2021年11月25日木曜日

東京都美術館「ゴッホ展」~展覧会が10倍楽しめる完全ガイドブックをご紹介!

 東京上野公園で9月18日から始まった「ゴッホ展-響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」にはもう行かれましたでしょうか。
⇒終了しました。現在は名古屋市美術館で4月10日(日)まで開催中です。

開幕以来、毎日大盛況で、日程の都合をつけようとしたら予約が埋まってしまうということが続いてなかなか行かれなかったのですが、先日、金曜日の夜間開室のときにようやく行くことができました。



上野の夜の暗がりに浮かび上がる《夜のプロヴァンスの田舎道》

展覧会は、ゴッホと同時代の画家や20世紀のキュビズムの画家たちの作品に始まって、ゴッホの素描や版画、さらに油彩画に移り、絵具のごてごて厚塗り、筆の勢いにまかせて描くゴッホらしい作品に至るまで、ゴッホの画業の道のりがわかる、とても内容の濃い展覧会でしたが、実は、事前にある本で予習していたので、さらに何倍にも楽しむことができたのです。

その本とはこちら、アエラのムック本で今回のゴッホ展の完全ガイドブック『ゴッホ展 響き合う魂 ヘレーネとフィンセント』(本体1400円+税)です。


キャッチコピーは、「展覧会を10倍楽しむ鑑賞ポイント教えます!」。

本の中では今回出展されているゴッホ作品のうち4点がピックアップされていて、それぞれの観どころが紹介されています。

見どころ紹介されている作品は次の4点です。

1 《夜のプロヴァンスの田舎道》(1890年5月12日~15日頃 クレラー=ミュラー美術館蔵)
2 《黄色い家(通り)》(1888年9月 ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)蔵)
3 《種まく人》(1888年6月17~28日頃 クレラー=ミュラー美術館蔵)
4 《レストランの内部》(1887年夏 クレラー=ミュラー美術館蔵)

それではこの中から《夜のプロヴァンスの田舎道》と《レストランの内部》の記事を少しご紹介したいと思います。

まずは《夜のプロヴァンスの田舎道》。


この作品の注目ポイントは、月と星が輝く夜空に白馬が引く幌馬車の中の男女のカップル、農作業を終えて家路につく二人の農夫、中央の巨大な糸杉にイネ科の多年草のヨシタケ(画面中央の帯状の黄色い部分)。

ゴッホがゴーガンへの手紙で語っているように、この作品はまさに「ロマンチック」で「プロヴァンス的」。
ゴッホは南仏プロヴァンスの農村の風景を描いただけでなく、そこにロマンチックな要素を散りばめたのです。

そしてこの本の特長は、他の画家たちの作品と比較して、ゴッホのすごさを解説しているところです。

例えばこちら。



右のぺージには《夜のプロヴァンスの田舎道》、左のページには同じく星空を描いた3つの作品が紹介されています。
(左のページ 上がミレー《星の夜》(1850~65年頃 イェール大学美術館蔵)、下の右がゴッホ《星月夜》(1889年6月 ニューヨーク近代美術館蔵)、下の左がムンク《星月夜》(1922~1924年 ムンク美術館蔵)。いずれも本展には出品されていません。)

19世紀半ばのミレーは太陽の残照を残して真っ暗なバルビゾンの夜空を描き、20世紀のムンクは街や部屋の明かりに照らされた夜空を描いたのですが、ゴッホは自らの想像力で月だけでなく星を描いて明るい夜空を描いたのでした。


続いて、ゴッホも点描技法に挑戦していたという作品《レストランの内部》。



点描技法というと、ご本家はスーラとシニャック。
画面全体を点描で埋め尽くした二人の画家と違って、ゴッホの点描は一部にとどまっていますが、これもゴッホが自身の画風を確立するための一つの過程だったのでしょう。
新しいものを取り入れようとしたゴッホの努力のあとが感じられる作品です。

ゴッホと同時代の画家の作品が展示されているエリアにはスーラの《ポール=アン=ベッサンの日曜日》、シニャックの《ポルトリューの灯台、作品183》(いずれもクレラー=ミュラー美術館蔵)が展示されているので、ぜひ見比べてみてください。

今回の展覧会では、クレラー=ミュラー美術館からゴッホの絵画28点、素描20点、ミレー、ルノワール、スーラ、ルドン、モンドリアンらの絵画20点、さらにファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)からゴッホ作品が4点特別出品されているのですが、このガイドブックでは、ほとんどの作品が出品されているクレラー=ミュラー美術館や創設者のヘレーネ・クレラー=ミュラーの紹介記事や、ゴッホが残した手紙の数、ゴッホが描いた自画像の数、引っ越し回数など数字で辿るゴッホの生涯の記事もあって盛りだくさんの内容です。

これから行かれる方には予習にぴったりですし、ゴッホの年表やゴッホが主役の映画&読書案内もあるので、ゴッホをよく知ることができる永久保存版です。

書店でも販売しているので、ぜひお手に取ってご覧ください。

私はこのガイドブックを小脇に抱えて展示室に入って、ときどき休憩を兼ねてベンチに座ってページをパラパラめくり、紹介されている作品をもう一度見るということを繰り返していましたが、とても楽しく作品を見ることができました。


展覧会基本情報は次のとおりです。
東京都美術館での展示は12月12日(日)までですが、その後、福岡市美術館、名古屋市美術館に巡回します。

展覧会基本情報


会 期  2021年9月18日(土)~12月12日(日)⇒終了しました。
会 場  東京都美術館企画展示室
休室日  月曜日(11月29日(月)は開室)
開室時間 9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室 10月15日(金)より、毎週金曜日は20:00まで開室します(入室は閉室の30分前まで)。
観覧料  一般 2,000円、大学生・専門学校生 1,300円 65歳以上 1,200円
*本展は日時指定予約制です。詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。

巡回展 福岡市美術館  2021年12月23日(木)~2022年2月13日(日)⇒終了しました。
    名古屋市美術館 2022年2月23日(水・祝)~4月10日(日)
    

充実した展覧会オリジナルグッズが販売されているミュージアムショップを出たところで、とてもいいものを発見しました。

最近ではグッズと並んで人気がある展覧会オリジナルガチャガチャです。
ガチャガチャファンを自認する私としては通り過ぎるわけにはいきません。

ガチャガチャマシーンの横には親切にも千円札の両替機がありました。

種類は、柔らかい塩化ビニール製でストラップ付きの絵画と缶バッチの2つ。
私がトライしたのは絵画の方。もちろんコンプリートしました。
ご興味ある方はこちらもぜひ!



2021年11月23日火曜日

山種美術館 開館55周年記念特別展「奥村土牛-山﨑種二が愛した日本画の巨匠 第2弾」

東京広尾の山種美術館では、開館55周年記念特別展「奥村土牛-山﨑種二が愛した日本画の巨匠 第2弾」が開催されています。

展覧会チラシ

今回の特別展では、山種美術館が所蔵する135点の奥村土牛コレクションの中から70点近い作品が展示されていて、どれも名作ばかり。土牛と山種美術館創立者・山﨑種二氏との親交がうかがえる資料とともに土牛の魅力を感じることができるとてもいい雰囲気の展覧会です。


展覧会概要


会 期 2021年11月13日(土)~2022年1月23日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は閉館時間の30分前まで)
休館日  月曜日[12/27(月)、1/3(月)、1/10(月・祝)は開館、1/10(火)は休館、    
     12/29~1/2は年末年始休館]
入館料  一般1300円、大学生・高校生1000円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)
    *障がい者手帳、被爆者健康手帳をご提示の方、およびその介助者(1名)1100円、
     上記のいずれかのうち大学生・高校生は900円
    *きもの特典:きものでご来館された方は、一般200円引き、大学生・高校生
     100円引き)の料金となります。
    *複数の割引、特典の併用はできません。
    *チケットは、ご来館当日、美術館受付で通常通りご購入いただけます。 また、
     入館日時が予約できるオンラインチケットもご購入可能です。

オンライン展覧会、オンライン講演会など展覧会関連イベントも開催されます。詳細は同館公式サイトでご確認ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/

展示構成
 第1章 土牛芸術の礎
 第2章 土牛のまなざし
 第3章 百寿を超えて
 特集   土牛と山﨑種二

※展示室内は次の作を除き撮影不可です。掲載した写真は、プレス内覧会で美術館より特別に許可をいただいて撮影したものです。
※展示作品はすべて奥村土牛作、展示作品・資料はいずれも山種美術館所蔵です。

今回撮影OKの作品は、奥村土牛《兎》です。

奥村土牛《兎》1936(昭和11)年頃



見どころ その1 醍醐寺「太閤しだれ桜」の競演が見られる!


さて、今回も見どころいっぱいの展覧会なのですが、ぜひ注目していただきたのは京都・総本山醍醐寺の「太閤しだれ桜」の競演です。

豊臣秀吉の「醍醐の花見」で知られる醍醐寺の「太閤しだれ桜」の組織培養による苗木増殖に成功した住友林業が、このたび代表作《醍醐》を描いた奥村土牛とゆかりの深い山種美術館に「太閤しだれ桜」の苗木を寄贈されました。


「太閤しだれ桜」の苗木


苗木と聞いていたので、ホームセンターに売っているような両手に乗るくらいの小さなものを想像していたのですが、実際に見て驚きました。
ご覧のとおり、高さおよそ4mの立派な若木。順調にいけば来年春には花が咲くところが見られるとのことですが、成長して土牛の《醍醐》のように満開のしだれ桜が見られる日が来るのが楽しみです。

JR恵比寿駅方面から歩いてくると、美術館正面玄関手前の角に植樹されているので、ぜひこちらもご覧ください

そして、こちらは展示室内の奥村土牛《醍醐》。

奥村土牛《醍醐》1972(昭和47)年

安定感のある太い幹の上に淡い薄紅色のしだれ桜が咲き誇り、背景の白壁がしだれ桜の色をさらに引き立てています。
桜の花びらは一枚一枚貼り付けたかのように厚みを帯びていて、まるでその場で花見をしているかのような感覚になってきます。


見どころ その2 動物たちがかわいい!


冒頭にモフモフの毛皮の柔らかさが伝わってくる兎の作品をご紹介しましたが、土牛の動物に対する優しいまなざしが感じられる作品に出合えるのも今回の展覧会の楽しみの一つです。

こちらは丸まっている姿がかわいいつぶらな瞳の黒ウサギ。赤いポピーとの色の対比が鮮やかです。


奥村土牛《兎》1947(昭和22)年頃


親牛の下に隠れて恥ずかしそうにこちらをちらっと見る仔牛も可愛らしいです。

奥村土牛《犢(こうし)》1984(昭和59)年

42年ぶりに展示される鯉も愛嬌のある顔をしています。

奥村土牛《鯉》1948(昭和23年)頃

そしてこちらは、1975(昭和50)年の兎年から土牛が毎年正月に制作した干支の扇子の原画。

第2展示室展示風景

どの動物にも土牛の優しいまなざしが感じられる作品です。来年(2022年)の干支の「寅」もどことなくユーモラス。

奥村土牛《寅》1986(昭和61)年



見どころ その3 どっしりとした存在感がすごい!


土牛という雅号から連想するわけではないのですが、私にとっての土牛作品のイメージは「どっしりとした存在感」なのです。

中でもお気に入りは、姫路城を描いた《城》。

奥村土牛《城》1955(昭和30)年

青空を背景に遠くから見た天守閣を小さく描くのではなく、土牛が描く姫路城は目の前に迫りくる白い壁。まさに城という物体がここにある!という感じが好きなのです。

こちらは水しぶきがかかってきそうなほど近くから見上げた那智の滝。ゴーッという滝の音が聞こえてきそうな迫力です。

奥村土牛《那智》1958(昭和33)年

「どっしり」といえばこの作品。
初代若乃花とともに昭和30年代前半に「栃若時代」を築き上げた横綱栃錦の引退時の姿を描いた《稽古》(下の写真左)です。
軽量でスピード感あふれる取り口で出世街道を登りあがった栃錦も、引退時はご覧のとおりどっしりとした体形になっていました。
(優雅な振る舞いの女性像と並んで展示されているのを眺めると、あらためて土牛の画風の幅広さを感じます。)

左から、奥村土牛《稽古》1966(昭和41)年、
《舞妓》1954(昭和29)年、《踊り子》1956(昭和31)年


ほかにも旅情を誘う風景を描いた作品はじめ、まだまだ紹介しきれていない作品もたくさんありますので、ぜひその場でご覧いただいてお気に入りの一品を探してみてください。

展示風景
左から、奥村土牛《大和路》1970(昭和45)年、
《輪島の夕照》1974(昭和49)年、《谷川岳》1975(昭和50)年 




ミュージアムショップもカフェも充実してます!


展覧会のあとの大きな楽しみの一つは、ミュージアムグッズ。
今回特におススメしたいのは、「太閤しだれ桜」にちなんだ桜の花びらの形をしたカードスタンド(税込880円)。
お気に入りの絵はがきを机の上に立てかけると、薄紅色の花びらがワンポイントになって明るい雰囲気になります。



自然栽培で育てた健一自然農園のこだわりの茶葉を使用した煎茶やお茶のティーバック8個入りの山種オリジナルお茶缶(税込 各1,080円)は、山種美術館の人気作品をラベルにしているので、飲んだ後もオシャレな小物入れとして使えます。




そしてこちらは山種美術館が所蔵する速水御舟の重要文化財《名樹散椿》を共同印刷株式会社オリジナルの技法「彩美版®」で制作した高精度のデジタル複製画。
背景の金地の「撒きつぶし」には一部本金泥が使用されるという豪華版です。



限定300部制作で販売価格は275,000円(税込)。
それなりのお値段はしますが、実物を見れば自宅のお部屋に飾りたいと思うようになるかもしれません。ぜひミュージアムショップでご覧ください。カタログをいただくこともできます。
※ミュージアムショップ内も撮影不可です。

Cafe椿の特製和菓子も山種美術館を訪れる楽しみの一つ。
抹茶とのセットで1,200円(税込)。
さて今回はどれにしようかな、といつも迷ってしまいます。


上の写真、右上から時計回りに、冬のけしき(《雪の山》)、「うず潮」(《鳴門》)、八重白椿(《早春》)、「たわら牛」(「奥村土牛から山﨑種二宛書簡(牛)」)、「ひとひら」(《醍醐》)。
(カッコ内はモチーフにした奥村土牛の作品で、いずれも山種美術館所蔵です。)


楽しさいっぱいの展覧会は来年(2022年)1月23日(日)まで開催されます。

お正月恒例の限定企画もあります。

 ① 1 月 3 日(月)限定 プチギフトプレゼント ※展覧会ご入場の先着 100 名様
 ② ミュージアムショップにて「新春福袋」限定 50 個販売(お一人様1袋まで)
 ③ Cafe 椿にてお正月限定和菓子をご提供 ※1 月 7 日(金)まで実施

この冬はぜひ山種美術館でお楽しみください!


2021年11月5日金曜日

東京国立博物館 伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」

 今年(2021年)10月から来年(2022年)5月にかけて、東京、九州(福岡)、京都の3つの国立博物館を巡回しながら開催される伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」の東京国立博物館での展示が始まりました。



今回の特別展は、門外不出の秘仏ご本尊が寺外で初公開されるなど、天台ゆかりの寺社などの至宝が展示されて、3館を巡ってまさに「天台宗のすべて」がわかる展覧会。
東京、九州(福岡)、京都、それぞれの国立博物館では、各地域の特色ある展示が見られ、それぞれの会場で展示される作品のラインナップは大きく異なります。
今回は東京会場の見どころを中心にご紹介したいと思います。


東京会場展覧会概要


会 場  東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13-9)
会 期  2021年10月12日(火)~11月21日(日)
     ※会期中、一部作品の展示替えを行います。
開館時間 午前9時30分~午後5時
休館日  月曜日
観覧料[前売日時指定券] 一般 2,100円 大学生 1,300円  高校生 900円
          [当日券] 一般 2,200円 大学生 1,400円  高校生 1,000円
 ※中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料。ただし、「日時指定券」の予約が必要。
 ※本展は混雑緩和のため、事前予約制(日時指定券)を導入しています。入場にあたって、すべてのお客様は日時指定券の予約が必要です。
 ※ご予約不要の「当日券」を会場にて若干数ご用意しますが、ご来館時、「当日券」は販売終了している可能性があります。

展覧会の詳細、チケット購入方法等は、展覧会公式サイトをご覧ください⇒特別展「最澄と天台宗のすべて」

※展示室内は、根本中堂の一部(内陣中央の厨子)再現展示以外は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より特別の許可を得て撮影したものです。

巡回展
 九州会場(九州国立博物館) 2022年2月8日(火)~3月21日(月・祝)
 京都会場(京都国立博物館) 2022年4月12日(火)~5月22日(日)

 
展示は6つのエリアに分かれています。

第1会場
 A 最澄と天台宗の始まり-祖師ゆかりの名宝
 B 教えのつらなり-最澄の弟子たち
 C 信仰の高まり-天台美術の精華
第2会場
 D 教学の深まり-天台思想が生んだ多様な文化
 E 現代へのつながり-江戸時代の天台宗
 F 全国への広まりー各地に伝わる天台の至宝


第1会場に入ってすぐにお出迎えしてくれるのは、鎌倉時代の貞応3年(1224)に制作された現存する最古の最澄(767-822)の肖像、重要文化財「伝教大師(最澄)坐像」(滋賀・ 観音寺蔵)。
トレードマークの頭巾をかぶり、穏やかな表情で瞑想する優しいお顔が印象的です。

展示風景

国宝「聖徳太子及び天台高僧像」十幅全てが見られるのは東京会場だけです!


東京会場での大きな見どころの一つが、国宝「聖徳太子及び天台高僧像」(兵庫・一乗寺蔵)の全十幅が展示されること。
ただし、十幅の中には複製が展示される期間もあるので、全十幅の原品が見られるのは11月2日(火)から7日(日)までの6日間限定です。

国宝「聖徳太子及び天台高僧像」
平安時代・11世紀 兵庫・一乗寺蔵
※原品の展示期間は各幅ごとに異なります。

平安時代の11世紀に描かれた国宝「聖徳太子及び天台高僧像」は、インド・中国・日本の天台の高僧と聖徳太子の肖像。

日本の天台の高僧は、最澄とその弟子、円仁(794-864)が描かれています。
最澄は、冒頭ご紹介した重要文化財「伝教大師(最澄)坐像」と同じく、頭巾をかぶり、穏やかな表情で瞑想をしているところが描かれています(下の写真左)。

下の写真右は、最澄の跡を継いで天台密教の基礎を築いた円仁。
円仁も瞑想をしている優しげな表情をしています。

左)国宝「聖徳太子及び天台高僧像」十幅のうち「最澄」
右)国宝「聖徳太子及び天台高僧像」十幅のうち「円仁」
どちらも 平安時代・11世紀 兵庫・一乗寺蔵
原品の展示期間:10月12日(火)~11月7日(日)
※以降は複製 


重要文化財「慈覚大師伝」(京都・三千院蔵)はじめ慈覚大師円仁に関する資料や、重要文化財「僧形坐像 伝慈覚大師(円仁)」(岩手・黒石寺蔵)(下の写真正面)は次のBエリアに展示されています。

展示風景


円仁の弟子で、比叡山中の約300か所の聖地を7年間に延べ千日かけて礼拝する回峰行を創始したと伝わる建立大師相応(831-918)ゆかりの寺院のご本尊が展示されているエリアは荘厳な雰囲気を醸し出しています。

展示風景



極楽浄土へ行くための”マニュアル”がほしい方はこちらです。

Cエリアに移ると、末法思想が流行した平安末期、極楽浄土へ行くためのマニュアルともいえる重要文化財『往生要集』上巻 (京都・青蓮院蔵)を執筆して、念仏による極楽浄土を説いた恵心僧都源信 (942-1017)に関連する仏画や資料が展示されています。


展示風景 


江戸天台の世界へようこそ!


第2会場に移ると、東京会場ならではの光景が広がっていました。

展示風景

奥に鎮座するのは、江戸城の鬼門を守護する東叡山寛永寺を開山した天海僧正(重要文化財 「慈眼大師(天海)坐像」康音作  栃木・輪王寺蔵)。

かつては寛永寺の大伽藍が広がっていたこの上野公園一帯は、今では東京国立博物館をはじめとした博物館、美術館があって、上野動物園にはパンダもいていつもにぎわっていますが、随分と様変わりした様子を見たら天海僧正はきっと驚いてしまうことでしょう。
ちなみに山号の東叡山は、京都の鬼門を守護する比叡山にちなんで東の比叡山という意味です。

江戸時代にも多くの人が参拝に訪れていた寛永寺の様子を知るには 「東叡山之図」[絵]橋本貞秀筆 [賛]植村蘆洲筆  (東京・寛永寺蔵) (下の写真右)。


展示風景



根本中堂の一部が会場内に再現されています!


比叡山延暦寺の総本堂、国宝 根本中堂の一部(内陣中央の厨子)が会場内に再現されていて雰囲気を盛り上げています。
ここだけは撮影可です。



紹介が遅くなりましたが、市川猿之助さんがナビゲーターの音声ガイドもおススメです(税込 650円)。
ポイントごとの丁寧な説明があることはもちろん、お経に節をつけて唱える声明(しょうみょう)を聴きながら展示を見ると、一層雰囲気が盛り上がること間違いなしです。


フィナーレを飾るのは、全国各地に伝わる天台の至宝のエリア。


展示風景



展示風景

特にインパクトが強かったのは、高さ2m近くもある日本最大の肖像彫刻「慈恵大師(良源)坐像」(東京・深大寺蔵)。
慈恵大師(元三大師)良源(912-985)は、火災で大きな被害を受けた比叡山延暦寺を復興した、天台宗中興の祖。
なにしろこの大きさに圧倒されます。
それに、開扉されるのは50年に一度という秘仏なので、今が慈恵大師(良源)坐像を拝む絶好の機会なのです。

「慈恵大師(良源)坐像」鎌倉時代・13~14世紀
(東京・深大寺蔵)


展覧会オリジナルグッズも充実しているので、ミュージアムショップにもぜひお立ち寄りください。



3会場全体の展示作品が収録されている展覧会公式図録(税込 3000円)はまさに圧巻!
来館記念にぜひ!





総合文化展(常設展示)でも関連企画開催中!


東京国立博物館 本館14室では特集「浅草寺のみほとけ」が開催中です。
会期は2021年9月28日(火)から12月19日(日)まで。

※特集「浅草寺のみほとけ」は、特別展「最澄と天台宗のすべて」の観覧料で、特別展ご観覧の当日に限りご覧いただけます。
ただし、総合文化展の混雑状況によっては、入場をお待ちいただく場合があります。総合文化展の日時指定券をご予約いただく必要はありません。



海外からの観光客にも大人気の金龍山浅草寺は、慈覚大師円仁によって中興されたと伝えられる天台宗の古刹の一つ。
この特集では、浅草寺から東京国立博物館に寄託された仏像13件17体が一堂に展示されます。

迫力ある不動明王立像や、四天王立像はじめ浅草寺の寺宝も、特別展とあわせてぜひお楽しみください。


展示風景


展示風景