東京・広尾の山種美術館では、「上村松園・松篁-美人画と花鳥画の世界ー」が開催されています。
1年間続いた同館開館55周年記念特別展のフィナーレを飾る今回は、春の訪れを迎えるのにふさわしい、美人画と花鳥画の世界が広がる華やいだ雰囲気の展覧会です。
展覧会概要
会 期 2022年2月5日(土)~4月17日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日(3/21(月)は開館、3/22(火)は休館)
入館料 一般 1300円、中学生以下 無料(付添者の同伴が必要)
春の学割 大学生・高校生 500円※本展に限り、特別に入館料が通常1000円の
ところ半額になります。
※他にも割引・特典があります。入館日時のオンライン予約も可能です。
オンライン展覧会などの各種イベントも開催されますので、詳細は同館公式
Webサイトをご覧ください⇒http://www.yamatane-museum.jp/
展示構成
第1章 上村松園と美人画
第2章 上村松篁と花鳥画
※展示室内は次の1点を除き撮影不可です。掲載した写真はプレス内覧会で美術館より特別に許可をいただいて撮影したものです。
※掲載した作品は、すべて山種美術館所蔵です。
今回の展覧会で撮影可の作品は、上村松園《娘》です。
第1章 上村松園と美人画
見どころ1 山種コレクションの松園作品全18点が勢ぞろい!
第1章展示風景 |
最初にお出迎えしてくれるのは、今の季節らしい上村松園《春のよそをひ》(1936(昭和11)年頃)。
前半は山種コレクションの松園作品が続きます。
どれも名作ばかりなのですが、私にとって特に興味深いのは、松園作品18点の制作年が一つの時代に集中しているのでなく、大正時代から昭和初期、戦中、戦後まで幅広い年代に渡っているので、時代ごとの作品の雰囲気の違いが感じとれることです。
中でも特にぐっと心に迫ってくるのが《牡丹雪》。
この作品は、1944(昭和19)年7月に開催された芸術院会員陸軍献納画展に出品されたもので、どんよりと曇った空の下、和傘に積もった雪の重さに耐え、前かがみになって歩く二人の女性が描かれています。
前を歩く女性の視線は下の方に向けられ、着物の裾を上げているので、かなり歩きにくそう。後ろからついてくる女性は不安げに来た道を振り返っているようです。
上村松園《牡丹雪》1944(昭和19)年 |
「献納画展」ですので、国民の戦意高揚や戦費ねん出のために開催された展覧会でしたが、勇ましい戦争の場面でなく、戦局が悪化して、生活物資もままならなくなった重苦しの時期に、それでも前を向いて歩かなくてはならない人たちの心情を描いたのではと想像してみたくなる作品です。
一方で、同じ雪の場面の作品でも、明るい表情で庭に降る雪をながめる女性が描かれた《庭の雪》(1948(昭和23)年)からは、ようやく日本に平和が訪れてホッとしたような雰囲気が感じられてきます。
山種美術館発行の図録小冊子『山種美術館の上村松園』の表紙を飾るのも《庭の雪》。
山種美術館発行『山種美術館の上村松園』 価格 税込550円 |
山種コレクションの松園作品18点すべてがカラー写真で紹介されています。
松園の略年譜も掲載されているので、松園の画業をコンパクトに知ることがでる、松園ファン必携の一冊です(私も今回も購入しました)。
今回展の入場券とのお得なセット券(税込 1,700円)も販売中です!
見どころ2 美人画の名手たちの作品の競演が見られる!
第1章の後半では、「西の松園、東の清方」と称された鏑木清方はじめ、近代日本画界の個性豊かな美人画の競演が楽しめます。
こちらは松園とほぼ同時代に活躍した画家たちの軸装の美人画。
右から 伊藤小坡《虫売り》(1932(昭和7)年) 松岡映丘《斎宮の女御》(1929-32(昭和4-7)年頃) 小早川清《美人詠歌図》(20世紀(昭和時代)) |
こちらは昭和後期の美人画。
住まいが洋室化してどの家にも床の間があるということがなくなったためでしょうか、洋室に合う額装の作品が多くなります。それに着ているのは和服ですが、色遣いが鮮やかなので洋室にも映えそうです。
右から 片岡球子《むすめ》(1974(昭和49)年) 森田曠平《百萬》(1986(昭和61)年) 橋本明治《秋意》(1976(昭和51)年) |
こうして多くの画家の美人画を見ていると、「私が描く女性の顔はこれです。」と主張しているかのようで、それぞれ特長のある女性の顔が描かれているのにあらためて気が付きました。
松園作品18点と松園以外の画家12人の作品22点が展示されている第1章は、同じ美人画でも、年代や画家によって違いを楽しむことができる展示になっています。
第2章 上村松篁と花鳥画
見どころ1 松篁・淳之親子の花鳥画はカワイイ!
今回の展覧会では、山種コレクションの松篁作品も全9点見ることができます。
特に第2展示室は松篁作品6点だけの松篁ワールド。
淳之画伯によると、父・松篁の奈良のアトリエ「唳禽荘」には、小鳥や雉子類、鶴、雁・鴨類、さらには白孔雀まで放し飼いにされていたとのことです。
毒蛇を退治するといわれた孔雀は密教の孔雀明王に見られるように神格化されていて、《白孔雀》からも厳かさが感じられますが、顔の表情を見ると、そこには飼い主の慈しみがひしひしと感じられるのです。
そして、鳥たちの鳴き声という意味をもつ「唳禽荘」に住まわれ、現在も活躍中の淳之画伯の作品《白い雁》も、月夜に飛ぶ二羽の雁を描いた幻想的な作品で、それだけでもとてもいい雰囲気なのですが、雁のつぶらな瞳を見ると、さらに魅力的に感じられる作品なのです。
上村松篁・淳之親子のカワイイ花鳥画をぜひお楽しみください!
見どころ2 カワイイのは花や鳥だけではなかった!
カワイイ鳥たちにすっかり魅了されてしまいましたが、カワイイのは鳥だけではありません。
今回の展示作品の中で、一番意外だったのはこの作品。
確かに桜の花が描かれていますが、そこにいるのは俵屋宗達のように「たらしこみ」で描かれた犬!
他に鯉や狐もいるので、ぜひなごみながらご覧ください。
ミュージアムショップもカフェも充実してます!
今回も展覧会にちなんだオリジナルグッズが充実しています。
今回特におススメしたいのは、上村松園《庭の雪》のピンバッジ(税込770円)。
服やバッグのワンポイントのおしゃれにいかがでしょうか。
他にもA4クリアファイル(税込385円)、一筆箋(税込418円)といった実用的なものもありますし、飲んだ後の缶は小物入れとしても使える山種オリジナルお茶缶(税込1,080円 自然栽培で育てた健一自然農園の煎茶ティーバッグ8袋入り)はおうちでのくつろいだティータイムにぴったりです。
山種美術館のもう一つの楽しみは、展覧会に合わせたオリジナル和菓子。
抹茶とのセットで1,200円(税込)。
どれも美味しそうですが、胡麻入りこしあんが少し顔を出している「誰が袖」(下の写真左上)に惹かれます。
上の写真、右上から時計回りに、「雪輪(庭の雪)」、「春のかぜ(春風)」、「雪の日(牡丹雪)」、「誰が袖(春芳)」、中央が「花のいろ(春のよそをひ)」。
(カッコ内はモチーフにした上村松園の作品で、いずれも山種美術館蔵)。
展覧会は4月17日(日)まで開催されます。
今回の展覧会は、山種コレクションの上村松園、松篁、淳之、親子三代の全作品が一挙公開されるという初めての機会です。
まだまだコロナ禍が続いていますが、美人画でうっとりして、花鳥画でなごんで心安らぐ時を山種美術館でぜひお過ごしください。