東京・丸の内の静嘉堂@丸の内(明治生命館1階)では展覧会「黒の奇跡・曜変天目の秘密」が開催されています。
展覧会チラシ |
今回の展覧会の主役は、なんといっても「世界に三碗しかなく、三碗とも日本にあって、すべて国宝」という《曜変天目(稲葉天目)》。
「どうすればこんな美しい模様になるのか?」
「中国の茶碗がどうやって日本に伝来したのか?」
静嘉堂文庫美術館のほかに京都・大徳寺龍光院、大阪・藤田美術館だけにしか所蔵されていない「曜変天目」はミステリアスな輝きをはじめ謎も多く、またそれが大きな魅力なのですが、ホワイエにあるバナー(下の写真左)には最新の研究成果を踏まえた解説が紹介されているので、これをじっくり読めば「曜変天目」がさらに味わい深いものに感じられて見る楽しみも倍増すること間違いなし。
ホワイエ |
さらに曜変天目の拡大パネル(上の写真右)には2ヶ所穴が開いていて、そこから顔を出して記念写真も撮れるので、茶碗の中に広がる星空のような小宇宙と一体になった気分を味わうこともできるのです。
もちろん国宝《曜変天目(稲葉天目)》以外にも見どころいっぱいの展覧会ですので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2025年4月5日(土)~6月22日(日)
休館日 毎週月曜日(ただし5月5日は開館)、5月7日(水)
開館時間 午前10時~午後5時 *入館は閉館の30分前まで
*毎月第4水曜日は午後8時まで、6月20日(金)・21日(土)は午後7時まで開館
入館料 一般 1500円、大高生 1000円、中学生以下無料
*障がい者手帳をお持ちの方700円(同伴者1名無料)
主 催 静嘉堂文庫美術館
今回の展覧会では、曜変ファッション割引(一般入場料200円引)があります。
ギャラリートークほか関連イベントもありますので、詳しくは同館公式サイトをご覧ください⇒静嘉堂文庫美術館
撮影条件 ギャラリー4以外は撮影可(国宝《曜変天目》は撮影不可)
*携帯電話・スマートフォン・タブレットのカメラはご使用いただけます。動画撮影・カ
メラでの撮影はご遠慮ください。
本記事では国宝《曜変天目》の写真を掲載していますが、これは報道内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。
*展示作品はすべて静嘉堂文庫所蔵です。
展示構成
1章 天目のいろいろ
2章 黒い工芸―漆黒とつや黒鉄のかがやき
3章 天目と黒いやきもの
4章 曜変天目の小宇宙
1章 天目のいろいろ
ギャラリー1にずらりと並ぶのは、唐物の天目茶碗。
静嘉堂が所蔵する「油滴」や「建盞(けんさん)」「鼈盞(べっさん)」「灰被(はいかつぎ)」などの唐物天目が一堂に会する光景はまさに壮観の一言。
「1章 天目のいろいろ」展示風景 |
それも、ただ単に並んでいるのでなく、中国伝来の絵画、工芸品の鑑定評価や、その飾り方を図入りで解説した、いわば室町将軍家の宝物のマニュアル本『君台観左右帳記』での評価に沿って展示されているので、それぞれの天目茶碗が当時はどのような位置づけだったのかがよくわかります。
たとえば、中国の宋~元時代、福建省の建窯で焼かれた「建盞」は、「建盞、油滴にも劣るべからず」とあって、当時から評価が高いものでした。
「1章 天目のいろいろ」展示風景 |
そして、器の内外に広がる斑紋を水面に浮かぶ油のしずくに見立てた「油滴」は「第二の重寶」。「曜変よりは世に数あまたあるべし」との解説には妙に納得してしまいました。
ギャラリー2に展示されているのは、漆黒の工芸品と刀剣・刀装具。
ここには中国・元~明時代と鎌倉~室町時代の13~16世紀の間に作られた漆黒の工芸品と、江戸~明治時代に作られた漆芸の作品が並んで展示されているので、「漆黒」といっても、中世以降の日本で作られた透明感があって奥行きが感じられる黒と、漆に油煙をまぜた黒漆を使って真っ黒そのものの重厚さが感じられる中国の黒の違いを比べてみることができます。
「2章 黒い工芸―漆黒とつや黒鉄のかがやき」展示風景 |
漆といえばすぐに名前が思い浮かんでくる、幕末から明治にかけて活躍した漆芸家・柴田是真の作品は、上から黒塗・四分一塗・潤塗・朱銅塗・青銅塗に塗り分けられた五段の重箱《柳流水蒔絵重箱》。
これはまさに「変塗(かわりぬ)りの見本市」で、是真の黒にはつやつやとした透明感が感じられます。
今回は三振の名刀が展示されているので刀剣ファンも見逃すわけにはいきません。
「2章 黒い工芸―漆黒とつや黒鉄のかがやき」展示風景 |
今回の展覧会のテーマは「黒の奇跡」なので、刀身の刃の輝きだけでなく、剣の柄(つか)に収められる刃のない部分にあたる「茎(なかご)」の黒鉄の渋い輝きにも注目したいです。
重要美術品 源清磨《刀 銘 源清磨/弘化丁未年八月日》 附 小倉巻柄半太刀拵 江戸時代・弘化四年(1847) 拵:明治~昭和時代(19~20世紀) |
実は、刀剣はいざという時に備えて普段から柄をつけて鞘(さや)に収めていて、写真のように柄や鞘をはずすのはあくまでも展示のためだと思っていたのですが、保存のため刀身を鞘から出して、柄を取り外して白木でできた白鞘に入れていたことを初めて知りました。
2章には、鍔(つば)や、目貫(めぬき)、小柄(こづか)、笄(こうがい)の三点セット「三所物(みところもの)」といった刀装具も展示されています。
刀剣の展示ではいつも、刀剣だけでなく、小さなスペースにこれでもかといった具合に趣向を凝らした装飾を刀装具に施す匠の技を見るのも大きな楽しみなのです。
3章 天目と黒いやきもの
ギャラリー3に展示されているのは、古くは中国・戦国時代から、清時代、そして日本の江戸から明治時代、昭和初期までの黒にちなんださまざまなやきものが展示されています。
4章 曜変天目の小宇宙
そしていよいよギャラリー4へ。(ギャラリー 4内は撮影不可です。)
VIPルームにただひとつ鎮座するのは国宝《曜変天目(稲葉天目)》。
国宝《曜変天目(稲葉天目)》 建窯 南宋時代(12~13世紀) |
壁面には『君台観左右帳記』の「曜変天目」の解説文が掲載されています。
「曜變、建盞の内の無上也。世上になき物也。」との解説は説得力十分です。
今回は展示方法にも注目していただきたいです。
《曜変天目(稲葉天目)》が乗ったガラス面の下には鏡があるので、茶碗の底の部分の高台(たかだい)まで見ることができるのです。高台は今回が初お披露目ですのでお見逃しなく!
ミュージアムショップは曜変天目をモチーフにしたグッズが盛りだくさん。
大人気の「ほぼ実寸の曜変天目ぬいぐるみ」が、手のひらサイズのキーリングになって発売されています。
展覧会観覧後はぜひミュージアムショップにもお立ち寄りください。
中国や日本の黒の工芸品の歴史をたどり、国宝・曜変天目の謎と秘密に迫る、とても内容が濃くて興味深い展覧会です。
ゴールデンウイークにふらりと訪ねてみてはいかがでしょうか。