東京・虎ノ門の大倉集古館では、江戸時代以降、はるばる海を越えてヨーロッパに渡った日本の磁器や、国内の磁器コレクションの逸品が一度に見られる特別展「海を渡った古伊万里」が開催されています。
【展覧会概要】
会 期 2020年11月3日(火・祝)~2021年1月24日(日)
展示再開&会期延長! 2月20日(土)~3月21日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 毎週月曜日(休日の場合は翌平日)、年末年始(12月28日~1月1日)
入館料 一般1300円ほか
展覧会の詳細、新型コロナウィルス感染症拡大防止策等については同館HPでご確認ください⇒https://www.shukokan.org/
本展は、以下の会場へ巡回予定です。
愛知県陶磁美術館 2021年4月10日~6月13日
山口県立萩美術館・浦上記念館 2021年9月18日~11月23日
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は大倉集古館の特別の許可をいただいて撮影したものです。
展示は、1階の「はじめに」に始まって、
1階の 第Ⅰ部 日本磁器誕生の地「有田」
2階の 第Ⅱ部 海を渡った古伊万里の悲劇「ウィーン、ロースドルフ城」
の2部構成になっています。
今回の展覧会の見どころも2部構成にあわせて、大きく分けて二つあります。
1 1階展示室を回れば日本磁器の歴史が一目でわかる!
1階展示室には、佐賀県立九州陶磁文化館のコレクションを中心に、1610-30年代の最初期の有田焼の「染付磁器」に始まって、カラフルな色遣いの「色絵磁器」、乳白色の素地に花鳥人物や吉祥文様を描いた柿右衛門様式の器、染付素地に金、赤の二色を多用する金襴手様式のいかにもヨーロッパ人好みの「華やかな皿」、幕末期から明治初期にかけて輸出振興のために作られた豪華な輸出品が展示されています。
有田で始まり、伊万里港から各地に運ばれたので「今利(伊万里)焼」と呼ばれるようになった日本磁器の歴史に詳しくない私でも、1階展示室をぐるっと回っただけで磁器の歴史の概要がわかるという、とても親切な展示になっています。
華やかなデザインの有田焼ですが、その陰には外様大名ならではの涙ぐましい苦労を感じさせるエピソードがありました。
有田が所在する肥前佐賀を治めていた鍋島家は、1600(慶長5)年の関ケ原の合戦では西軍についたため戦後は苦境に立たされましたが、のちに徳川家康に赦されて佐賀藩(鍋島藩)の領有が認められ、その後は徳川幕府と良好な関係を築くことに努めました。
そこで作られたのが上品なデザインの「鍋島磁器」。採算を度外視して、最高の原料と、最高の陶工を投入して献上品として作られた御用磁器なのです。
大倉集古館から出品されている逸品も鍋島磁器《青磁染付宝尽文大皿》。
宝尽くしというだけあって、器に描かれているのはおめでたいものばかり。上品な淡い色彩が心を和ませてくれます。
華美なものはダメ!
ところがこの高級感あふれる鍋島磁器も、のちに幕府の方針に翻弄されることになります。
江戸初期からたびたび出されていた倹約令は、八代将軍徳川吉宗の享保の改革(1716-45)の時は特に厳しく、有田焼の色絵の生産も減少していきました。
盛り返してきたのは先ほどご案内したように、幕末期からです。
2 ヨーロッパの王侯貴族を魅了した豪華な磁器が来日!
紹介の順番が逆になりましたが、1階展示室に入ってすぐにお出迎えしてくれるのは、ウィーン郊外にあるロースドルフ城所蔵の色鮮やかな日本とヨーロッパの磁器。
どちらも破損したものを部分修復した器です。
今回の特別展は日本や中国、そしてヨーロッパで作られた磁器が中心の展覧会なのですが、今まで他の博物館・美術館で開催された展覧会とは少し様子が違うようです。
展覧会チラシには磁器の破片、サブタイトルは「~ウィーン、ロースドルフ城の悲劇~」。
磁器の破片は何を意味しているのでしょうか、そしてロースドルフ城の悲劇とは何なのでしょうか。
1階で有田焼のおさらいをしたあとは、2階で海を渡った磁器を見ていくことにしたいと思います。
ウィーン郊外にある中世の古城・ロースドルフ城は、展覧会チラシ裏面にも写真が掲載されていますが、優雅なたたずまいの白亜の宮殿です。
第二次世界大戦前年の1938年、オーストリアはナチス・ドイツによって併合されてドイツの一部となり、敗戦後は戦勝4か国(米、英、仏、ソ)により分割管理され、ウィーン周辺のオーストリア東部はソ連の管理下に置かれました。
当時、ロースドルフ城はソ連軍の兵舎として使用されていたのですが、陶磁器コレクションの接収をおそれたピアッティ家の当主はそれを地下室に隠していました。
ところがある時、ソ連軍兵士たちに見つかり、徹底的に破壊されてしまったのです。
それがサブタイトルにある「ロースドルフ城の悲劇」だったのです。
破壊された大量の陶磁器はもう使うことはできないので、廃棄される運命にあったはずですが、当主はそれを集め、戦争遺産として城の室内に展示して一般公開しました。
それを再現したのが、2階展示室中央の破壊された陶片がインスタレーションとして展示されている「陶片の間」の再現コーナーなのです。
これは作りものではありません。まぎれもなく実際にソ連兵たちの手によって破壊された陶片なのです。
いくら何でもここまでやるか、と思ってしまいますが、ちょうど岩波新書『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(大木毅著 2019年)を読んだ後だっただけに、これがまさに人間も家もモノも敵のものは破壊し尽くしてしまう絶滅戦争の一側面なのかと、ものすごいリアリティをもって感じられたのです。
「独ソともに、互いを妥協の余地のない、滅ぼされるべき敵とみなすイデオロギーを戦争遂行の根幹に据え、それがために惨酷な闘争を徹底して遂行した点に、この戦争の本質がある。」(前掲書 はじめにⅱ)
展示室内の荘厳な円柱を背景に展示を見ると、まるでロースドルフ城の室内に入ったかようなリッチな気分になってきます。
破損が少なく形が残っている陶磁器のエリア
エレベーターで2階に上がってすぐのエリアには、破損が少なく形が残っている陶磁器が展示されていて、中国や日本、西洋各地から集められたピアッティ家の国際色豊かな陶磁器コレクションの面影をしのぶことができます。
国内所蔵の磁器も並べて展示されているので、西洋と東洋の文様の交流を見ることもできます。
修復された陶片のエリア
最後のエリアには、今回の展覧会にあたって日本に運ばれ修復された磁器が展示されています。
下の写真はどちらも《色絵花卉文大皿》で、右が現代の技法で往時の姿をよみがえらせた「修復」、左が破片を組み上げた「組み上げ修復」。
こちらには「組み上げ修復」による中国景徳鎮窯の器が並びます。
修復前の破片のパネル写真とぜひ見比べてみてください。
第Ⅱ部「蘇った陶片」 |
私のおススメの逸品(一品)
さて、最後に私のおススメの逸品(一品)をご紹介したいと思います。
いろいろ悩みましたが、19世紀に西欧でつくられた古伊万里金襴手の模倣作品とされる《色絵唐獅子牡丹文蓋付壺》を挙げます。
こちらは「第Ⅱ部 伝世品に見られる文様の交流史」のコーナーに展示されていますが、なぜこの器を選んだのかといいますと、愛嬌のある獅子を発見してしまったからなのです。
それはどこかというと・・・
ぜひみなさんもその場で探してみてください!
ミュージアムショップも充実のラインナップ
大倉集古館のミュージアムショップは地下1階にあります。
展覧会オリジナルグッズや展覧会公式図録を販売していますので、ぜひお立ち寄りください。
展覧会公式図録(税込2,750円) |
年末は12月27日(日)まで、年始は1月2日(土)から開館しています。
この冬おススメの展覧会がまた一つ増えました。