2020年9月30日水曜日

山種美術館【特別展】竹内栖鳳《班猫》とアニマルパラダイス

東京広尾の山種美術館では【特別展】竹内栖鳳《班猫》とアニマルパラダイス、併設展示:ローマ教皇献呈画 守屋多々志《西教伝来絵巻》試作特別公開が開催されています。


今回の展覧会の注目は何といっても毛がモフモフで可愛らしいしぐさの《班猫》(竹内栖鳳 重要文化財)。
他にも竹内栖鳳が描いた動物の絵(全部で17点)や、東西の個性的な日本画家たちが描いた動物画が展示されていて、会場内はまさに「アニマルパラダイス」。とても楽しい展覧会です。

そして、もう一つの見どころは、今回の展示後、ローマ教皇に献納される守屋多々志《西教伝来絵巻》試作の特別公開。
二度と見られないかもしれないので、こちらも見逃すわけにはいきません。

【展覧会概要】

会 期  9月19日(土)~11月15日(日)
開館時間→11/4から平日も土日祝日も10時~17時(入館は16時半まで)
土日祝日もの閉館時間が1時間延長されました!
 平日   午前11時から午後4時(入館は閉館時間の30分前まで)
 土日祝日 午前11時から午後5時(入館は閉館時間の30分前まで)
休館日  月曜日
入館料  一般 1300円ほか
展覧会の詳細は同館公式サイトでご確認ください⇒山種美術館
また、入館日時のオンライン予約、開館時間、感染防止の取り組みについてはこちらでご確認ください⇒オンライン予約等について

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※紹介した作品は☆印の作品以外は、すべて山種美術館所蔵です。

展覧会は2章プラス併設展示で構成されています。それではまず第1章から。

第1章 《班猫》と栖鳳が描いた動物たち


ここでは竹内栖鳳(1864-1942)が描いた動物画17点を一挙公開。
竹内栖鳳は、「東の横山大観、西の竹内栖鳳」と並び称された京都画壇の重鎮。
その栖鳳の作品を都内でこれだけたくさん見られる機会はそう多くないかもしれません。

にぎやかな鳥たちの競演

鳥を描いた作品が多く展示されている中、会場内でお出迎えしてくれるのは2羽の鶴。
ピンッと背筋を伸ばした気品のある姿がとても印象的です。

竹内栖鳳《双鶴》
(1912-42頃 大正ー昭和時代)

よく見てみると、右の鶴は口を開け、左の鶴は口を閉じています。これは「阿吽」を表しているのでは。
「阿吽」は万物の始まりと終わり。展覧会の冒頭を飾るのにふさわしい作品ではないでしょうか。
透明感あふれる右下の水面の表現にも注目です。

続いて、白鷺、鴉、メジロ、ミミズク、アヒルといった鳥たちを描いた作品が並んでいて、にぎやかな鳴き声が今にも聞こえてきそう。
一番奥は《班猫》です。

第1章展示風景

鳥を描いた作品の中で私のお気に入りは《雨霽(あまばれ)》。


竹内栖鳳《雨霽》(1926(大正15)年頃)

柳の木に止まる白鷺も堂々とした姿で、冒頭の鶴のように近寄りがたい気品を感じます。
栖鳳62歳ごろの作品ですが、老齢にさしかかった栖鳳が、「老いてなおかくあるべし。」と自身の姿を投影しているようにも思えました。

一方でカワイイ系の作品もあります。

竹内栖鳳《鴨雛》1937(昭和12)年頃


栖鳳は、猫や犬、ウサギ、アヒルなど多くの生き物を飼って、間近で観察しながら作品を制作したとのことですが、アヒルのこんなリラックスした姿は目の前でじっくり観察しなければ描けなかったでしょう。

気高さを感じる《班猫》

そして今展覧会の主役、重要文化財の《班猫》。

竹内栖鳳《班猫》重要文化財
1924(大正13)年

旅先の沼津で見た猫を譲り受け、京都に持ち帰って観察をしながら描いたというこの作品。
一心に毛づくろいをしている可愛いらしいしぐさ、毛のモフモフ感。
それでも視線はこちらに向けられていて、「誰が見ていても我関せず。」といった気高さを感じさせてくれる逸品です。

生き物に対するやさしいまなざしが感じられる

栖鳳が描いたのは、鳥や猫だけではありません。
バッタやカエル、蛇などさまざまな生き物を描いていますが、そこには生き物や生命に対する慈しみ、やさしいまなざしが感じられます。

池の中を一生懸命泳ぐ一匹の小さなカエルを描いた《緑池》。
水面と水面の下に透けて見えるカエルの体の透明感が心にスーッと沁み込んできます。


竹内栖鳳《緑池》1927(昭和2)年頃

一見するとユーモラスなしぐさのカエルの絵ですが、実は意味深?な作品が《蛙と蜻蛉》。

竹内栖鳳《蛙と蜻蛉》
1934(昭和9)年

栖鳳が10日間観察して描いたという12匹のカエルは、当時の帝国美術院の日本画会員12人を風刺したのではとも評されたそうですが、画面左上に描かれたトンボは、ひとり新たな境地に向かう栖鳳自身なのでしょうか。
古希を迎えたちょうどこの頃、栖鳳は京都を離れ、神奈川県の湯河原に居を構えた時期なので、カエルのユーモラスなしぐさにも惹かれますが、それだけでなくいろいろなことを考えさせてくれる作品です。


第2章 アニマルパラダイス


第2章は、栖鳳の門人たちはじめ、東西の日本画家が描いた動物画の競演が楽しめます。

大きな動物から小さな動物まで東西競演が楽しめる

第2章の冒頭は、白熊や牛を描いた作品から始まります。

右から、西村五雲《白熊》(1907(明治40)年)、
山口華楊《生》(1973(昭和48)年)、
奥村土牛《聖牛》(1953(昭和28)年)


まずは白熊がオットセイを捕らえるという迫力ある場面を描いた西村五雲(1877-1938)の《白熊》。

西村五雲《白熊》1907(明治40)年


西村五雲は栖鳳の高弟の一人。
白熊という新しい題材に挑んだこの作品は、動物園として日本で二番目に開館した京都市動物園で初めて見た白熊を写生して完成させたとのこと。
竹内栖鳳も、渡欧中に動物園でライオンを模写して獅子図を描いているので、円山四条派の流れを汲み、写生を重んじる京都画壇の人たちにとって、身近な動物園の存在は大きかったことでしょう。
西村五雲の作品は、他に松と鶴を描いたおめでたい作品《松鶴》、後ろ足で耳の下を掻くしぐさが可愛いい《犬》、愛嬌のある表情の鴨を描いた《寒渚》が展示されています。

続いて、西村五雲の弟子・山口華楊(1899-1984)の《生》。

山口華楊《生》(1973(昭和48)年)

山陰地方の山村での写生を元に描いたという作品ですが、実際に見た風景を幻想的な光景に変えてしまう華楊らしい独特な雰囲気に満ちた作品です。
山口華楊の作品は、他に巨木の根がからみあう、やはり幻想的な《木精》が展示されています。

西の華楊の幻想的な子牛と並んで展示されているのは、東の代表・奥村土牛(1889-1990)《聖牛》。

奥村土牛《聖牛》(1953(昭和28)年)

土牛は、出産後の母牛に「落ち着きと気品」を感じたとのことですが、ほのぼのとした新しい命の輝きが感じられる作品です。
奥村土牛の作品は、他に《鹿》、《兎》2点、《戌年》《シャム猫》《栗鼠》といった小動物のかわいらしい作品も展示されています。

下の写真左が奥村土牛《シャム猫》。右が土牛の兄弟子でもあり、師でもあった小林古径(1883-1957)の《猫》。
どちらの猫も栖鳳の《班猫》とは異なり、かしこまったポーズをとっていますが、どの猫にも気高さが感じらるのは、やはり人に媚びることのない猫だからなのでしょうか。
左 奥村土牛《シャム猫》(1974(昭和49)年)
右 小林古径《猫》(1946(昭和21)年)

東西巨匠は「ミミズク」で競演

今回は「西の竹内栖鳳」が主役の展覧会なのですが、「東の横山大観(1868-1958)」は、暗がりの中にたたずむミミズクが描かれた《木兎》で参上しています。

横山大観《木兎》(1926(大正15)年)

東京上野・不忍池のほとりの大観邸(現・横山大観記念館)ではミミズクの姿を見ることもあったそうです。
世闇に光る目に金泥を施すところは、さすが斬新な発想の大観。
人の気配を感じて少し驚いたような表情のミミズクが可愛らしいです。

可愛さでは第1章に展示されている栖鳳の《みゝづく》も負けてはいません。
体は少し横向きで、顔を正面に向けて首をかしげて、何か思案中なのでしょうか。

竹内栖鳳《みゝづく》1933(昭和8)年頃

併設展示 ローマ教皇献呈画 守屋多々志《西教伝来絵巻》試作 特別公開


冒頭にも紹介しましたが、今回展示されている守屋多々志(1912-2003)の《西教伝来絵巻》試作は、2019(令和元)年11月のローマ教皇フランシスコの来日を記念して献呈されるもので、今回のチャンスを逃したら二度と見られないかもしれません。
ぜひじっくりご覧になっていただきたい作品です。

1549(天文18)年に日本へキリスト教が伝わった際の航海の様子が描かれている上巻。
☆守屋多々志《西教伝来絵巻》試作(上巻)
20-21世紀(昭和-平成時代)

幼子イエスを抱いた聖母マリアを中心に、日本の信徒たちを描く下巻。
中央の聖母マリアの前で筆をとる少年に注目です。画家本人の姿なのかもしれません。

☆守屋多々志《西教伝来絵巻》試作(下巻)
20-21世紀(昭和-平成時代)

昭和から平成にかけて歴史画家の第一人者として活躍した守屋多々志は、山種美術館二代目館長・山﨑富治氏と親交があったことから、山種美術館には14点の守屋多々志の作品が所蔵されています。
今回も第2章に《駒競べ》、併設展示の第2展示室に《慶長使節支倉常長》《波乗り兎》が展示されています。

守屋多々志《慶長使節支倉常長》
1981(昭和56)年


そういったご縁があって、1981(昭和56)年にローマ教皇ヨハネ・パウロ2世が来日された際、守屋多々志が記念として《ジェロニモ天草四郎》を制作して教皇に献呈する前に山種美術館で公開されたのですが、今回も同じく山種美術館で公開されることになったのです。

ところで今回公開されている作品は、なぜ「試作」なのでしょうか。
実は、ほぼ完成品の前の段階のこの「試作」はあるのですが、完成品の「本画」の存在は確認されていないのです。

はたして「本画」は描かれたあとに所在不明になったのか、何らかの理由で消失してしまったのか、それとも描かれなかったのか、そういったミステリアスなところも感じながら鑑賞したい作品です。

オリジナル和菓子も味わえます!

1階のCafe椿では、今回の出展作品にちなんだオリジナル和菓子をお楽しみいただけます。


上から時計回りに、「めで鯛」(竹内栖鳳《艸影帖・色紙十二ヶ月》のうち「鯛(1月)」)、
「夜のみなも」(小林古径《夜鴨》)、吉祥(西村五雲《松鶴》)、「きらめき」(速水御舟《昆虫二題》のうち「粧蛾舞戯」)、「瀬音」(土田麦僊《香魚》)。
(カッコ内はモチーフにした作品で、いずれも山種美術館蔵。)
お抹茶セットで1,200円(税込)。どの和菓子とのセットにしようか迷ってしまいます。

オリジナルグッズも充実!

《班猫》はじめ山種美術館所蔵作品にちなんだオリジナルグッズも充実してます。
《班猫》A4クリアファイル(385円)、《班猫》ブロックメモ 550円、《鴨雛》Tシャツ(3,300円)、今回の展覧会の図録(1,320円)などなど。(いずれも税込価格)
展示室横のミュージアムショップで販売していますので、ぜひお立ち寄りください。



さらに関連書籍も充実してます。
下の写真は右から『色から読み解く日本画』(エクスナレッジ)、『かわいい琳派』(東京書籍)。


今年7月に発売されたばかりの『もっと知りたい鳥獣戯画』(東京美術)もあります。
図版も多く、解説もわかりやすくて丁寧なので、来春に延期になった東京国立博物館「特別展『国宝 鳥獣戯画のすべて』」の予習にピッタリです。



紹介した書籍はミュージアムショップでお求めいただけます。

撮影スポットで記念にパチリ!

1階ロビーには《班猫》の猫ちゃんたちと写真を撮るコーナーもあります。

1階撮影スポット

来館記念にぜひ撮影してシェアしましょう!
1階撮影スポット


会場内は日本画のかわいい動物たちでいっぱい。
生き物に向けられる日本画家たちの優しいまなざしが感じられます。
この秋おススメの展覧会です。ぜひその場でご覧になっていただいて、お気に入りの一品、お気に入りの動物を探してみてはいかがでしょうか。