2017年9月21日木曜日

三井記念美術館 特別展「驚異の超絶技巧!」

三井記念美術館で9月16日(土)から始まった特別展「驚異の超絶技巧!」に行ってきました。
3年前に同じく三井記念美術館で開催された「超絶技巧!明治工芸の粋」も驚異でしたが、今回は会場じゅうに明治工芸と現代アートの火花がバチバチ飛び散る緊張の連続。いやいや本当に驚異の展覧会でした。

1階の記念撮影コーナーです。
ぜひここで記念撮影を。

といってもただ驚いているだけではどれだけすごい展覧会かわかりませんので、先日(9月16日)参加したブロガー特別内覧会の様子を紹介したいと思います。

※掲載した写真は、美術館の特別の許可を得て撮影したものです。

はじめに「青い日記帳」主宰のTakさんからご挨拶。
「初日の今日は千人もの方にご来場いただいただき、展覧会図録も飛ぶように売れたようです。このままだと図録は会期中に売り切れてしまうかもしれません。
 さて、今回の特別展ですが、展覧会を監修した山下裕二さんのお話をおうかがいしないとそのすごさがわからないので、まずは山下さんのお話をおうかがいしたいと思います。」

左 Takさん、右 山下さん
山下裕二さん(明治学院大学教授)
「3年前、『超絶技巧!明治工芸の粋』をこの三井記念美術館で開催して、その後、全国6ヶ所を巡回してとても好評で、9万人近くの方にご来場いただきました。今回はその続編ですが、明治の工芸だけでなく現代作家の作品も展示しているところが今回の特徴です。今回展示している現代作家の作品は、ほとんどが今回の展覧会のために制作してもらったものです。」

前室に移動して。
「プロローグでは明治工芸と現代作家の作品を並べました。今回の展覧会では両方見せるんです、というメッセージです。」

前室には、初代宮川香山の《猫二花細工花瓶》と現代作家・髙橋賢悟の《Origin as a human》が並んでいます。この2点だけは撮影可です。私はあとで写真を撮ろうと思って撮り忘れてしました。
みなさん、ぜひ前室で記念写真を撮ってください。

「髙橋賢悟の《Origin as a human》は4~5万個のアルミニウムのパーツでできています(!)。とても根気のいる作業ですが、時給100円以下の作業ではないでしょうか。」
(安すぎる!)

展示室1
「昭和4年の創建当時の趣が残っている第一室の独立ケースには本当に素晴らしい作品を並べています。」

前回の「超絶技巧!明治の工芸」でも「展覧会を開催するなら昭和4年に建築されたクラシックな建物、エントランスを入った展示室1の独立ケースといった素晴らしい展示環境の三井記念美術館で。」とのこだわりがあった山下さん。
今回もそのこだわりが感じられます。

展示室1の展示風景

山下さん
「はじめに明治七宝、並河靖之の上品な花瓶です。深みのあるほんのり青みがかった黒がアジサイを引き立てています。」
七宝 並河靖之《紫陽花図花瓶》清水三年坂美術館
「続いて明治金工、正阿弥勝義の香炉です。今回展示している作品はどれも装飾が細やかなので、ご来館の際にはぜひ単眼鏡をお持ちください。」
(みなさん単眼鏡を忘れずに!)

金工 正阿弥勝義《群鶏図香炉》清水三年坂美術館
右が矮鶏摘、左が蟷螂摘
「こちらは現代作家、春田幸彦の有線七宝です。タイトルは「反逆」。いつもは革として利用される蛇が人間に反逆しているところを表現しています。」(怖い!)
現代作家 春田幸彦《有線七宝錦蛇革鞄置物「反逆」》

「左右は明治・大正期の自在、中央は現代の自在の海老です。中央の《鹿の子海老》は弱冠28歳の木彫作家 大竹亮峯の作品です。木は扱いにくい材質ですが、自在なのでどのパーツも動きます。驚くのは左右の海老がおなかをついているのに対して、中央の海老は足だけで自立していることです。」

右 自在 宗義《伊勢海老》、左 自在 山崎南海《伊勢海老》
(いずれも清水三年坂美術館)
中央 現代作家 大竹亮峯《自在 鹿の子海老》  
(正面から見るとよくわかります。足のツメだけで立っている!)


「こちらは明治漆工の第一人者、白山松哉の作品です。ぜひルーペでご覧になってください。」

漆工 白山松哉《羽根蒔絵香合》清水三年坂美術館

「こちらは現代作家、橋本雅也の作品で、鹿の角を彫って作ったものです。橋本は、知人の猟師がしとめた鹿の、肉は食べて、骨や角を作品に使っています。そこには『死と再生』というコンセプトがあります。」
 
現代作家 橋本雅也《ソメイヨシノ》
「こちらは明治木彫の第一人者、旭玉山の作品です。木彫りの上に象牙や鹿の角などをはめ込んだ彫嵌でも才能を発揮しました。」

木彫 旭玉山《吹上菊図文庫》清水三年坂美術館
「三代 正直の作品は、一つの木材から削り出した一木造りです。当時は人気があって類似品が残されています。ガマだけでなくカタツムリがいるのもよくご覧になってください。」

木彫 三代 正直《釣瓶に蝦蟇》清水三年坂美術館 

「この展示室1はかつて食堂でした。格調高い三井の食堂になぜ秋刀魚の食べ残しがあるのか(笑)。これは前原冬樹の作品で、驚くのは皿も含めて一本の木から削った一本造りだということです。ミュージアムショップではこの絵はがきがよく売れているそうです(笑)。
 最近、前原をバラエティ番組に連れて行くことがあったのですが、明石家さんまの番組でこの作品を紹介して大変受けました(笑)。」

現代作家 前原冬樹《一刻:皿に秋刀魚》
「こちらは安藤重兵衛の七宝です。まるで水墨画のような趣です。」

七宝 安藤重兵衛《月に時鳥図花瓶》
山下さん
「この《Arcadia》の作者、稲崎栄利子さんは今日この場にお見えになっています。この作品を造るのにどれだけ時間がかかりましたか。」
稲崎さん
「粘土のパーツをひとつずつくっつけていくのですが、その作業に8ヶ月。乾いてはいけないので加湿器をつけて作業します。次にゆっくり8ヶ月乾燥させて、そろそろいいかなという頃合いに焼くのです。」
山下さん
「一つ造るのに1年4か月!時給にしたらいくらくらいになるのでしょうか。
 この作品が何をかたどっているかは見る人の想像にゆだねるということですね。」
稲崎さん
「はいそうです。」(拍手)
現代作家 稲崎栄利子《Arcadia》
展示室2
山下さん
「この展示室2の独立ケースは、三井記念美術館所蔵の国宝《志野茶碗 銘卯花墻》が展示されたこともある重要な作品を展示するスペースです。前回は竹の子が展示されていたのをご記憶でしょうか。今回はきゅうり(!)です。見てください、この葉の薄さ。持ち運びが大変でした(笑)。」

牙彫 安藤緑山《胡瓜》

「安藤緑山はその生涯に不明なところが多く、また、弟子をとらない人でした。名前を残すのでなく作品を残すという、いい意味で職人かたぎの人で、本物の芸術家でした。今回出展している現代作家も、そういった緑山のスピリットを引き継いでいる人たちばかり選んでいます。」

今回の展覧会に参加している現代作家は15人。このブログでも現代作家の作品を少なくとも1点は紹介しています。

 参加している現代作家(五十音順)
  青山 悟(刺繍)、稲崎栄利子(陶磁)、臼井良平(ガラス)、大竹亮峯(木彫)、
  加藤巍山(木彫)、佐野 藍(石彫)、更谷富造(漆工)、鈴木祥太(金工)、
  髙橋健悟(金工)、橋本雅也(牙彫)、春田幸彦(七宝)、本郷真也(金工)、
  前原冬樹(木彫)、満田晴穂(自在)、山口英紀(水墨)

展示室3 壁面

山下さん
「一見するとモノクロ写真のようですが、驚くべきことにこれは絹地に描かれた水墨画なのです。水墨の濃淡だけでこれだけリアルに表現できる人は他にいないでしょう。作者の山口英紀は中国に留学して水墨画や書を勉強しました。また篆刻も得意としていて、自身の作品に押しています。」

現代作家 山口英紀《右心房左心室》(右)、《往来~丸の内》(左)

展示室3 如庵展示ケース

国宝の茶室・如庵を再現した「如庵展示ケース」には、橋本雅也の《タカサゴユリ》がさりげなく展示されていて、とてもいい雰囲気を出しています。

現代作家 橋本雅也《タカサゴユリ》

展示室4

山下さん
「濤川惣助は、並河靖之とならんで『二人のナミカワ』と呼ばれていました。無線七宝の濤川はより絵画的な表現が特徴です。」

七宝 濤川惣助《芦鴨図盆》


七宝 濤川惣助《芙蓉に鴨図花瓶 一対》

「京都七宝は途絶えてしまいましたが、尾張七宝は今でも続いています。その尾張七宝の代表作が、本多與三郎《龍鳳凰唐草文飾り壺》です。本多はエキゾチックな図柄が特徴です。」

七宝 本多與三郎《龍鳳凰唐草文飾り壺》 

「次は漆工です。白山松哉の作品はルーペを通してごらんになってください。これだけ細い線が引ける人はいないと言われています。」

漆工 白山松哉《渦文蒔絵香合》
「さて、こちらは安藤緑山の『八百屋コーナー』です(笑)。3年前の超絶技巧展をきっかけに緑山の作品が発見され、3年前は35点だったものが、現在では国内外に82点あることが確認されました。リアルな松茸やしめじ、焼き栗、バナナの皮をむいたところなど、とにかくこのコーナーは楽しんでください。」

牙彫 安藤緑山《松茸、しめじ》(中央)ほか


牙彫 安藤緑山《パイナップル、バナナ》 清水三年坂美術館
「初代 宮川香山の作品は、つららとオシドリ。この題材は伊藤若冲の《動植綵絵》にインスパイアされたのでしょう。」

陶器 初代 宮川香山《氷窟鴛鴦花瓶》眞葛ミュージアム

展示室5

山下さん
「こちらは明治と現代の『自在』対決です。高瀬好山《十二種昆虫》は三井記念美術館所蔵です。」

奥 自在 高瀬好山《十二種昆虫》三井記念美術館
手前 現代作家 自在 満田晴穂《十二種昆虫》

左 自在 明珍《蛇》清水三年坂美術館
 右 現代作家 自在 満田晴穂《蛇骨格》

「これは今回の展示でもっとも難解な超絶技巧です(笑)。一見したところただの花瓶ですが、これは一枚の鉄の板を金槌で打ち延ばして成形したものです。」

金工 山田宗美《瓢形一輪生》

「刺繍は光に弱いので展示替えがあります。昇竜《大工図刺繍額》(下の写真中央)のおじさんの絵葉書は意外と人気があるようです(笑)。」


右から 十二代西村總左衛門《瀑布図刺繍額》、昇竜《大工図刺繍額》、
無銘《粟穂に鶉図刺繍額》いずれも清水三年坂美術館蔵 
(こちらの作品の展示は10/29までです。)

展示室6
室内が明るくなったり暗くなったりするミステリアスな部屋です。
こちらの作品は明るいときは世界地図。

現代作家 青山悟《Map of the World(Dedicated to Unknown Embroiderers)》

ところが暗くなると国境と国名が浮かび上がってきます。(!)

同上

展示室7

山下さん
「この展示室は主に現代作家の作品を展示しています。」
「一見すると高村光雲か、平櫛田中かと見まごうばかりの木彫は、仏像や歴史ものを彫る彫刻家・加藤巍山の作品です。」

現代作家 木彫 加藤巍山《恋塚》
「鉄をひたすら叩いて成形した本郷真也のオオサンショウウオです。」

金工 本郷真也《流刻》
「大理石に細工を施した佐野藍のヘビと龍です。」

石彫 佐野藍《Python XXX》(右)、《ピンクドラゴン》(左)
「見てください。吹けば飛んでいってしまいそうな真鍮線で作った鈴木祥太のタンポポです。」

金工 鈴木祥太《綿毛蒲公英》
「ヨーロッパに拠点を置く更谷富造の漆工です。」

漆工 更谷富造《遊景》

「そして最後は水をガラスで表現した臼井良平の作品です。気泡までよく再現しています。」

ガラス 右から 臼井良平《Untitled(Soda crushed,Blue cap bottle)》、
《Water》、《Water》
そして最後に山下さん。
「今回の展覧会で紹介した現代作家15人は、私が足を棒にして全国を回って探した人たちです。初めて聞く名前の作家も多いでしょうが、無名でも素晴らしい作家ばかりです。これを機会に、彼らの努力が報われて、時給100円のところ、今回の展覧会を機会にせめて時給500円、1000円の労力になればと願っています。」(拍手)

どうでしょうか。今回の展覧会のすごさが伝わりましたでしょうか。
山下さんの芸術にかける熱い思いが伝わってくる、とても素晴らしい展覧会です。
ぜひその場でご覧になっていただければと思います。

会期は12月3日(日)までです。
展覧会概要や展示替えの情報は展覧会公式サイトでご確認ください。
 ↓
http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html