2017年9月17日日曜日

ドイツ連邦議会選挙の行方(6)~最終回~

1 テレビ討論会の影響は?

  924()のドイツ連邦議会選挙まで残りあと1週間。
 勝負はもう決まったとの感もあるが、SPDのシュルツ候補はまだ諦めていない。
 93日のメルケル候補とのテレビ討論会は、議論が低調で、選挙後の大連立を視野に入れているのかと揶揄されるほどだったが、一方で「シュルツ氏もなかなかいいことを言うではないか。」とシュルツ氏への好感度が高まったことも事実である。
 実際にZDFの調査では、シュルツ候補のポイントがわずかではあるが上がっている。


 正確に言うと、次の2で見るように、8月下旬にEUが制裁対象としているロシア企業「ロスネフツ」の役員候補にシュレーダー元首相の名前があがったことが報道された影響があってシュルツ候補のポイントがガクッと下がったので、
「ロスネフツ」前の水準に戻っただけであるが、それでもテレビ討論の効果があったことは否定できない。

 テレビ討論の思いのほかの効果に味をしめたシュルツ候補は「もう一度テレビ討論をやろう。」とメルケル候補に呼びかけたが、メルケル候補は「アメリカやフランスの大統領選挙と違って、ドイツ連邦議会選挙は政党間の選挙なので、もうテレビ討論を行う必要はない。」と一蹴している。
  
2 ZDF調査「首相としてどちらが望ましいか」

     1月      シュルツ氏 40%  メルケル氏 44% シュルツ候補好スタート
     2月      シュルツ氏 49%  メルケル氏 38% シュルツ候補逆転
   3月     シュルツ氏 44%  メルケル氏 44% 両者譲らず
   47日  シュルツ氏 40%  メルケル氏 48% メルケル氏再びリード
428日    シュルツ氏 37%  メルケル氏 50% メルケル氏リードを広げる
519日    シュルツ氏  33%    メルケル氏 57% メルケル氏さらにリード
62日    シュルツ氏 31%  メルケル氏 59% あやうくダブルスコア
623日     シュルツ氏 31%  メルケル氏 58% メルケル氏堅調
77日    シュルツ氏 30%  メルケル氏 59% メルケル氏堅調
721日     シュルツ氏 30%  メルケル氏 59% メルケル氏堅調
811日     シュルツ氏 30%  メルケル氏 60% メルケル氏ダブルスコア
825日     シュルツ氏 34%  メルケル氏 55% シュルツ氏少し持ち直す
91日     シュルツ氏 28%  メルケル氏 57% シュルツ氏ガクッと落ちる
                   (露企業ロスネフツ問題が影響か?)
98    シュルツ氏 33%  メルケル氏 57% シュルツ氏少し持ち直す
915日    シュルツ氏  32%  メルケル氏 56% シュルツ氏少し持ち直す
                      (テレビ討論会で好感がもたれたか?) 
 
 テレビ討論の効果があったといっても、劣勢を挽回したわけでなく、シュルツ候補はメルケル候補に大きく水をあけられ、依然として苦しい戦いを強いられている。
 メルケル候補は勝利をほぼ手中に収めたことは間違いないが、あとは、どのような連立の組合せになるかが大きな焦点となっている。

3 有権者の関心は「誰が首相になるか」でなく「どの連立の組合せになるか」か?

  915日付ZDF調査による政党支持率
   CDU/CSU 36%(-2%)SPD 23%(+1%)、左派党 9%(±0%)
緑の党 8%(±0%)FDP 10%(+1%)AfD 10%(+1%)、その他 4%(-1%)
(カッコ内は98日調査時との増減比較)


連立の組合せ
政党支持率
の合計
望ましい
望ましく
ない
CDU/CSUSPD
(大連立)
59%
40%
42%
CDU/CSUFDP
(黒黄連立)
46%
39%
40%
CDU/CSU+緑の党
(キウイ連立)
44%
30%
44%
CDU/CSU+緑の党+FDP
(ジャマイカ連立)
54%
25%
52%
SPD+緑の党+FDP
(信号連立)
41%
22%
53%
SPD+左派党+緑の党
(赤赤緑連立)
40%
24%
63%
  
 9月15日付の調査では、どの連立の組合せも、「望ましくない」が「望ましい」を上回っている。
 それでも大連立や黒黄連立は「望ましくない」が「望ましい」をわずかに上回っているだけであるが、信号連立や赤赤緑連立に対する拒否感は依然として強い。
 「ドイツ連邦議会選挙の行方(3)」で見たように、ザールラント州の州議会選挙ではSPDと左派党が連立して左に舵が切られることを望まない「無党派層」の「浮動票」がCDU/CSUに流れたが、同じようなことは連邦レベルでも起こる可能性は十分考えられる。

 さて、ここでメルケル候補とシュルツ候補に対する有権者の期待に戻ってみよう。


4 有権者の期待



47
98
メルケル
シュルツ
わからない
メルケル
シュルツ
わからない
どちらが信頼できるか(glaubwürdiger)
34%
13%
44%
34%
15%
47%
どちらが好感がもてるか
(sympathischer)
31%
27%
35%
39%
23%
35%
どちらが専門知識をもっているか
(Sachverstand)
46%
10%
31%
53%
7%
33%




91
どちらが社会的公正に配慮しているか
22%
33%
36%
不確実な時代にドイツを導くことができるか
60%
8%
24%


9月8日に実施された3つの質問項目については、4月7日に実施したときの結果と傾向はほぼ同じで、有権者の意識はあまり変化がないことがわかるが、9月1日に実施された項目については、現在の世界情勢を反映して興味深い結果が出ている。

 社会的公正への配慮についてはシュルツ候補が上回っているが、「不確実な時代にドイツを導くことができるか」という質問に対しては、メルケル候補がシュルツ候補を大きく引き離している。

 難民の流入、アメリカ・トランプ大統領の登場、イギリスのEU離脱、トルコの専制化、クリミア問題などなど、不安定な状況の中では、やはり連邦首相としての実績があるメルケル候補に次の4年間を任せたいという有権者の心理がここに反映されている。

 選挙まであと1週間。
 不確実な時代にはメルケルさんに首相を任せて、大連立か黒黄連立で安定的に連邦議会を運営していってほしい、というのが多くの有権者の望みであるようだが、結果はどうなるか。
同じくZDFの調査では「投票先を決めたか。」という問いに、「はい」と答えた人が61%、「いいえ」と答えた人が39%。
シュルツ候補もインタビューの機会などで「まだ4割の有権者が投票先を決めていない。」と強調している。

選挙は終わるまでどうなるかわからない。



「ドイツ連邦議会選挙の行方」の連載は以上ですが、ここで私なりの予想を披露します。

 CDU/CSUとしては、長らく連立を組んで気心も知れているFDPと連立を組みたいだろう。それに小さな政党と連立を組めば、明け渡す大臣ポストも少なくて済む。
 しかしながら、FDPは前回の選挙で失った連邦議会の議席を回復するのはほぼ確実であるが、政党支持率はほぼ横ばいでこれ以上の伸びは期待できず、CDU/CSUと合わせて過半数を獲得するのは難しいのではないか。

 一方で、不気味なのはAfD。さらに右寄りの傾向を強め、有権者から「極右政党」とみなされて支持率を失いつつあったが、最近になって回復傾向にある。
 各党の要職にある政治家が1名ずつ参加して9月5日に行われたテレビのトークショーで、AfDのアリス・ヴァイデル共同首相候補が難民受け入れ反対の発言をして他党の政治家から総スカンをくらい、さらに「極右政党」と言われて途中退席するという一幕があった。
 良識ある有権者であれば嫌悪感しか感じられないアリス・ヴァイデルのパフォーマンスであっても、難民の流入に反対し現状に不満を持つ有権者には、AfDは既存の政党とは違うんだ、という強いメッセージになったであろう
 
 熾烈な第三党争いの中、AfDが抜きん出れば、FDP、左派党、緑の党は票を食われてしまい、他の連立の組合せも過半数は獲得できなくなる。また、CDU/CSUと緑の党の連立は、ディーゼル車をはじめとした環境政策で大きな隔たりがあるので、連立は考えにくい。

 こういったことを考え合わせると、私の予想は「選挙に勝ったCDU/CSUも選挙に負けたSPDもお互いに連立は組みたくないが、AfDの台頭に危機感を抱いた二大政党が政治の混乱を避けるためにやむをえず連立を組む。」。

以上です。