タイトルは「国宝雪松図と動物アート」。
タイトルにあるとおり、三井記念美術館所蔵の国宝、円山応挙《雪松図屏風》と、同じく《志野茶碗 銘卯花墻》も展示されているので、国宝と動物アートがダブルで楽しめる充実の内容です。
※掲載した写真は、美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。
展示室3の展示風景 正面奥が国宝・円山応挙《雪松図屏風》(三井記念美術館) |
それでは、さっそく展示室内をご案内したいと思います。
展示室内は、12月13日のオープニングを前に展示作業で忙しい中、三井記念美術館学芸部長の清水さんにご案内いただきました。
「今回のテーマは動物アート。想像上の動物から、哺乳類、鳥類、昆虫、魚介類まで、当館所蔵品をメインにした作品を展示しています。」と清水さん。
シックな内装と個別の展示ケースがオシャレな展示室1には茶道具が展示されています。
こちらは《古銅龍耳花入》。胴体の左右に付いている半円形の耳の上部は龍の顔です。
「これは明時代のものですが、中国古代の青銅器のように、胴体下には中国古代の想像上の動物・饕餮(とうてつ)の文様が表されています。」
器の正面から見ると饕餮と「にらめっこ」ができます。
器の正面から見ると饕餮と「にらめっこ」ができます。
続いて交趾香合。
「交趾香合は、江戸時代にはベトナムから来たものとされていましたが、近年、中国福建省で窯跡が発見されているので、現在では中国産と考えられています。」
右は、黄色い花のまわりを二羽の尾長鳥が舞っている《交趾金花鳥香合》。
左は《交趾黄鹿香合》。よく見ると黄色い鹿が丸まっているのがわかります。
右は鶏の色が鮮やかな野々村仁清作《色絵鶏香合》。
左は樂左入作《赤楽白蔵主香合》。
「狸のように見えますが(笑)、狂言『釣狐』に登場する狐が変装した禅僧・白蔵主をかたどっています。」
狂言『釣狐』は、狐を捕える漁師を懲らしめるため禅僧の白蔵主に化けて漁師に説教をして罠を捨てさせたのですが、その帰りに餌に目がくらんで罠にかかるというストーリーです。
こちらは朱漆を塗り重ねてそこに文様を彫り込む「堆朱(ついしゅ)」という技法で作られた香合。
右は牡丹のまわりを舞う二羽の尾長鳥が彫られた《堆朱牡丹尾長鳥香合》。
左は《彫漆花松虫香合》。中央やや右寄りにある穴の開いた大きな石は太湖石でしょうか。それと比べると松虫のなんと大きいこと!
十二支が浮き彫りになっている《十二支文腰霰平丸釜》。こちらの面には子、丑、寅の浮彫がうっすらと見えます。
「この釜は干支に関係なく毎年展示できる便利な作品です(笑)。」と清水さん。
もちろん毎年は展示しないとのことですが。
「この釜は干支に関係なく毎年展示できる便利な作品です(笑)。」と清水さん。
もちろん毎年は展示しないとのことですが。
UFOが飛んでる!と驚いたのは《色絵蓬莱注連縄文茶碗》。
描かれている動物は、おめでたい鶴と亀(鶴は反対側に描かれています)。
亀が見上げるUFOの正体は同じく吉祥を表す蓑傘。
こちらはシンプルな竹筒《竹置筒花入 銘白象》。
なぜ銘が白象かは・・・
ズシン、ズシンという足音が聞こえてきそうです。
続いて、いつも特上の作品が展示されている展示室2。
今回は野々村仁清の《信楽写兎耳付水指》。
正面から見るとよく分かりませんが、横から見るとこのとおり、大きな耳の兎がいます。
「器の肩は波模様と見れば謡曲『竹生島』に謡われる、波の上を飛ぶ兎が連想されます。」と清水さん。
今回の展示ではキャプションの右上に動物名が記載されているので、解説と一緒に読むと作品の楽しさも増します。
次に織田信長の弟・織田有楽斎が京都の建仁寺正伝院に建てた茶室『如庵』の内部を再現した展示室3。
今回の展覧会では三井記念美術館の国宝《志野茶碗 銘卯花墻》はここに展示されていました。
茶室に国宝の茶碗。当然のことながら、これ以上ないというくらいぴったりはまっています(1月から床の間には袋に入った飾り物《詞黎勒》が展示されています)。
次が冒頭でも紹介した、絵画を展示している展示室4。
「円山応挙《雪松図屏風》の屏風1隻には、当時では難しい技術だった1枚ものの和紙を使っています。雪の白は色を塗らず、紙の色を活かしたものです。」
江戸時代の享保年間に長崎に来航して日本で絶大な人気を誇った中国の画家・沈南蘋の作品《花鳥動物図》。全11幅のうち、今回は6幅が展示されています。
沈南蘋は享保16(1731)年に来日して、約2年間長崎に滞在しました。
ふたたび円山応挙です。
右が《滝に亀図》。
「涼しげな滝の絵なので夏にふさわしいと思いがちですが、落款には冬に描いたと書かれてあるので、この時期にふさわしいと思い展示したものです。」
中央の三幅セットの掛軸は《蓬莱山・竹鶏図》。
「三井家は、江戸時代には敷地内に鶏を五百羽飼育していたこともあったそうです。この作品は鶏好きだった三井家の注文により描かれたものと考えられます。」
左の《雲龍図》は「当時、三井家の近くに住んでいた応挙が、直接三井家に持参したという記録が残っています。」
応挙が「ご依頼の掛軸お持ちしました。」と言って持ってきてくるなんてうらやましい!
《雪松図屏風》の左側には山口素絢と岡本豊彦の《雪中松に鹿図屏風》、個人蔵で、プライスコレクションのものとほぼ同じ構図の長沢芦雪《白象黒牛図屏風》が並んでいます。
「三井家の祖先は藤原氏とされていて、藤原氏の氏神を祀る春日大社の使いの鹿が三井家では好まれました。」
そして、猿といえば森狙仙、森狙仙といえば猿と言われるくらい有名な森狙仙《岩上群猿図屏風》(右)と、酒井抱一《秋草の兎図襖》(左)。
《秋草の兎図襖》の下地には薄く剥いだ木を貼り付けていて、まるで左斜め上から風が吹いているようです。右上の半月と左下で飛び跳ねる兎が対角線上に描かれる配置は絶妙。
展示室5に移ります。こちらは主に工芸作品が展示されています。
《朱塗鶴亀鹿蒔絵三重盃》
ここにも鶴亀と並んで鹿が描かれています。
続いて、江戸後期の京都で活躍した陶工・永楽保全、永楽和全親子の香合が並びます。
「保全は中国風の陶器を京都風にアレンジした人です。」と清水さん。
右から永楽保全《交趾写丸龍香合》《交趾写手遊獅子香合》《金欄手鳳凰文宝珠香合》。
上が永楽和全《交趾写大獅子香合》、下の右が《交趾写花喰鳥香合》《交趾写台牛香合》
どれもかわいらしい保全・和全親子の香合ですが、ニッと歯を出して笑っているように見える獅子の愛くるしさに惹かれました。
洋風のデザインが目をひく《阿蘭陀象唐草文鉢》。
「江戸時代にはオランダのデルフト窯など舶来のものは『阿蘭陀』と呼ばれました。」
赤、白、青の旗はオランダ国旗のようですが、象が鼻で掲げているところが可愛いらしいです。
「江戸時代にはオランダのデルフト窯など舶来のものは『阿蘭陀』と呼ばれました。」
赤、白、青の旗はオランダ国旗のようですが、象が鼻で掲げているところが可愛いらしいです。
そして、明治の超絶技巧の展覧会で一躍有名になった安藤緑山の《染象牙貝尽置物》。
「緑山」は今まで「ろくざん」と読まれていましたが、正確には「りょくざん」と読むそうです。
「緑山」は今まで「ろくざん」と読まれていましたが、正確には「りょくざん」と読むそうです。
「画中にコメントが書かれているのですが、左下の魚は加茂の生け簀の魚を写生したこと、中央下の魚は京都錦小路の魚店の鮎を写生したということがわかります(笑)。」
今も多くの人でにぎわう錦小路の魚屋の前で、売り物の魚を黙々と写生する応挙の姿を思わず想像してしまいました。一匹ぐらいは買って晩ごはんのおかずにしたのでしょうか。
近くでよく見ると文字の両側に昇り龍の文様!
最後の展示室7に移ります。
こちらは十二支の動物たちと狸や狼、熊、狐、鵄(トビ)など十二支に入っていない鳥獣たちの合戦物語《十二類合戦絵巻》。
人間の僧侶に剃髪を受ける狸の姿にわびしさを感じます。
《能管 銘紫葛 笛筒:葡萄栗鼠蒔絵筒》
笛筒の模様を近くでよく見るとリスの愛らしいクリッとした目が見えてきます。
右が《紅地網目蝶罌粟模様厚板唐織》、左が《刺繍七賢人模様厚板唐織》。
右は蝶々がひらひら飛んでいて、左は七賢人に獅子や麒麟、象や針鼠が刺繍されています。こちらもぜひ近くでじっくりご覧になって、かわいい動物たちを探してみてください。
重要文化財の能面も展示されています。
右から謡曲「道成寺」で使われる《蛇》、謡曲「石橋」で使われる《獅子口》、謡曲「殺生石」で使われる《小飛出》。《小飛出》の能面は狐を表しています。
「《百馬図巻》は初公開の作品です。スペースの関係ですべては広げられませんが、全部で百匹の馬が描かれています。」
こんなにいろいろな毛色の馬がいるのを知ってびっくりです。
さて、三井記念美術館の国宝と動物アートの展覧会はいかがだったでしょうか。
作品の中にいろいろな動物が描かれていて、それを見つけるのがとても楽しみな展覧会です。
年末年始の休みをはさんで1月31日(木)まで開催されます。
今年の締めくくりに行くか、年のはじめに行くか、どちらにもふさわしいおめでたい展覧会です。おススメの展覧会です。
【展覧会基本情報】
会 場 三井記念美術館
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
期 間 2018年12月13日(木)~2019年1月31日(木)
休館日 月曜日(但し、12月24日、1月14日、1月28日は開館)
年末年始 12月26日(水)~1月3日(木)休館、1月27日(日)休館
入館料 一般1,000円 大学・高校生500円 中学生以下無料 他
土曜講座 1月12日(土)、1月19日(土)に開催
展覧会の詳細は同館ホームページでご確認ください。