東京・広尾の山種美術館では、開館55周年記念特別展「速水御舟と吉田善彦ー師弟による超絶技巧の競演ー」が開催されています。
展覧会チラシ |
速水御舟(1894-1935)の作品を120点所蔵する山種美術館では、今までにも速水御舟展が開催されて、展覧会チラシを飾る《名樹散椿》(重要文化財)ほか名作の数々を見ているのですが、今回は御舟の弟子で、昭和から平成にかけて院展を中心に活躍した吉田善彦(1912-2001)の代表作も見ることができる展覧会です。
山種美術館所蔵以外の吉田善彦作品を含めて、師弟の競演が見られる貴重な機会なので、先日さっそく取材に行ってきました。
展覧会概要
会 期 2021年9月9日(木)~11月7日(日)
開館時間 平日 午前10時~午後4時←9/28(火)から平日も午後5時まで開館
土・日・祝日 午前10時~午後5時
(入館はいずれも閉館時間の30分前まで)
休館日 月曜日(ただし9/20(月・祝)は開館、9/21(火)は休館)
入館料 一般 1,300円、大学生・高校生 1,000円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)
※障がい者手帳、被爆者健康手帳をご提示の方、およびその介助者(1名)1,100円、
上記のいずれかのうち大学生・高校生は900円。
※きもの特典 会期中、きものでご来館のお客様は、入館料から200円引き
(大学生・高校生100円引き)の料金となります。
※複数の割引、特典の併用はできません。
チケット ご来館当日、美術館受付で通常通りご購入いただけます。
また、入館日時が予約できるオンラインチケットもご購入可能です。
山﨑館長のオンライン講座など展覧会関連イベントも多数開催されます。詳細は同館公式サイトでご確認ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/
展示構成
第1章 速水御舟-日本画の挑戦者-
第2章 吉田善彦-御舟に薫陶を受けた画家-
※展示室内は次の作品を除き撮影不可です。掲載した写真は、取材で美術館より特別に許可をいただいて撮影したものです。
※掲載した作品は、※印以外はいずれも山種美術館所蔵です。
今回撮影OKの作品は、速水御舟《昆虫二題 葉蔭魔手・粧蛾舞戯》です。
第1章 速水御舟-日本画の挑戦者-
さて、速水御舟ファンのみなさまは、どの作品が一番のお気に入りでしょうか。
《名樹散椿》でしょうか、《翠苔緑芝》でしょうか、それとも《炎舞》でしょうか。
他にも素晴らしい作品がたくさんあるので、どれか1点というと迷ってしまうかもしれませんが、今回の私のイチ押しは《炎舞》。
《炎舞》は第二展示室に展示されています。
明るさがおさえられた第二展示室に入ると、暗闇の中から突然浮かび上がるように赤々と燃え盛る炎が目に入ってきます。そして炎の明かりに誘われてゆらゆらと周りを飛ぶ蛾の群れ。
炎はまるで本当にメラメラと燃えているかのようです。
どうしてなのだろう、と上を見ると、炎の部分には明るい照明、蛾の群れには弱めの照明が当てられているのがわかりました。
御舟自身が「二度と出せない色」と語った作品のよさがより一層引き立つ、なんとも粋な演出だったのです!
第一展示室には《炎舞》と同じく重要文化財に指定されている《名樹散椿》が展示されています。
今回の展覧会のサブタイトルは「師弟による超絶技巧の競演」。
師弟の超絶技巧が随所にみられるのですが、この金地の屏風にも御舟の超絶技巧が隠されているのです。
《名樹散椿》の金地は、金箔を屏風に貼り合わせる「箔押し」でなく、通常は霞などの表現に部分的に使われる金砂子を隙間なく何度も撒いて、大量の金を使う「撒きつぶし」。
一方、並んで展示されている《翠苔緑芝》の金地は、正方形に切った金箔を屏風に貼り合わせたもので、近くでよく見ると升目のような金箔の境目が見えます。
光沢をおさえた「撒きつぶし」と、まばゆい輝きの「箔押し」。
それぞれ異なった趣きが楽しめます。
《名樹散椿》の左下に、撒きつぶし、金泥、箔押しの技法サンプルがあるので、ぜひ比較してみてください。
こちらも御舟の超絶技巧が見られる《和蘭陀菊図》。
速水御舟《和蘭陀菊図》 1931(昭和6)年 |
《和蘭陀菊図》は、近年の調査で、青紫の菊の花弁には西洋の顔料(淡口コバルト紫、濃口コバルト紫)が使われ、赤紫の花びらなどには、仏画の制作などで用いられる、絹の裏側から彩色する技法「裏彩色」が用いられていることが判明した作品です。
新しいものを取り入れる斬新さ、伝統的な技法の研究。
御舟の挑戦者としての姿がうかがえます。
異国情緒あふれる作品も御舟の魅力の一つ。
速水御舟《埃及土人ノ灌漑》(右)《埃及所見》(左) いずれも1931(昭和6)年 |
御舟は、1930(昭和5)年、イタリア政府が主催したローマ日本美術展覧会に《名樹散椿》を出品するとともに、横山大観らとともに渡欧し、イタリアをはじめヨーロッパ各国やエジプトなどを10ヶ月かけて歴訪して、現地で見た景色などの作品を数多く残しています。
(「埃及」は「エジプト」と読みます。)
南国の情景を描いているのですが、《埃及土人ノ灌漑》の画面下に描かれた水流は「仏画の火焔表現を想起させる」(解説パネルより)ところはさすが御舟!
この位置にはいつも展覧会の顔にふさわしい作品が展示されているので、今回はどの作品が展示されているのかな、と想像しながら見に来たのですが、今回も期待どおりでした。
《牡丹花(墨牡丹)》は、晩年の御舟が水墨で描いた花の作品の一つで、富貴、高貴を象徴する牡丹の花のボリューム感が水墨の濃淡だけで表現されていて、心の中にスーッと入ってくる優しい作品です。
第1章では、冒頭にラストシーンにふさわしい作品が展示されて、続いて初期からほぼ年代順に作品が並んでいるので、「絵画修業の道程に於て一番私が恐れることは型が出来ると云うことである」(展示パネルより)と語った御舟の画風や技法の変遷がたどれる展示構成になっています。
第2章 吉田善彦-御舟に薫陶を受けた画家-
第2章では、御舟の影響を受けた初期の作品から始まり、「吉田様式」の技法を編み出した作品、そして「吉田様式」によって描いた奈良や日本各地の風景画に至るまで、吉田善彦の作品がほぼ年代順に展示されているのですが、作品を見ていたら、子供のころ剣道を習っていた時に聞いた「修・破・離」という言葉が、突然頭の中に浮かんできました。
御舟という偉大な師のもとで修業するのは恵まれたことだったかもしれませんが(「修」)、御舟の殻を破り(「破」)、御舟から離れていくのは(「離」)並大抵の努力ではなかったことが想像されます。
こちらが「吉田様式」の技法が洗練された、奈良・東大寺の大仏殿を描いた作品です。
さて、「吉田様式」とはどのようなものなのでしょうか。
解説パネルに本人の言葉として紹介されていましたが、それはそれは凄まじいものでした。
本画を描く→フォルマリンで固定→画面をメチャメチャにもみほぐす→金箔でベールをかぶせる→うすく下にすけた金箔の絵を薄い調子でおこしていく(解説パネルより抜粋)
「画面をメチャメチャにもみほぐす」ところは、まさに「修・破・離」のうちの「破」ではないか!
そのようなことを考えながらを作品を見ていると、激しさから生まれる柔らかな色調の絵がより味わい深いものに思えてきました。
展覧会のあとの楽しみは、やはりミュージアムグッズ。
今回も展覧会オリジナルグッズが充実しています。
私が購入したのは、速水御舟《翠苔緑芝》のマスキングテープ(税込440円)。
白ウサギがとても可愛らしいです。
山種美術館が所蔵する速水御舟作品全120点を掲載するA5サイズのハンディな『山種美術館所蔵 速水御舟作品集』(税込1,430円)は御舟ファン必携です!
他にも速水御舟《名樹散椿》(重要文化財)がデザインされたA4クリアファイル(税込385円)、一筆箋(税込418円)など盛りだくさんですので、ぜひミュージアムショップにもお立ち寄りください。展示室と同じ地下1階にあります。
山種美術館のもう一つの楽しみは、1階「Cafe椿」の展覧会オリジナル和菓子。
オリジナル和菓子は5種類あるので、いつも迷ってしまいますが、今回は速水御舟《翠苔緑芝》で統一しました。
抹茶とのセットで1,200円(税込)。ここでも可愛い白ウサギを見つけました。