2017年12月20日水曜日

選挙制度~日独比較~

「ジャマイカ連立」交渉が破局を迎え、CDU/CSUとSPDの連立交渉が始まった。
9月24日のドイツ連邦議会選挙では、選挙直前には楽勝との予想だったCDU/CSUが議席を減らし、SPDは戦後最低の得票率で「歴史的な敗北」を喫した。その一方で右派政党のAfDが2013年の結党以来はじめて連邦議会に進出し、94議席を獲得した。

CDU/CSUとSPDの連立交渉は始まったばかりで、まだまだ先は長いが、ちょうどいいタイミングで日本では10月22日に衆議院総選挙が行われたので、ドイツと日本の選挙結果について比較してみた。

まずは、ドイツ連邦議会選挙の結果。

(表1)
ドイツ連邦議会選挙2017結果
政党名
議席数
得票率(1)
議席獲得率
相対得票率(2)
CDU/CSU
246
32.9%
34.7%
34.7%
SPD
153
20.5%
21.6%
21.6%
FDP
80
10.7%
11.3%
11.3%
緑の党
67
8.9%
9.4%
9.4%
左派党
69
9.2%
9.7%
9.7%
AfD
94
12.6%
13.3%
13.3%
合計
709
94.8%
100.0%
100.0%
1 第2投票の得票率
2 得票率5%を超えた政党の得票率合計を100.0%とした場合の
  得票率(以下、同じ)


続いて日本の衆議院総選挙の結果。

 (表2)
衆議院選挙2017結果
政党名
議席数
小選挙区
比例区
得票率()
議席獲得率
自民
284
218
66
40.7%
61.1%
立憲
55
18
37
14.3%
11.8%
希望
50
18
32
19.0%
10.8%
公明
29
8
21
7.0%
6.2%
共産
12
1
11
8.5%
2.6%
維新
11
3
8
4.6%
2.4%
社民
2
1
1
1.4%
0.4%
こころ
0
0
0
0.1%
0.0%
その他
22
22
0
4.3%
4.7%
合計
465
289
176
99.9%
100.0%
※ 小選挙区+比例区合計の得票率

ドイツ連邦議会選挙の場合、有権者は全国に299ある小選挙区で候補者個人に投票する。これが第1投票。次に各州ごとの選挙区に提出された政党の候補者リストに基づき政党に投票する。これが第2投票。
日本の衆議院でも、有権者は選挙区に1票、比例区に1票を投じるので、ここまでは同じ。

しかしながら、ドイツではここからが少し複雑になる。
各政党ごとの議席は、まず第2投票の得票率により配分される。
たとえば小選挙区で100人勝った政党が第2投票の得票率で150議席配分された場合、小選挙区当選候補の100議席に加え各州ごとの政党の候補者リストから50人が当選者になる。
反対にこの政党が、第2投票の得票率で95議席しか配分されなかった場合、5人が落選するのでなく、この政党の議席数は100議席のままで、5議席分の超過議席が発生する。
続いて第2投票の得票率による議席配分が終わった後、さらに議席を獲得した政党間の釣り合いをとるため配分の少ない政党に議席が配分される。ここでも超過議席が発生する。
上記(表1)で見るとおり、各政党の相対得票率と議席獲得率は結果的にイコールになっている。こうした複雑な調整の結果、定数598議席の連邦議会が709議席にまで膨れ上ることになった。

さてここで頭の中に浮かんだのが、「もしドイツが日本と同じ選挙制度だったら。」という空想。
日本の場合、小選挙区と比例区の議席配分は連動していないので(小選挙区と比例区の重複候補者の比例復活はあるが、議席配分には影響しない)、比例区の選出議員数は小選挙区選出議員数にそのまま上積みされる。
ドイツ連邦議会は小選挙区が299、日本の衆議院は289なので、比例区は10減らして、合計議席数を衆議院と合わせて試算してみた。

そうするとなんとCDU/CSUの議席獲得率は62.1%で軽く過半数を超え、他の政党との面倒な連立交渉をする必要がなくなることになる。
確かに日本の感覚で言えば299の小選挙区のうち231も獲ったのだから、本当は「圧勝」といってもよかったのかもしれない。上記(表2)のとおり日本の衆議院で自民党は289選挙区のうち218を獲得して「圧勝」している。

(表3)
ドイツ連邦議会選挙2017結果(日本の衆議院の方式を当てはめた場合)
政党名
議席数
小選挙区(※1)
比例区(※2)
得票率(※3)
議席獲得率
相対得票率(2)
CDU/CSU
289
231
58
32.9%
62.1%
34.7%
SPD
95
59
36
20.5%
20.4%
21.6%
FDP
19
0
19
10.7%
4.0%
11.3%
緑の党
17
1
16
8.9%
3.6%
9.4%
左派党
21
5
16
9.2%
4.5%
9.7%
AfD
25
3
22
12.6%
5.4%
13.3%
合計
465
299
166
94.8%
100.0%
100.0%
※1 小選挙区はドイツでの獲得議席数
※2 比例区=(衆議院の比例区定数176-10)×相対得票率
※3 2投票の得票率

さて、一方でドイツ連邦議会の選挙制度を日本の衆議院にあてはめたらどうなるだろうか。

(表4)
衆議院選挙2017結果(ドイツの連邦議会選挙の方式を当てはめた場合)
政党名
議席数(※1)
得票率(※2)
議席獲得率
相対得票率(2)
自民
236
33.3%
33.2%
34.3%
立憲
141
19.9%
19.9%
20.5%
希望
123
17.4%
17.4%
17.9%
公明
88
12.5%
12.5%
12.9%
共産
56
7.9%
7.9%
8.1%
維新
43
6.1%
6.1%
6.3%
その他
22
-
3.1%
-
合計
709
97.1%
100.0%
100.0%
※1 合計議席数を709とし、各政党は相対得票率で按分、「その他」は小選挙区での獲得議席をそのまま入れ込んだ
※2 比例区の得票率、5%条項を適用

まずはじめに前提をどうするかさんざ悩んだが、どうせ架空の話なので、えいやで議席数を709議席にして、比例区の相対得票率をかけてみた。こうすると(表4)のとおり自民党は小選挙区で獲得した218議席にわずか18議席しか上積みされず、公明党と組んでも過半数に達しないので、もう一つどこかの政党と連立交渉をしなくてはならないことになる。
ではどの政党と連立交渉するか?
打倒安倍政権を掲げた立憲民主党、希望の党、共産党はありえないだろう。その他の無所属候補はかつての民主党の幹部政治家が多く含まれているので、自民会派に取り込むことは考えられない。残るは日本維新の会だが、希望の党と共同戦線を張ったので可能性は薄いが、憲法観が近いこともあって最後は連立交渉のテーブルに着くのか。またはサプライズで自民と立憲の「大連立」か。

架空のことをこれ以上考えても仕方ないが、次に出てくる疑問は、どちらが民主的な選挙制度かということ。

ドイツは「人物を加味した比例代表制」と言われるが、日本は選挙区と比例区の議席配分で見るとおり人物中心の選挙制度。比例復活当選者を考慮に入れると人物の度合いはさらに強くなる。しかしながら、郵政選挙や政権交代選挙で見るとおり、選挙前に吹く「風」の影響も大きい。
また、ドイツでは議席配分の調整により、中規模政党が日本に比べ多くの議席が獲得できるので、少数意見をより反映させる仕組みになっているが、もともと日本は政権交代可能な二大政党制を実現するために小選挙区制を導入したのだから選挙制度の趣旨も違う。
さらに参議院のあり方の違いもあるし(ドイツの参議院は各州政府の代表者の集まり)、いろいろ考えてみたが単純には比較できそうもない。

ついでながら、ドイツの政治制度について調べている中で驚いたことが一つ。

ドイツ連邦の首相は必ずしも連邦議会議員である必要はない。

日本では憲法第67条第1項に「内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。」と規定されているが、ドイツ基本法第63条第1項では、「連邦首相は、連邦大統領の提案に基づき、連邦議会により討議なしに選挙される。」とあり、連邦議会議員でなくてはならないという規定はない。
実際に、第三代連邦首相のキージンガー氏は、1949~58年 連邦議会議員、1958~66年 バーデン・ビュルテンベルク州首相、1966~69年 連邦首相 1969~1980年 連邦議会議員という経歴をたどっている。

もし仮に日本がドイツと同じ制度だったら、衆議院総選挙で希望の党と日本維新の会が過半数をとれば小池百合子都知事を首相に指名することができ(衆議院と参議院の指名が異なる場合、最終的には衆議院の指名が優先される)、日本政治史上初の女性首相誕生ということになる。
もちろんあくまでも架空の話ではあるが。

(以 上)