2022年11月29日火曜日

上野アーティストプロジェクト2022 東京都美術館「美をつむぐ源氏物語-めぐり逢ひける えには深しな-」

今年で6回目を迎えた「上野アーティストプロジェクト2022」のテーマは源氏物語
東京・上野公園の東京都美術館では、「美をつむぐ源氏物語-めぐり逢ひける えには深しな-」が開催されています。



2017年に始まった「上野アーティストプロジェクト」は、今までは絵画や写真がテーマの年と、書がテーマの年があって、それぞれ交互に開催されていましたが、今回は、書、絵画、工芸などに大きな影響を与えている源氏物語にふさわしく、7人の現代作家による書、ガラス工芸、染色、絵画といった多彩なジャンルの作品が展示されています。


展覧会開催概要


展覧会名 上野アーティストプロジェクト2022「美をつむぐ源氏物語-めぐり逢ひける
     えには深しな-」
会 期  2022年11月19日(土)~2023年1月6日(金)
会 場  東京都美術館 ギャラリーA・C
開室時間 9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室 12月2日(金)、9日(金)、16日(金)、23日(金)は9:30~20:00
     (入室は閉室の30分前まで)
休室日  12月5日(月)、19日(月)、29日(木)~2023年1月3日(火)
観覧料  一般 500円、65歳以上 300円 学生以下 無料
※展覧会の詳細、展覧会関連イベント等については展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://www.tobikan.jp/exhibition/2022_uenoartistproject.html    

出品作家
 青木寿恵
 石踊達哉
 高木厚人(臨池会)
 鷹野理芳(日本書道美術院)
 玉田恭子(日本ガラス工芸協会)
 守屋多々志(日本美術院)
 渡邊裕公(光風会)

※一部の作品を除き撮影可です。撮影の注意事項等は会場内でご確認ください。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


第1章 和歌をよむ

鷹野理芳さんの書はとても絵画的。
書そのものの優雅さはもちろん、リズミカルに散りばめられた色とりどりの料紙の輝きも視覚的に楽しむことができます。

第1章展示風景

源氏物語に出てくる和歌795首のうち108首を、扇面の形をした色とりどりの料紙に書いて、銀箔を貼った大きなパネルの上に2つの山のように配置したこの作品は、まるで和歌を詠んだ人の思いが風に乗って羽ばたいていくようにも見えました。


鷹野理芳 生々流転Ⅱ~響~54帖・贈答歌
「桐壺の巻から夢浮橋の巻」まで
2022年 作家蔵


贈答歌を多く取り上げた高木厚人さんの作品も料紙に注目です。

第1章展示風景

光源氏と藤壺の間で詠まれた12首の贈答歌を交互に書いた《光源氏と藤壺中宮の贈答歌》では、藤壺を慕う光源氏の和歌には金などの明るい色の料紙を、光源氏との関係に後ろめたさを感じている藤壺の和歌には銀など暗い色の料紙を用いて、二人の心情の違いを表しているのです。

高木厚人 光源氏と藤壺中宮との贈答歌
2022年 作家蔵


第2章 王朝のみやび

これは色鮮やかな挿絵が入った源氏物語の冊子でしょうか。


いえいえ、違います。
これは玉田恭子さんのガラス工芸なのです。

近くで見ると、源氏物語の文字や模様が浮き出るように見えたり、両端にはガラス板を縦に何枚も重ねて本のページを表現したり、超絶技巧が冴えわたっているのがよくわかります。

玉田恭子 源氏封本抄「晩光の帖」
2017年 作家蔵

見る角度によって模様の見え方も違ってくるので、ぜひ体を動かして右から左から見てください。
玉田さんの作品も撮影可ですが、スマホやカメラが落ちて作品が破損してしまう危険性があるので、上から撮るのは厳禁です。上からは見るだけにしましょう。


染色家・青木寿惠さんの作品の特徴は、天然素材の草木染めの更紗と、手描きの絵や文様。

第2章展示風景

人物も、草花も、手描きならではの親しみやすさが感じられます。

青木寿恵 季それぞれの
制作年不詳 寿恵更紗ミュージアム蔵

ほかにも若紫がパリのエッフェル塔を眺める場面が描かれている作品もあって、青木さんのユーモアのセンスも感じられました。

1996年から98年にかけて出版された瀬戸内寂聴訳『源氏物語』全10巻(講談社)の装幀画が「石踊源氏絵」として高く評価された日本画家・石踊達哉さんの作品は、まるで平安時代の絵巻物を見ているかのようにきらびやかで、同時に物語の登場人物の心情が反映された奥深さが感じられます。

第2章展示風景

《「宿木」の帖より 秋の響》は、人物を描かず、モチーフとなるアイテムだけを描いた「留守模様」の作品。
匂宮が琵琶を弾いて中の君に聞かせている場面が表されていますが、風になびく秋草が二人の微妙な心情を暗示しているように思えました。

石踊達哉 「宿木」の帖より 秋の響
1997年 講談社蔵

第3章 歴史へのまなざし

日本画家・守屋多々志さんの作品は、源氏物語の代表的な場面を描いた扇面画14点が展示されています。
人間の情愛や苦悩、葛藤といった重たいテーマが表現されているのですが、淡い色彩と柔らかなタッチで描かれているので、心の中にスーッと入ってくるように感じられました。

※守屋多々志さんの作品は撮影不可です。


続いてご紹介するのは、今回の企画展のメインビジュアルになっている渡邊裕公さんの《千年之恋~源氏物語~》。

渡邊裕公 千年之恋~源氏物語~
2016年 作家蔵

中心に現代的な女性を描き、背景に古典的なテーマの絵を描くのが渡邊さんの作品の特徴で
す。
この作品では背景に『源氏物語絵巻』が層をなして重なって描かれているので、作品のタイトルにあるように千年ものあいだ変わらずに続く人々の恋への思いが伝わってくるようでした。

そして驚いたのは、渡邊さんは太さの異なるボールペンでこれらの作品を描いていることでした。私たちが普段使っているボールペンからこんなに素晴らしい作品が生み出されるとは思ってもみませんでした。

第3章展示風景

最後に、今回の企画展のサブタイトル「めぐり逢ひける えには深しな」ついて。
これは第14帖「澪標(みおつくし)」で光源氏が明石の君に贈った和歌「みをつくし 恋ふるしるしに ここまでも めぐり逢ひける えには深しな」からとられたもので、会えなくても思いを和歌に託して伝えようとした当時の人たちに思いを馳せて、コロナ禍で人と人、人と社会のつながりが希薄になっている現代の私たちが「えに(縁)」について考えるきっかけとなればという今回の企画展の思いが込められていたのです。

そして、作品リストには源氏物語のあらすじが記載されていて、「主要登場人物関係図」も配布されているので、その場で源氏物語についておさらいしながら作品を見ることができます。

作品リスト「源氏物語のあらすじ」のページ

こういったものを準備するのは大変な手間だったと思いますが、私も源氏物語はダイジェストで読んだだけでしたので、ストーリーを追うのに大変参考になります。

今まで源氏物語に「縁」がなかった方も、今回の企画展をきっかけにぜひ源氏物語とそれにちなんだ作品に親しんでいただければと思います。



コレクション展「源氏物語と江戸文化」も同時開催中!




展覧会開催概要


会 期  2022年11月19日(土)~2023年1月6日(金)
     ※会期中展示替えを行います。
      前期 2022年11月19日~12月18日
      後期 2022年12月20日~2023年1月6日 
会 場  東京都美術館 ギャラリーB
開室時間 9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室 12月2日(金)、9日(金)、16日(金)、23日(金)は9:30~20:00
     (入室は閉室の30分前まで)
休室日  12月5日(月)、19日(月)、29日(木)~2023年1月3日(火)
観覧料  無料

※一部の作品を除き撮影可です。撮影の注意事項等は会場内でご確認ください。