2019年4月29日月曜日

静嘉堂文庫美術館「日本刀の華 備前刀」

武蔵野の面影を残した東京・世田谷の岡本の森にある静嘉堂文庫美術館では、「刀剣王国」備前で作られた備前刀の展覧会が開催されています。


開催概要
会期  4月13日(土)~6月2日(日)
休館日 毎週月曜日(ただし4/29、5/6は開館)、5/7(火)
開館時間 午前10時~午後4時30分(入館は午後4時まで)
入館料 一般 1000円、大高生 700円、中学生以下 無料
※20名様以上の団体は200円割引
関連イベントも充実してます。詳細は静嘉堂文庫美術館公式ホームページでご確認ください。
 
刀剣といえば、「刀剣女子」で注目を集めて、今ではすっかり刀剣人気も定着していますが、今回展示されているのは100パーセント備前刀。刀剣ファンにはたまらない展覧会ですが、それぞれの刀剣の丁寧な見どころ解説のパネルがあって、私のように刀剣にあまり詳しくないアートファンにもやさしい工夫がされています。

それでは、ブロガー内覧会に参加したときの様子をお伝えしながら、展覧会の見どころを紹介したいと思います。
※展示会場は撮影不可です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。

はじめに「日本刀の華 備前刀」トークショーがありました。
出演は、日本刀剣保存会 幹事の吉川永一さん、静嘉堂文庫美術館 学芸員の山田正樹さん、そしてナビゲーターは人気アートブログ「青い日記帳」のTakさんです。
※トークショーの様子は、展示室に移ってからの吉永さんの解説や、山田さんのギャラリートークを交えて構成しています。

刀剣の手入れは大変です

Takさん はじめに刀剣の保存についてお話いただけますでしょうか。
吉川さん 刀剣の一番やっかいなのは、素材が鉄であるということです。何しろ鉄は錆びるのが仕事ですから。
 具体的には、年4回、季節の変わり目に塗ってあった油をとって、油を塗り直します。湿気のあるところだと、月1回、この作業を行う必要があります。
山田さん 油は、錆びを止めるための酸化被膜で、油を錆びさせて、刀を錆びさせないようにしているのです。
Takさん 刀剣の保存は大変ですね。
吉川さん よく時代劇で白くて丸いものでポンポンと刀をたたいて手入れしている場面が出てきますが、今ではあまり使われていません。白い物の中には打ち粉といって砥石の粉が詰まっていて、その粉が刀の表面の細かい凹凸に入ってしまって、取るのが大変で、取るときに傷がついたりするのです。今では主にうすめたエタノールを使っています。

展示風景


備前刀は日本刀の華

Takさん 今回の展覧会のタイトルは「日本刀の華 備前刀」ですが、備前刀はメジャーな存在なのですね。
山田さん 刀は大きく分けると、平安時代から鎌倉時代を経て慶長年間までが古刀、それ以降を新刀といいます。そして、五箇伝といって、全国で5カ所のメジャーな生産地があって、それが山城、大和、備前、相模(相州)、美濃なのですが、中でも備前が群を抜いて生産量、刀工の数が多かったのです。
Takさん 備前刀の魅力は?
吉川さん 平安時代後期から鎌倉時代につくられた「古備前」は腰反りが高く、堂々とした太刀姿をしています。また、小乱れの中に丁字が目立つ華やかな刃文が見られます。
(刃文(はもん)は刀身の波模様で、丁字は沈丁花のつぼみが重なり合った形で、それが小さいものが小乱れといいます。)
山田さん 古備前の魅力は「直刃調(すぐはちょう)の小乱れ」(刃文がまっすぐに見えるようでちらちらっと乱れている様子)と言われています。
「古備前」の展示風景
吉川さん 私のおススメは、「古備前国継太刀 銘 國継」(作品№4 重要美術品 静嘉堂文庫美術館)です(上の写真の右)。「生ぶ(うぶ)」といって、作られた当時から一度も砥がれることがない太刀で、横から見ると、鎺(はばき)のところに隙間がありません。何回も砥がれた太刀だと、ここに隙間ができるのです。
(鎺は、刀身が鍔(つば)に接する部分にはめる金具)

日本刀には見方があった!

展示室内では実際に、吉川さんから刀剣の見方を教わりました。
まずは、横から鎺のところを見て、隙間があるかどうか見ます。隙間がなければ「生ぶ」です。そして、腰をかがめて、刃身の高さに目線を合わせて体を左右に動かして、刃文を見ます。
私が見たときは、刀身に上からの照明が当たって、刀身に映る日の出を見ているようでした。
こういう見方をすると、「あの人、かなりの通だな」と思われるかもしれないので、試してみてはいかがでしょうか。

吉川さんのもう一振りのおススメは、静嘉堂文庫美術館所蔵の刀剣で長さが一番長い「鵜飼雲生太刀 銘 雲生」(作品№27 重要美術品 静嘉堂文庫美術館)です。
(下の写真左から二振り目が「雲生」)


吉川さん 全部で31振り展示されていますが、「これが一番気に入った」という見方でいいのではないでしょうか。

刀剣を見るポイントはいくつもあるようですが、自分のお気に入りの刀剣をさがすのも一つの楽しみかもしれません。

私も自分のお気に入りをさがしてみました。
一番のお気に入りは、堂々とした風情のある「長船長光太刀 銘 長光」(作品№19 静嘉堂文庫美術館)でした。(下の写真右)

 

備前刀でも地域によって違いがある

Takさん 備前の中でも地域によって違いがあるのですね。
山田さん 備前には大きな川が3本流れていて、一番東の吉井川流域には、鎌倉時代初期に備前福岡に拠点を構えた「一文字派」、鎌倉時代中期に登場した「長船(おさふね)派」がありました。
一番西の旭川流域には独特の流派であった「鵜飼派」がありました。
Takさん やはり川の流域できれいな水が必要だったのですね。
山田さん 刀剣の産地の要件として、原料の砂鉄がとれること、火を使うので燃料の木が採れること、焼き入れの時に必要な水があること、そして、運搬するときの水運や交通の要衝であることなどです。
Takさん 「一文字吉房太刀 銘 吉房」(作品№15 静嘉堂文庫美術館)の波模様のような刃文は見事ですね。
山田さん 私は織田信長が所持していたと伝わる「古備前高綱太刀 銘 高綱」(作品№3 重要文化財 静嘉堂文庫美術館)です。まさに古備前の魅力を伝えている一振りだと思います。
唯美的な一文字派は、鎌倉時代中期に隆盛を誇りましたが、元寇のときにまさに「太刀打ち」できませんでした。その後、隆盛したのが実用性に優れた長船派でした。
Takさん 「肌(刀の地鉄(ぢがね))」の部分も違いますね。
吉川さん 備前刀は杢目(もくめ)肌(樹木を横に切った時の年輪のような模様)が多いです。
山田さん 作品№29から31は低いケースに入っているので、じっくりご覧になっていただければと思います。


Takさん どうもありがとうございました。それではさっそく展示室で備前刀の魅力を楽しんでいただければと思います。(拍手)

さて、展示室に移ることにしましょう。

見どころがよく分かる解説パネル

冒頭でもふれましたが、それぞれの刀剣の由来や見どころが解説パネルに書かれているので、刀剣に詳しくない人でも、一振りごとの刀剣の魅力を楽しむことができます。

例えば・・・
作品№6「嘉禎友成太刀 銘 五月六日友成」(重要文化財 静嘉堂文庫美術館)


「友成」は徳川将軍家から小石川伝通院に伝来したもので、もとは「嘉禎三季(嘉禎3年、1237年 鎌倉時代)」との銘がありましたが、明治初期に流出したときに、平安中期の有名な刀工・友成の作とするため潰された、とのエピソードが紹介されています。
実際に中心(なかご 柄で隠れる部分)を見ると、不自然に削ったような跡がわかります。


そして、もう一枚のパネルがそれぞれの刀剣の見どころ。
これを見ながら「この腰反りの高いところがいいんだよな。」とうなずきながら独り言を言えば、あなたはもう刀剣マニア!(笑)


これだけ丁寧な解説をつくられた担当学芸員の山田さんの苦労がしのばれます。
山田さん、ありがとうございます!

関連イベントも充実

①②は聴講無料。当日の開館時より整理券配布(1名様につき1枚限定)、整理券の番号順にお入りいただきます。

①講演会
5月26日(日) 午後1時30分~ 地階講堂にて 定員120名
「静嘉堂の備前刀について」 吉永永一氏 (日本刀剣保存会 幹事)
~今回のトークショーに出演された吉永さんのお話です。刀剣について、とてもわかりやすい解説が聴けます。

②河野元昭館長のおしゃべりトーク
5月5日(日) 午後1時30分~ 地階講堂にて 定員120名
「浦上玉堂-酒仙画家」饒舌館長 口演す
~河野館長の気さくで楽しいお話が聴けます。

③職方実演会
5月18日(土) 午前10時~12時、午後1時~4時30分(職方の休憩時間以外は随時ご覧いただけます) 地階講堂にて
「日本刀にたずさわる職方の技」
水野美行氏(日本刀鞘師)、小澤茂範氏(刀匠)、川上陽一郎氏(研師)
観覧料 300円(当日受付にて販売、別途当日の入館料が必要です)
  
④列品解説
5月9日(木)、5月23日(木) 午後2時~
6月1日(土) 午前11時~

⑤静嘉堂コンサート
5月11日(土) 午後2時開演(午後1時30分開場) 地下講堂 自由席100名
「100万人のクラシックライブ」~ヴァイオリンとピアノの二重奏~
堀脩史(ヴァイオリン)、岩下真麻(ピアノ) 
ロンドンカプリチオーソ(サン・サーンス)、「真田丸」のテーマ他
※参加料:1,000円(別途当日の入館料が必要です)
※要事前予約

⑥静嘉堂ガーデン(ビアガーデン&カフェ)
4月27日(土)~5月6日(月・振替) 午前11時~午後4時30分(雨天中止) 静嘉堂文庫美術館前庭にて
ビアガーデンとカフェを開店!
二子玉川クラフトビール、おつまみ、スイーツをお楽しみください。
入館料が半額となるお得なセット券を販売しています。

詳細は静嘉堂文庫美術館公式ホームページでご確認ください。

もう一つ大切なものを忘れてはいけません!

そうです。世界に三碗しかなくて、全部日本にあって国宝で、それも今はほぼ同時期に国内の美術館・博物館で公開されている曜変天目茶碗です。
※ロビーも撮影禁止です。こちらは内覧会で特別の許可をいただいて撮影したものです。

国宝「曜変天目」


静嘉堂文庫美術館で公開されているのは、稲葉家に伝来したことから「稲葉天目」といわれる曜変天目茶碗。
ロビーに展示されていて、窓の外には緑が広がり、天気がいい日には富士山を背景に曜変天目を見ることができるかもしれません。

国宝「曜変天目」三碗コンプリートの旅については、「いまトピ~すごい好奇心のサイト~」にコラムを書いていますので、こちらもぜひご覧になってください。
ペンネームはyamasanです。

【三碗コンプリート!】国宝「曜変天目」関西~東京三館めぐりの旅に行ってきた。