2025年3月13日木曜日

大阪市立美術館 リニューアルオープン記念特別展 What’s New! 大阪市立美術館 名品珍品大公開!! 

大阪・天王寺公園内の大阪市立美術館がおよそ2年5ヶ月のリニューアル期間を経て、久しぶりにオープンしました。

大阪市立美術館外観

開館以来初めてとなる大規模改修とのことなので、どのような姿を見せてくれるのかワクワクしていましたが、期待をはるかに超える出来映えでした。
開幕に先立って開催された記者内覧会に参加しましたので、新しくなった美術館と展示の様子をさっそくご紹介したいと思います。

記者内覧会では、今回のリニューアルのコンセプトを同館の内藤栄館長におうかがいしました。

1 ひらかれたミュージアム
2 歴史的建造物としての魅力を引き出す
3 展示物の魅力を引き出す


正面入口から入ってすぐのミュージアムショップ、1階に上がってからのホールとその先にあるカフェ「ENFUSE」、そしてそこから建物の反対側に出て、同館に隣接する日本庭園・慶沢園を臨むテラスまではなんと無料ゾーン。

大阪市立美術館1階ホール

これならミュージアムショップで展覧会グッズを見たり、カフェでドリンクや軽食をとりながら友人たちと気ままにおしゃべりすることだって気軽にできるので、美術館をすごく身近に感じることができます。
展覧会のあとにホッと一息でもいいですし、カフェに来てみたら面白そうな展覧会を開催しているので見てみようという気になることだってあるかもしれません。
  

慶沢園
(※)慶沢園への入園には別に入園料または大阪市立美術館との共通入場券が必要です。


天井が高く外光をとりいれた建物の中は開放的。とてもくつろいだ気分になります。

カフェ「ENFUSE」

大阪市立美術館オリジナルのトートバッグやマグカップ、館蔵作品のアートマグネットにポストカードはじめ、ほしいグッズがいっぱいのミュージアムショップでは、思わず財布のひもがゆるんでしまいそう。

ミュージアムショップ


そして3つめのコンセプトは、「展示物を見た人からため息がでるほど魅力を引き出す展示にする」(内藤館長)こと。

今回のリニューアルオープン記念特別展"What's New"は、館内の全フロアを特別展会場として、「日本・東洋美術の宝石箱」大阪市立美術館が所蔵する日本・東洋美術を中心とした約8700件のうち、絵画や書蹟、彫刻、工芸など、分野ごとに重要文化財を含む選りすぐりの作品約250件超を一堂に展示する、とてもゴージャスな内容の展覧会です。
ぜひとも会場に足を運んでいただいて、新しい大阪市立美術館の魅力を感じ取っていただきたいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2025年3月1日(土)~3月30日(日)
 ※会期中一部展示替えがあります。  
開館時間 9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日  月曜日
※展覧会の詳細、チケット購入方法。各イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒大阪市立美術館

※展示作品はすべて大阪市立美術館の館蔵品です。
※展示会場内は全作品撮影可ですが、著作権保護期間作品は撮影写真の利用制限があるので、館内の注意事項をご確認ください。


展示構成
 1F展示室
  第1会場 近世の風俗画、金工品にみる表情、知られざる考古コレクション
       仏教絵画と経典
  第2会場 中国の仏像、中国の仏像のお顔、祝杯!華やかな酒器たち
       竣工記念の石刻
 2F展示室
  第3会場 中国書画、おもてなしのうつわ、近世の動物画
  第4会場 住友コレクション、富本憲吉と人間国宝 暮らしを彩る近現代のうつわ
       大阪の洋画、広報大使就任記念


展示会場に入ってすぐに感じたのは、展示ケースのガラスの存在に気がつかないほどのガラスの透明感と、色彩が鮮やかに映える照明でした。

「近世の風俗画」展示風景


「ガラスにぶつからないようご注意ください」と呼びかけているのは、このたび大阪市立美術館の広報大使に就任した《青銅鍍金銀 羽人》のキャラクターです。



浮世絵肉筆画の美人画もより一層輝いて見えます。


「近世の風俗画」展示風景

今年(2025年)のNHK大河ドラマで話題の名版元・蔦屋重三郎とタッグを組んだ謎多き絵師・東洲斎写楽の作品《三代目市川八百蔵の田辺文蔵》にも注目です。

東洲斎写楽《三代目市川八百蔵の田辺文蔵》江戸時代・寛政6年(1794)
大阪市立美術館(植田喜久子氏寄贈)


露出展示もありました!
「金工品にみる表情」では、中国・日本の紀元前から近代までバラエティ豊かな作品が並んで展示されているので、年代による違いなどを興味深く見ることができます。

「金工品にみる表情」展示風景

上の写真右手前は《青銅 鼓》。
四つ足で懸命に踏ん張る謎の動物たちに、思わず「がんばれ!」と声をかけたくなりました。

《青銅 鼓》中国・漢時代・前3-後3世紀 
大阪市立美術館(山口コレクション)


曼荼羅のように細かく描かれた仏画は単眼鏡でじっくり見たいところですが、仏教絵画のエリアでは単眼鏡がなくても細部までよく見ることができます。

「仏教絵画・経典」展示風景

それには秘密がありました。
一部の壁面ケースの背面の壁は可動式なので、ガラスの近くまでせり出してくる仕掛けになっているのです。

次はどんな展示があるのだろうと期待しながら先に進むと、クラシカルな内装の通路の先に仏頭が見えてきました。このように期待をもたせてくれる演出も心憎いです。

「中国の仏像のお顔」展示風景


東洋紡績株式会社の社長を務めた阿部房次郎氏(1868-1937)が蒐集した中国書画の「阿部コレクション」を所蔵する大阪市立美術館のすごさは、2018年に同館で開催された特集展示「生誕150周年記念 阿部房次郎と中国書画」で初めて実感しました。
中国書画の大ファンの筆者としては、「阿部コレクション」に再会できるのを特に楽しみにしていました。

「中国書画」展示風景

ところが同館の中国書画は「阿部コレクション」だけでなく、ほかにも隠れた名品があったのです。
    
「中国書画」展示風景

上の写真中央の中国清時代の文人画家、謝時臣(款)《巫峡雲濤図》《湖堤春暁図》は、本紙だけで約3.5mもあって、今回の改修で高さ5mの特大展示ケースができたので初めて展示できるようになった作品だったのです。

雄大な景観をぜひ見上げてみてください。

謝時臣(款) 左:《巫峡雲濤図》右:《湖堤春暁図》
中国・清時代 大阪市立美術館 

今回の特別展では、日本や中国をはじめ古今東西の作品がそろう大阪市立美術館所蔵の陶磁器コレクションのなかでも日本陶磁の二枚看板、平成23年(2011)に受贈した鍋島焼118件からなる「田原コレクション」と、富本憲吉作品100件からなる「辻本コレクション」のどちらも見ることができるのがうれしいです。

《青磁染付 青海波宝尽文皿》 鍋島焼
江戸時代・18世紀 大阪市立美術館(田原コレクション)  

陶磁器の展示を見るたびに、地震が来たらどうなるのだろうか、と心配してしまいますが、今回の改修工事で、免振展示ケースを3カ所したとのことですので、これからは安心して陶磁器作品を見ることができます。


太平洋戦争の雲行きがあやしくなってきた昭和18年(1943)、大阪市立美術館の所蔵品の充実を図るために住友家からの支援を受けて開催された「関西邦画展覧会」に出品された関西日本画壇の重鎮20人の新作「住友コレクション」の日本画も大きな見どころのひとつです。

「住友コレクション」展示風景


同年4月18日、ソロモン諸島ブーゲンビル島上空で米軍戦闘機に撃墜されて戦死し、のち元帥に任じられた山本五十六連合艦隊司令長官の肖像画も展示されています。
アメリカ駐在の経験があり、アメリカのこわさを誰よりも知り、負けるとわかっていながらもアメリカと戦わなくてはならなかった山本長官の複雑な心境を思うと胸が締め付けられる思いになります。

中村大三郎《山本元帥像》昭和18年(1943)
大阪市立美術館(住友コレクション)

大阪や関西にゆかりのある洋画家たちのコレクションも、大阪市立美術館ならでは。

「大阪の洋画」展示風景

そして、ラストには真打登場!
大阪市立美術館の広報大使に就任した《青銅鍍金銀 羽人》です。
よくよく見てみると、「みなさん、いらっしゃい!」と言って手を広げているように見えて、とても愛らしい姿をしています。



《青銅鍍金銀 羽人》中国・後漢時代・1-2世紀
大阪市立美術館(山口コレクション)

なんと、壁面には《青銅鍍金銀 羽人》の履歴書まで展示されていました!



リニューアルオープン記念特別展のタイトル"What's New"とは、直訳すると「何か新しいことは?」という意味ですが、ほかにも、「お変わりありませんか」という久しぶりに会った相手へのあいさつや、「最新情報」「新着情報」といった意味もあります。
そして、サブタイトルは「大阪市立美術館 名品珍品大公開!!」。
キャプションには、学芸員さんが選んだ名品や珍品のスタンプありますが、みなさまも会場でご自身の名品、珍品を探してみてはいかがでしょうか。


大阪市立美術館の魅力がたっぷり詰まった展覧会です。
会期は3月30日(日)までなので、すぐに終わってしまいます。ぜひお早めにご覧ください!

2025年2月27日木曜日

根津美術館 特別展「武家の正統 片桐石州の茶」

東京・南青山の根津美術館では特別展「武家の正統 片桐石州の茶」が開催されています。

展覧会チラシ

今回の特別展は、小堀遠州(1579-1647)や古田織部(1544-1615)のような武将茶人のビッグネームほどは知られていなくても、江戸時代の茶道史上に極めて重要な位置を占めた片桐石州(1605-73)に焦点を当てた展覧会です。
茶の湯の展覧会はこれまで各地の博物館・美術館で開催されていますが、独自の石州流の茶道を開いた片桐石州の名を冠した展覧会は、根津美術館での今回の特別展が初めて。
没後350年を経て顕彰するこの機会に、石州と石州流の茶の湯の魅力をぜひともお楽しみいただきたいです。

それではさっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


開催期間  2025年2月22日(土)~3月30日(日)
     (会期中、前期(2/22-3/9)と後期(3/11-3/30)で一部作品の展示替え、頁替え等  
      があります。文中、記載のない作品は通期展示です。)
開催時間  午前10時から午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日   毎週月曜日、ただし2月24日(月・振替休)は開館し、翌25日(火)は休館
入館料   オンライン日時指定予約
      一般 1500円、学生 1200円
      *当日券(一般1600円、学生 1300円)も販売しています。同館受付でお尋ね
                    ください。
      *障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、中学生以下は無料
展覧会の詳細、オンライン日時指定予約、スライドレクチャー等の情報は同館公式サイトをご覧ください⇒根津美術館          

*展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。

展示構成
 1 茶人・片桐石州
 2 石州をめぐる人々
 3 石州の茶の湯
 4 石州の茶の広がり


1 茶人・片桐石州


展示室に入ってすぐにお出迎えしてくれるのは、従五位下石見守に叙任された石州が礼装である束帯を身に着けた姿で描かれた「片桐石州像」。
石州にゆかりの深い大徳寺芳春院の11世・真巌宗乗(1721-1801)が、石州の百回忌のために描かせたものです。
石州は石見守なので「石州」と呼ばれ、大和国(現・奈良県)小泉藩第2代藩主でした。わずか1万3千石の小国ながらも、れっきとした大名だったのです。

片桐石州像 洞月筆 真巌宗乗賛 日本・江戸時代 明和4年(1767)
芳春院蔵 前期展示(2/22-3/9)
後期(3/11-3/30)には、「片桐石州像 原在中筆 宙宝宗宇賛 
日本・江戸時代 文化9年(1812) 芳春院蔵」が展示されます。 


石州の茶の湯の師は、戦国武将・桑山重晴の三男・宗仙(1560-1632)で、石州とは江戸屋敷も国許も近かったというご縁もありました。
宗仙は千利休の長男・千道安の弟子で、利休流の侘茶を継承した茶人でした。


2 石州をめぐる人々


石州は、寛永10年(1633)、29歳のとき、徳川家の菩提所、京都・知恩院再建の作事奉行を任じられ、以降、落成までの約8年間、京都に滞在しました。それが、大徳寺芳春院の開祖・玉室宗珀、小堀遠州、千利休の孫・元伯宗旦、大徳寺高林庵・慈光院の開祖・玉舟宗璠といった上方の文化の担い手たちとの交流を行う機会になったのです。

玉室宗珀は石州の参禅の師で、石州は芳春院の隣に片桐家の菩提寺・高林庵を建立し、玉室の法嗣(師から仏法の奥義を伝えられた弟子)・玉舟宗璠を開山に迎えました。
今回の特別展では、石州から高林院に譲られた釜が展示されています(現在は芳春院が所蔵、下の写真中央)。


「2 石州をめぐる人々」展示風景
手前が 重要美術品 闘鶏図真形釜 日本・室町~桃山時代
16世紀 芳春院蔵

ほかにも石州が国許の小泉の屋敷に遠州風の茶室をしつらえたほど憧れていた大名茶人・小堀遠州に茶入について意見を求めたことがうかがえる遠州の書状も展示されています。
石州が取り上げた茶入について、遠州は、蓋はよく合わせられ、仕覆はことのほか見事な裂である、と誉めているので、石州の喜ぶ姿が目に浮かんでくるようです。
筆者のような素人ではくずし字は読めないので、パネルで原文が表示されているのがうれしいです。

書状 片石州宛 小堀遠州筆 日本・江戸時代 17世紀
大和文華館




3 石州の茶の湯


今回の特別展の大きな見どころの一つが、現在ではそれぞれ所蔵元が異なる石州愛蔵の3つの瀬戸茶入(※)が揃って展示されていることです。
(※)下の写真右から茶入及びその付属品
 尻膨茶入 銘 夜舟 日本・桃山~江戸時代 16~17世紀 根津美術館
 肩衝茶入 銘 奈良 日本・江戸時代 17世紀 個人蔵
 肩衝茶入 銘 八重垣 日本・江戸時代 17世紀 愛知県美術館(木村定三コレクション)  
 

「3 石州の茶の湯」展示風景

およそ200回の記録が残されている石州の茶会の中でも注目は、江戸の上屋敷で行われた連会で、道具はほぼ固定して、客組を変えて多数の客を招いて開かれました。
客の中心は、大老、老中を筆頭とした大名から旗本、大徳寺の僧侶など幕府の関係者が多くを占めたのが特徴で、「夜舟」「奈良」「八重垣」は連会でも用いられたため、この3つの茶入は石州の茶会での使用回数の7割を占めていました。

茶道具の展覧会では、茶入だけが単独で展示されるることが多いのですが、石州愛蔵の3つの瀬戸茶入は、茶入を覆う仕覆(しふく)、象牙の牙蓋(げぶた)、内箱、外箱などが並んで展示されているので、仕覆の裂の文様や、牙蓋の形の違いなども楽しむことができます。

ここで注目したいのは、「尻膨茶入 銘 夜舟」の牙蓋。
下の写真、右の牙蓋の下の木型には「小遠」と書かれていますが、これは小堀遠州のことで、武家茶人の大先輩・遠州に対する石州の憧れの強さをここでも見ることができます。
 
「尻膨茶入 銘 夜舟」の付属品


石州一世一代の晴れ舞台は、寛文5年(1665)11月8日、江戸城の黒書院で四代将軍徳川家綱に献茶をしたことでした。
その際、道具は将軍家の名物茶道具「柳営御物」の中から選ぶことを許され、これによって石州の評価が定まり、武家茶道における地位を確立したのです。
今回の特別展では、家綱への献茶の時に床の間に掛けられた掛軸と、献茶に用いられた茶入が展示されています。
掛軸の前に畳がしつらえられていて、当時の様子がしのばれます。将軍様を前に石州はどれだけ緊張したことでしょうか。その時の石州の姿を思い浮かべると、手に汗を握って応援したくなる気持ちになりました。

右 重要文化財 無準師範墨蹟 帰雲 中国・南宋時代 13世紀 MOA美術館
左 唐物肩衝茶入 銘 師匠坊 中国・南宋時代 12~13世紀 出光美術館



4 石州の茶の広がり



江戸幕府に認められた石州の茶の湯は、幕末に至るまで全国で細かく分派して広まり、石州流は、徳川政権下の「武家の正統」になったと言えます。
ここでは石州流の書や、江戸後期の大名茶人として知られる松平不昧はじめ石州流の茶を学んだ茶人たちゆかりの茶道具などが展示されています。

「4 石州の茶の広がり」展示風景

井伊直弼が、自身の一派の創立を宣言し、それが名門石州流に連なることを述べている文書も展示されています。
意外と言っては失礼ですが、日米修好通商条約を締結して開国を断行し、筆者にとっては地元・横浜発展の基礎を築いてくれた功労者というイメージが強い井伊直弼が、茶の湯に深く傾倒していたことは初めて知りました。

重要文化財 入門記 井伊直弼筆 日本・江戸時代 弘化2年(1845)
彦根城博物館 前期展示(2/22-3/9)
後期(3/11-3/30)には、「重要文化財 茶湯尋書 井伊直弼・片桐宗猿筆
日本・江戸時代 嘉永2年(1849) 彦根城博物館」が展示されます。


同時開催


展示室5 百椿図ー江戸時代の椿園芸ー


毎年恒例となった「百椿図」が今年も展示されています。

百椿図(部分) 伝 狩野山楽筆 日本・江戸時代 17世紀
茂木克己氏寄贈 根津美術館 



江戸初期の椿ブームを背景に制作された「百椿図」が、今回は、公家日記や園芸書にうかがわれる椿園芸の様子や、明治~昭和時代の陶芸家・板谷波山の「彩磁椿文香炉」とともに展示されています。

彩磁椿文香炉 板谷波山作 日本・大正時代 20世紀
三嶋英子氏寄贈 根津美術館


展示室6 春情の茶の湯


展示室6では、春らしく、草木が芽吹くこの季節にちなんだ華やかな雰囲気の茶の湯の一席が楽しめます。

展示室6 展示風景

中でもおすすめは、「彫三島茶碗 銘 九重」。
「彫三島」とは、檜垣上の線刻を彫り、そこに白土を施して文様をあらわしたもので、この茶碗のように印花で花文が散らされているタイプは、特に春に好まれています。
花の文様や表面の凹凸をぜひ近くでご覧いただきたいです。

彫三島茶碗 銘 九重 朝鮮半島・朝鮮時代 16世紀
根津美術館    



ミュージアムショップ 新商品のご案内



暗がりの中から石州愛用の茶入や、石州自作の茶杓が浮かび上がってくる表紙のデザインがかっこいい特別展図録は、展示作品のカラー図版はもちろん、片桐石州や石州流に関する文献資料などを掲載しているので永久保存版です。
茶会の参加者を、経済学で所得や資産の分配を分析するときに用いられるジニ係数やパレート数で分析する論文は初めて見ました!


特別展図録「武家の正統 片桐石州の茶」(税込2,500円)



根津美術館が所蔵する重要文化財「肩衝茶入 銘 松屋」の仕覆に使われている「龍三爪緞子」を忠実に復元した裂地を用いた珠光緞子(しゅこうどんす)のシリーズに、新たに3つの新商品が加わりました。

 カード入れ  税込10,000円
 ポーチ    税込16,000円
 PCケース    税込25,000円

現代によみがえった珠光緞子を毎日の暮らしの中でお楽しみいただくことができます。

ミュージアムショップ


今回の特別展は、これまで注目されることが少なかった石州と石州流の茶の湯の世界が見られる貴重な機会です。
この春おすすめの展覧会です。

2025年2月19日水曜日

泉屋博古館東京 企画展 花器のある風景        同時開催 受贈記念「大郷理明コレクションの花器」  

東京・六本木の泉屋博古館東京では企画展 花器のある風景  同時開催 受贈記念「大郷理明コレクションの花器」 が開催されています。


泉屋博古館東京エントランス

展覧会開催概要


会 期  2025年1月25日(土)~3月16日(日) 
開館時間 11:00~18:00 ※金曜日は19:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで
休館日  月曜日、2/25(火) ※2/24(月・休)は開館
入館料  一般1,200円、学生600円、18歳以下無料
※展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒泉屋博古館東京

展示構成
 第一章 描かれた花器
 第二章 茶の湯の花器
 第三章 受贈記念「大郷理明コレクションの花器」
 第四章 花入から花瓶へー近代の花器ー

※撮影はホール内のみ可能です。館内で撮影の注意事項をご確認ください。
※掲載した写真は主催者より広報用画像をお借りしたものです。


今回の企画展は春を迎えるのにふさわしい花器をテーマにした展覧会。住友コレクションの花器と花器が描かれた絵画、同時開催として、近年、華道家・大郷理明氏より泉屋博古館に寄贈されたことを記念して「大郷理明コレクション」の花器が展示されるという豪華版です。
*大郷理明コレクションのみ会期中一部展示替えあり

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


第一章 描かれた花器


今回は花器の展覧会なので、花器を中心に愛でるのかなと思っていたのですが、展示室1に入っていきなり驚きました。
視界に入ってくるのは、花、花、花。
第1章に展示されているのは、住友コレクションを中心とした、花をいけられた花器の絵画作品だったのです。

特に驚いたのは、江戸後期の画家で、原派の祖、原在中(1750-1837)と在中の次男で原派を継いだ原在明(1778?-1844)の合作《春花図》。
タイトルからして今の季節にぴったりなのですが、この作品の大きさにも圧倒されました。
今回の企画展のメインビジュアルになっているのもうなずけます。
どれだけ大きいかはぜひその場で体感してみてください。

原在中・在明《春花図》江戸時代・19世紀 泉屋博古館


展示室1に入ってすぐに展示されているのは、幕末から明治時代にかけて活躍した村田香谷(1831-1912)の絵巻物《花卉・文房花果図巻》。

村田香谷《花卉・文房花果図巻》(部分)明治35年(1902) 泉屋博古館東京

鑑賞用に栽培する花卉だけでなく、太湖石、青銅器、机や衝立、硯に墨などの文房具が描かれ、さすがに清に渡って絵画を勉強した香谷らしい上品な中国趣味が感じられる作品です。
ガラス製の水槽に入ったくりっとした目の金魚が可愛い!


名前からして今回の展覧会にふさわしい椿椿山(つばき・ちんざん 1801-54)は、得意とした花鳥画の作品もさることながら、その生きざまにはいつも感服している江戸時代末期の文人画家なのです。

椿椿山《玉堂富貴図》江戸時代・天保11年(1840)
泉屋博古館


椿山は、師・渡辺崋山が蛮社の獄で逮捕されたあと、自らの危険を顧みず崋山の赦免運動の中心となるという気概のある人でした。
椿山の作品を前にすると、自分は椿山のような立場になったら同じように行動できるだろうかと、いつも作品の前で自問自答してしまうのです。

花がいけられた花器の絵画作品はまだまだ続きます。
江戸時代後期の南画家で、浦上玉堂の長子、浦上春琴(1779-1846)は精緻な花鳥画を得意としていました。

浦上春琴《蔬果蟲魚帖》江戸時代・天保5年(1834) 泉屋博古館



第二章 茶の湯の花器



展示室2は展示室1とはがらりと変わり、茶の湯に親しんだ住友家十五代当主友純(春翠)氏が催した茶会で用いられた花器が畳の上に展示されていて、掛け軸もかかっているので、茶室にいるような落ち着いた雰囲気が広がっています。

春翠氏は、江戸時代初期の大名茶人、小堀遠州ゆかりの作品を好み、収集しましたが、その代表格が《古銅象耳花入 銘キネナリ》でした。
その名が表すとおり、中国古代青銅器に倣い元時代に制作されたもので、筒状の胴部には饕餮文(とうてつもん 古代中国の想像上の怪獣の文様)風の怪獣文が施され、把手は象の鼻でかたどられています。
下部の丸みがどっしりとした安定感を醸し出しています。

《古銅象耳花入 銘キネナリ》元時代・14世紀
泉屋博古館東京


頸から胴部にかけての節を筍に見立てた青磁は、中国の龍泉窯製の花入で、日本では「砧青磁」として茶人たちに珍重されました。

《青磁筍花入》南宋~元時代 13-14世紀
泉屋博古館東京

見るからに壊れやすそうな花入《砂張舟形花入 銘松本船》は、展示するのに大変な苦労があったと思います。
砂張とは銅に錫と鉛を加えた合金で、茶の湯では東南アジア製のものが特に好まれました。この花入は、室町時代の茶人、村田珠光の高弟、松本珠報が所持したことから「松本船」と称されています。


《砂張舟形釣花入 銘松本船》15-16世紀


青銅、青磁、砂張と、それぞれ特徴のある花入と並んで、筑前・高取内ヶ磯窯から同型の器が発掘され、江戸時代前期(1620-30年代)頃の作と考えられるこの花入には、裏面上部に掛花入としても使用できる金具がつき、下部には安土桃山~江戸時代初期の武将茶人・古田織部とされる花押があるので、作品横の写真付きの解説パネルとあわせてご覧いただきたいです。

《高取花入 銘出山》江戸時代前期・17世紀
泉屋博古館東京


第三章 受贈記念「大郷理明コレクションの花器」


展示室3では今回の受贈を記念して「大郷理明コレクション」が一挙に公開されています。
今回寄贈された「大郷理明コレクション」94点の中核をなすのは69点の銅花器で、近世から受け継がれてきた近代の伝統的鋳金工芸の名品がずらりと並ぶ展示風景は、まさに壮観の一言です。


重たい荷物にけなげに耐えている牛の姿が印象的な《紫銅牛形薄端》は、加賀の鋳金家、横河九左衛門による紫銅(=青銅)の薄端(=薄手の金属製の花器で取り外しのできる浅い上皿がついているもの)。
横河九左衛門《紫銅牛形薄型》19世紀 大郷理明コレクション
泉屋博古館


おめでたい松竹梅を象った寸筒は明治時代に活躍して、東京美術学校鋳金科(現東京藝術大学工芸科鋳金研究室)創設者のひとり大島如雲の作。


大島如雲《松竹梅図寸筒》19-20世紀
大郷理明コレクション 泉屋博古館 
    
いままで近代銅花器はあまり見たことがなく、展示されている作品の作者もなじみのない方ばかりでしたが、今回の展示は近代銅花器の素晴らしさを実感できるとても良い機会になりました。


第四章 花入から花瓶へー近代の花器ー


明治時代には、花瓶という新たな形が欧米から伝わり、これまで伝承されてきた技術力や美意識を継承しながら、日本の花器は様々な形のものが作られました。
第四章では、海外で人気を博した近代日本の花器の名品が、中国・清時代の花器や、大正・昭和時代の洋画界の巨匠、梅原龍三郎が描いた花器の作品とともに展示されています。


幹山伝七《色絵花鳥文花瓶》明治時代・19世紀 泉屋博古館東京



ホールの作品は撮影可です。初代宮川香山の花器や参考資料を来館記念にぜひパチリ!

ホール展示風景




ホール展示風景

春を迎えるのにふさわしい、とても明るい雰囲気の展覧会です。
おすすめです!