聞持虚空蔵菩薩并明星天子像》日本・南北朝時代 14世紀
どちらも根津美術館

地蔵信仰のはじまり


東大寺大仏を鋳造した聖武天皇(701-756)の皇后・光明皇后(701-760)が亡き両親の追福のために発願した一切経約七千巻のうちの一巻《大方広十輪経 巻第四(五月一日経)》が展示されています。

《大方広十輪経 巻第四(五月一日経)》日本・奈良時代 8世紀
根津美術館

写真パネル展示されている《東大寺要録 巻第四》(国立公文書館)には、かつてあった東大寺講堂に光明皇后が発願して造り始めた虚空蔵菩薩像と地蔵菩薩像が安置されていたことが記載されているので、奈良時代には地蔵信仰があったことがうかがえます。

地蔵への祈り


重要美術品《矢田地蔵縁起絵巻》には、毎月決まった日に奈良・金剛山寺(通称矢田寺)に参詣し地蔵菩薩に祈願すると、地獄での責め苦から救済されるという霊験が描かれています。

重要美術品《矢田地蔵縁起絵巻》日本・室町時代 16世紀
根津美術館


9月分の半ばから12月までの3ヶ月半分が現存していますが、12月の月詣での場面では来迎する阿弥陀如来をはじめとした仏さまの一員として地蔵菩薩が登場します。
それぞれの場面には日付が記載されていますが、最後の場面はなんとクリスマスイブの12月24日。絵巻の最初の方には怖い地獄の場面が描かれていますが、年の瀬になっていい場面出てきて、ホッとした気分になってきました。

重要美術品《矢田地蔵縁起絵巻》(部分)日本・室町時代 16世紀
根津美術館


南北朝時代に成立した《地蔵菩薩霊験記絵巻》は、地蔵にまつわる日本各地の説話が描かれていて、地蔵信仰が全国的に広まったことがうかがえます。

《地蔵菩薩霊験記絵巻》日本・南北朝時代 14世紀
根津美術館

ここでは、伯耆国(鳥取県)大山の僧が夢のお告げで下野国(栃木県)の山を訪ね、地蔵房という老法師に宿を借りたところ、実はその老法師の正体は地蔵で、山に登り、体が左右に分かれて生身の地蔵の姿を現すというドラマチックなシーンが描かれています。

《地蔵菩薩霊験記絵巻》(部分)日本・南北朝時代 14世紀
根津美術館

地蔵房が変身したのを見て僧は驚きましたが、人間の姿に戻った地蔵房から別れ際にはなむけとして白米を受け取る時の僧のうれしそうな表情に心が和みました。


救済へと向かう地蔵


一見するとどれも変わらぬお地蔵さんの像が並んでいるように見えますが、ところがよく見るとちょっと珍しいお地蔵さんたちのお姿が見られるのです。

展示風景


《壬生寺地蔵菩薩像》に描かれているのは、壬生狂言や幕末の新鮮組で知られる京都・壬生寺の旧本尊「延命地蔵菩薩」の木彫像。
原像は昭和37年(1962)に本堂が全焼した時に焼失したので、今となっては旧本尊の姿がわかるとても貴重な作品なのです。

《壬生寺地蔵菩薩像》日本・鎌倉時代 14世紀
根津美術館

左手を上げ、右手を下げている地蔵菩薩像とは反対に、右手を上げて、左手を下げた姿、そしてたいていは正面か向かって右向きなのに、左向きに描かれているとても珍しい地蔵菩薩像が展示されています。
今回のように地蔵菩薩像が並んで展示されていると違いがよくわかります。

《地蔵菩薩像》日本・室町時代 15世紀
根津美術館

今回の企画展でも初公開の作品が多く展示されていますが、こちらも初公開です。

地獄からの救い


地獄の苦しみから衆生を救ってくれる地蔵菩薩と、冥界で亡くなった人を裁く十王がそれぞれ1幅ごとに描かれた全11幅の大作で、現在10幅が伝わっている《地蔵十王図》も初公開の作品です。

《地蔵十王図》(10幅のうち2幅)日本・室町時代 15世紀
根津美術館

ここで注目したいのは、上の《地蔵十王図》のうち左の〈秦広王図〉の背後の衝立に描かれた見事な山水画。当代一流のやまと絵師が描いた可能性が高いと考えられています。

展示風景

朝鮮半島の地蔵図


頭の上から肩までかかる布を被った地蔵菩薩が見えてきました。
頭部に布を被る地蔵菩薩は西域に源流を持ち、高麗時代に非常に流行したとのこと。
着衣の金泥の文様や彩色がよく残されているので、ぜひ近くでご覧いただきたいです。

《地蔵菩薩像》朝鮮・高麗時代 14世紀
根津美術館



右 《地蔵菩薩像》朝鮮・高麗時代 14世紀
左 《地蔵諸尊図》朝鮮・朝鮮時代 16世紀
どちらも根津美術館



地蔵の造像


いつもは展示ケースに掛け軸や屏風が展示されている展示室2は、お寺の本堂でお参りしているような静謐な空間が広がっていました。

重要文化財《地蔵菩薩立像》日本・平安時代 久安3年(1147)
根津美術館


《地蔵菩薩坐像》を見た時、真っ先に気が付いたのは手前にぐいっと出ている左足でした。これは左足を外して座る「安坐形式」の地蔵菩薩で、初期慶派の作例に多いとのこと。
やわらそうな左足からは、お地蔵さんのぬくもりが伝わってくるように感じられました。

《地蔵菩薩坐像》日本・鎌倉時代 13世紀
根津美術館


展示室5 「西田コレクション」受贈記念は最終回です!


根津美術館顧問・西田宏子氏から東洋・西洋陶磁器を中心とした工芸品169件の寄贈を受けたことを記念して3回に分けて開催されている受贈記念展は今回が最終回です。
第3弾は「阿蘭陀・安南etc.」。

フェルメールの《取り持ち女》(ドレスデン国立美術館 アルテ・マイスター絵画ギャラリー)にも同じような塩釉水注が描かれている《塩釉人物文水注》は必見です。


《塩釉人物文水注》ヴェスターヴァルト窯
ドイツ 17世紀 根津美術館(西田宏子寄贈)

《取り持ち女》は、2018年10月から翌年2月にかけて上野の森美術館で開催されたフェルメール展で来日しているのでご覧になられた方もいらっしゃるのでは。
私も見ましたが、もう一度塩釉水注をじっくり見てみたいです。
(《取り持ち女》は展示ケース内にパネル展示されているのでぜひ見比べてみてください。)


掌に乗るくらいの小さな香合もとても可愛らしいです。

展示風景



展示室6 涼一味の茶


蒸し暑い梅雨の季節が続いていますが、茶の湯の空間では涼しさが感じられる演出が見られます。
口が広くて浅めの茶碗は三島茶碗は、お茶が冷めやすいので今の季節向きです。


《三島茶碗 銘 上田暦手》朝鮮・朝鮮時代 16世紀
根津美術館


オリジナルグッズも充実してます!


前回の特別展から引き続いて大津絵も好評販売中!

ミュージアムショップ

今回は国宝《燕子花図屏風》(根津美術館)をモチーフにしたグリーティングカード(税込700円)を購入しました。封筒まで金色です!



お地蔵さんに会えて心が安らぐ企画展「救いのみほとけ-お地蔵さまの美術-」は7月2日(日)まで。
お見逃しなく!

2023年6月13日火曜日

泉屋博古館東京 特別展「木島櫻谷-山水夢中」 

東京・六本木の泉屋博古館東京では、特別展「木島櫻谷-山水夢中」が開催されています。

泉屋博古館東京エントランス


今までにも同館では花鳥画や動物画を中心とした木島櫻谷(1877-1938)の展覧会が開催されましたが、今回は櫻谷の幽玄で壮大な山水画に焦点を当てた展覧会。
どことなく懐かしい日本の風景に心惹かれる作品の数々を見ていると、旅先のすがすがしい空気が感じられて心地よい気分になってくるので、ぜひ多くの方にご覧いただきたいです。

展覧会開催概要


会 期  6月3日(土)~7月23日(日)
     前期:6月3日(土)~6月25日(日)
     後期:6月27日(火)~7月23日(日)
     *《寒月》展示期間6月3日(土)~6月18日(日)
休館日  月曜日(7月17日は開館)、7月18日(火)
開館時間 午前11時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
     *金曜日は午後7時まで開館(入館は午後6時30分まで)
入館料  一般 1,200円、高大生 800円、中学生以下無料
チケットの購入方法、割引料金等は同館公式サイトをご覧ください⇒泉屋博古館東京
     
展示構成
 第1章 写生帖よ!-海山川を描き尽くす
 第2章 光と風の水墨-写生から山水画へ
 第3章 色彩の天地-深化する写生
 第4章 胸中の山水を求めて
 エピローグ 写生にはじまり、写生におわる。 


※本展はホールのみ撮影可能です。撮影の注意事項等は館内でご確認ください。
※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

展覧会を紹介する時のハッシュタグは #木島櫻谷 #山水夢中 です。

第1章 写生帖よ!-海山川を描き尽くす


今回の展覧会で最初に驚いたのは、いつもは広々としているロビーに長い展示ケースがどーんと置かれていることでした。

第1章展示風景


展示されているのは、櫻谷が写生旅行に出かけて描いた約600冊もの写生帖の一部。櫻谷が見た風景が、時を経て櫻谷の中で熟成されて山水画となる過程がわかる写生をまずはじっくりご覧ください。

木島櫻谷 写生帖《海濤集》若狭 明治38年(1905)
櫻谷文庫 通期展示


第2章 光と風の水墨-写生から山水画へ


第2章からはほぼ年代順に作品が展示されていますが、明治後期の特徴は、この章のタイトルにあるように「水墨の世界」。

この時期の櫻谷の代表作の一つが、京都・南禅寺の塔頭で、南禅寺派管長豊田毒湛の居所として明治43年に創建された南陽院本堂の櫻谷作《山水障壁画》。
普段は非公開の寺院のこの《山水障壁画》は、東京では初公開です。
さらにご覧のとおり、鴨居と敷居におさめられているので、お寺の中で見ているような気分になれて、それに反対側に回って襖の両面を見ることができるのです。

第2章展示風景
手前が木島櫻谷《南陽院本堂障壁画》明治43年(1910)
京都・南陽院 通期展示 

全部で5室50面(1面は損傷により欠失)描かれた《南陽院本堂障壁画》のうち、今回は前期後期で8面が展示されます。


幅11mにも及ぶ櫻谷の大作《万壑烟霧(ばんがくえんむ)》は迫力の大画面。
手前には耶馬渓の写生が展示されていて、切り立った山は耶馬渓の山から着想したことは想像できますが、画面全体にもやがかかっていて、現実の景色を超えた崇高な理想郷が描かれているように感じられました。


奥 木島櫻谷《万壑烟霧》明治43年(1910) 株式会社千總
手前 木島櫻谷 写生帖《渓山奇趣》耶馬渓 明治42年(1909)
櫻谷文庫 どちらも通期展示


第3章 色彩の天地ー深化する写生


大正期に入ると見事な色遣いの作品が多くなってきます。

夏目漱石に酷評されたことでも知られている《寒月》からは、冷たく張りつめた空気が伝わってくるようです。この作品は6月18日までの展示です!
(6月20日からは《暮雲》(大阪歴史博物館)が展示されます。)

木島櫻谷《寒月》大正元年(1912) 京都市美術館
展示期間:6月3日~18日

《寒月》とは対照的に明るい色調の《駅路之春(うまやじのはる)》は、春らしい明るさやにぎわいが感じられます。


木島櫻谷《駅路之春》大正2年(1913) 福田美術館
通期展示

秋の山の景色が描かれた《天高く山粧う》は、露出展示です!

木島櫻谷《天高く山粧う》大正7年(1918) 櫻谷文庫
前期展示


もとは京都・室町五条の呉服商が長男誕生の年に制作依頼した屏風ですが、今でも祇園祭の宵山の時などに室町通りなどの町屋が軒先を開けていて、家の中の座敷に飾られている屏風を見ることができますが、宵山の時の光景を思い出しました。
(後期には《蓬莱瑞色》(個人蔵)が展示されます。)


第4章 胸中の山水を求めて


大正末期から昭和初期の櫻谷は、公職から身を引き、京都・衣笠の自邸で、絵画制作のかたわら、古書画や古典籍を蒐集したり、漢詩を揮毫したりなど文人的な生活を送りました。

この作品を見た時、「なんであの元末四大家の一人、倪瓚の作品があるんだ!」と思わず声を出しそうになったくらい驚きました。


査士標《仿倪瓚水墨山水図》康熙14年(1675) 櫻谷文庫
通期展示

手前に土坡があって葉がまばらな木が生えていて、中央はたっぷりと空間をとり、奥には険しい山。いかにも倪瓚らしい作品ですが、実は明末清初の文人・査士標が倪瓚に仿って描いた作品だったのです。

ほかにも師・董源とともに「董・巨」と並び称された五代・宋初の画家・巨然に仿った作品も展示されています。

櫻谷文庫には、櫻谷が生前に蒐集した中国書画約400件(書約100件、絵画約300件)が所蔵されていますが、ぜひ櫻谷の中国書画コレクションも見てみたいです。


櫻谷が官展に出品した最後の作品、第14回帝展出品作《峡中の秋》が大下絵ともに展示されています。

右から 木島櫻谷《峡中の秋》昭和8年(1933)、《画三昧》昭和6年(1931)、
《峡中の秋》大下絵 昭和8年(1933) いずれも櫻谷文庫 通期展示


注目したいのは、大下絵では画面下の方に描かれた橋の先にある人家が本画ではなくなっていることです。現実を意味する人家を取り去ることによって現実から離れた理想郷を表わそうとしたのではないでしょうか。
本画と大下絵の間の《画三昧》では柿本人麻呂のようにリラックスした老人が描かれていますが、櫻谷本人がこれから描かれる山水画を眺めて悦に入っているように見えました。


エピローグ 写生にはじまり、写生におわる。


写生を重んじながらも、現実をそのまま描くのでなく、絵の中に実在感のあるモチーフを入れながら理想郷を描いた櫻谷の「リアルな山水画」の作品で今回の特別展はエピローグを迎えます。


エピローグ展示風景


さらにおうちでも櫻谷の写生が楽しめるように、公式図録(税込2,600円)にも写生帖が付いているのです。




専用アプリ(無料)をダウンロードして展覧会ごとの来館スタンプカードをゲットして、スタンプがたまれば絵はがきやオリジナルメモ帳がもらえます。
ぜひトライしてみてはいかがでしょうか。

ミュージアムショップ入口の案内ボード


前期展示は6月25日までです。前期後期で多くの展示替えがあるので、お早めに!
後期展示も楽しみです。

2023年6月12日月曜日

山種美術館【特別展】小林古径 生誕140年記念 小林古径と速水御舟 ー画壇を揺るがした二人の天才ー

東京・広尾の山種美術館では、【特別展】小林古径 生誕140年記念 小林古径と速水御舟 ー画壇を揺るがした二人の天才ー が開催されています。

展覧会チラシ

今回の特別展は、小林古径(1883-1957)の生誕140年を記念して、山種美術館が所蔵する古径作品すべて(本画44点[37件])に加え、古径の代表作《極楽井》(東京国立近代美術館 展示期間5/20-6/18)、《出湯》(東京国立博物館 展示期間6/27-7/17)、そして古径が若いころから親しく交流してお互いに刺激を受け合った速水御舟(1894-1935)の最高傑作《炎舞》(重要文化財)、《翠苔緑芝》(どちらも山種美術館)はじめ二人の名作の数々が展示される豪華な内容の展覧会です。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2023年5月20日(土)~7月17日(月・祝)
     ※会期中、一部展示替えあり。
     前期 5月20日(土)~6月18日(日)
     後期 6月20日(火)~7月17日(月・祝)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日  月曜日(但し、7/17(月・祝)は開館)
入館料  一般1400円、大学生・高校生1100円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)
     ※入館日時のオンライン予約も可能です。チケット購入方法、各種割引等は山種 
      美術館公式サイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/

【山種美術館新サービスのご紹介】
1 年間パスポート「山種メンバーズ」
  5月20日から同館初の会員制度「山種メンバーズ」がスタートしました。
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2 「無料Wi-Fiサービス」と「館内コンテンツ」
  お客様の利便性向上のため、Wi-Fiサービス(無料)が始まりました。
  このWi-Fiに接続すると、展覧会のみどころや音声による作品解説、和菓子やミュージア 
 ムショップの最新情報が満載の同館オリジナルの「館内コンテンツ」が利用できます。
  詳細はこちらをご覧ください⇒「無料 Wi-Fiサービス」と「館内コンテンツ」 


展示構成
  第1章 歴史人物画からの出発、写実・古典への挑戦
  第2章 渡欧体験を経て
  第3章 二人の交流、御舟亡き後の古径

※展示室内は小林古径《弥勒》(山種美術館)を除き撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※掲載した作品のうち、展示替えがあるものはその旨を記載しました。

第1章 歴史人物画からの出発、写実・古典への挑戦


第1章では、歴史人物画から出発して、1914(大正3)年に再興された院展で活躍したという共通点をもつ二人の作品が、お互いに対話するかのように並んで展示されています。


第1章展示風景

左側には、『平家物語』に取材した《小督》をはじめとした古径の初期の作品と、昔、奥州地方には、男が女の家の門に錦木を立て、女がそれを取り込めば男の思いがかなった証(あかし)とする風習があったという伝説を題材とした《錦木》などの歴史人物画が展示されています。

第1章展示風景

『宇治拾遺物語』にも登場する瘤取爺さんの説話に取材した《瘤取之巻》は御舟が松本楓湖の画塾に入門して3年目の17歳の時に描いたもので、若い頃から平安時代の絵巻をしっかり勉強していることがうかがえ、その後の才能の開花を予感させられる作品です。

速水御舟《瘤取之巻》1911(明治44)年
山種美術館 会期中巻替あり


歴史人物画の向かい側には、二人の風景画と静物画が展示されていますが、ここで特に注目したいのは二人の静物画。

第1章展示風景


大正時代半ば以降、古径も御舟も他の日本画家と同様に洋画家・岸田劉生や中国・宋代の院体花鳥画(11~13世紀)に触発されて静物画や花鳥画を描きました。

速水御舟の《桃花》は、院体花鳥画を意識して枝の一部をクローズアップして小画面に描く「折枝画」の様式に倣って描かれた作品。

速水御舟《桃花》1923(大正12)年
山種美術館

日本画の画材にこだわった御舟に対して、古径は油絵具で描いた作品を残しています。

小林古径《静物》1922(大正11)年
山種美術館

そして落款にも注目です。
どちらの作品も、北宋の徽宗皇帝が創作した、細く強い線と金属的な尖ったはねが特徴の「痩金体」風の書体で書かれています。

政治にあまり関心がなく芸術に力を入れたばかりに民衆を苦しめ、結局は北宋滅亡の原因をつくった「風流天子」徽宗は、当時の人たちにとってはとんでもない皇帝でしたが、後世の芸術に与えた影響は絶大なものがあり、古径や御舟もこのような作品を残したのですから、あらためて徽宗おそるべし、と感じました。

第1章で二人の画業の歩みをたどっているうちに、今回の展覧会のクライマックスの一つともいえる古径の《清姫》(第2章)、そして琳派の影響が色濃くうかがえる御舟の《翠苔緑芝》(どちらも山種美術館)にたどり着きました。

速水御舟《翠苔緑芝》1928(昭和3)年 山種美術館


第2章 渡欧体験を経て 


二人の才能は渡欧体験を経てさらに開花していきますが、日本的な題材である道成寺伝説に取材した小林古径《清姫》がなぜ「第2章 渡欧体験を経て」に分類されているのでしょうか。

小林古径《清姫》1930(昭和5)年
山種美術館

それは、1922(大正11)年、前田青邨とともに日本美術院の留学生として渡欧した古径が、イギリスの大英博物館での中国・東晋時代の画家・顧愷之の作と伝わる《女史箴図》の模写を通じて「高古遊絲描」と呼ばれる「蚕から絹糸をひくような線」に感銘を受け、線描の美に目覚め、それが《清姫》で結実したからなのでした。

《清姫》全8面が会期を通じて一挙公開されるのは5年ぶりのこと。古径が渡欧して見た中国絵画の模写によって生み出された「インターナショナル」な《清姫》をこの機会にお見逃しなく!

一方の御舟は、1930(昭和5)年、大倉喜七郎男爵の支援によってローマで開催された日本美術展に《名樹散椿》を出品し、美術使節として横山大観らとともに渡欧しました。

御舟がヨーロッパやエジプト滞在時の印象をもとに制作した作品のうち、今回の展覧会では《埃及土人ノ灌漑》と《オリンピアス神殿遺址》が展示されていますが、南国の太陽のもと、現地の人たちや風景が明るくのびのびと描かれていて、おおらかな雰囲気が伝わってきます。


速水御舟《埃及土人ノ灌漑》1931(昭和6)年
山種美術館

一方で、渡欧後の御舟は墨の濃淡で花びらを描いた《牡丹花(墨牡丹)》(山種美術館)をはじめ、水墨を基調とした花鳥画へ新境地を切り開いていったのです。

中央が速水御舟《牡丹花(墨牡丹)》1934(昭和9)年、
左 小林古径《蓮》1932(昭和7)年、右 小林古径《牡丹》1951(昭和26)年頃
いずれも山種美術館

花も葉も茎もすべて水墨で描くのでなく、花だけを水墨で描くと花の存在感がより一層増すように感じられるから不思議です。


第3章 二人の交流、御舟亡き後の古径


古径と御舟は11歳の年齢差がありましたが、若い頃から親しく交流し、たびたび旅行にも出かけました。
古径の《弥勒》(山種美術館)は、古径が御舟とともに奈良や京都を訪ねた時の写生をもとに制作された二人の画家の思い出の作品です。

今回はこの作品1点のみ写真撮影OKです。
(撮影はスマートフォン・タブレット・携帯電話に限ります。撮影時の注意事項は作品横のパネルでご確認ください。)

小林古径《弥勒》1933(昭和8)年
山種美術館


古径が魅了されて模写したというエピソードが伝わる速水御舟《桔梗》(山種美術館)。

速水御舟《桔梗》1934(昭和9)年
山種美術館

いつも第1展示室の冒頭にはその時の展覧会を象徴する作品が展示されるのですが、今回は古径にとって最後の院展出品作で、院展に発表した初めての静物画《菖蒲》(山種美術館)です。
古径が好んだ花菖蒲が、愛蔵の古伊万里の壺とともに描かれた、とても上品な作品です。

手前が小林古径《菖蒲》1952(昭和27)年
山種美術館


第2展示室にはもう一つのクライマックスが!


少し照明を落とした第2展示室には、実際には絵なのに、目の前にいると炎の熱気が感じられてきそうな速水御舟の《炎舞》(重要文化財 山種美術館)が展示されています。
いつものことながら絶妙なライティングです。

速水御舟《炎舞》【重要文化財】1925(大正14)年
山種美術館

そして、小林古径の作品は、可愛いさもあって、凛としたたたずまいが感じられる《猫》(山種美術館)。


小林古径《猫》1946(昭和21)年
山種美術館

どちらも今回の特別展のメインビジュアルになっている作品です。


オリジナルグッズも充実してます!


今回も山種美術館所蔵品を中心にデザインされたオリジナルグッズが充実しています。


いろいろあって目移りしてしまいますが、私のイチ押しは新製品のオリジナル猫トートバッグ(税込1,760円)(上の写真左奥)。

山種美術館が所蔵する小林古径の全39作品(46点)が、作者のことばや略年譜とともに掲載された『山種美術館所蔵 小林古径 作品集』(税込1,210円)も今回新たに出版されました。
既刊の『山種美術館所蔵 速水御舟 作品集』(税込1,430円)とあわせておすすめの作品集です。




展覧会鑑賞後のお楽しみはオリジナル和菓子がおすすめです!


展覧会をご覧いただいたあとは、小林古径や速水御舟の作品をモチーフにしたオリジナル和菓子がおすすめです。抹茶とオリジナル和菓子のセットは1,250円(税込)。美術館1階ロビーの「Cafe 椿」でぜひお召し上がりください。
どれも美味で、どれもおすすめなのですが、私の一押しを選ぶとすると、さっぱりした甘みが口の中に広がる「花涼やか」でしょうか。
さて、みなさまのおすすめはどれになりますでしょうか。


もうすぐ公募展の応募が始まります!


今年で3回目を迎えた「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024 ー未来をになう日本画新世代ー」。
今回から関西エリア(京都近郊)での作品の搬入受付が決定しました。応募期間は2023年8月16日(水)から9月10日(日)まで。

詳細は本展特設ページをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/seed2024/

受賞・入選作品が展示公開される「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024 ー未来をになう日本画新世代ー」[会期:2024年2月17日(土)~3月3日(日)]は毎回楽しみにしています。


撮影スポットにあの名作が!



山種美術館が所蔵する速水御舟のもう一つの重要文化財《名樹散椿》は今回は展示されていませんが、1階フォトスポットでは複製画とともに記念写真が撮れる撮影スポットがあります。

撮影スポット

この複製画が販売されているのはご存じでしょうか。御舟の名作をご自宅に飾りたいという方、必見です。


二人の天才画家の才能が共鳴しあって、固い友情も感じられるとても内容の濃い展示です。
この夏おすすめの展覧会です。