2024年1月14日日曜日

大田区立龍子記念館 高橋龍太郎コレクション連携企画「川端龍子+1(PLUS ONE) 濱田樹里・谷保玲奈 色彩は踊り、共鳴する」

開館60年を迎えた東京の大田区立龍子記念館では 高橋龍太郎コレクション連携企画「川端龍子+1(PLUS ONE) 濱田樹里・谷保玲奈 色彩は踊り、共鳴する」が開催されています。

展覧会チラシ

今回の展覧会は、高橋龍太郎氏の3000点以上におよぶ現代アートの所蔵作品の中から選ばれた、前期後期でそれぞれ一人の現代の美術作家の作品と、大田区立龍子記念館が所蔵する川端龍子作品を展示するとどのような共鳴を呼び起こすのかを試みたエキサイティングな企画です。

とても楽しみにしていた展覧会で、前期、後期とも行ってきましたが、遅ればせながら後期展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2023年10月21日(土)~2024年1月28日(日)
 前 期 2023年10月21日(土)~12月3日(日)
 後 期 2023年12月9日(土)~2024年1月28日(日)
開館時間 9:00~16:30(入館は16:00まで)
休 館  月曜日
入館料  一般 300円、中学生以下 150円
展覧会の詳細等は同館公式サイトをご覧ください⇒大田区立龍子記念館 

※撮影可能エリアがあります。館内で配布している作品リストでご確認ください。


前期には幼少期をインドネシアで過ごした濱田樹里さんの南国を思わせる情熱的な屏風の作品が展示されていました。

前期展示の展示風景

そして後期展示は、生命感あふれる色彩鮮やかな植物や動物が描かれた谷保玲奈さんの大画面の作品が展示されています。

展示風景

上の写真手前の天井から吊り下げられた約4mの作品《狭間にゆれる》(2023年 作家蔵)は、今回の展覧会にあわせて制作された新作です。

谷保さんの作品は、近くで見ると様々な種類の草花や、蝶々や魚、さらには人間の内臓のような得体の知れないものまで描かれていて、とても魅力的でミステリアス。
《狭間にゆれる》に描かれているのは、ピンク色の大輪の牡丹、風に揺らめきながら百合の花に群がる蝶々の群れ。
画面下には気持ちよさそうに眠る猫を発見しました。

海の中のサンゴ礁を思わせる大作《ウブスナ》にはクラゲや金魚が描かれ、さらに手前には巨大なキノコまで見えてきます。

谷保玲奈《ウブスナ》2017年
高橋龍太郎コレクション蔵

白砂のビーチが美しい横須賀のたたら浜に谷保さんの対の作品《共鳴/蒐荷》(2018/2020)を設置して撮影した映像作品が展示室内に流れていますが、海鳥の鳴き声と波の音が何とも言えず心地よいです。


谷保玲奈《共鳴》2018年
高橋龍太郎コレクション蔵


谷保玲奈《蒐荷》2020年
高橋龍太郎コレクション蔵


谷保さんの作品と「会場芸術」を唱えた川端龍子の作品ー新旧の大画面の大作が時代を超えて一つの空間の中で共鳴して独特の雰囲気を醸し出していますが、今回の特徴のひとつは出品作家さんがセレクトした川端龍子作品が展示されていることです。
後期には、谷保さんが日本画ってかっこいいと思ったという《草の実》(1931年 大田区立龍子記念館蔵)はじめ生命感が感じられる龍子作品が展示されています。

また、今回は同館に隣接する龍子公園内にある龍子のアトリエで、谷保さんが昨年12月13日(水)~19日(火)に滞在制作を行いました。現在は終了していますが、会期中の10:00~、11:00~、14:00~の龍子公園の案内時にはアトリエ外周から新作を含めた大作、小作をご覧いただくことができます。

龍子公園内の龍子のアトリエ
※谷保さんの滞在制作時に撮影したものです。

会期は1月28日(日)までです。
まだの方はぜひ!

2024年1月9日火曜日

大阪中之島美術館 決定版! 女性画家たちの大阪

大阪中之島美術館では一足早い春の訪れを告げる展覧会、決定版! 女性たちの大阪が開催されています。


展示室前フォトスポット


昨年(2023年)に大阪中之島美術館と東京ステーションギャラリーで開催された特別展「大阪の日本画」で多くの女性日本画家たちの活躍ぶりがクローズアップされましたが、今回は、生き生きとした女性像や、古き良き大阪の街のにぎわいなどを描いた大阪の女性画家たちの作品にフォーカスを当てた展覧会です。

50名を超える近代大阪の女性日本画家の作品約150点が展示され(会期中展示替えあり)、期待通り充実の内容の展覧会でしたので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2023年12月23日(土)~2024年2月25日(日)
     前期:2023年12月23日(土)~2024年1月21日(日)
     後期:2024年1月23日(火)~2月25日(日)
     *会期中展示替えあり
休館日  月曜日(1/8、2/12は開館)
開場時間 10:00-17:00(入場は16:30まで)
     *2月10日~2月25日の期間は10:00-18:00(入場は17:30まで)
会 場  大阪中之島美術館 4階展示室
観覧料  一般 1800円、高大生 1000円、中学生以下無料
展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒大阪中之島美術館 


展示構成
 第1章 先駆者、島成園
 第2章 女四人の会ー島成園、岡本更園、木谷千種、松本華羊
 第3章 伝統的な絵画ー南画、花鳥画など
 第4章 生田花朝と郷土芸術
 第5章 新たな時代を拓く女性たち


※会場内は第5章を除き撮影不可です。掲載した写真はプレス内覧会で美術館より許可を得て撮影したものです。


見どころ1 先駆者、島成園の画業の流れがよくわかる!


今回の展示の見どころのひとつは近代大阪における女性日本画家の先駆者、島成園(1892-1970)の画業の流れがよくわかる構成になっていることです。

第1章展示風景


ここで最初に注目したいのは、《宗右衛門町之夕》(個人蔵 通期展示)。

島成園《宗右衛門町之夕》大正元年頃
個人蔵 通期展示 

この作品は、大正元年(1912)、当時はまだ無名の画家だった20歳の島成園が第6回文部省美術展覧会(文展)に入選した《宗右衛門町の夕》の姉妹作。
舞妓さんの晴れやかな着物の柄、温かみが感じられる表情に心がなごみます。
第6回文展受賞作《宗右衛門町の夕》は現在、所在不明ですが、この《宗右衛門町之夕》からも受賞作の華やいだ雰囲気が伝わってくるように感じられます。

次に注目したいのは、文展の後身・帝国美術院展覧会(帝展)の第2回展(大正9年(1920))の入選作で、賛否両論があり、世間の注目を集めた成園の代表作《伽羅の薫》(大阪市立美術館 通期展示 下の写真右)。

第1章展示風景

イギリスの世紀末を代表する画家ビアズリーの代表作《サロメ》を彷彿させる大胆な構図、ビアズリーが黒と白の対比で描いたのに対して赤、黒、白、金で描かれたこの作品は「不快」とまで批判されましたが、仮に100年後の現在、新作として展覧会に出品されても強烈なインパクトを放ち、話題の作品になったのではないかと思えるほど斬新な作品です。

《無題》《自画像》(どちらも大阪市立美術館 通期展示)のように先駆者ならではの苦悩が感じられる作品も展示されています。
特に《自画像》からは、思うように描けないという焦燥感が伝わってきて、作品の前に釘付けになってしまいました。


島成園《自画像》大正13年(1924)
大阪市立美術館 通期展示


28歳で結婚した成園は、銀行員の夫とともに上海に滞在しますが、スランプの時期だったとはいえ、上海で描いた作品は、上海のエキゾチックな雰囲気が感じらてとても好きな作品です。

左から 島成園《上海にて》大正14年頃 《上海娘》大正13年
どちらも大阪市立美術館 前期展示(12/23-1/21)
後期(1/23-2/25)には《上海婦人》大正13年 大阪市立美術館、
《燈籠祭之夜》大正14年頃 福富太郎コレクション資料室
が展示されます。


見どころ2 島成園と同時代の女性日本画家がそろい踏み!


女四人の会

第2章で紹介されるのは、島成園の文展入選に勇気づけられて、その後の文展に入選した同時代の女性日本画家、岡本更園(1895-不詳)、木谷(旧姓・吉岡)千種(1895-1947)、松本華羊(1893-1961)。

第2章展示風景


4人は伊原西鶴の『好色五人女』を研究し、物語に登場した人物の美人画を制作して「女四人の会」展で発表しましたが、今回の展覧会ではそのうち2点が展示されています。


左 島成園《西鶴のおまん》 右 岡本更園《西鶴のお夏》
どちらも大正5年(1916) 個人蔵 通期展示

島成園が描く侍姿の娘おまんの流し目には、目を合わせたらスーッと吸い込まれそうな凄味が感じられます。

ほかにも岡本更園の第8回文展入選作《秋のうた》(大正3年(1914) 個人蔵 通期展示)、木谷千種の第12回文展入選作《をんごく》(大正7年(1918) 大阪中之島美術館 前期展示)、第12回文展に落選したとはいえ、棄教を拒否して処刑を待つ若い遊女の凛とした姿が描かれた松本華羊の《殉教(伴天連お春)》(大正7年(1918)頃 福富太郎コレクション資料室 通期展示)をはじめ、「女四人の会」のそれぞれ個性豊かな逸品が展示されています。

第2章展示風景


花鳥画、山水画も優品ぞろい


「大阪の日本画」展で見る機会があった2人の女性日本画家、水墨で描く山水画を得意とした橋本青江(1828-1905頃)と、青江の弟子で青緑山水の優品を残した川邊青蘭(1868-1931)をはじめとした山水画の作品にふたたびめぐり会えるのも今回の展覧会の楽しみの一つでした。


第3章展示風景

特に筆者は、「西の青江、東の晴湖」と並び称された奥原晴湖の明清絵画の影響を受けた山水画の大ファンなので、同じく中国文人文化に憧れた橋本青江の山水画はじわっと心に沁みてくるのです。

第3章展示風景


古き良き大阪の雰囲気を伝える生田花朝

「大阪の日本画」展で見て特に印象的だった生田花朝(1889-1978)が描く大阪の祭礼や寺社の風景は、見たことがないのになぜか懐かしさを感じさせてくれる作品ばかりです。

第4章展示風景

三歳年下の島成園が二十歳で文展に入選して、その後若い女性画家が文展で入選する一方で、文展での落選が続いた生田花朝が初めて官展に入選したのは遅く、大正14年(1925)に開催された第6回帝展、花朝35歳の時でした。
それでも翌年の第7回帝展では《浪花天神祭》が特選を受けるという栄誉に浴し、それからも生涯にわたり大阪の風物を描きました。
特選を受賞した大作《浪花天神祭》は現在、所在不明ですが、天神祭を描いた作品は人気を博したので、その後も描き続け、今回の展覧会で展示されている《天神祭》(上の写真右 昭和10年(1935)頃 大阪府立中之島図書館 通期展示)もそのうちの1点です。


見どころ3 次の世代も百花繚乱、多士済々!


第5章には、大正から昭和初期にかけて、「成」の字を雅号に授かった島成園の門下生や、木谷千種の画塾・八千草会、大阪画壇を代表する日本画家の一人、北野恒富の画塾・白耀社をはじめとした画塾で腕を磨いた、島成園たちの次の世代の女性画家の作品が展示されています。


第5章展示風景



第5章展示風景


下の写真《淀殿》(大正後期-昭和前期 個人蔵 通期展示)は、「喜代子」と記された落款以外に作者の情報がなく、第2章に展示されている木谷千種の《化粧(原題・不老の願い)》(昭和2年(1927) 個人蔵 前期展示)と作風や画題が似ていることから、八千草会出品作家の中に「喜代子」という名前の作者が確認できたので、この屏風が「西口喜代子」の作品と判定されたものです。

西口喜代子《淀殿》大正後期-昭和前期
個人蔵 通期展示


作者もミステリアスなら、描かれた人物もミステリアス。
《淀殿》は仮のタイトル。着物の柄の「太閤桐」の文様などからこの女性が豊臣秀吉の側室、淀殿ではないかと思われているものなのです。

先ほどご紹介した生田花朝の画室は昭和20年3月の大空襲で焼失してしまったように、きっと多くの作品が戦災で失われたことでしょう。それでもすそ野が広かった大阪の女性画家たちの隠れた名作が見つかる可能性があるのもこれからの楽しみの一つかもしれません。



第5章展示風景



展覧会オリジナルグッズも充実してます!


展覧会図録は全展示作品のカラー図録はもちろん、詳しいコラムも、主要作品解説、作者作品解説も、作家ごとの解説もあって充実の内容。まさに決定版です!


展覧会図録 ¥2,900(税込)


展示作品がモチーフとなったA6サイズのノート、ポストカード、マグネットなど展覧会関連グッズも充実していて、欲しいものばかりなので目移りしてしまいます。
お帰りにはぜひ特設ショップにお立ち寄りください。




巡回展はありません。
地元・大阪でぜひ大阪の女性画家たちの競演をご覧ください!

2024年1月4日木曜日

静嘉堂@丸の内 ハッピー龍イヤー!~絵画・工芸の龍を楽しむ~

今年(2024年)は辰年。
新年を迎えるのにふさわしい展覧会が静嘉堂文庫美術館の展示ギャラリー静嘉堂@丸の内で1月2日(火)から始まっています。

「静嘉堂@丸の内」ホワイエ


展覧会のタイトルは「ハッピー龍イヤー!~絵画・工芸の龍を楽しむ~」。

筆者は怪獣映画「ゴジラ」で育った世代なので、龍というと、地球侵略をたくらむ宇宙人に操られたキングギドラを思い浮かべて怖いイメージがあるのですが、迫力のある龍も、こんなに可愛くていいのかという「ゆるキャラ」のような愛嬌のある龍もいて、絵画や工芸作品の中に出てくるバリエーションに富んだキャラクターの龍が楽しめる展覧会です。

それでは開幕に先立って開催された報道内覧会に参加しましたので、展示の様子をさっそくご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期   2024年1月2日(火)~2月3日(土)
休館日   月曜日、1月9日(火)
      ※ただし、1月8日(月・祝)、1月29日(月)は開館
特別開館日 1月29日(月)は普段ご遠慮いただいている展示室内での会話が自由にできる
      「トークフリーデー」として特別開館。当日は展示室内で担当学芸員さんに
      よる列品解説(事前予約不要)が11:00~と14:00~の2回(各回40分)が行われ
      ます。
開館時間  10時~17時(金曜日は18時まで) ※入館は閉館の30分前まで
入館料   一般 1,500円、大高生 1,000円 中学生以下無料
      障がい者手帳お持ちの方 700円(同伴者1名無料)
      ◇「辰年生まれ」の方、姓名に「龍・竜・辰・タツ・リュウ」がついている方    
        は同伴者を含め本展の入館料が200円割引になります。
       (他の割引との併用不可。入館の際、証明になるものをご提示ください。)

展覧会の詳細等は公式サイトをご覧ください⇒https://www.seikado.or.jp/

※展示室内には撮影可のエリアがあります。ホワイエは撮影可。会場内で撮影の注意
 事項をご確認ください。
※掲載した写真は、報道内覧会で美術館より特別の許可を得て撮影したものです。
※掲載した作品はすべて静嘉堂文庫美術館所蔵です。


展示構成
 第1章 龍、東アジアを翔ける
 第2章 龍、中国工芸に降臨す
 第3章 龍、日本を駆けめぐる
 第4章 龍、茶道具に入り込む
 ホワイエ ~龍、丸の内でお迎え~


第1章 龍、東アジアを翔ける


第1章には、中国、朝鮮、日本でつくられた古代の鏡、陶磁器、工芸品などが展示されていて、中国で生まれた龍が、東アジアでどのように表現されていったのかがよくわかります。

第1章展示風景

ここで特に注目したいのは、中国最古の部種別の漢字辞典『説文解字』(重要文化財)。
もとは後漢時代(25-220)の許慎が作った字書で、静嘉堂本は南宋時代(1127-1276)初期のもので、同類の中では最古という貴重なものなのです。
今回の展覧会では、8冊のうち1冊目冒頭(右側)と、「龍」の字を掲載する6冊目のページ(左側)が展示されています。


重要文化財 許慎(後漢時代)/著 徐鉉ほか/校
『説文解字』8冊のうち 南宋時代(12世紀)刊

展示ケース反対側の壁面には『説文解字』の「龍」の解説パネルがあって、日本語訳もあります。
それによると、龍は「その姿は暗くもなり、明るくもなり、小さくもなり、大きくもなり、短くもなり、長くもなる。」とのこと。龍は変幻自在で、その存在はミステリアス、ますます興味が湧いてきます。


第1章の中で、グッズになったらぜひ欲しいと思ったものがこちら。おしゃれな刀装具です。

佐野道好 《十二支図鐔・三所物(小柄・目貫・笄)》
江戸時代末期(18-19世紀)

上の写真の一番上は、十二支のうち表に子から牛、裏に未から亥までが置かれた刀の鐔(つば)。
下の三所物、小柄(こつか)、目貫(めぬけ)、笄(こうがい)には、わずか数センチの幅に12匹の動物たちが表現されている精巧なもの。当時の金工師たちの腕前のすごさに驚かされます。


第2章 龍、中国工芸に降臨す


第2章では、漆芸、陶磁、染織など、中国の明時代から清時代までの中国工芸の逸品に表された龍を見ることができます。

第2章展示風景


堆朱(ついしゅ~朱漆を厚く塗り重ねて、これに文様を彫刻したもの)の作品「《雲龍堆朱盒》「大明宣徳年製」銘」は、明時代初期で明の全盛期の皇帝、永楽帝、宣徳帝の世で、中国漆工史上の堆朱の全盛期でもあった時代に作られた逸品。

《雲龍堆朱盒》「大明宣徳年製」銘 景徳鎮官窯
明時代 宣徳年間(1426-35) 

蓋の表に宝珠を追う5爪の龍、身と蓋の側面に書く4匹、合計9匹の龍の大型の堆朱盒(蓋物)は、北京と台北の故宮博物院と静嘉堂文庫美術館所蔵のこの作品の、世界に3点だけしか知られていないとのこと。
3点のうち一つが台北故宮博物院に所蔵されているということは、1933年初頭、日本軍が北京に迫る危機的な状況の中、北京故宮から避難させた選りすぐりの逸品の中にこの作品と同種の堆朱盒が入っていたのですから、ここに展示されている作品がどれだけ貴重なものなのかがうかがえます。

衰退した明を復興させた明時代末期の皇帝・万暦帝の時代の堆朱や景徳鎮官窯の陶磁もずらりと並んでいますが、その中で可愛らしい表情の龍を発見しました。


《五彩雲龍文盤》「大明万暦年製」銘 景徳鎮官窯
明時代 万暦年間(1573-1620)

色彩豊かでいかにも「万暦赤絵」らしい「《五彩雲龍文盤》「大明万暦年製」銘」の左のくりっとした目の赤い龍ですが、皇帝を象徴する5爪の龍なのにこんなにひょうきんな表情をしています。
今の時代なら「ゆるキャラ」で人気が出るかもしれません。


第3章 龍、日本を駆けめぐる


第3章では、日本の絵画や工芸作品の中を駆けめぐる龍の姿が楽しめます。

静嘉堂@丸の内の特徴でもある大きな展示スペースに収まっているのは、三菱第2代社長・岩﨑彌之助氏の支援のもと、明治28年(1895)に京都で開催された第4回内国勧業博覧会に出品された二双の屏風。

第3章展示風景


そのうちのひとつは、狩野芳崖と並んで明治近代日本画界のスーパースター、橋本雅邦の《龍虎図屏風》(重要文化財)。

重要文化財 橋本雅邦《龍虎図屏風》
明治28年(1895)

昭和30年(1955)に近代日本絵画として初めて重要文化財に指定された《龍虎図屏風》も、発表当時は「小さい龍の顔が老いている」とか、「腰抜けの虎」などマスコミ受けがよくありませんでしたが、にらみ合う龍と虎、吹き荒れる風、うねる波、降り注ぐ雨、不気味にきらめく雷光を目の前にすると、雨や風が顔に当たりそうなくらい、その迫力にただただ圧倒されます。

有田窯の龍たちはユーモラスでチャーミング。

第3章展示風景

少しいたずらっぽそうな表情が何とも言えず愛くるしく感じられます。

《色絵団龍文陶板(古伊万里・柿右衛門様式) 有田窯
江戸時代 宝暦年間(1673-81)


第4章 龍、茶道具に入り込む


今までさまざまな龍を見てきましたが、龍は日本の茶道具の中にまで入り込んでいました。

第4章展示風景

室町時代以降、大名や茶人たちは、金糸で文様を織り出した「金襴(きんらん)」など「名物裂」と呼ばれる織物を茶入を包む「仕覆(しふく)」などに用いましたが、その仕覆にも龍の文様が表されているものがあるのです。

小さい龍の模様が見えてきますので、拡大鏡でぜひじっくりご覧ください。

(瀬戸肩衝茶入 銘「白露」付属)
右:丹地角龍金襴仕覆 明時代(16-17世紀)
左:白地大燈台金襴 明時代(14-15世紀) 


そして、今回の展覧会のトリを務めるのはもちろん国宝《曜変天目(稲葉天目)》。
この輝きはいつ見ても飽きることはありません。

国宝 《曜変天目(稲葉天目)》 建窯
南宋時代(12-13世紀)




福袋で「曜変天目ぬいぐるみ」がゲットできます!


新春福袋セット「松」「竹」「梅」の3種類がショップで発売中です。
そのうち「松」には発売以来大人気の「曜変天目ぬいぐるみ」が必ず入っているという豪華版。
数量限定なのでお早めに!

新春福袋セット


十二支の中でも龍だけは想像上の動物なので動物園でも自然の中でも見ることはできません。
ぜひ静嘉堂文庫美術館で今年の干支「龍」をお楽しみください!

2024年1月3日水曜日

大阪中之島美術館 「テート美術館展 光 ー ターナー、印象派から現代へ」

大阪中之島美術館では、英国・テート美術館のコレクションの中から「光」をテーマに、18世紀末から現代まで約200年間のアーティストたちの作品が見られる展覧会が開催されています。

会場入口前のフォトスポット


タイトルは「テート美術館展 光 ー ターナー、印象派から現代へ」
今回の展覧会は、イギリスを代表する風景画家ターナーや、モネをはじめとした印象派、ラファエル前派の油彩画、写真や映像作品から現代美術家オラファー・エリアソンのインスタレーションまで、ジャンルも年代も表現方法も異なる作品が見られる盛りだくさんの内容です。

「ターナー展」や「印象派展」といった一人のアーティストや、一つのテーマの展覧会も見応えがあっていいのですが、プリンアラモードのように一つの皿の中でいろいろなものが楽しめる展覧会の味わいもまた格別です。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2023年10月26日(木)~2024年1月14日(日)
会 場  大阪中之島美術館 5階展示室
開場時間 10:00-17:00 ※入場は閉場の30分前まで
休館日  毎週月曜日(ただし1月8日は開館)、12月31日、1月1日
観覧料  一般 2,100円、高大生 1,500円、小中生 500円
チケットの購入方法、展覧会の詳細、イベント、キャンペーン等は展覧会公式サイトでご確認ください⇒https://tate2023.exhn.jp/


※撮影禁止マークがついている作品の写真撮影はできません。撮影禁止マークは作品リストでも確認できます⇒作品リスト


暗闇の中から見えてくるものは?


展覧会は聖書を題材にした油彩画から始まります。

『旧約聖書』創世記の冒頭にあるように、神は暗闇から始まった世界に光を与えました。
スコットランド出身の風景画家・ジェイコブ・モーアの《大洪水》に描かれた光は、岩山の向こうから出てきたぼんやりとした陽の光。
それは、神によって起こされた洪水のあと、まだ水が引かない大地に姿を現した人々を照らす希望の象徴のように感じられます。


会場風景


静かな印象を与えるモーアの《大洪水》とは対照的に、ターナーの《光と色彩(ゲーテの理論)――大洪水の翌朝――創世記を書くモーセ》には、激しく渦巻く雲の中、後ろから光を受けたモーセの影が浮かび上がり、新たなことを予感させるドラマチックな場面が展開しています。(『旧約聖書』の最初の五書(創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記)はモーセの作とされ「モーセ五書」と呼ばれています。)

会場風景


ジョン・マーティンは、人間の力ではどうすることもできない天変地異など自然の偉大な力を描き、見る人に自然の崇高さを呼び起こした画家でした。

ジョン・マーティン《ポンペイとヘルクラネウムの崩壊》
1822年、2011年修復


空一面を覆う噴煙と炎、荒れ狂う海となすすべもなく海岸に打ち上げられる船、自然の猛威に恐れおののき斃れる人たち、無造作に地面に置かれたぜいたくの象徴としての銀食器。
ポンペイと、ナポリ湾に面したヘルクラネウム(現在のエルコラーノ遺跡)がヴェスヴィオ火山の噴火に見舞われる場面が描かれたこの作品は、彼の出世作で『旧約聖書』ダニエル記のエピソードを描いた《ベルシャザルの饗宴》のように、見たことがない光景なのにあたかもその場にいたかのように細部までリアルに描かれていることに驚かされます。


画家は自然の光をどのようにとらえたか?


時の流れとともに移りゆく自然の光をどのように表現するかという難解なテーマに一つの答を示したのは、ターナーのライバル、ジョン・コンスタブルでした。

会場風景

コンスタブルは画面の大半に雲や大気の様子などを描き、自然の空気感をとらえようとしたのです。それが、光の加減で見えてくる景色が変化する睡蓮の池などを描いたモネをはじめ印象派の画家たちにも連なっていくのでした。

会場風景

モネの作品は《ポール=ヴィレのセーヌ川》《エプト川のポプラ並木》の2点展示されています。
モネのファンで、「大好きなモネの作品をもっと見たい!」という方もいらっしゃるかと思いますが、ご心配なく。
同じく大阪中之島美術館の5階展示室では、次回展として2024年2月10日(土)~5月6日(月・休)に100%モネの展覧会「モネ 連作の情景」が開催されるので、ぜひこちらもご覧ください。
大阪中之島美術館のサイト⇒「モネ 連作の情景」

さて、今回は光がテーマなので光の作品に戻ります。
空から燦燦と輝く太陽の光が放射状に描かれ、まばゆいばかりの空が表現されたジョン・ブレットの《ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡》は、これぞ「ザ・光」。光そのものを描いた作品なので、太陽の光が主役と言ってものよいこの作品が展覧会のメインビジュアルになっているのもうなずけます。

会場風景

自然の景色でなく室内というプライベートな空間を描き続けたアーティストがいました。
その名は「北欧のフェルメール」とも呼ばれたデンマークを代表する画家ヴィルヘルム・ハマスホイ。
最近特に人気が高まっているハマスホイの作品のポイントは窓から入ってくる光の効果。
冬が長く室内にいることが多い北欧の国デンマークらしく、室内のぬくもりが伝わってくるように感じられます。

会場風景



色とりどりの光のインスタレーションが楽しめます。


冬になると全国各地でイルミネーションやクリスマスの飾りが街をいろどり、華やいだ雰囲気になりますが、会場内でも色とりどりの光のインスタレーションを楽しむことができます。

これは高層ビル群の夜景?繁華街のネオンサイン?
鑑賞者に都市を想起せることを試みた英国生まれのデイヴィット・バチェラーの作品からみなさんは何を思い浮かべるでしょうか。


デイヴィッド・バチェラー 左:《ブリック・レーンのスペクトル2》2007年、
右:《私が愛するキングス・クロス駅、私を愛するキングス・クロス駅 8》
2002-07年 ©David Batchelor

光の展覧会のトリを務めるのはやはりこの方。
気候変動に関心をもち、アートを通じて私たちに地球環境問題を訴えかける現代の人気作家オラファー・エリアソンです。
この《星くずの素粒子》は照明の条件や鑑賞者の立つ位置によって表情を変える彫刻作品ですので、ぜひ場所を変えてじっくりご覧いただいて、この神秘的な空間を体験していただきたいです。


オラファー・エリアソン《星くずの素粒子》
2014年 ©Olafur Eliasson


光とアートをめぐる200年の軌跡が体験できる展覧会です。
英国・テート美術館の7万7千点以上のコレクションから「光」をテーマに厳選された約120点が展示され、そのうちおよそ100点が日本初出品。
さらに中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを巡回した展覧会の最終会場となる大阪では、ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング(726)》などが日本で初めて出品されています。


ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング(726)》
1990年 ©Gerhard Richter 2023

会期は2024年1月14日(日)まで。
世界をめぐり東京展から巡回して大阪展が最後のチャンスです。
この冬おすすめの展覧会です!