2025年6月17日火曜日

山種美術館 【特別展】生誕150年記念 上村松園と麗しき女性たち

東京・広尾の山種美術館では、【特別展】生誕150年記念 上村松園と麗しき女性たちが開催されています。

山種美術館


今回の特別展は、上村松園(1875-1949)が誕生して2025(令和7)年で150年を迎えることを記念して、山種美術館が所蔵する松園作品18点を含む22点の優品でその画業をたどるとともに、同じく2025年に生誕130年を迎える小倉遊亀(1895-2000)、生誕120年の片岡球子(1905-2008)をはじめ、さまざまな画家による麗しき女性たちの姿を描いた名品が見られる展覧会です。

開幕から1カ月ほど経ちましたが、先日、展示を拝見してきましたので、展覧会の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2025年5月17日(土)~7月27日(日)
開館時間 午前10時から午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日(7月21日(月・祝)は開館、7月22日(火)は休館)
入館料  一般 1400円、大学生・高校生 1100円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)
※各種割引等は同館公式ホームページをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/ 

展示構成
 第1章 上村松園の世界
 第2章 美人画の時代
 第3章 女性表現の多彩な広がり

展覧会チラシ


※展示室内は次の1点を除き撮影禁止です。掲載した写真は美術館より広報画像をお借りしたものです。

今回撮影可の作品は、「第1章 上村松園の世界」に展示されている《杜鵑を聴く》(山種美術館)。スマートフォン・タブレット・携帯電話限定で写真撮影OKです。館内で撮影の注意事項をご確認ください。


上村松園《杜鵑を聴く》1948(昭和23)年
絹本・彩色 山種美術館


これは松園が亡くなる前年に描かれた作品で、そっと耳元に手を添えようとしながら後ろを振り返る和服姿の女性のしぐさだけで、夏の訪れを告げる渡り鳥、ホトトギスの鳴く声が画面から聞こえてくるようで、松園ならではの円熟した奥ゆかしさが感じられました。

一方、こちらは松園が18歳頃に描いた《姉妹》(個人蔵)。
人物の配置や細部まで丁寧に描くところなど、松園が若くして才能が認められていたことがよくわかる作品です。
ほかにも同じタイトルの個人蔵の作品も展示されていて、初めて初期の研鑽期の作品を見るというありがたい機会にも恵まれました。

上村松園《姉妹》1903(明治36)年頃
絹本・彩色 個人蔵


続いて、大正から昭和時代の名品の中から、特に気になった2つの作品をご紹介します。
一つめは、今回の特別展のメインビジュアルになっている1913(大正2)年の作品《蛍》(山種美術館)。

上村松園《蛍》1913(大正2)年
絹本・彩色 山種美術館



これは、当時、画壇では新しい女性像に挑んだ作品が制作される中、マンネリと批判され悩んだ松園が、喜多川歌麿などの浮世絵を参考にした可能性が指摘されている作品です。
作品の隣には歌麿の作品がパネル展示されているので、蚊帳を吊っている女性の姿を見比べることができます。

美人画の名手といわれた上村松園にも悩んだ時期があったのを知って、それを乗り越えて生み出されたのちの名作の数々がより一層輝いて見えるように感じられました。

その中でもう1点紹介したい作品が、1944(昭和19)年、陸軍献納帝国美術院会員美術展覧会に出展された《牡丹雪》(山種美術館)。

上村松園《牡丹雪》1944(昭和19)年 絹本・彩色 山種美術館


この作品は何回か拝見しているのですが、牡丹雪が降りしきる中、傘に積もった雪の重みに耐え、ぬかるみに足をとられながらも、着物の裾をたくし上げて前に進む二人の女性の姿を見るたびに、太平洋戦争の雲行きがあやしくなる中でも懸命に生きようとする心情が伝わってくるようで、ぐっと胸にこみあげてくるものがあります。

松園の手紙も展示されています。
最近では手紙をやりとりする機会がほとんどなくなりましたが、唐傘をさした松園の後ろ姿と、そのあとをついてくる犬と鶏の挿絵が描かれた手紙なら受け取ってみたいと思いました。


「第2章 美人画の時代」には、「西の松園、東の清方」と並び称され、美人画家として名高い鏑木清方の木版口絵や美人画、清方に師事した伊東深水のモダンガール、京都画壇の松園、東京画壇の池田蕉園と並び「美人画家の三園」と称された大阪画壇の島成園《花占い》(個人蔵)と多士済々。
(三園のうち、池田蕉園の作品は展示さていませんが、夫の池田輝方が描いた屛風絵《夕立》(山種美術館)が展示されています。)

さらには、日本画界にあって百歳を超えてもなお精力的に創作活動を行った二人の女性日本画家、小倉遊亀、片岡球子の作品も見応えがあります。

こちらは、明るくておおらかさが感じられる、いかにも小倉遊亀らしい《舞う(舞妓)》《舞う(芸者)》(どちらも山種美術館)。金地の背景が華やかさに色を添えています。

小倉遊亀《舞う(舞妓)》1971(昭和46)年
紙本金地・彩色 山種美術館

小倉遊亀《舞う(芸者)》1972(昭和47)年
紙本金地・彩色 山種美術館


片岡球子が60歳代から始めた、足利義政をはじめ歴史上の人物や浮世絵師などを主題にした「面構(つらがまえ)」シリーズからは、葛飾北斎の娘で浮世絵師としても知られる「お栄」が描かれた《北斎の娘おゑい》(山種美術館)。
歌舞伎役者が見得を切るような迫力あるポーズが印象的です。

片岡球子《北斎の娘おゑい》1982(昭和57)年
紙本・彩色 山種美術館


同じく「面構」シリーズのひとつで、江戸後期の浮世絵師・鳥文斎栄之を描いた作品も展示されています。一瞬、美人画ではない!と思いましたが、背景には栄之の美人画が描かれていました。


「日本画専門の美術館」山種美術館は、洋画の名品も所蔵しています。
「第3章 女性表現の多彩な広がり」に展示されているのは、黒田清輝らに師事し、明治から昭和期に活躍した和田英作の《黄衣の少女》(山種美術館)。
ほかにも、日本画の新たな創造に努める優秀な画家の発掘と育成を目指して山種美術館が主催する公募展「Seed山種美術館 日本画アワード」の第1回(2016年)大賞作、京都絵美《ゆめうつつ》をはじめバラエティに富んだ作品が展示されています。


山種美術館所蔵品を中心にデザインしたオリジナルグッズも充実しています。
ミュージアムショップで販売中です。ご来館の記念にいかがでしょうか。





観覧後のひとときに、展覧会出品作品にちなんだオリジナル和菓子はいかがでしょうか。
1階「Cafe椿」にもぜひお立ち寄りください。



生誕150年を記念して、これだけまとまって上村松園の作品が見られるのは首都圏では山種美術館だけです。
さらに小倉遊亀、片岡球子はじめ多くの画家による名作も見られるので、この貴重な機会にぜひご覧いただきたいです。おすすめの展覧会です。