こちらは3階ホワイエの撮影コーナー。
どうですか、この二人の武将の迫力。記念に撮影してぜひシェアしましょう!
孫弟子まで含めると200人はいたという北斎の弟子たち。
大きな工房を構えて分業体制を確立したわけでも、手取り足取り指導したわけでもなく、それでも弟子たちの能力を引き出していった天才絵師・北斎と、時には北斎に倣い、時には北斎を超えようとした弟子たちの火花散る対決が見られる展覧会。展覧会の概要はこちらです。
【展覧会概要】
会 期 2月4日(火)~4月5日(日)
前期 2月4日(火)~3月8日(日) 後期 3月10日(火)~4月5日(日)
※前後期で一部展示替えがあります。
開館時間 9:30-17:30(入館は17:00まで)
休館日 毎週月曜日
※ 2月24日(月・振替休日)開館、2月25日(火)休館
観覧料 1,000円ほか
展覧会の詳細は公式サイトをご参照ください→すみだ北斎美術館
スライドトークも開催されます。興味のある方はぜひ!
2/29(土)、3/21(土) 14:00-14:30(開場13:30) 定員 60名
場所 1階 MARUGEN100(講座室) 参加費無料(ただし観覧券または年間パスポートが必要)
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は、内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
今回の展覧会は、北斎の作品と弟子たちの作品を収集しているすみだ北斎美術館ならではの企画。そして200人の弟子たちのうち、よりすぐりの20人が登場します。
すべて同館所蔵の版画作品で、前後期合わせて100点以上が展示される盛りだくさんの内容。
「偉大な師・北斎に弟子たちがどのように挑んだか、じっくり見ていただきたいです。」と、今回の展覧会を担当された山際さん。
展示は、作品の主題ごとに4章構成になっています。
1章 人物
2章 風景
3章 動物
4章 エトセトラ
それではさっそく山際さんのご案内で作品を見ていくことにしましょう。
1章 人物
「今回は北斎と弟子の作品が並べて展示されています。」と山際さん。
最初は葛飾北斎《大黒酒宴図》と雪斎《門松と遊女》。
右 葛飾北斎《大黒酒宴図》、左 雪斎《門松と遊女》 どちらも前期展示 |
この雪斎という人、生没年不詳でこの作品以外は知られていない「謎の門人」。
それでも署名に「北斎門人」とあるので、北斎の弟子ということがわかるのです。
画面の右下の署名に注目!
雪斎《門松と遊女》前期展示 |
二つの作品の共通点は、ほっそりとした顔立ちの遊女の蝶が羽を広げたような形の髷と、正面を向いたあどけない顔の禿(かむろ)。
葛飾北斎《大黒酒宴図》前期展示 |
作品の主題や構図は異なりますが、こういったさりげないところから師への思いが伝わってくるようです。
作品にはそれぞれ解説パネルがついているので、師弟の比較を読みながら、近くでじっくりご覧になってください。
続いて北斎と、娘の葛飾応為の描く女性たち。
右 葛飾北斎《春興五十三駄之内 白須賀》、 (前後期で別摺の《白須賀》が展示されます) 左 葛飾応為《『女重宝記』四 女ぼう香きく処》 前後期展示 |
北斎が柏餅をつくる女性なら、応為はお香を練る女性。
ポーズは似ていますが、「手の描写が応為の方が細やかです。」と山際さん。
北斎は「美人画では応為の方が自分より上手だ。」と言ったそうですが、北斎も自分の娘の成長ぶりを見て、きっと嬉しかったのでしょう。
葛飾北斎《春興五十三駄之内 白須賀》 (前後期で別摺の《白須賀》が展示されます) |
葛飾応為《『女重宝記』四 女ぼう香きく処》 前後期展示 |
そしてこちらが展覧会チラシや撮影コーナーのパネルにもなっているド迫力の武将たち。
左 葛飾北斎《鎌倉の権五郎景政 鳥の海弥三郎保則》 右 卍楼北鵞《椿説弓張月巻中略図 山雄(狼ノ名也) 主のために蟒蛇を噛て山中に躯を止む》 いずれも前期展示 |
「武将の顔に注目です。眉を吊り上げ、口をへの字に曲げたところは似ていますが、卍楼北鵞の方は、食いしばっている歯も描かれていて、目も血走っています。」と山際さん。
右側の武将が須藤重李。師に倣いつつも師を超えようとした北鵞の意気込みが感じらるようです。
卍楼北鵞《椿説弓張月巻中略図 山雄(狼ノ名也) 主のために蟒蛇を噛て山中に躯を止む》 前期展示 |
そして、師匠も負けてはいません。
上から覆いかぶさるように襲いかかる鎌倉権五郎景政は、「まだまだお前たちには負けないぞ。」と弟子たちに言っている北斎にも見えてくるから不思議です。
葛飾北斎《鎌倉の権五郎景政 鳥の海弥三郎保則》 前期展示 |
とても興味深い解説パネルを見つけました。
北斎の「東海道五十三次」シリーズと、魚屋(さかなや)さんから北斎の門人になった魚屋(ととや)北溪の『狂歌東関駅路鈴』が比較されていて、北溪はところどころ北斎の描いた場面を取り入れているのがわかります。
北溪の『狂歌東関駅路鈴』は、のちに狂歌が削られ絵のみとなって『北斎道中画譜』とタイトルを変えて北斎作として出版されました。
版元が北斎の作品として出版した方が売れると考えたからなのでしょうが、北斎作として通用してしまうところは、「おそるべし北溪!」です。
この解説パネルでは、今回の展覧会で展示しきれなかった作品を紹介しています。
この解説パネルでは、今回の展覧会で展示しきれなかった作品を紹介しています。
2章 風景
こちらは本の見開き2ページ分を使った横長の構図の葛飾北斎『東遊』を、縦長の構図にアレンジした昇亭北寿「江戸名所十景」シリーズの比較です。
後期にはそれぞれ王子稲荷社を描いた作品が展示されます。
葛飾北斎『東遊』新吉原 前期展示 |
昇亭北寿《江戸名所十景 新吉原桜の風景》 前期展示 |
そしてご存じ「冨嶽三十六景」のシリーズ。
ミニチュア版を制作したのは、北斎の孫弟子で大坂の人、春婦斎北妙。
「ミニチュアならではのかわいらしさをお楽しみください。」と山際さん。
左 葛飾北斎《冨嶽三十六景 隠田の水車》 右 春婦斎北妙《冨嶽三十六景 隠田の水車》 いずれも前期展示 |
ミニチュア版なら出来栄えもよくて、かさばらないので、コレクションにはちょうどいいかも。
後期は「武州千住」が展示されます。
こちらもおなじみ「諸国名橋奇覧」のシリーズ。
前期は半分が石造りで、半分が木製という「ゑちぜんふくゐの橋」。
後期には「東海道岡崎矢はきのはし」が展示されます。
左 葛飾北斎《諸国名橋奇覧 ゑちぜんふくゐの橋》 右 春婦斎北妙《諸国名橋奇覧 ゑちぜんふくゐの橋》 いずれも前期展示 |
3章 動物
まずは猫から。
今回の展示では珍しく、師弟3人のそろい踏みです。
今回の展示では珍しく、師弟3人のそろい踏みです。
右から 葛飾北斎『北斎漫画』二編 ねこ、 魚屋北溪『北里十二時』、 葛飾為斎『山水花鳥早引漫画』第二編 猫 いずれも前後期展示 |
まずは師匠・葛飾北斎の絵手本『北斎漫画』二編から。
左のページ下の方に赤い矢印で示されているのが、このコーナーの主役の猫です。
葛飾北斎『北斎漫画』二編 ねこ 前後期展示 |
続いて、遊郭の部屋の中に猫を登場させた魚屋北溪の『北里十二時』。
右のページの下に猫がいます。
そして横浜開港後も活躍した葛飾為斎の『山水花鳥早引漫画』第二編から。
右のページの下に猫がいます。
魚屋北溪『北里十二時』 前後期展示 |
右のページの右上に猫が描かれています。
どの猫も背中を丸め、しっぽを体に巻き付けて首にはリボンをつけていますが、表情は少しずつ違って描かれています。
同じようなポーズの猫でも作者によって三者三様。
さて、どの猫がお気に入りでしょうか。
同じようなポーズの猫でも作者によって三者三様。
さて、どの猫がお気に入りでしょうか。
葛飾為斎『山水花鳥早引漫画』第二編 猫 |
それにしてもこの本のタイトルの『早引』とは、いかにも絵師だったらすぐに飛びつきそうな本。「山水花鳥を描くならすぐに調べられるこの絵手本がおススメ!」と宣伝しているかのよう。絵も升目に入っていて見たい絵がさがしやすいです。
展示は実在の動物、貂(てん)、さらに想像上の動物、獅子、河童、海馬と続いて、鳥のコーナーへ。
右から 葛飾北斎《小禽》、 二代葛飾戴斗『花鳥画伝』初編 加奈阿利 いずれも前期展示 |
加奈阿利とはカナリアのこと。
北斎の画風に忠実だった二代葛飾戴斗は、北斎の小禽をもとにカナリアを描いています。
葛飾北斎《小禽》 前期展示 |
「目の下の模様まで再現しています。」と山際さん。
二代葛飾戴斗『花鳥画伝』初編 加奈阿利 |
今回の展覧会で展示しきれなかった二代葛飾戴斗の作品がパネルに展示されています。
4章 エトセトラ
こちらには3章までのジャンルに入らなかった主題の作品が展示されています。
江戸時代の小説にあたる「読本」の挿絵を多く手がけた北斎とその弟子たち。
まるで現代のアクション漫画といっても通用するような派手な構図の作品の数々が展示されています。
こちらは放射状に広がる閃光。
左から 葛飾北斎『椿説弓張月』続編 巻三 石櫃を破て曚雲出現す 二代葛飾戴斗『画本西遊全伝』四編 五 青竜山の妖怪三蔵を摂去 いずれも前後期展示 |
こちらは師・北斎。
封印されていた棺を暴いたところ、棺が砕け散った場面。
葛飾北斎『椿説弓張月』続編 巻三 石櫃を破て曚雲出現す 前後期展示 |
こちらは西遊記をもとに書かれた『画本西遊全伝』の三蔵法師が妖怪に連れ去られる場面。
「本文には放射状の閃光の描写はないのですが、ここではそれが描かれています。」と山際さん。
当時の読者も、本を読み進めながら「来るぞ、来るぞ」と期待しつつ、パッとこのページが出てきたとたん、「来たー!」と小躍りしたのでしょう。
閃光シーンがあるとないとでは本の売り上げにも響いたのでは?
二代葛飾戴斗『画本西遊全伝』四編 五 青竜山の妖怪三蔵を摂去 前後期展示 |
こちらは北斎と、女性画家との説もある葛飾北明の幽霊。
霊に切りかかる場面や男が廃墟で霊に出会う場面が描かれていますが、こういった大胆な構図のシーンも当時の読者には人気があったのでしょう。
右から 葛飾北斎『近世怪談 霜夜星』四 葛飾北明『復讐奇談 幸物語』四 いずれも前後期展示 |
3階の企画展は以上ですが、4階右半分の企画展示室では「常設展プラス」が復活しました。
常設展プラス
ここでは前回と同じく北斎の肉筆画としては最長とされる全長約7mの《隅田川両岸景色図巻》(複製画)が展示されています。
常設展プラスは6月14日(日)まで開催されています。
休館日は毎週月曜日、(2/24(月・振休)、5/4(月・祝)は開館、2/25(火)、5/7(木)は休館)。
常設展プラスは6月14日(日)まで開催されています。
休館日は毎週月曜日、(2/24(月・振休)、5/4(月・祝)は開館、2/25(火)、5/7(木)は休館)。
そして、こちらは『北斎漫画』立ち読みコーナー。
『北斎漫画』全15冊の実物大高精細レプリカを手に取ってご覧いただくことができます。
『北斎漫画』全15冊の実物大高精細レプリカを手に取ってご覧いただくことができます。
以前、書店で豆本版の『北斎漫画』を見かけたことがあるのですが、この実物大レプリカが売りに出されたら、ぜひ買い揃えたいです。
AURORA(常設展示室)もお見逃しなく
すっかりお馴染みになった北斎さんと娘の阿栄(葛飾応為)も健在です。
AURORA(常設展示室)内は一部を除き撮影可です。
まだまだ楽しみはあります
3階に戻ってホワイエには葛飾北斎《富士田園景図》(高精細複製画 原画 フリーア美術館)が展示されています。撮影もできます。
そして、せっかくの機会ですので北斎さんに弟子入りしてみませんか。
弟子の気分になりきってボードに絵を描いてみましょう!
こちらも3階ホワイエにあります。
さて、楽しみいっぱいの企画展「北斎師弟対決!」。
展示替えがあるので、前期後期ともご覧になっていただきたい展覧会です。