東京・墨田区のすみだ北斎美術館では、特別展「北斎をめぐる美人画の系譜~名手たちとの競演~」が開催されています。
3階ホワイエのフォトスポット |
葛飾北斎(1760-1849)といえば「冨嶽三十六景」シリーズなどで知られ、江戸時代を代表するだけでなく、いまや世界的にも有名な浮世絵師。
今回の特別展は、その北斎が実は美人画の名手だったという点に着目して、そのルーツや、北斎と同時代の浮世絵師の美人画、さらには北斎の弟子たちに受け継がれた美人画の流れをたどるという盛りだくさんな内容の展覧会です。
開幕前に開催されたプレス内覧会に参加してきましたので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2025年9月16日(火)~11月24日(月・振休)
※前後期で一部展示替えを予定
前期:9月16日(火)~10月19日(日)
後期:10月22日(水)~11月24日(月・振休)
休館日 毎週月曜日
開館:10月13日(月・祝)、11月3日(月・祝)、24日(月・振休)
休館:10月14日(火)、11月4日(火)
※ただし10月21日(火)は展示替えのため特別展(3階・4階企画展示室)は休室。
会 場 すみだ北斎美術館 3階・4階企画展示室
開館時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
主 催 墨田区・すみだ北斎美術館
観覧料 一般1,500円、高校生・大学生1,000円、65歳以上1,000円、中学生500円、
障がい者500円、小学生以下無料
※観覧日当日に限り、4階『北斎を学ぶ部屋』もご覧いただけます。
※展覧会の詳細、チケットの購入方法、各種割引の詳細、最新のイベント情報は同館公式ホームページをご覧ください⇒https://hokusai-museum.jp/at-hokusai/
※特別展展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真はプレス内覧会で主催者より特別に許可を得て撮影したものです。
展示構成
1章 北斎の源流
2章 美人画の名手へ
3章 浮世絵の爛熟とともに
4章 北斎の系譜に連なる者
今回の特別展で特に楽しみにしていたのは、葛飾北斎の師・勝川春章(1726-93)や、勝川春章の師・宮川春水(生没年未詳)の美人画が見られることでした。
宮川春水で思い浮かべるのが、キャプションでも紹介されている稲荷橋狩野派と宮川派とのトラブル。
寛延2(1749)年、宮川春水の師・宮川長春(1682-1752)は、稲荷橋狩野派に従い日光東照宮の修復に一門を率いて参加したのですが、その際の画料が不払いであったため、翌年の寛延3(1750)年暮れ、宮川派の画工らが画料を着服した稲荷橋狩野家を襲撃し、当主・狩野春賀を殺害するという事件を起こしてしまったのです。
長春はその後まもなく亡くなり、弟子の宮川一笑は伊豆新島に配流、残された春水は宮川姓を名乗るのをはばかり、勝宮川、さらに勝川とあらため、勝川春章らを育てました。
この系譜を見ると、肉筆美人画を得意とした宮川長春を引き継いだ春水、春章、そして春章のもとで学んだ春朗(北斎)が「美人画の名手」と言わるのも決して不思議ではないことがわかります。
「第1章 北斎の源流」では、宮川長春、一笑、春水、勝川春章らの美人画が前後期で16点も展示されます。長春から春章までの作品をまとまって見られる絶好の機会なので、これは見逃すわけにはいきません(期間限定作品もあるので公式ホームページに掲載されている作品リストをご覧ください)。
勝川春章の没後、北斎は俵屋宗理と名を改め、狂歌の世界と関わりながら多くの美人画を制作しました。
「第2章 美人画の名手へ」では、北斎の宗理時代の美人画と、北斎と同時期に活躍した鳥文斎栄之(1756-1829)や喜多川歌麿(1753-1806)の美人画の競演が見られます。
展示風景 |
気品のある美人画を描く鳥文斎栄之、蔦屋重三郎に見出された天才・喜多川歌麿という寛政期(1789-1801)に人気を博した二人の浮世絵師と並んで、蔦屋重三郎(1750-97)が手掛けた北斎の大首絵が展示されています。
北斎の大判錦絵の美人大首絵は、蔦屋重三郎刊行のこの「風流無くてなゝくせ」の揃物のみが知られているという、とても貴重な作品。
後期には神戸市立博物館蔵の「風流無くてなゝくせ 遠眼鏡」が展示されます。
葛飾北斎《風流無くてなゝくせ ほおずき》個人蔵 前期展示 |
北斎の全長7mにも及ぶ大作《隅田川両岸景色図巻》(下の写真中央 すみだ北斎美術館蔵)は、高く評価されながら約100年もの間行方知れずとなっていたことから”幻の絵巻”と呼ばれていました。普段は作品の保存上、高精細複製画が展示されていることが多いのですが、今回は本物が展示されています。
前期だけの展示なのでお見逃しなく!
展示風景 |
「第3章 浮世絵の爛熟とともに」に展示されている8枚続きの摺物「八番続」はすみだ北斎美術館だけが所蔵するという貴重な作品。こちらも前期だけの展示です。
製作年の干支にちなんで、「たつ」という言葉や竜にちなんだモティーフが描かれていますが、竜頭(たつがしら)のついた兜を掲げる女性だったり、こたつに入る女性だったりと言葉遊びの面白さも楽しめます。
北斎がほぼ同時期(文化7,8年(1810,11)頃)に描いた円熟期の肉筆美人画が並んで展示されています。
下の写真右は春の美人を描いた《桜下美人図》(個人蔵)、左は夏の美人を描いた《夏粧美人図》(東京藝術大学蔵)。
こうやって異なる所蔵元の作品が並んで見られるのも、美術展ならではのメリットだと思いました。
「第4章 北斎の系譜に連なる者」では、北斎の門人たちの中でも、美人画を得意とする絵師たちの名品が展示されています。
門人たちの美人画の中でも特に注目したいのが、北斎の娘・葛飾応為の幻の名品《蝶々二美人図》(個人蔵 通期展示)。
父である北斎が「余の美人画は、阿栄(応為のこと)におよばざるなり。」と語ったと伝えられていますが、この作品を見ればそれがよくわかります。
ミュージアムショップ |
展覧会の構成に沿って見どころをたどることができる公式図録はカラー図版満載で、解説も充実しています。
北斎を中心に、北斎の先人たちから門人まで、幅広い範囲の美人画が楽しめました。
この秋おすすめの展覧会です。