東京目白台の永青文庫では、平成元年度早春展 財団設立70周年記念「古代中国・オリエントの美術」が開催されています。
※4月1日から当面の間、臨時休館のため後期展示は繰り上げて終了になりました。
今後の展覧会の再開時期については、公式サイトまたはTwitterでご確認ください。
今回の展覧会の注目は何といっても神秘の輝きを放つ国宝"細川ミラー"。
3月15日(日)までの期間限定公開なのでお早めに!
展覧会の概要はこちらです。
展覧会概要
会 期 2月15日(土)~4月15日(水)
開館時間 10:00~16:30(入館は16:00まで)
休館日 毎週月曜日(但し2/24は開館し、2/25は休館)
入館料 一般 800円ほか
展覧会の詳細は公式サイトをご覧ください→永青文庫
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※展示作品はすべて永青文庫蔵です。
今回の展覧会の主役は、中国美術や古代オリエント美術のコレクションを収集した永青文庫の設立者・細川護立氏(細川家16代 1883-1970)。
中国、中東、さらに南米まで地域の広がりもあって、年代の幅も大きい護立氏のコレクションをさっそく拝見してみることにしましょう。
まずは4階展示室から。
4階展示室 |
4階展示室には、古代中国の美術と日本近代画家が描いた中国の作品が展示されています。
細川護立と古代中国の美術
はじめは中国・殷~西周時代(紀元前13-前8世紀)の「戈己銘夔文銅戈」(重要美術品)。
少なく見積もってもおよそ3000年前の古代中国の武器。
柄の根本部分には「戈己(かい)」の銘、刀部分にはクルクルと渦を巻いたような模様「夔文(きもん)」が描かれています。
こちらは西周~春秋時代(前9~前7世紀)に高貴な女性の小物入れとして用いられたと考えられる「龍文人脚銅匱」。
側面には龍文、そして足の部分はなんと人間!
およそ3000年の重みに耐えている人たちに注目です。
さらに進むと見えてきました!いよいよ”細川ミラー”です。
正式名称は「金銀錯狩猟文鏡」(国宝)、戦国時代(前4~前3世紀)の鏡です。
戦国時代といっても、日本の戦国時代でなく、こちらは紀元前。日本でいえば弥生時代にあたります。ちょうど水稲農耕が定着して、銅矛や銅剣、銅鐸が作られていた頃です。
三方に渦巻文様が配置されていて、その間には虎のような動物と対峙する騎馬人物(上)、鳳凰(右下)、向かい合う2頭の動物(左下)。
どれも粒粒のような金銀が丁寧に埋め込まれていてます。ものすごく根気のいる作業だったことでしょう。
実際にその場で神秘の輝きをご覧になっていただきたい逸品です。
なお、「金銀錯狩猟文鏡」は3月15日までの限定公開ですが、3月17日以降もご安心を。
同じく国宝の「金彩鳥獣雲文銅盤」が展示されます。
他にも前漢~後漢時代(前2~後3世紀)の「銅製馬車」(重要美術品)(下の写真手前)はじめ、中国古代の悠久の歴史が感じられる青銅器が展示されています。
護立氏は、同時代の画家、梅原龍三郎(1888-1986)や安井曾太郎(1888-1955)ら近代洋画家たちのパトロンとしても知られていました。
4階展示室中央の展示ケースには、安井曾太郎の護立氏あての書簡が展示されていて、交流の深さが感じられます。
こちらの手紙には今回の展覧会で展示されている「承徳の喇嘛廟」についての記述があります。
作品はこちらです。
安井曾太郎《承徳の喇嘛廟》(右)、《連雲の町》(左) |
右が昭和12年(1937)に満州を訪れた時に制作を行った《承徳の喇嘛廟》。
承徳は、北京から北に約250km、現在の河北省に位置する皇帝の避暑山荘がある都市で、当時は満州の統治下にありました。
そこでラマ廟を描いた安井曾太郎は、病を得て当地で一時静養し、日中戦争の発端となった盧溝橋事件が勃発した7月まで留まり、帰国後に加筆して完成させました。
左は、昭和19年(1944)に中国江南地方の江蘇省の港町・連雲港市で描いた《連雲の町》。安井は連雲の町並みにイタリアを感じたとのことですが、とても戦時中とは思えないのどかな雰囲気を感じさせてくれる作品です。
そして久米民十郎(1893-1923)の《支那の踊り》。不自然な形で体をくねらせるダンサーがひときわ目を引きます。
第一次世界大戦下のロンドンに留学した久米は、帰国後、絵画を通じて霊と霊との交通を表現し得ると信じた「霊媒派」を宣言しました。
背景の壁に描かれているのは中国古代の装束を身に着けた男女。古代中国との交信を試みたのでしょうか。とてもミステリアスな作品です。
独特の世界を展開した久米ですが、折からの関東大震災により30歳の若さで亡くなりました。
久米民十郎《支那の踊り》大正9年(1920) |
オリエントの美術
こちらは今回の展示の最古参、エジプトの「木製シャブティ」。
シャブティとは、ミイラの形をした副葬品の小像。
胴から足にかけての銘文から、ベネルメルウトという所有者の名までわかってしまうのです(解説パネルをご覧ください)。私も以前、象形文字の本を買って勉強したことがあるのですが、とても難しくてマスターできませんでした。
「木製シャブティ」(エジプト 新王朝時代第18王朝) (前15~前14世紀頃) |
こちらは2000年の時を経ても輝きを保っているガラス容器。
中でも魅力的な輝きを放つのが「ゴールドバンドガラス碗」。
解説を読むと、無色透明ガラスと紫色のガラスをねじり合わせたツイストガラス棒を板状にして、網目レース文様を作り、さらに、紫色と透明ガラスに金箔を挟んだ縞文様のガラス板を合わせて浅鉢形に成形している、とありますが、紀元前後頃の職人さんたちは、よくこんな込み入った工程を考えついたのだと思いました。
この工法は紀元前後頃に用いられた後に消滅し、1500年後にイタリアのヴェネツィアで復活したとのことです。
「ゴールドバンドガラス碗」(東地中海沿岸域) (前2~前1世紀) |
こちらも古代東地中海域の超絶技巧。
2本の円筒形瓶を合わせて、紐上のガラスで装飾するなんて、まさに熟練の職人のなせる技。
「二連瓶」(東地中海沿岸域 4~5世紀) |
こちらはペルシャの鉢。
下ぶくれぎみの愛嬌のある顔の人物像です。
中央の王様も、思わず「カワイイ」と言いたくなるなごみ系のお顔。
「白釉色絵人物文鉢」(イラン 12~13世紀) |
南米代表は、ペルーから来たインカ帝国の土器。
かわいい鳥だったり、おしゃれな幾何学模様だったり、今でも十分通用するデザインの焼き物です。
右から「彩色草花鳥文壺」「彩色幾何学文壺」 (いずれもペルー 15~16世紀) |
最後は2階展示室。
中国からペルシャ、エジプト、東地中海、南米と、世界を一周して、お隣の朝鮮に戻ってきました。
ここに展示されているのは、細川家に伝わる高麗茶碗。
中には参勤交代で江戸と地元の熊本を行き来したものもあるとのこと。
どれも秀逸な作品なのですが、中でも特に惹かれたのが「井戸香炉」。
丸みを帯びたフォルムといい、雪山を連想させる模様といい、絶妙な安定感が感じられるのです。
「井戸香炉」(朝鮮 16世紀) |
高麗茶碗の奥には、次回展を予告するパネル「細川家と明智光秀」。
次回展のご案内
令和2年度早春展 財団設立70周年記念
新・明智光秀論 -細川と明智 信長を支えた武将たち-
2020年4月25日(土)~6月21日(日)
「謀反人・光秀」のイメージを覆す、先進的な智将としての新たな人物像とは?