2025年10月4日土曜日

京都国立博物館 特別展「宋元仏画ー蒼海(うみ)を越えたほとけたち」

京都国立博物館では、特別展「宋元仏画ー蒼海(うみ)を越えたほとけたち」が開催されています。


中国の宋元時代に生まれ、海を越えて日本にもたらされた宋元仏画は、祈りの対象として日本で大事にされ、日本美術にも大きな影響を与えてきました。
今回の特別展は、宋元時代の優れた仏画が全会期で170件が出品され、そのうち総出品数の半数以上の88件が国宝、重要文化財という超豪華な内容の展覧会です。
(前期と後期で大幅な作品入替えがあり、70件以上が展示・場面替えになります。また、国宝は13件、重要文化財は75件、重要美術品は8件が出品されます。)

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


展覧会名  特別展「宋元仏画ー蒼海(うみ)を越えたほとけたち」
会 期   2025年9月20日(土)~11月16日(日)
 (前期:9月20日(土)~10月19日(日)、後期:10月21日(火)~11月16日(日)) 
 ※会期中、一部の作品は上記以外にも展示替えがあります。
会 場   京都国立博物館 平成知新館
※展覧会の詳細、イベント等は展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://sougenbutsuga.com/

展示構成
 第1章 宋元文化と日本
 第2章 大陸への求法ー教えをつなぐ祖師の姿
 第3章 宋元仏画の諸相ー宮廷と地域社会
 第4章 牧谿と禅林絵画
 第5章 高麗仏画と宋元時代
 第6章 仏画の周縁ー道教・マニ教とのあわい
 第7章 日本美術と宋元仏画

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は報道内覧会で主催者より許可を得て撮影したものです。

展示の冒頭から、中国の文物を珍重した足利将軍家の唐物コレクション「東山御物(ひがしやまごもつ)」をはじめ、宋元時代の名品の数々が登場してきます。

「第1章 宋元文化と日本」展示風景

唐(618-907)滅亡後の五代十国の混乱を統一したのが宋(960-1276)。
汴州(開封)を首都とした北宋(960-1127)と、金(1115-1234)の侵入により都を江南の臨安(杭州)に移した南宋(1127-1279)の時代に分かれ、元(1271-1368)の侵入により宋は滅びました。
日本では、平安中期~後期、鎌倉時代がちょうど宋元時代にあたります。

宋時代に文化芸術面で大きな功績をあげ、自らも筆をとり詩文・書画などにすぐれた才能を発揮したのが、「風流天子」と呼ばれた北宋末期の第八代皇帝・徽宗(在位1100-25)。
ただし、政治はあまり関心がなく、豪奢な生活により国費を費やし、農民の暴動を招いて北宋滅亡の原因をつくってしまいましたが、その徽宗の作と伝わるのが国宝《秋景冬景山水図》。
実際には対角線を意識した構図などから、南宋の宮廷で描かれた山水画と考えられていますが、それぞれの右下に足利義満の鑑蔵印「天山」が捺されているので、室町幕府によって大事にされていたことがわかります。
                                   
         
           国宝 秋景冬景山水図 伝徽宗筆 中国・南宋時代 12 世紀 京都・金地院蔵
前期展示(9/20-10/19)

宋元時代の仏教文物を日本にもたらしたのは、仏教を学ぶために渡海した日本僧と、布教のために日本に渡来した中国僧たちでした。

渡海した日本僧の中でよく知られているのは、臨済宗の開祖・栄西、曹洞宗の開祖・道元、京都・東福寺の開山・円爾ほかで、記録に残っているだけでも100人以上の僧が中国に渡っています。
そして、日本に渡来した主な中国僧の中には、鎌倉・建長寺の開山、蘭渓道隆、同じく鎌倉・円覚寺の開山、無学祖元はじめ日本の仏教に大きな影響を与えた僧がいました。

第2章では、円爾の南宋での師・無準師範、南宋から日本に渡来した禅僧・兀庵普寧ほかの肖像(頂相)が展示されていてます。
無準師範の頂相は円爾が帰国に際して請来したもので、大陸との交流の足跡をしのぶことができる作品です。後期には円爾本人の頂相も展示されます。

「第2章 大陸への求法ー教えをつなく祖師の姿」展示風景

第3章に登場するのは、宮廷を中心に絵画表現が高度な水準に達した北宋と、仏教の伝統が色濃い地域にあった臨安に都を移した南宋が生み出した宋代仏画の傑作の数々です。

右 国宝 孔雀明王像 中国・北宋時代 11~12世紀 京都・仁和寺蔵
左 重要文化財 千手観音像 中国・南宋時代 12~13世紀
どちらも前期展示(9/20-10/19)  

宋時代の絵画表現の特色は、その写実性。
優美なお姿の仏さま、懸命に蓮華座を支えるリアルな表現の孔雀に注目したいです。

今回の特別展では、密教で信仰される《孔雀明王像》、浄土教の《阿弥陀三尊像》、禅宗の《観音猿鶴図》が前期後期で展示されます。
これらはいずれも国宝で、ほかにも宗派を越えた宋代の仏画が展示されるのも、歴史ある寺院を多く擁する京都ならではの展示です。

国宝 阿弥陀三尊像 普悦筆 中国・南宋時代 12~13世紀 京都・清浄華院蔵
後期展示(10/21-11/16)


「第3章 宋代仏画の諸相ー宮廷と地域社会」展示風景

鎌倉時代に南宋から本格的な禅宗が伝えられたのと同時に水墨を主体とした絵画が広まりました。中でも南宋時代の末期から元時代の初頭に活躍した禅僧の牧谿は、中国ではその自由な画風が酷評されても、日本では絶大な人気を博しました。

「第4章 牧谿と禅林絵画」展示風景

牧谿の代表作は、先ほどもご紹介した京都・大徳寺の国宝《観音猿鶴図》。
観音幅には「道有」印、猿鶴の二幅には「天山」印と、どちらも足利義満の鑑蔵印が捺されているので、これも東山御物であったことが知られています。

国宝 観音猿鶴図 牧谿筆 中国・南宋時代 13世紀 京都・大徳寺蔵
後期展示(10/21-11/16)


朝鮮半島には、宋と元が興亡した時期と重なる高麗(918-1392)が興り、仏教を厚く信奉して仏画も制作され、中世以降、日本にも高麗仏画が舶来しましたが、永い間、「唐絵」として中国仏画と混同されてきました。
第5章では、近年の研究によりその特色が明らかにされてきた高麗仏画の独自の魅力に迫ります。

中でも注目したいのが、京都・妙満寺所蔵の重要文化財《弥勒下生変相図》。
令和3年度から5年度に行われた解体修理の際、この大画面の本図の裏側に三枚の版本曼荼羅が貼られていたことが発見されたのです。
高麗仏画からこのような曼荼羅が見つかったのは京都・正法寺所蔵の《阿弥陀如来像》(前期展示)に続く2例目というとても貴重なもので、作品の左には絵のどの部分に貼られていたかがわかる解説パネルがあるので、あわせてご覧いただきたいです。

重要文化財《弥勒下生変相図》 李晟筆 朝鮮半島・高麗時代
忠列王20年/至元31年(1294) 京都・妙満寺蔵
前記展示(9/20-10/19)

自らの魂を吹き出す鉄拐仙人、白いヒキガエルを担いだ蝦蟇仙人はじめ、一度見たら忘れられない個性的なキャラクターの仙人たち。
第6章では、道教画と仏画がそれぞれ影響を受けあって制作された仙人画や、中国での布教のために仏教図像を借りたマニ教の聖像など、宋元仏画の多様な側面を見ることができます。

「第6章 仏画の周縁ー道教・マニ教とのあわい」展示風景


そして、展示のラストを締めくくるのは宋元仏画の影響を受けた日本の絵師たちの仏画です。 

「第7章 日本美術と宋元仏画」


桃山時代に狩野永徳と競い合ったライバル長谷川等伯の描く猿は「牧谿猿」。
京都・大徳寺との関係を深めていった等伯が牧谿の《観音猿鶴図》から大きな影響を受けたことがよくわかります。
後期(10/21-11/16)には、牧谿《観音猿鶴図》と等伯《古木猿猴図》が展示されるので、見比べることができる絶好のチャンスです。

   
重要文化財《枯木猿猴図》 長谷川等伯筆 桃山時代 16世紀 京都・龍泉庵蔵
後期展示(10/21-11/16) 

琳派の祖・俵屋宗達の《蓮池水禽図》は、琳派の代名詞ともいえるたらし込みの技法を用いつつ、湿潤な空気感や柔らかな光を表現した牧谿の影響を受けたひとりです。
こちらもまた、空気感が感じられる牧谿の《遠甫帰帆図》と同じく後期(10/21-11/16)に展示されるのでぜひ見比べてみたいです。

国宝 蓮池水禽図 俵屋宗達筆 江戸時代  17世紀 京都国立博物館
後期展示(10/21-11/16)

特別展出展作品をモチーフにした展覧会オリジナグッズも盛りだくさん。
お帰りの際には、会場内特設ショップにもぜひお立ち寄りください。

会場内特設ショップ

出展作品すべてのカラー図版はもちろん、論文やコラムも満載した特別展公式図録は、宋元仏画の決定版。おすすめです。


前期は10月19日(日)まで。前期、後期とも見逃せない展覧会です。