大阪中之島美術館で今年(2023年)1月から4月まで開催されていた「大阪の日本画」展が東京にやってきました。
会場は東京駅にある東京ステーションギャラリー。
キャッチコピーは、浪速の近代日本画、初の大規模展がやってくる!
50人以上もの浪速の近代日本画家の個性的な作品150点以上(展示替えあり)が大挙して東京に来てくれたのですから、この機会を見逃すわけにはいきません。
展覧会開催概要
会 期 2023年4月15日(土)~6月11日(日)
※会期中、展示替えがあります。
開館時間 10:00~18:00(金曜日~20:00) *入館は閉館30分前まで
休館日 月曜日(6/5は開館)
入館料 一般 1,400円、 大学・高校生 1,200円 中学生以下 無料
展覧会の詳細等は同館公式サイトをご覧ください⇒東京ステーションギャラリー
展示構成
第1章 ひとを描く-北野恒富とその門下
第2章 文化を描く-菅楯彦、生田花朝
第3章 新たなる山水を描くー矢野橋村と新南画
第4章 文人画-街に息づく中国趣味
第5章 船場(せんば)派ー商家の床の間を飾る画
第6章 新しい表現の探求と女性画家の飛躍
(会場の都合により、第1章→第4章→第5章→第3章→第2章→第6章の順番で展示されています。)
※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は内覧会で美術館の許可を得て撮影したものです。
展示の冒頭に登場するのは、その独特の作風から最近特に注目されるようになった北野恒富(1880-1947)。
「第1章 ひとを描く-北野恒富とその門下」では、北野恒富とその弟子たちの作品が私たちをお出迎えしてくれます。
この先もとてもいい雰囲気の展示が続くのですが、今回は筆者なりに注目してみた画家や作品を中心にご紹介したいと思います。
浪速風俗画
実は、今回の東京展に先がけて今年2月に大阪中之島美術館で「大阪の日本画」展を見てきたのですが、その時に感じたのは古き良き大阪の街並みや風物詩を描いた作品が多く見られることでした。
中でも注目は、菅楯彦(1878-1963)とその弟子の生田花朝(1889-1978)の作品。
(第2章 文化を描く-菅楯彦、生田花朝)
菅楯彦の作品は、自分がその場にいたことはない景色なのですが、なぜか懐かしく感じられるから不思議です。
江戸時代の風俗で描かれているところに深い味わいが感じられるのは《南郭春宵》(上の写真一番左)。
菅楯彦《南郭春宵》昭和21年(1946) 鳥取県立博物館 展示期間4/15-5/14 |
菅楯彦の作品は全部で17点(他の画家との合作1点を含む)展示されます。
5/16-6/11には、《南郭春宵》と同じく江戸時代の風俗で大坂の街が描かれた《高津宮秋景》(大阪歴史博物館)や《浪華三大橋緞帳下絵》(株式会社大阪美術倶楽部)が展示されるのでこちらも楽しみです。
祭りの様子を生き生きと描いた生田花朝の作品からは、その場で見ているような活気が伝わってきます。
第2章展示風景 |
幅3mを超えるパノラマの風景画は、漁師やそこに住む人たちのにぎわいが描かれた作品です。
上の写真の祭りの景色もそうですが、まるで「洛中洛外図」のように大勢の人たちがそれぞれ特徴をもって描かれているところに、この画家の力量のすごさを感じます。
橋本青江《梅林春景図》明治26年(1893) 関和男氏蔵(大阪中之島美術館寄託) 展示期間4/15-5/14 |
正統派南画を描いて一世を風靡した奥原晴湖は、日本絵画の近代化を図ったフェノロサが南画を批判して南画の人気が落ちてからは熊谷に隠棲し、今では「忘れられた画家」の一人になってしまいましたが、「これぞ南画!」という優れた作品を多く描いた女性南画家でした。
橋本青江の作品は会期中にもう1点、《山水図》(関和男氏蔵(大阪中之島美術館寄託 展示期間5/16-6/11)が展示されます。
船場派
古くから水の都として栄えた大坂らしく、商家が集まった船場界隈は町人文化の中心でした。そういった商家の床の間を飾ったのが「船場派」と呼ばれていた画家たちので作品でした。
(第5章 船場派-商家の床の間を飾る画)
ここでご紹介する画家は、幕末から明治期に活躍した西山完瑛(1834-1897)。
完瑛は父・芳園とともに西山派を形成し、大阪商人好みのあっさりとした作風で人気を博しました。
西山完瑛は、「大阪の日本画」展の中では以前から名前を知っていた数少ない画家の一人でしたが、京都画壇の四条派の流れをくんでいたので、今まで京都の人と思っていました。
女性画家の活躍
すでに生田花朝、橋本青江といった女性画家を紹介してきましたが、「大阪の日本画」展で特に気がついたのは、多くの女性画家が活躍していることでした。
(第6章「新しい表現の探求と女性画家の飛躍」)
大阪では江戸時代から女性画家が活躍していたことに加え、明治時代以降、富裕層を中心に子女に教養として絵画を習わせる傾向が強かったことが女性画家活躍の背景にありました。
島成園(1892-1970)も「大阪の日本画」展に登場する画家の中で筆者が知っていた数少ない画家の一人でした。
島成園《祭りのよそおい》大正2年(1913) 大阪中之島美術館 通期展示 |
画面左の着飾った二人の少女とそれを羨ましそうに見つめる少女、さらにその三人を見つめる素足に草履姿の少女。
少女たちの表情や装いでその背景にある貧富の差を見事に描き分けたところにも驚かされますが、貧しい少女に目を向けた作者の優しさが感じられる作品にも思えました。
島成園に師事した吉岡美枝(1911-1999)の《店頭の初夏》に描かれた女性は洋装で、パーマをかけた髪をカチューシャでまとめ、手には真っ赤なバッグを持っていてモダンな感じがします。
(吉岡美枝の作品はもう1点、蛍の光の中に横たわる少女が描かれた幻想的な作品《ホタル》(大阪中之島美術館 展示期間5/16-6/11)が展示されます。
幻想的な大阪の雪景色
「大阪の日本画」展のトリを務めるのは、大阪の雪景色が描かれた《雪の大阪》。
作者は、はじめ洋画を学び、のちに日本画に転向して竹内栖鳳に師事した池田遥邨(1895-1988)。