2019年11月26日火曜日

泉屋博古館分館「金文-中国古代の文字-」展

東京・六本木の泉屋博古館分館では、企画展「金文-中国古代の文字-」が開催されています。


「金文(きんぶん)」とは、青銅器に鋳込まれた中国古代の文字。
3000年も前の中国ではこんなに大きくて精密で頑丈な青銅器が作られていたのかと驚くだけでなく、文字を読み解いていけば当時の人たちの姿が思い浮かんできて、さらに青銅器の楽しみが増すこと間違いなし。
世界に冠たる泉屋博古館(京都の本館)の青銅器コレクションの粋をぜひ味わっていただきたいです。
※他にも台東区立書道博物館、黒川古文化研究所の貴重な青銅器も展示されています。

【展覧会概要】
会 期  11月9日(土)~12月20日(金)
開館時間 10時~17時(入館は16時30分まで)
休館日  月曜日
入館料  一般 800円ほか
公式サイトはこちら→泉屋博古館分館
※会場内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※内覧会では泉屋博古館学芸員の山本さんのギャラリートークをおうかがいしました。

それでは、さっそく展示室内をご案内していきましょう。

黒を基調としたシックな雰囲気の第1展示室には今回の主役・青銅器がずらり並んでいます。
はじめのコーナーに並んでいるのは、中国古代王朝・商の時代(前16世紀頃~前11世紀頃)から西周時代(前11世紀末~前770頃)の青銅器。
第1展示室展示風景
三本足の爵(しゃく)は酒を温めるための器で、把手があって、注ぎ口があるのが特徴。
爵では、把手の内側の本体側に記された銘に注目です。
そこには魚そのものの絵のように見える文字があったり、複数の板を紐で束ねたような文字があったり、現在の「魚」や「冊」といった文字の原型が象形文字であったことがよくわかります。
束ねられた板には君主の命令が記載されていました。「冊」の持つ本来の意味は、中国の皇帝が周辺諸国の君主に官号・爵位などを与えてその統治を認める冊封体制(さくほうたいせい)ということばに引き継がれています。

作品の右側にはキャプション、左側には文字の拓本があるので、ぜひ見比べてみてください。

右 「冊爵」(商後期 前12世紀)
左 「魚爵」(西周前期 前11-10世紀)
いずれも泉屋博古館
釣り手がついて、酒を持ち運ぶために使われた器が卣(ゆう)。

第1展示室展示風景(続き)
「見卣」(上の写真右から2点め)には、本体の内底と蓋の裏側に銘があります(上の写真にあるように、後ろの壁には金文の部分を拡大したパネルがありますので、こちらも同時にご参照ください。)。
そこには、現在の「見」という文字の原型となる、大きな目玉を持つ人が下を見ているところを表した文字があって、水を張ったたらい「皿」という字を下に置くと野球の監督の「監」になって、それが自分自身の姿を見るという「鑑(かんが)みる」につながっていくのです。
「古代中国の人たちの考え方はとても絵画的でした。」と山本さん。

小克鼎はセットで作られることが流行しました。
下の写真中央の2点は、7基が確認されていて、日本に3基、中国に4基あるうちの2基。
右の小さい方は、東京の台東区立書道博物館、左の大きい方は兵庫県西宮市にある黒川古文化研究所が所蔵するもので、およそ3,000年ぶりとなる兄弟の感動のご対面です!


第1展示室展示風景(続き)

西周時代になると文字を鋳造する技術が発達して文字数も多くなり、記録としても貴重なものになりました。
この鼎は、「克」という人が、周王から洛陽の駐屯軍に喝を入れに行くよう命ぜられたことを記念して製作制作されたもの。
「戦争が多かった当時の社会情勢をうかがい知ることができます。」と山本さん。

こちらには、棒状の吊手がついた鐘がいくつも展示されています。


第1展示室展示風景(続き)
ここでも生き別れた兄弟が3,000年ぶりに再会する感動のドラマがあります。
詳しくはチラシ裏面をご参照ください。



ところで、金文はどのようにして青銅器に鋳込まれたのでしょうか。
過去にも多くの仮説ありましたが、どれも決定的なものではありませんでした。
そういった中、山本さんは新たな仮説を立て、そして実際に青銅器に鋳込むことに成功したのです。
金文を復元鋳造した過程がロビー展示室に展示されていますので、ぜひこちらにも注目です。
下の写真の一番右のカラーパネルは、山本さんが作業をしている場面です。
※金文復元鋳造は、福岡県にある芦屋釜の里の協力により行われました。下の写真一番右奥は芦屋釜の里で製作された釜、その上は芦屋釜の里の紹介パネルです。

ロビー展示風景

ロビーには鋳造復元したレプリカが展示されています。ぜひ手に取って青銅器の感触を感じとってみてください。


第2展示室は明るい雰囲気の白が基調。
右側に展示されているのは、西周後期から春秋時代(前770~前403)、戦国時代(前403~前221)にかけての紀元前9~3世紀の青銅器。

第2展示室展示風景
3つ並んでいる「ひょう(「广」の中に「驫」)羌鐘」(戦国時代前期(紀元前5-4世紀))は、洛陽市から出土された全部で14基残っている鐘のうち泉屋博古館が12基所蔵しているうちの3基。残りの2基はカナダのロイヤル・オンタリオ・ミュージアムが所蔵しているとのこと。
「いつか再び全部揃えて展示したいです。」と山本さん。

全部揃ったらやはり離れ離れになった兄弟たちの感動のご対面ですね。
こちらは以前、上海博物館の青銅館に展示されている鐘を撮ったものです。
(参考)上海博物館の青銅館に展示されている鐘
第2展示室正面には秦の始皇帝とその息子・胡亥が作らせた権(秤に使う錘)。
中国を統一した始皇帝は度量衡・貨幣・文字の統一を行いました。
「秦の時代になると、青銅器は政(まつりごと)から実用に使われるようになりました。」と山本さん。

第2展示室風景(続き)


左側に展示されているのは漢から唐にかけての鏡。
漢代に普及した鏡は、個人の工房でも多く作られるようになり、鏡を製作した工人の名が記されていたり、内容も、この鏡を持てば願いがかなうといった現世の利益を謳った銘文が記されているので、現代に住む私たちにより身近になってきたような気がします。

第2展示室風景(続き)

じっくり見れば見るほど味わいが増してくるのが青銅器。
この展覧会のあと泉屋博古館分館はリニューアルのため約2年間休館になります。
休館前にぜひご覧になっていただきたい展覧会です。

コンパクトサイズの図録も販売しています。税込1,500円です。
写真も多く、詳しい解説もあるので、青銅器入門に最適です。