2019年12月4日水曜日

すみだ北斎美術館「北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品展」

今年(2019年)11月に開館3周年を迎えた「すみだ北斎美術館」で現在開催されているのは、長野県小布施にある「北斎館」の名品が展示される「北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品展」。
北斎が晩年に訪れた小布施にある北斎館が所蔵する浮世絵の名作約130点が前期後期で展示されるという豪華な展覧会。
展覧会のチラシもド派手なデザインで私たちを驚かせてくれます。

展覧会チラシ

はじめにご紹介すると、このチラシに描かれているのは、小布施の東町祭屋台天井絵の「龍」と「鳳凰」のうちの「鳳凰」と、上町祭屋台天井絵の「男浪(おなみ)」と「女浪(めなみ)」のうちの「男浪」で、どちらの天井絵も現在は北斎館に寄託されています。
そして、この天井絵ですが、「鳳凰」と「男浪」は通期展示。

オープニングセレモニーでは北斎館館長の安村敏信さんのユーモアたっぷりのご挨拶。
「今回の展覧会で『鳳凰』と『男浪』を見ていただいて、小布施で『龍』と『女浪』を見ていただいて完結します。(笑)」

今回の展覧会のタイトル「北斎 視覚のマジック」は、安村さんが編集人となっている『北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品集』(2019年 北斎館編 平凡社)にちなんだもの。
北斎館の名品がこの1冊に凝縮されています。詳細な作品解説も北斎の年譜もあってお値段は2,500円+税。
ぜひお手に取ってご覧になってください。



さて、この「視覚のマジック」とは「構図や形が不自然でも全体としては不自然さを感じさせないところが北斎の魅力」とのことですが、実際にはどのようなことなのでしょうか。

館内はすみだ北斎美術館学芸員の竹村さんにご案内いただきましたので、さっそく展示作品をご紹介することにしましょう。

【展覧会概要】
会 期  2019年11月19日(火)~2020年1月19日(日)
 前期 2019年11月19日(火)~12月15日(日)
 後期 2019年12月17日(火)~2020年1月19日(日)
 ※前期後期で一部展示替えあり
休館日 毎週月曜日、年末年始(12/29-1/1)
    ※開館:2020年1月13日(月・祝) 休館:2020年1月14日(火)
開館時間 9:30-17:30(入館は17:00まで)
観覧料  一般 1,200円ほか 
会期中観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)もご覧になれます。

公式サイトはこちらです→すみだ北斎美術館
※企画展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※4階常設展示室内は一部を除き撮影できます。
※出品作品は、北斎館に寄託されている東町祭屋台天井絵の『鳳凰』と、上町祭屋台天井絵の『男浪』を除き北斎館の所蔵品です。また、特に作者名のないものは葛飾北斎作です。

まずは3階企画展示室から。

小布施・北斎館は肉筆画の貴重な作品を所蔵していることでも知られています。
最初は《肉筆画》のコーナー。

《肉筆画》のコーナー展示風景
上の写真の一番右は、北斎が亡くなる年(嘉永2(1849)年)の正月に描き初めで描いた《富士越龍》(前期展示)で、その隣が《二美人》(前期展示)。

《二美人》(前期展示)
立ち姿の美人はほぼ直角に首を曲げているというありえないポーズ。
「それでも全体的に見るとバランスよく、不自然さを感じさせないところが北斎の視覚のマジック。」と竹村さん。

こちらは《桔梗図》。手に持つ方を下に描く扇面も、北斎の手にかかると横を向いてしまいます。それでも違和感を感じないのは視覚のマジック?

《桔梗図》(前期展示)

『肉筆画帖』は、天保の大飢饉で本が出版できなかった時期に肉筆画を描き、それを売って飢えをしのいだという作品。全部で10図あって、10図揃っているのは北斎館を含めて3例、海外に1例あるだけという貴重なもの。

《『肉筆画帖』福寿草と扇、鷹匠の鷹、はさみと雀、器と梨の花、蛇と小鳥》
(前期展示 後期には、ほととぎす、かれいと撫子、ゆきのしたと蛙、鮎、塩鮭と白鼠が展示されます。)

続いて《版画》のコーナー。
下の写真右から2点目《三夕 しき立さわ まきたつ山 うらの苫屋》(前期展示)は「新古今和歌集」に収載された「秋の夕暮」で結ばれる三首にちなんで描かれたもので、三図揃っているのはこの北斎館所蔵のものだけという、これも貴重な一品。
《版画》のコーナー展示風景
こちらの小さな版画は、「阿蘭陀画鏡 江戸八景」8枚セットのうちの「吉原」(右)と「高輪」(左)。

拡大すると西洋の銅版画風。だから「阿蘭陀」なのです。後期には「両国」「観音」「堺町」が展示されます。
「阿蘭陀画鏡 江戸八景 吉原」(前期展示) 
そしておなじみ「冨嶽三十六景」シリーズ。
前期後期で36点展示されます。

「冨嶽三十六景」
こちらも北斎の売れ筋シリーズ「諸國名橋竒覧」。前期後期で10点展示されます。

「諸國名橋竒覧」

黒が基調の部屋のしつらえになっているスペースに展示されているのは「日新除魔」。

「日新除魔」のコーナー展示風景

「北斎が毎日獅子の絵を描いては丸めて家の外に捨てていたので、ある人が北斎に理由を尋ねたところ、放蕩な孫の悪魔を払うためだ、と答えたとのことです。」と竹村さん。
1枚1枚に描いた日付が記されています。

除魔といっても、描かれているのは唐獅子だったり、獅子舞だったり、愛嬌のある獅子。
後期には違う日付のものが展示されます。
「日新除魔」
ここで思い出したのが、AURORA(常設展示室)の北斎さん。
よく見ると描いているのは獅子。そして娘のお栄の後ろには丸めて捨てられた紙屑が。
そうです。北斎さんはちょうど「日新除魔」をせっせと孫のために描いているところだったのです。

版画の中でも、狂歌師が新年に配ったり、襲名披露や絵暦などに用いたのが摺物。
一般に売られていたのでなく、限られた人たちに配られていたので、とても貴重なものなのですが、北斎館では世界的にみても貴重な作品を多く所蔵しているとのこと。

《摺物》のコーナー展示風景
こちらは寛政9(1797)年作《琵琶を弾く弁天》。
「弁天が座る岩にはこの年の大の月(30日)と小の月(29日)が記されています。そしてこの年は巳年、弁天の使いが蛇なので弁天様が描かれているのです。」と竹村さん。

《琵琶を弾く弁天》(前期展示)
文化6(1809)年作《遠眼鏡》は、遠眼鏡を横から見た図と、遠眼鏡で風景を覗いた図が描かれています。この年が己未(つちのとみ)なので、己未の日が縁日の弁財天にかけて、滝野川の松橋弁天(岩屋弁天)を眺めているところです。

《遠眼鏡》(前期展示)
4階の企画展示室に移ります。

こちらには北斎館の貴重なコレクションの版本がずらりと展示されています。

世界に3例しかないという《春の曙》。
《春の曙》(前期展示)
『水滸伝』のシリーズ本。

『新編水滸画伝』初編(前期後期で頁替あり)


「北斎館は、貴重な初摺りを多く所蔵しています。」と竹村さん。
竹村さんに初摺りならではの注目点をご紹介いただきました。

上の写真2冊目には、黒い光線(?)の裏には茶色の悪魔が描かれていますが、後摺以降では
省略されているとのこと。
『新編水滸画伝』初編2冊目

『近世怪談霜夜星』5冊のうち最初の1冊。
右ページの女性が持つ鏡に映るのは女性でなく妖怪。
後摺以降は妖怪が省略されるのですが、鏡に何も映っていないと「怪談」ではなくなってしまいます。
「やはり初摺りが大切です。」と竹村さん。

『近世怪談霜夜星』1冊目(前期後期で頁替あり)

そして4階企画展示室の一番奥には冒頭紹介した東町祭屋台天井絵の「鳳凰」と、上町祭屋台天井絵の「男浪」が鎮座しています。
実物の存在感はすごいのですが、3階ホワイエにはフォトスポットがあるので、ここで写真を撮ってSNSでシェアしましょう!


会期は2020年1月19日(日)までありますが、前期展示は12月15日(日)までなのでお早めに!
後期展示も楽しみです。