2022年9月27日火曜日

サントリー美術館 「美をつくし-大阪市立美術館コレクション」

東京・六本木の東京ミッドタウンにあるサントリー美術館では「美をつくしー大阪市立美術館コレクション」が開催されています。

今回の展覧会のキャッチコピーは、年代もジャンルも多彩なコレクションを所蔵する大阪市立美術館から選りすぐりの逸品が展示される「なにわのアートコレクション、紀元前から近代まで東京大集合」。略して「なにコレ」。

どれだけ多彩かというと、展覧会チラシを見ればよく分かります。
なにしろ、メインビジュアルとなる作品が一つや二つでなく、こんなにたくさん。

展覧会チラシ


仏教美術、中国の青銅器・絵画、金屏風の日本画、美人画、工芸、そして大阪の発展の基礎を築いた豊臣秀吉。時代も分野も異なる作品が一堂に会する、「あれもこれも」あって、「何これ?」と驚きながら楽しめる展覧会なのです。

そして、同館がこれだけ多様なコレクションを所蔵することになったのは、関西財界人からの寄贈や近隣古寺社からの寄託によるところが大きいとのことですが、まさに地元に根付いた美術館ということが感じられる展示内容でもありました。

それではさっそく展示室内の様子をご紹介したいと思います。

※展示室内は一部の作品を除き撮影禁止です。掲載した写真は美術館より特別に許可をいただいて撮影したものです。

展覧会概要

展覧会名  美をつくし-大阪市立美術館コレクション
会 期   2022年9月14日(水)~11月13日(日)
      ※会期中展示替があります。
開館時間  10:00~18:00(金、土は10:00~20:00)
      10月9日(日)、11月2日(水)は20時まで開館
      ※いずれも入館は閉館の30分前まで
休館日   火曜日
      ※11月8日は18時まで開館
入館料   一般 1,500円 大学・高校生 1,000円
      ※中学生以下無料
      ※障害者手帳をお持ちの方は、ご本人と介護の方1名様のみ無料

※展覧会の詳細、各種割引等は、同館公式サイトをご覧ください⇒サントリー美術館
※出品作品はすべて大阪市立美術館の所蔵です。

展示構成(サントリー美術館での展示順)
 祈りのかたち 仏教美術
 日本美術の精華 魅惑の中近世美術
 はじまりは「唐犬」から コレクションを彩る近代美術
 世界に誇るコレクション 珠玉の中国美術
 江戸の粋 世界が注目する近世工芸

巡回展情報
 福島展 会期 2023年3月21日(火・祝)~5月21日(日)
     会場 福島県立美術館
 熊本展 会期 2023年9月16日(土)~11月12日(日)
     会場 熊本県立美術館


祈りのかたち 仏教美術

4階の第1展示室に入ると、仏像、仏具、経典などの仏教美術が展示される落ち着いた雰囲気の空間が見えてきます。

「祈りのかたち 仏教美術」展示風景


この章で紹介されているのは、大阪で弁護士・政治家として活躍した田万清臣氏と、妻・明子氏が収集した仏教美術コレクションの逸品の数々。

こちらは、田万夫妻が自宅に祀っていたと伝えられる優雅なお姿の仏様、重要美術品「木造 観音菩薩立像」。
目の前に立つと、ご夫妻の信仰心の篤さが伝わってくるようです。


重要美術品 木造 観音菩薩立像
平安時代・12世紀
通期展示

お釈迦様が生まれてすぐに右手で天を、左手で地をさして「天上天下唯我独尊」と唱えたという姿をかたどった誕生仏は撮影可。
丸みを帯びたふくよかなお顔から、白鳳文化の息吹が伝わってくるように感じられました。

銅造 誕生仏立像
白鳳時代・7~8世紀
通期展示

撮影可の作品のマークは下の写真左。
そして、解説パネルの右、黄色い帯が目印の「サン美学芸員のなにコレポイント」にも注目です。
学芸員さんの作品に対する思い、親しみが伝わってきます。




日本美術の精華 魅惑の中近世美術

続いて、狩野派、長谷川等伯、尾形光琳といった桃山時代から江戸時代にかけて人気の絵師たちを中心とした作品が展示される中近世美術のエリアに移ります。


「日本美術の精華 魅惑の中近世美術」展示風景

ここでの注目は、下絵、画稿、書状などの尾形光琳関係資料。
会期中に展示替があって、全部で9点の作品が展示されます。

重要文化財 尾形光琳 鶴虎図下絵
江戸時代・17~18世紀
展示期間:9/14-10/3

尾形光琳の子・寿市郎が養子入りした小西家に200年来伝わってきた資料は、昭和に入ってしばらく所在不明となり、その後、大阪市立美術館と京都国立博物館に分蔵されることになったといういきさつがありました。
散逸したり所在不明のままでしたら、このようにまとまって見ることができなかった貴重な資料です。

この「鶴虎図下絵」には、京都国立博物館の公式キャラクター「トラりん」のモデルとなった光琳の「虎図」(京都国立近代美術館蔵)を左右反転したような虎が描かれています。


気持ちよさそうに眠る毛並みのきれいな子猫が描かれた作品は撮影可。
作者は「原派」の祖、原在中の長男・在正。
毛のふさふさした感じの描写をじっくりご覧いただきたいです。

猫図 原在正/四辻公説賛
江戸時代・18~19世紀
展示期間:9/14-10/17


はじまりは「唐犬」から コレクションを彩る近代美術

3階に降りてすぐの第2展示室には、近代日本画の名品が展示されています。

右から 北野恒富「星」昭和14年(1939)、上村松園「晩秋」昭和18年(1943)、
橋本関雪「唐犬」昭和11年(1936)
いずれも通期展示

橋本関雪「唐犬」は、昭和11年(1936)の落成記念に開催された帝展出品作を買い上げたもので、大阪市立美術館の記念すべきコレクション第1号でした。

この「唐犬」は縦164cm、横366cmもの大きな二曲一隻の屏風で、展示ケースに入れてからでは開けないので、開いた状態でケースに入れるという難しい展示作業を行ったとのことです。
展示作業の様子は9月12日付のサントリー美術館公式ツィッターで紹介していますので、こちらもぜひご覧ください⇒サントリー美術館公式ツィッター

北野恒富「星」と上村松園「晩秋」は撮影可です。


世界に誇るコレクション 珠玉の中国美術

第3展示室に移ります。

中国美術の一つの柱は、関西実業界の重鎮として活躍した山口謙四郎氏が収集した石造彫刻、青銅器、陶磁器などの「山口コレクション」。

「世界に誇るコレクション 珠玉の中国美術」展示風景

撮影可の作品は「青銅鍍金銀 仙人」。

青銅鍍金銀 仙人
後漢時代・1~2世紀
通期展示

高さ10cmほどの小さな像ですが、およそ2000年ほど前に作られた不老不死を得た仙人の姿なのです。
この作品は撮影可ですので、不老不死とは言わないにしても、写真に撮って長寿を願ってみてはいかがでしょうか。


中国美術のもう一つの柱は大阪の実業家、阿部房次郎氏が収集した中国書画。
私が初めて大阪市立美術館に行ったのは、4年前に開催された「阿部房次郎と中国書画」展の時。
中国書画ファンの私としては見逃せない展示でしたので、前期後期とも大阪に行って見てきました。
今回は阿部コレクションの名品が東京まで来てくれるのですから、こんなにうれしいことはありません。

「世界に誇るコレクション 珠玉の中国美術」展示風景


江戸の粋 世界が注目する近世工芸

最後を飾るのは、大阪で貿易商として活躍したウーゴ・アルフォンス・カザール氏が収集した漆工品や根付、印籠など江戸時代から明治時代にかけての工芸品のコレクション。

下の写真の黒い線から先の根付は撮影可です。

「江戸の粋 世界が注目する近世工芸」展示風景

動物や人物などが彫られた根付や、能楽などの面をかたどった根付など、小さくても一つひとつが精巧に作られているので、ここは時間をかけてじっくり楽しみたいミニチュアワールド。

全部で37点の根付の中からお気に入りの一品を探してみてはいかがでしょうか。

私のお気に入りは、どれも大きさは4cmほどの面根付。
中でも一番は、怖そうでもユーモラスな鬼の面でした。

面根付 鬼 銘「舟月作」
江戸~明治時代・18~19世紀
通期展示

大阪市立美術館では、今回のように異なったジャンルの作品が揃って展示されることはあまりないとのことです。
今回の巡回展ならではの多彩なコレクションをぜひお楽しみください!

2022年9月19日月曜日

泉屋博古館東京「古美術逍遥-東洋へのまなざし」

東京・六本木の泉屋博古館東京では、リニューアルオープン記念展Ⅲ「古美術逍遥 東洋へのまなざし」が開催されています。


泉屋博古館東京エントランス


リニューアルオープンパートⅠの近代日本画、パート2の西洋絵画に続き、今回は同館と泉屋博古館(京都)が所蔵する中国絵画、仏教美術、茶道具はじめ中国、朝鮮、日本の古美術が見られる落ち着いた雰囲気の展覧会。

そして、エントランスのパネルに見られるように、一つの目玉作品がデンと構えるのでなく、多くの名品がぎっしり詰まったとてもうれしい展示内容になっています。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

※館内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で主催者より特別の許可をいただいて撮影したものです。

展覧会概要


展覧会名 泉屋博古館東京リニューアルオープン記念展Ⅲ
     古美術逍遥-東洋へのまなざし
会 期  2022年9月10日(土)~10月23日(日)
     *会期中展示替有り*
     前期:9月10日(土)~10月2日(日)
     後期:10月4日(火)~10月23日(日)
休館日  月曜日(祝日の場合は翌平日休館)
開館時間 午前11時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
     *金曜日は午後7時まで開館(入館は午後6時30分まで)
入館料  一般 1,000円、高大生 600円、中学生以下無料

展覧会の詳細は同館公式サイトをご覧ください⇒泉屋博古館東京        

展示構成
1 中国絵画 - 気は熟した(第1展示室)
2 仏教美術 - かたちの彼岸(第2展示室)
3 日本美術 - 数寄あらば(第3展示室)
4 文房具と煎茶 - 清風は吹く(第4展示室)

*展示作品は泉屋博古館および泉屋博古館東京所蔵のものです。


1 中国絵画-気は熟した(第1展示室)

第1展示室には国内屈指の明末清初の絵画を所蔵する住友コレクションの名品の数々が展示されていて、中国絵画ファンにはたまらない空間です。

第1展示室展示風景

この章のサブタイトル「気は熟した」に注目です。
熟したのは「機」ではなく「気」。
まさに空気感たっぷりの山水画の世界に入り込むことができます。

でも、中国絵画はあまりなじみがないのでよくわからない、という方もご安心を。
今回の展覧会を担当された泉屋博古館(京都)の学芸員、竹嶋さんに中国絵画の見方を教わりました。

こちらは重要文化財の石濤《廬山観瀑図》。

重要文化財 石濤《廬山観瀑図》
清時代 17-18世紀

まずは画面下の人物を見てみましょう。
「観瀑図」なのに二人の高士は滝の方を見ていません。
滝の音を聞いているのか、滝つぼに落ちた水しぶきの雰囲気を感じ取っているのかもしれません。
人物から画面中央右の斜めに切り立った岩に沿って視線を移すと一筋の瀑布が見えてきて、雲気の上には廬山の主峰の一つ香炉峰がそびえています。

さらにその上の賛を見ると、濃く書かれた文字と薄く書かれた文字がありますが、これは墨がかすれたのでなく、賛の上を雲が通っているところを表していて、賛までもが山水の世界に溶け込んでいるように書かれているのです。

キャプションのキャッチコピーも絶妙です。
「耳を澄ませば、滝の音が聞こえる」
ぜひこの作品の前で滝の音を聞いて、雄大な自然の雰囲気をお楽しみください。
(他の作品のキャッチコピーもぜひ注目してみてください。)


もう一つおススメの一品は、今なら「ゆるキャラ」「萌え」と人気が出そうな八大山人《安晩帖》(重要文化財)。
《安晩帖》は、花卉、魚、鳥、山水などが描かれた20図がノートのように一冊に綴じられているので一度に全部を見ることはできません。
今回の展覧会では、前期(9/10-10/2)にこの「叭々鳥」、後期(10/4-23)に「鱖魚(けつぎょ)」が展示されます。
「鱖魚」は小さい魚ですが、とてもかわいらしい表情をしているので、後期もご覧いただきたいです。

重要文化財 八大山人《安晩帖》清時代 康熙33年(1694)
第7図(叭々鳥) 展示期間 9/10-10/2
(10/4-23は第6図(鱖魚図)が展示されます。) 


2 仏教美術 -かたちの彼岸(第2展示室)

今回のリニューアルで拡張された展示室の一つがこの第2展示室。

観音様が優しいお顔でお出迎えしてくれるので、なごんだ気分になってくるとてもいい空間です。


重要文化財 徐九方《水月観音像》
高麗 忠粛王10年[至治3年](1323)

展示されている作品は、仏教伝来の道をたどるように、中国、朝鮮、日本の仏教美術の厳選された名品ばかり。


第2展示室展示風景


中でも注目は、国宝《線刻仏諸尊鏡像》。

国宝《線刻仏諸尊鏡像》 平安時代 12世紀

鏡なので昔の人は手に取って仏さまを拝んでいたのですが、今では展示ケースの中に入っているので、ご自身が鏡の前で角度を変えて、みなさまそれぞれのベストポジションを探してみてください。
きっと中央の如来像、その左右の文殊菩薩、普賢菩薩はじめ仏さまの姿がくっきりと見えてきます。


3 日本美術 -数寄あらば(第3展示室)

「数寄」とは、茶の湯などの風流、風雅に心を寄せること。
心の中に「隙(すき)」ならぬ、茶の湯、香道、能といった「数寄」があれば、日本の書画や工芸が展示されるこんなに素晴らしい光景が広がってくるのでしょう。

第3展示室展示風景

上の写真手前の茶碗は、江戸時代初期の大名茶人、小堀遠州が京都・伏見の六地蔵で見出したという《小井戸茶碗 銘 六地蔵》。

《小井戸茶碗 銘 六地蔵》 朝鮮時代 16世紀


茶道具の銘は、その形や表面に現れる模様から付けられることが多いのですが、この茶碗は、今では京都市営地下鉄東西線の駅名になっている「六地蔵」という地名にちなんでいます。
そして、「井戸茶碗」は李朝時代の朝鮮半島で作られたうつわなのですが、日本で茶碗として価値が見いだされ、室町時代以後、日本で茶人たちに愛用されたものなのです。


第3展示室では、茶の湯の落ち着いた雰囲気の世界にひたることができます。

第3展示室展示風景

しかしそれだけではありません。
今をときめく江戸時代の人気絵師、伊藤若冲の作品も展示されているのです。


伊藤若冲《海棠目白図》
江戸時代 18世紀

若冲の代表作《動植綵絵》が話題になっていますが、こちらも《動植綵絵》とはほぼ同時期の作品。
画面いっぱいに広がる鮮やかな色彩の花や可愛らしい鳥たちが描かれた、見ごたえのある作品ですので、ぜひこちらの若冲もご覧ください。


4 文房具と煎茶 -清風は吹く(第4展示室)

第2展示室と同じく、今回のリニューアルで拡張された第4展示室には、中国の工芸と煎茶会のしつらえがイメージできる作品が展示されています。

第4展示室展示風景

抹茶粉を用いる抹茶会(茶の湯)でなく、葉茶を急須で淹れる煎茶会は明治から大正期にかけて盛んに開催され、特に住友家15代当主住友春翠氏は好んで煎茶会を開催したとのことです。


第4展示室展示風景


今では、鉛筆や消しゴム、ノートなどが文房具と言われていますが、中国では文人たちの文房(=書斎)に備えられたものがすべて文房具でした。
そしてこの《鍍金魁星像》も文房に置かれていた貴重な文房具。


《鍍金魁星像》明時代 16世紀

なぜかというと、魁星とは北斗七星の第1星から第4星までの斗(ます)の部分の星のことで、鬼が左手に斗(鬼+斗=魁)、右手に筆を持つ姿で表され、学問の神様として特に科挙の受験生に信奉され、文房に飾られていたのです。

絵画に描かれることは多くても、鋳造されたものは珍しいとのこと。
進学や就職、資格試験などを控えている方、お参りに来てみませんか。

ホールには実物が第3展示室に展示されている《二条城行幸図屏風》のレプリカが展示されています。
この作品は撮影可です。

ホール展示風景

この秋おススメの展覧会です。
東洋の古美術の美の世界をぜひお楽しみください!

大倉集古館 企画展「合縁奇縁~大倉集古館の多彩な工芸品~」

 東京・虎ノ門の大倉集古館では、同館の前身・大倉美術館の公開から120周年、財団法人大倉集古館の設立から105周年となる節目の年を記念して、企画展「合縁奇縁~大倉集古館の多彩な工芸品~」が開催されています。



今回の企画展はサブタイトルにあるように、螺鈿、刀剣、中国の陶俑、清朝の染織、タイの仏像・工芸品と、まさに大倉集古館ならではの多彩な工芸品が見られる展覧会です。

展覧会概要

展覧会名  企画展 合縁奇縁~大倉集古館の多彩な工芸品~
会 期   2022年8月16日(火)~10月23日(日)
開館時間  10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日   毎週月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
入館料   一般:1,000円
      大学生・高校生:800円※学生証をご提示ください。
      中学生以下:無料
※展覧会の詳細、各種割引料金等は同館公式サイトをご覧ください。
大倉集古館公式サイト⇒https://www.shukokan.org/

展示構成
 第1章-1 大倉集古館・大倉美術館の歴史(大倉美術館から大倉集古館へ)
 第1章-2 大倉集古館・大倉美術館の歴史(関東大震災から伊東忠太設計の大倉集古館)
 第1章-3 大倉集古館・大倉美術館の歴史(ホテルオークラ建設から現在へ)
 第2章  世界一と謳われた幻の漆工コレクション
 第3章  大倉財閥ゆかりの刀剣
 第4章  日本における最初期の陶俑蒐集
 第5章  清朝の染織
 第6章  喜八郎と喜七郎、それぞれのタイの美術

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より特別にお借りしたものです。
※掲載した作品はすべて大倉集古館所蔵です。


所狭しと並ぶ名品の数々がすごかった!


第1章 大倉集古館・大倉美術館の歴史

今回の企画展の冒頭を飾るのは、大倉美術館から大倉集古館、そして関東大震災を経て現在に至るまでの変遷がわかる絵画や写真パネル、設計図などです。

こちらは、大倉喜八郎氏が自邸の一部を美術館として開放した当時の様子が描かれた作品。


「大倉邸之図(含大倉美術館)」山本昇雲(松谷)画  明治36年(1903) 

斜面の傾斜を利用して建てられた邸宅や日本庭園が見えて、現在とは違う地形になっていますが、今でも大倉集古館横の道路がかなり急な下り坂になっているので、周囲を歩いてみると往時の地形を想像することができます。

続いて美術館の内部の様子。

天井や柱、壁面などにはそれぞれ手の込んだ装飾がほどこされていて、まさに豪華絢爛。
内装そのものが美術作品といってもいいくらいです。
来場者も、羽織袴の男性に髷を結った和服の女性、洋装の男女というのも和洋折衷の服装で、いかもに明治期らしい雰囲気が出ています。


「大倉邸美術館内之図」山本昇雲(松谷)画 明治36年(1903)

同じアングルの写真パネルも展示されいてます。
蔵王権現など今はなき仏像群が見えます。
関東大震災前の展示の充実ぶりが偲ばれるシーンです。

「大倉美術館(集古館)内部」大正6年(1917)頃

関東大震災がなければと、ついつい思ってしまいますが、今でも大倉集古館を訪れて、充実したコレクションが見られるのは幸せなことだとあらためて思いました。

現在の大倉集古館外観




今でもアジア各地の工芸品のコレクションがすごい!


第2章  世界一と謳われた幻の漆工コレクション

大倉集古館設立当初の目玉の一つが漆工品で、約400点の漆工品を所蔵し、中でも約150点の堆朱コレクションは世界一と謳われていましたが、関東大震災で数点を残しほどんどが灰燼に帰してしまいました。

今回展示されているこの重要美術品「唐草文螺鈿手箱」は、災禍を免れた貴重な作品。

重要美術品「唐草文螺鈿手箱」朝鮮 高麗時代・13世紀


現在の所蔵品は、当時、大倉家で使用されていたものが中心ですが、所蔵されている螺鈿の中には、喜八郎氏と親しかった奉天軍閥の総帥・張作霖から贈られた作品も含まれている可能性があるとのこと。

張作霖は、1927年、日本の支援を受け北京政府を掌握しましたが、1928年、蒋介石の北伐軍に押され奉天(現在の瀋陽)に撤退する途中、中国東北地方の直接支配をはかった関東軍によって乗車していた列車が爆破され暗殺されたことで知られています(張作霖爆殺事件)。

写真嫌いだった2人が写っている写真が、刀剣のエリアに続いて展示されています。


第3章  大倉財閥ゆかりの刀剣

刀剣の展示は照明の当たり方が絶妙でした。
50口弱の刀剣を所蔵する同館のコレクションから、今回は7口の刀剣が展示されていますが、どの刀剣も見る角度によって天井からの照明が刃に当たるようになっていて、刃がキラッ、キラッと輝くのです。
刀剣を前に左右に動いて、刃の輝きをご覧いただきたいです。

この章のタイトルは「大倉財閥ゆかりの刀剣」。
政商として軍部とのつながりがあり、折にふれ刀剣の寄贈を受け、また、戦前は輸入鉄鋼の最大手であった大倉財閥が開発した中国東北部の本渓湖炭鉱で採掘された鉄鉱石を使った刀剣も展示されています。


「刀 銘 以本渓湖高純鉄 
果(花押)/皇紀二千六百参季十月吉日」
柴田果作、昭和18年(1943) 


第4章  日本における最初期の陶俑蒐集

2階展示室にずらりと並ぶ中国の陶俑は壮観です。

所蔵していた陶俑約124点すべてが関東大震災で被災して、現在は、後に収蔵した1点を含め43点が所蔵されているとのことです。

こちらは被災した「白釉女子」ですが、火災の灰が自然釉となって独特の雰囲気を醸し出しています。

「白釉女子」中国 唐時代・7~8世紀 


震災後に収蔵された「加彩駱駝」は、荷物を入れた大きな袋、夜営テントの部材(板)の質感がとてもリアルで、重たい荷物を背負いながらもシャキッと立っている姿が印象的でした。
顔を見たら、今にも草を食んで口をもぐもぐさせそうな気がしてきました。


「加採駱駝」中国 唐時代・7~8世紀


東京国立博物館所蔵の陶俑も並んで展示されていましたが、被災して損傷が激しい「三彩馬」が色彩が残っている東京国立博物館所蔵の「三彩馬」と並んで展示されているなど、被災前の姿が想像できるように工夫されていました。



第5章  清朝の染織

鮮やかな藍色の装束は、清朝の典礼に官吏が着用する「蟒袍(マンパオ、ぼうほう)」。

全体を埋め尽くす「霊芝雲」の中、一番目立つのは龍の姿ですが、ほかにも法螺貝などの仏教の「八宝」はじめ吉祥を表すものが数多く描かれているので、解説パネルを見ながらどこに何が描かれているのか探してみてはいかかでしょうか。

「蟒袍」中国 清時代・7~8世紀


蒙古の鎧冑も展示されていますが、こちらはいかにも頑丈そうな作りでした。



第6章  喜八郎と喜七郎、それぞれのタイの美術

東アジアの仏教美術だけでなく、大倉集古館がタイの仏像や仏画を所蔵していることは知りませんでした。
仏教美術を愛した喜八郎氏はタイやチベットの仏像も蒐集したとのことです。

喜八郎氏時代の蒐集品「宝冠仏立像」は、全体にものすごく手の込んだ細かい彫刻がほどこされているので、近くでじっくりご覧いただきたいです。

「宝冠仏立像」タイ タラナコーシン時代・19世紀

両方の手のひらをこちらに向けていますが、このお姿は洪水を両手でせき止めるという奇蹟をおこした場面を表現したとされています。
昔も今も洪水に苦しめられてきた人々の思いが伝わってくるようです。

喜八郎氏の嫡子、喜七郎氏がケンブリッジ大学在学中にタイ(当時はシャム)の王族と同窓であったご縁から、タイを訪問し、王族から寄贈された工芸品も展示されています。

まさに、今回の企画展のタイトルどおり「合縁奇縁」で結ばれた多彩な工芸品が展示されている展覧会です。

作品のカラー写真入りの解説パンフレットも受付でいただくことができるので、この解説パンフレットを手にぜひお楽しみください!