大阪・天王寺公園内の大阪市立美術館がおよそ2年5ヶ月のリニューアル期間を経て、久しぶりにオープンしました。
大阪市立美術館外観 |
開館以来初めてとなる大規模改修とのことなので、どのような姿を見せてくれるのかワクワクしていましたが、期待をはるかに超える出来映えでした。
開幕に先立って開催された記者内覧会に参加しましたので、新しくなった美術館と展示の様子をさっそくご紹介したいと思います。
記者内覧会では、今回のリニューアルのコンセプトを同館の内藤栄館長におうかがいしました。
1 ひらかれたミュージアム
2 歴史的建造物としての魅力を引き出す
3 展示物の魅力を引き出す
正面入口から入ってすぐのミュージアムショップ、1階に上がってからのホールとその先にあるカフェ「ENFUSE」、そしてそこから建物の反対側に出て、同館に隣接する日本庭園・慶沢園を臨むテラスまではなんと無料ゾーン。
これならミュージアムショップで展覧会グッズを見たり、カフェでドリンクや軽食をとりながら友人たちと気ままにおしゃべりすることだって気軽にできるので、美術館をすごく身近に感じることができます。
展覧会のあとにホッと一息でもいいですし、カフェに来てみたら面白そうな展覧会を開催しているので見てみようという気になることだってあるかもしれません。
天井が高く外光をとりいれた建物の中は開放的。とてもくつろいだ気分になります。
カフェ「ENFUSE」 |
大阪市立美術館オリジナルのトートバッグやマグカップ、館蔵作品のアートマグネットにポストカードはじめ、ほしいグッズがいっぱいのミュージアムショップでは、思わず財布のひもがゆるんでしまいそう。
そして3つめのコンセプトは、「展示物を見た人からため息がでるほど魅力を引き出す展示にする」(内藤館長)こと。
今回のリニューアルオープン記念特別展"What's New"は、館内の全フロアを特別展会場として、「日本・東洋美術の宝石箱」大阪市立美術館が所蔵する日本・東洋美術を中心とした約8700件のうち、絵画や書蹟、彫刻、工芸など、分野ごとに重要文化財を含む選りすぐりの作品約250件超を一堂に展示する、とてもゴージャスな内容の展覧会です。
ぜひとも会場に足を運んでいただいて、新しい大阪市立美術館の魅力を感じ取っていただきたいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2025年3月1日(土)~3月30日(日)
※会期中一部展示替えがあります。
開館時間 9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日 月曜日
※展覧会の詳細、チケット購入方法。各イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒大阪市立美術館
※展示作品はすべて大阪市立美術館の館蔵品です。
※展示会場内は全作品撮影可ですが、著作権保護期間作品は撮影写真の利用制限があるので、館内の注意事項をご確認ください。
展示構成
1F展示室
第1会場 近世の風俗画、金工品にみる表情、知られざる考古コレクション
仏教絵画と経典
第2会場 中国の仏像、中国の仏像のお顔、祝杯!華やかな酒器たち
竣工記念の石刻
2F展示室
第3会場 中国書画、おもてなしのうつわ、近世の動物画
第4会場 住友コレクション、富本憲吉と人間国宝 暮らしを彩る近現代のうつわ
大阪の洋画、広報大使就任記念
展示会場に入ってすぐに感じたのは、展示ケースのガラスの存在に気がつかないほどのガラスの透明感と、色彩が鮮やかに映える照明でした。
「ガラスにぶつからないようご注意ください」と呼びかけているのは、このたび大阪市立美術館の広報大使に就任した《青銅鍍金銀 羽人》のキャラクターです。
「近世の風俗画」展示風景 |
今年(2025年)のNHK大河ドラマで話題の名版元・蔦屋重三郎とタッグを組んだ謎多き絵師・東洲斎写楽の作品《三代目市川八百蔵の田辺文蔵》にも注目です。
露出展示もありました!
「金工品にみる表情」では、中国・日本の紀元前から近代までバラエティ豊かな作品が並んで展示されているので、年代による違いなどを興味深く見ることができます。
次はどんな展示があるのだろうと期待しながら先に進むと、クラシカルな内装の通路の先に仏頭が見えてきました。このように期待をもたせてくれる演出も心憎いです。
東洋紡績株式会社の社長を務めた阿部房次郎氏(1868-1937)が蒐集した中国書画の「阿部コレクション」を所蔵する大阪市立美術館のすごさは、2018年に同館で開催された特集展示「生誕150周年記念 阿部房次郎と中国書画」で初めて実感しました。
中国書画の大ファンの筆者としては、「阿部コレクション」に再会できるのを特に楽しみにしていました。
「中国書画」展示風景 |
上の写真中央の中国清時代の文人画家、謝時臣(款)《巫峡雲濤図》《湖堤春暁図》は、本紙だけで約3.5mもあって、今回の改修で高さ5mの特大展示ケースができたので初めて展示できるようになった作品だったのです。
雄大な景観をぜひ見上げてみてください。
謝時臣(款) 左:《巫峡雲濤図》右:《湖堤春暁図》 中国・清時代 大阪市立美術館 |
今回の特別展では、日本や中国をはじめ古今東西の作品がそろう大阪市立美術館所蔵の陶磁器コレクションのなかでも日本陶磁の二枚看板、平成23年(2011)に受贈した鍋島焼118件からなる「田原コレクション」と、富本憲吉作品100件からなる「辻本コレクション」のどちらも見ることができるのがうれしいです。
《青磁染付 青海波宝尽文皿》 鍋島焼 江戸時代・18世紀 大阪市立美術館(田原コレクション) |
陶磁器の展示を見るたびに、地震が来たらどうなるのだろうか、と心配してしまいますが、今回の改修工事で、免振展示ケースを3カ所したとのことですので、これからは安心して陶磁器作品を見ることができます。
太平洋戦争の雲行きがあやしくなってきた昭和18年(1943)、大阪市立美術館の所蔵品の充実を図るために住友家からの支援を受けて開催された「関西邦画展覧会」に出品された関西日本画壇の重鎮20人の新作「住友コレクション」の日本画も大きな見どころのひとつです。
同年4月18日、ソロモン諸島ブーゲンビル島上空で米軍戦闘機に撃墜されて戦死し、のち元帥に任じられた山本五十六連合艦隊司令長官の肖像画も展示されています。
アメリカ駐在の経験があり、アメリカのこわさを誰よりも知り、負けるとわかっていながらもアメリカと戦わなくてはならなかった山本長官の複雑な心境を思うと胸が締め付けられる思いになります。
大阪や関西にゆかりのある洋画家たちのコレクションも、大阪市立美術館ならでは。
「大阪の洋画」展示風景 |
そして、ラストには真打登場!
大阪市立美術館の広報大使に就任した《青銅鍍金銀 羽人》です。
よくよく見てみると、「みなさん、いらっしゃい!」と言って手を広げているように見えて、とても愛らしい姿をしています。
リニューアルオープン記念特別展のタイトル"What's New"とは、直訳すると「何か新しいことは?」という意味ですが、ほかにも、「お変わりありませんか」という久しぶりに会った相手へのあいさつや、「最新情報」「新着情報」といった意味もあります。
そして、サブタイトルは「大阪市立美術館 名品珍品大公開!!」。
キャプションには、学芸員さんが選んだ名品や珍品のスタンプありますが、みなさまも会場でご自身の名品、珍品を探してみてはいかがでしょうか。
大阪市立美術館の魅力がたっぷり詰まった展覧会です。
会期は3月30日(日)までなので、すぐに終わってしまいます。ぜひお早めにご覧ください!