2025年2月19日水曜日

泉屋博古館東京 企画展 花器のある風景        同時開催 受贈記念「大郷理明コレクションの花器」  

東京・六本木の泉屋博古館東京では企画展 花器のある風景  同時開催 受贈記念「大郷理明コレクションの花器」 が開催されています。


泉屋博古館東京エントランス

展覧会開催概要


会 期  2025年1月25日(土)~3月16日(日) 
開館時間 11:00~18:00 ※金曜日は19:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで
休館日  月曜日、2/25(火) ※2/24(月・休)は開館
入館料  一般1,200円、学生600円、18歳以下無料
※展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒泉屋博古館東京

展示構成
 第一章 描かれた花器
 第二章 茶の湯の花器
 第三章 受贈記念「大郷理明コレクションの花器」
 第四章 花入から花瓶へー近代の花器ー

※撮影はホール内のみ可能です。館内で撮影の注意事項をご確認ください。
※掲載した写真は主催者より広報用画像をお借りしたものです。


今回の企画展は春を迎えるのにふさわしい花器をテーマにした展覧会。住友コレクションの花器と花器が描かれた絵画、同時開催として、近年、華道家・大郷理明氏より泉屋博古館に寄贈されたことを記念して「大郷理明コレクション」の花器が展示されるという豪華版です。
*大郷理明コレクションのみ会期中一部展示替えあり

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


第一章 描かれた花器


今回は花器の展覧会なので、花器を中心に愛でるのかなと思っていたのですが、展示室1に入っていきなり驚きました。
視界に入ってくるのは、花、花、花。
第1章に展示されているのは、住友コレクションを中心とした、花をいけられた花器の絵画作品だったのです。

特に驚いたのは、江戸後期の画家で、原派の祖、原在中(1750-1837)と在中の次男で原派を継いだ原在明(1778?-1844)の合作《春花図》。
タイトルからして今の季節にぴったりなのですが、この作品の大きさにも圧倒されました。
今回の企画展のメインビジュアルになっているのもうなずけます。
どれだけ大きいかはぜひその場で体感してみてください。

原在中・在明《春花図》江戸時代・19世紀 泉屋博古館


展示室1に入ってすぐに展示されているのは、幕末から明治時代にかけて活躍した村田香谷(1831-1912)の絵巻物《花卉・文房花果図巻》。

村田香谷《花卉・文房花果図巻》(部分)明治35年(1902) 泉屋博古館東京

鑑賞用に栽培する花卉だけでなく、太湖石、青銅器、机や衝立、硯に墨などの文房具が描かれ、さすがに清に渡って絵画を勉強した香谷らしい上品な中国趣味が感じられる作品です。
ガラス製の水槽に入ったくりっとした目の金魚が可愛い!


名前からして今回の展覧会にふさわしい椿椿山(つばき・ちんざん 1801-54)は、得意とした花鳥画の作品もさることながら、その生きざまにはいつも感服している江戸時代末期の文人画家なのです。

椿椿山《玉堂富貴図》江戸時代・天保11年(1840)
泉屋博古館


椿山は、師・渡辺崋山が蛮社の獄で逮捕されたあと、自らの危険を顧みず崋山の赦免運動の中心となるという気概のある人でした。
椿山の作品を前にすると、自分は椿山のような立場になったら同じように行動できるだろうかと、いつも作品の前で自問自答してしまうのです。

花がいけられた花器の絵画作品はまだまだ続きます。
江戸時代後期の南画家で、浦上玉堂の長子、浦上春琴(1779-1846)は精緻な花鳥画を得意としていました。

浦上春琴《蔬果蟲魚帖》江戸時代・天保5年(1834) 泉屋博古館



第二章 茶の湯の花器



展示室2は展示室1とはがらりと変わり、茶の湯に親しんだ住友家十五代当主友純(春翠)氏が催した茶会で用いられた花器が畳の上に展示されていて、掛け軸もかかっているので、茶室にいるような落ち着いた雰囲気が広がっています。

春翠氏は、江戸時代初期の大名茶人、小堀遠州ゆかりの作品を好み、収集しましたが、その代表格が《古銅象耳花入 銘キネナリ》でした。
その名が表すとおり、中国古代青銅器に倣い元時代に制作されたもので、筒状の胴部には饕餮文(とうてつもん 古代中国の想像上の怪獣の文様)風の怪獣文が施され、把手は象の鼻でかたどられています。
下部の丸みがどっしりとした安定感を醸し出しています。

《古銅象耳花入 銘キネナリ》元時代・14世紀
泉屋博古館東京


頸から胴部にかけての節を筍に見立てた青磁は、中国の龍泉窯製の花入で、日本では「砧青磁」として茶人たちに珍重されました。

《青磁筍花入》南宋~元時代 13-14世紀
泉屋博古館東京

見るからに壊れやすそうな花入《砂張舟形花入 銘松本船》は、展示するのに大変な苦労があったと思います。
砂張とは銅に錫と鉛を加えた合金で、茶の湯では東南アジア製のものが特に好まれました。この花入は、室町時代の茶人、村田珠光の高弟、松本珠報が所持したことから「松本船」と称されています。


《砂張舟形釣花入 銘松本船》15-16世紀


青銅、青磁、砂張と、それぞれ特徴のある花入と並んで、筑前・高取内ヶ磯窯から同型の器が発掘され、江戸時代前期(1620-30年代)頃の作と考えられるこの花入には、裏面上部に掛花入としても使用できる金具がつき、下部には安土桃山~江戸時代初期の武将茶人・古田織部とされる花押があるので、作品横の写真付きの解説パネルとあわせてご覧いただきたいです。

《高取花入 銘出山》江戸時代前期・17世紀
泉屋博古館東京


第三章 受贈記念「大郷理明コレクションの花器」


展示室3では今回の受贈を記念して「大郷理明コレクション」が一挙に公開されています。
今回寄贈された「大郷理明コレクション」94点の中核をなすのは69点の銅花器で、近世から受け継がれてきた近代の伝統的鋳金工芸の名品がずらりと並ぶ展示風景は、まさに壮観の一言です。


重たい荷物にけなげに耐えている牛の姿が印象的な《紫銅牛形薄端》は、加賀の鋳金家、横河九左衛門による紫銅(=青銅)の薄端(=薄手の金属製の花器で取り外しのできる浅い上皿がついているもの)。
横河九左衛門《紫銅牛形薄型》19世紀 大郷理明コレクション
泉屋博古館


おめでたい松竹梅を象った寸筒は明治時代に活躍して、東京美術学校鋳金科(現東京藝術大学工芸科鋳金研究室)創設者のひとり大島如雲の作。


大島如雲《松竹梅図寸筒》19-20世紀
大郷理明コレクション 泉屋博古館 
    
いままで近代銅花器はあまり見たことがなく、展示されている作品の作者もなじみのない方ばかりでしたが、今回の展示は近代銅花器の素晴らしさを実感できるとても良い機会になりました。


第四章 花入から花瓶へー近代の花器ー


明治時代には、花瓶という新たな形が欧米から伝わり、これまで伝承されてきた技術力や美意識を継承しながら、日本の花器は様々な形のものが作られました。
第四章では、海外で人気を博した近代日本の花器の名品が、中国・清時代の花器や、大正・昭和時代の洋画界の巨匠、梅原龍三郎が描いた花器の作品とともに展示されています。


幹山伝七《色絵花鳥文花瓶》明治時代・19世紀 泉屋博古館東京



ホールの作品は撮影可です。初代宮川香山の花器や参考資料を来館記念にぜひパチリ!

ホール展示風景




ホール展示風景

春を迎えるのにふさわしい、とても明るい雰囲気の展覧会です。
おすすめです!