すみだ北斎美術館で開催中の企画展「フリーア美術館の北斎展」はそんな願いをかなえてくれるとても素晴らしい展覧会です。
「えっ、まさか!」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
日本美術の宝庫として知られる国立スミソニアン協会フリーア美術館(アメリカ・ワシントンD.C.)は、作品を収集した実業家チャールズ・ラング・フリーア氏(1854-1919)の遺言で、所蔵作品はすべて門外不出とされているからです。
そこで登場するのが数多くの高精細複製品を制作して寺社や美術館等に寄贈している「綴プロジェクト(文化財未来継承プロジェクト)」。
綴プロジェクトは、オリジナル文化財の保存と高精細複製品の活用を目的として、特定非営利活動法人 京都文化協会とキャノン株式会社が推進している社会貢献活動です。
みなさんも綴プロジェクトの高精細複製作品をどこかでご覧になっているのではないでしょうか。
今回の企画展は、綴プロジェクトが制作してすみだ北斎美術館に寄贈した13点が前期後期ですべて見ることができる豪華な展覧会。
さて、展示室内はどのようになっているのでしょうか。
先日開催された特別ギャラリートークに参加しましたので、さっそくそのときの様子を紹介していきましょう。
※企画展「フリーア美術館の北斎展」展示室内は撮影禁止です。掲載した画像は美術館の特別の許可をいただき撮影したものです。
展覧会概要
会 期 6月25日(火)~8月25日(日)
前期 6月25日(火)~7月28日(日) 後期 7月30日(火)~8月25日(日)
開館時間 9時30分~17時30分(入館は17時まで)
休館日 7/1(月)、8(月)、16(火)、22(月)、29(月)、8/5(月)、13(火)、19(月)
観覧料(AURORA(常設展示室)観覧料含む) 一般 1,000円ほか
関連イベントもあります。詳細はこちらでご確認ください→すみだ北斎美術館
スタートは4階の第1展示室です。
第1展示室入口 |
このレイアウトいいですね。まるでフリーア美術館に来たような気分になります。
ウェルカム・トゥ・フリーア・ギャラリー・オブ・アート!
第1展示室に入って見えてくるのは奥に展示されている「玉川六景図」。
葛飾北斎「玉川六景図」高精細複製画(通期) 原画:フリーア美術館蔵 Facsimiles of works in the collection of the Freer Gallery of Art, Smithsonian Institution,Washington DC:Gift of Charles Lang Freer,F1904.204-205 |
和歌に詠みこまれた6つの玉川(京都、大阪、和歌山、滋賀、東京、宮城)を題材とした六曲一双の屏風です。
こちらはもちろん高精細複製画ですが、近くで見てもこのリアルさ。
葛飾北斎「玉川六景図」高精細複製画(通期)(部分)
原画:フリーア美術館蔵
Facsimiles of works in the collection of the Freer Gallery of Art,Smithsonian Institution,Washington DC:Gift of Charles Lang Freer,F1904.204-205 |
この展覧会は5章構成になっていて、この第1展示室は第1章。
第1章 「玉川六景図」の研究
フリーア美術館ではこの「玉川六景図」は、右隻に人物、左隻に風景が配置されていますが、明治期に発行された雑誌『日本美術画報』初編巻九に掲載された写真によると人物と風景が交互に配置されていました。
ここに展示されている作品は、これに倣って配置されています。
「(人物と風景が交互に配置されている)こちらの方が目にやさしいように感じます。」と今回のギャラリートークで作品の解説をしていただいた、フリーア美術館日本美術担当学芸員のフランク・フェルテンズさん。
もともとの専門は琳派で、フリーア美術館に入って北斎の研究を始め、北斎の人となりと芸術を尊敬するようになったというフェルテンズさん(下の写真中央)。日本語堪能でとても気さくな方です。左は今回の特別ギャラリートークのモデレーター、アートブログ「青い日記帳」主宰のTakさんです。
もともとの専門は琳派で、フリーア美術館に入って北斎の研究を始め、北斎の人となりと芸術を尊敬するようになったというフェルテンズさん(下の写真中央)。日本語堪能でとても気さくな方です。左は今回の特別ギャラリートークのモデレーター、アートブログ「青い日記帳」主宰のTakさんです。
「門外不出」のフリーア美術館の学芸員として日本美術を日本の人たちとどのようにシェアしていけばいいのか悩んでいたというフェルテンズさん。
今回のプロジェクトでそれが実現しましたが、高精細複製画を見て「本物と変わらないくらいでこわいです(笑)。」
「北斎の画風のすべてがこの屏風に盛り込まれています。」とフェルテンズさん。
「人物の表情、年齢、それに庶民や貴族といった社会的ステータスまで、北斎は深く分析して描いています。人物の顔や姿勢など、近くでよく見比べていただきたいです。」
3階の第2展示室に移りましょう。
第2章 古典と伝説
ドーンと地を揺るがすような轟音が聞こえてきそうな雷神が出てきました。
フェルテンズさん「この作品の見どころは雲の動きです。雷神がいかにも雲から出てきたばかりといった動きをしています。」
そして、ほぼ画面全体に描かれた黒い点にも注目です。
「この点々を描くときの北斎の気合の入った動きが想像できます。」
北斎はきっとこんな感じで描いていたのでしょう。
4階のAURORA(常設展示室)の北斎さん。そして後ろは北斎を支えた娘の阿栄(おえい)。
AURORA(常設展示室)は一部を除き撮影可。企画展のチケットがあればこちらも入れます。
ぜひ北斎さんにご挨拶しましょう。ただし、制作の邪魔をするとおこられるのでご用心。
第3章 美人画
続いて美人画のコーナー。
こちらは双幅の「新年風俗図(初夢・朝化粧)」。
正月を迎える風習を描いた場面で、右幅は正月にいい夢を見ることを願って宝船を描いた紙を折りたたんで枕の下に敷くところを描いています。
ぐいっと前に傾けた首が、願いの強さを物語っているようです。
左幅は、元旦に初めて汲んだ若水で手や顔を洗う初手水という儀式に臨もうとしている女性を描いたもの。若水を入れた漆器の水入れを右手で持って、左手を丁寧に添えているところに新年の行事の厳かさを感じます。
細部にも注目です。女性の着ている着物の柄、右幅下の紙に描かれた宝船、左幅の水入れの蒔絵の柄、水を受ける容器の横に描かれた山水画。どれも丁寧に描かれているので、ぜひ近くでご覧になってください。
単眼鏡で見ていたら、生地の絹目までよく見えました。
「この作品は絹地に描かれているんだな。」と納得しましたが、よくよく考えてみるとこれは複製画。綴プロジェクトの高精細複製画おそるべしです。
第4章 動物と植物
小上がりに敷かれた畳の上に展示されているのは「十二ヶ月花鳥図」。
ガラスケースはありません。
「こんにちはー」と言って知り合いのお宅のおじゃましたような気分で作品を楽しみましょう。
酒井抱一で見慣れた「十二ヶ月花鳥図」とは少し趣が違って、花鳥図といいつつ亀が気持ちよさそうに泳いでいたりします。
「江戸後期の新しい解釈で描かれた十二ヶ月花鳥図です。」とフェルテンズさん。
この作品は落款がなかったのですが、作風から最近になって北斎の真筆と判断されたとのことです。
今回の展示の特徴は、フリーア美術館所蔵作品の複製画と、それに関連するすみだ北斎美術館所蔵作品が並んで展示されていることです。
こちらはすみだ北斎美術館所蔵の「亀」。亀が水の中を涼しげに泳いでいます。
この「十二ヶ月花鳥図」は前期のみの展示ですが、後期には同じく高精細複製画の六曲一双の屏風「富士田園景図」が展示されるのでこちらも楽しみです。
第5章 自然と風景
そして展覧会のフィニッシュを飾るのは、こちらに迫りくる波濤に圧倒されそうな「波濤図」。
「波濤の先端が卍の形をしているのが北斎の波の特徴です。」とフェルテンズさん。
大胆な波濤と突き出す岩の向こうには浜伝いに並ぶ民家が小さく描かれています。
「北斎の人気の理由は、日本の伝統的な技法に加え、遠近法のように西洋の技法を取り入れていること。だから今の人たちにも親しみやすいのではないでしょうか。」
隣に並ぶのはご存じ「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」。
北斎の波の競演です。
展示を見終わって3階ホワイエに出ると北斎の波の競演がお出迎え。
ここは撮影スポットなので、来館記念に北斎の波と一緒にぜひ1枚!
今回のプロジェクトでそれが実現しましたが、高精細複製画を見て「本物と変わらないくらいでこわいです(笑)。」
「北斎の画風のすべてがこの屏風に盛り込まれています。」とフェルテンズさん。
「人物の表情、年齢、それに庶民や貴族といった社会的ステータスまで、北斎は深く分析して描いています。人物の顔や姿勢など、近くでよく見比べていただきたいです。」
3階の第2展示室に移りましょう。
第2章 古典と伝説
ドーンと地を揺るがすような轟音が聞こえてきそうな雷神が出てきました。
葛飾北斎「雷神図」高精細複製画(通期)
原画:フリーア美術館蔵
Facsimiles of works in the collection of the Freer Gallery of Art,Smithsonian Institution,Washington DC:Gift of Charles Lang Freer,F1900.47 |
フェルテンズさん「この作品の見どころは雲の動きです。雷神がいかにも雲から出てきたばかりといった動きをしています。」
そして、ほぼ画面全体に描かれた黒い点にも注目です。
「この点々を描くときの北斎の気合の入った動きが想像できます。」
北斎はきっとこんな感じで描いていたのでしょう。
4階のAURORA(常設展示室)の北斎さん。そして後ろは北斎を支えた娘の阿栄(おえい)。
AURORA(常設展示室)は一部を除き撮影可。企画展のチケットがあればこちらも入れます。
ぜひ北斎さんにご挨拶しましょう。ただし、制作の邪魔をするとおこられるのでご用心。
第3章 美人画
続いて美人画のコーナー。
こちらは双幅の「新年風俗図(初夢・朝化粧)」。
正月を迎える風習を描いた場面で、右幅は正月にいい夢を見ることを願って宝船を描いた紙を折りたたんで枕の下に敷くところを描いています。
ぐいっと前に傾けた首が、願いの強さを物語っているようです。
左幅は、元旦に初めて汲んだ若水で手や顔を洗う初手水という儀式に臨もうとしている女性を描いたもの。若水を入れた漆器の水入れを右手で持って、左手を丁寧に添えているところに新年の行事の厳かさを感じます。
葛飾北斎「新年風俗図(初夢・朝化粧)」高精細複製画(通期)
原画:フリーア美術館蔵
Facsimiles of works in the collection of the Freer Gallery of Art,Smithsonian Institution,Washington DC:Gift of Charles Lang Freer,F1903.52,F1903.53 |
単眼鏡で見ていたら、生地の絹目までよく見えました。
「この作品は絹地に描かれているんだな。」と納得しましたが、よくよく考えてみるとこれは複製画。綴プロジェクトの高精細複製画おそるべしです。
第4章 動物と植物
小上がりに敷かれた畳の上に展示されているのは「十二ヶ月花鳥図」。
ガラスケースはありません。
「こんにちはー」と言って知り合いのお宅のおじゃましたような気分で作品を楽しみましょう。
葛飾北斎「十二ヶ月花鳥図」高精細複製画(前期)
Facsimiles of works in the collection of the Freer Gallery of Art,原画:フリーア美術館蔵 Smithsonian Institution,Washington DC:Gift of Charles Lang Freer,F1904.179-180 |
「江戸後期の新しい解釈で描かれた十二ヶ月花鳥図です。」とフェルテンズさん。
この作品は落款がなかったのですが、作風から最近になって北斎の真筆と判断されたとのことです。
今回の展示の特徴は、フリーア美術館所蔵作品の複製画と、それに関連するすみだ北斎美術館所蔵作品が並んで展示されていることです。
こちらはすみだ北斎美術館所蔵の「亀」。亀が水の中を涼しげに泳いでいます。
第5章 自然と風景
そして展覧会のフィニッシュを飾るのは、こちらに迫りくる波濤に圧倒されそうな「波濤図」。
「波濤の先端が卍の形をしているのが北斎の波の特徴です。」とフェルテンズさん。
大胆な波濤と突き出す岩の向こうには浜伝いに並ぶ民家が小さく描かれています。
「北斎の人気の理由は、日本の伝統的な技法に加え、遠近法のように西洋の技法を取り入れていること。だから今の人たちにも親しみやすいのではないでしょうか。」
葛飾北斎「波濤図」高精細複製画(通期)
原画:フリーア美術館蔵
Facsimiles of works in the collection of the Freer Gallery of Art,Smithsonian Institution,Washington DC:Gift of Charles Lang Freer,F1905.276 |
隣に並ぶのはご存じ「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」。
北斎の波の競演です。
展示を見終わって3階ホワイエに出ると北斎の波の競演がお出迎え。
ここは撮影スポットなので、来館記念に北斎の波と一緒にぜひ1枚!
こちらは今回の企画展のリーフレット。
各章ごとの見どころがオールカラーで紹介されています。
これで税込300円とお手頃な値段。こちらも来館記念におススメです。
これで税込300円とお手頃な値段。こちらも来館記念におススメです。
13点の高精細複製画の展示は次のとおりです。
通期展示 7点
「玉川六景図」「雷神図」「琵琶に白蛇図」「新年風俗図(初夢・朝化粧)」「鍋冠祭図」「蟹尽し図」「波濤図」
前期のみ展示 3点
「源氏物語 早蕨図」「遊女図」「十二ヶ月花鳥図」
後期のみ展示 3点
「漁樵問答図」「年始まわりの遊女図」「富士田園景図」
せっかくの機会ですので13点コンプリートに挑戦してみてはいかがでしょうか。