横浜駅東口・そごう横浜店6階のそごう美術館では、「光の芸術家 ゆるかわふうの世界 宇宙(そら)の記憶」が開催されています。
そごう美術館入口パネル |
展覧会のメインビジュアルは、ご覧のとおり、可愛らしいシロクマの子ども。
こんなつぶらな瞳で見つめられたら、そのまま前を通り過ぎるわけにはいきません。何が展示されているのだろうと気になって、思わず中に入りたくなってしまいます。
もちろん会場内に入っても期待を裏切られることはありません。
きっと、オリジナル技法「光彫り」を考案した「ゆるかわふう」さんの幻想的な世界にいつの間にか入り込んでしまうことでしょう。
会場内でお出迎えしてくれるのは、みなとみらい地区の夜景の上をクジラの親子が悠然と泳ぐイメージ画像。今回の横浜展のために作られたものです。
《YOU GOT WATER 01》2015年 |
まるで海の中にいるような青と白で表現された透明感あふれる世界が部屋じゅうに広がりますが、それもそのはず。
「ゆるかわふう」さんは、釣りやダイビング、学生時代は海水魚専門の水槽屋さんでアルバイトしていたというくらい海が好きで、海にちなんだ作品も多く発表しているのです。
そして気になるのは、ここで使われている素材。
それはなんと家の壁や床の内側に使われるポリスチレン製の断熱材。
実は「ゆるかわふう」さんは東京藝術大学で建築を学んでいて、建築模型を作るための断熱材はいつもそばにある身近な存在でした。
その断熱材に光を当ててみたら、海のように青色に光ることを発見して、作品を作ろうと考えたのです。
海好きで、建築を学んでいた「ゆるかわふう」さんだからこそ編み出すことができたオリジナルの技法といえるのではないでしょうか。
この《YOU GOT WATER 01》ほかの2作品は、数分おきにLED照明が付いたり、消えたりします。
背景の照明を消した《YOU GOT WATER 01》2015年 |
こうやって横から見るとよく分かりますが、断熱材を削っていて、厚さが薄いほど白く見えるようになるのです。
今回は開会前に開催されたプレス内覧会に参加して「ゆるかわふう」さんの実演を拝見することができたので、光彫りの制作過程についてご紹介したいと思います。
【光彫りの制作過程】
こちらは「ゆるかわふう」さんが普段使っている工具類と素材。
手前と奥の青色の板状のものが断熱材で、厚さは3cmあります。
コンコンと叩くと固くて頑丈ですが、それでも爪で引っ掻くと表面がポロっと取れる素材です。
断熱材は、このように後ろから光を当てると青く輝きます。
断熱材を削る方法は3つあります。
一つは、電動のワイヤーブラシ。工具の先につけるブラシはいくつものパターンが用意されています。
わずか3㎝の厚さの断熱材を勢い余って突き抜けてしまうわけにはいかないので、緊張を要する作業の連続です。
そして、二つめは、はんだごてのように先端を熱したスチロールカッターで断熱材を溶かす方法、三つめが、シンナーで断熱材を溶かす方法で、それぞれ削られた表面の様子が異なるので、光を当てると違った表情が現れてくるのです。
制作過程については、場内に流れているビデオで紹介されているので、ご来場の方はぜひビデオもあわせてご覧ください。
展示は大きく分けて3つのエリアに分かれています。
ひとつは、先ほどご紹介した《YOU GOT WATER 01》を含む「海」。
こちらはシロクマをモチーフにした《うたかたの夢》ですが、《YOU GOT WATER 01》が下から照明を当てているのに対して、こちらは上から照明を当てているので、すぐ上が海面である様子が伝わってきます。
《うたかたの夢》2020年 |
この《うたかたの夢》も数分おきにLED照明が着いたり、消えたりします。
この作品の制作にあたって、静岡の日本平動物園に通い続けてシロクマをスケッチしたという「ゆるかわふう」さんが特にこだわったのが、海水の中で揺らめく毛並み。
3㎝の厚みの中、5ミリ、3ミリといった、まさにミリ単位のところでどう表現しているのかぜひお確かめください。
メインビジュアルになっているシロクマの子どもの作品タイトルは《極北の空》。
毛並みや瞳の繊細な表現に注目したいです。
手前には波を打つような屋根が特徴的な横浜港の大桟橋、奥には停泊する豪華客船「飛鳥Ⅱ」。
そして、日傘に風を受けて今にも飛んでいきそうな少女。
港町らしく旅立ちを思わせる作品ですが、よく見ると大桟橋の手すりの立体感はじめ「超絶技巧」が随所に見られる作品でもあります。
続いて「羽衣伝説」のエリアへ。
羽衣をまとった天女が空から舞い降りてくる姿を描いたのは《天の羽衣》。
モデルは藤田ニコルさん。
「ゆるかわふう」さんが初めて本格的に女性を描いた作品で、特に肌のきめの細かさや鼻のグラデーションに気を使われたとのことです。
《天の羽衣》(2021年) |
こちらは、能、狂言の舞台背景に描かれる「影向(ようごう)の松」。
「ゆるかわふう」さんがアトリエを構える神奈川県湯河原町で行われた狂言のイベントに合わせて制作された作品です。
工業製品の断熱材と、日本の伝統芸能が調和したことに自分でも驚いた、とご自身で語られれいます。
《影向の松》(2019年) |
そして、三つめのエリアは、「ゆるかわふう」さんが今チャレンジしている技法の新シリーズ「空」。
これは、彫った断熱材の上に不透明のアクリル板を置いたもので、アクリル板の奥(断熱材を深く彫った箇所)はぼやけて見えるという効果が出てくるのです。
展覧会概要
会 期 2022年11月12日(土)~12月25日(日)
会期中無休 事前予約不要
開館時間 午前10時~午後8時(入館は閉館の30分前まで)
入館料(税込) 一般 1,200円、大学・高校生 1,000円 中学生以下無料
展覧会の詳細は公式HPでご確認ください⇒そごう美術館
作品撮影について
出品リストに掲載作品の写真撮影は可能です。会場で撮影の際の注意事項をご確認ください。
会場出口近くには販売作品が展示されています。
お部屋にひとつ飾ってみてはいかがでしょうか。
(販売している作品の展示エリアとミュージアムショップは撮影不可です。)
「ゆるかわふう」さんプロフィール
発泡断熱材「スタイロフォーム」を使用した世界初のオリジナル技法「光彫り」を考案。絵画でも彫刻でも映像でもない新ジャンルアートのパイオニアとして注目されている。
神奈川県湯河原町を拠点に作品を制作。
日本テレビ「ヒルナンデス」、読売テレビ「ミヤネ屋」、NHK「おはよう日本」、フジテレビ「めざましテレビ」などテレビ出演多数。
1980年 大阪府出身。東京藝術大学美術学部建築科卒業、同大学院芸術学(美術解剖学)修了、同大学院美術研究科教育研究助手を経て現在に至る。