2017年7月19日水曜日

映画「オラファー・エリアソン 視覚と知覚」先行上映会&トークショー

ニューヨークに滝をつくった男、今世界が注目する現代美術家オラファー・エリアソン。

東京品川の原美術館で開催された、映画「オラファー・エリアソン 視覚と知覚」先行上映会&トークショーに参加してきました。

映画パンフレット(表)

映画パンフレット(裏)
右下の写真がヨコハマトリエンナーレ2017
に出展される「グリーンライト」

映画は、2008年に総製作費約17億円をかけてニューヨークのイースト川に4つの滝をつくり、75億円超の経済効果をもたらした一大プロジェクト「ザ・ニューヨークシティー・ウォーターフォールズ」の着想から実現までの過程を軸にストーリーが進んでいきます。

カメラはもちろん主人公のオラファー・エリアソンが町工場のように大きな「スタジオ・オラファー・エリアソン」でスタッフのメンバーと打ち合わせしたり、どこに滝をつくるかニューヨークのイースト川をボートに乗って視察したりする場面を追いかけますが、彼自身がカメラの前に立って自分の芸術に対する思いを語る場面が多く出てくるので、作品の制作過程だけでなく、彼の芸術観もよくわかる構成になっています。

それだけでなく、スタジオ内の大きなキッチンでみんなで議論しながら食事したり、滝をつくるために役所に出した申請の許可がなかなか下りなくてやきもきしたり、家族とふれあうほのぼとのした場面が出てきたりして、彼の人柄や人間味のあるところなどもうかがうことができます。

それから・・・

と見どころを紹介したいところですが、ネタバレになってしまうので映画の感想はこの辺にして、あとは映画の公式サイトをご覧になって、ぜひ劇場でご覧になってください。

映画「オラファー・エリアソン 視覚と知覚」公式サイト

8月5日(土)からアップリンク渋谷横浜ジャック&ベティで公開されます。
オラファー・エリアソンの作品の出展が予定されている「ヨコハマトリエンナーレ2017」の特別割引もあります。トリエンナーレの会期中(8/4~11/5)、トリエンナーレのチケット(半券でも可)を劇場で提示すれば、当日一般1,800円のところを、割引価格1,500円で鑑賞できます。

映画の上映に続いて行われた黒澤浩美さん(金沢21世紀美術館チーフキュレーター)と青野尚子さん(アートライター)のトークショー。
とても楽しくて興味深い内容のトークショーでしたが、こちらも映画のネタバレにならない程度にご紹介したいと思います。
(筆者の判断で適宜編集しています。ご了承ください。映像がないと分かりにくい箇所もありますが、上記の映画「オラファー・エリアソン 視覚と知覚」の公式ホームページなどをご参照ください。)

青野さん「映画のご感想は。」
黒澤さん「もう一年先まで取材していれば2009年に金沢21世紀美術館で開催したオラフ
     ァーの個展まで映画になったのに。惜しいです(笑)。
     でも、2009年に彼の個展を開催する一年くらい前から、ベルリンにある彼のス
     タジオに行って打合せをしたりしたので、見たことのある場所の映像が出てき
     てとても懐かしく思いました。」
青野さん「オラファーのスタジオはとても大きいですね。キッチンまであって。」
黒澤さん「たしか3~4階建てで、ちょっとした美術館より大きいです。スタッフも80人
     ぐらいいて、まるで企業のようで、彼はその経営者といった感じです。
     彼はとても民主的な考えの人で、ランチのときも彼だけ優先されるのでなく、
     きちんと列に並ぶのです(笑)。」
青野さん「彼は黒澤さんの財布に興味をもったとか。」
黒澤さん「彼は『なぜそう見えるのか』と常に何かを観察しているのです。白いエナメル
     の財布を見せたら『いいね』と言っていました。きっとその素材が気になった
     のでしょう。
      彼の作品には光を使ったものが多いですが、必ずしも光にこだわっているの
     でなく、水だったり、他の素材だったりします。」
青野さん「観察→研究→表現のサイクルをいつも繰り返しているのですね。」
黒澤さん「彼は形に関心があって、みんなにどう伝わるか、常に考えています。」
青野さん「彼は人の反応を気にしますね。」
黒澤さん「彼の場合、作品の中に人がいるのが前提なのです。映画の中でも『リアリティ
     はつくられる。私たちがつくるもの。』と言っていたように、人と作品の『対
     話』を重視しています。
      ロンドンのテート・モダンで2003年に展示された「ウェザー・プロジェク
     ト」では、人が太陽に吸い込まれるようで、『この吸引力は何だろう』と思い
     ました。
      それでも、彼の場合、ここにランプがあって、ここにコンセントがあって
     と、『しかけ』は分かりやすいんです。
      パリのポンピドーセンターでは彼のスタジオでスタッフの人たちがスローモ
     ーションで動いているだけの動画を延々と流していましたが、これも『しか
     け』はシンプルで、見る側は『なぜこの人はこのような動きをするのか。』と
     考える時点で、オラファー・エリアソンの術中にはまってしまうのです 
     (笑)。」
青野さん「ニューヨークのウォーターフォールは、見る場所によって水の落ちる時間が
     違って見えたとか。」
黒澤さん「確かにボートで近づいてみると早く見えましたし、夜はロマンティックでし
     た。大切なのは本来ないものがある、という違和感、『なぜ』という違和感を
     感じることです。」
青野さん「ヨコハマトリエンナーレに出展される「グリーンライト」は、ワークショップ
     にシリア難民も参加していて、ヨーロッパの難民問題とのかかわりが深いです
     ね。」
黒澤さん「彼は決して社会運動家ではありませんが、芸術を通して『何が起きているんだ
     ろうか』と考える気づきを提示しています。
     『リトルサン』も電気がなくて勉強できない地域があって、それに対して人間
     として何ができるか考えるきっかけをつくっているのです。」

トークショーをおうかがいしてわかったのが、オラファー・エリアソンの「しかけ」はシンプル、でも何かを気づくことが大切だということ。
「ヨコハマトリエンナーレ2017」でオラファーの術中にはまらなくては!

順番が前後してしまいましたが、映画上映前には「ヨコハマトリエンナーレ2017」プロジェクトマネージャーの帆足さんから、トリエンナーレのご案内がありました。

○ 6回目を迎えたヨコハマトリエンナーレ。今回のテーマは「島と星座とガラパゴス」
 島は日本、星座は人間の想像力でできるものの象徴、そして、ガラパゴスはグローバル
 スタンダードから取り残されたというネガティブな意味でなく、孤立して独自の進化を
 とげた独自性をあらわすものです。
○ 2001年に開催された第1回ヨコハマトリエンナーレでもオラファー・エリアソンは翁
 鏡の振り子の作品を出展して、今回も出展しますが、この16年間の彼の変化を見ていた
 だきたいたいです。

トリエンナーレの公式サイトはこちらです。

  ヨコハマトリエンナーレ2017

さて、ヨコハマトリエンナーレ2017のチケットを買ってから特別割引で映画を見て予習するか、作品を見たあとにチケットの半券で特別割引で映画を見て余韻にひたるか、悩ましいところですが、みなさんぜひともこの機会に横浜にお越しになってください。

最後になりましたが、原美術館の紹介を。
原美術館では現在、「メルセデス・ベンツ アート・スコープ2015-2017 漂泊する想像力」が開催中。

ギャラリー1に入るとすぐに目につくのが、ベルリンの地図と市内の各所を映した映像。
ベルリンの壁崩壊のドラマや旧東ドイツをめぐる旅はこのブログでも紹介しているので、とても懐かしく感じました。
泉太郎《溶けたソルベの足跡》

ギャラリーⅡでは掛軸にかかった浮世絵風の一連の作品が。
こちらは、作者が日本の版画工房を訪れた際、作業机が気に入り、なんとその机を「版」として摺ったもの。
掛軸が並んでいるようで何となく和風なところが見ていて気持ちが落ち着いてきます。
メンヤ・ステヴェンソン《e/絵 名人の机》
詳細は展覧会のプレスリリースをご覧になってください。


※撮影不可の作品もありますのでご注意ください。