すでに話題沸騰!オール肉筆画の展覧会
浮世絵といえば葛飾北斎の富士山、歌川広重の東海道五拾三次、浮世絵といえば版画、といったイメージが強いのですが、東京・墨田区のすみだ北斎美術館では、なんとオール肉筆画約125点(前後期あわせて)が展示される展覧会が開催されているのです。
すでにアートファン、浮世絵ファンの間では話題沸騰で、多く方が展覧会を訪れていますが、まだの方は浮世絵界のスーパースター約60人の華やかなが競演をぜひご覧ください!
展覧会概要
特別展 筆魂 線の引力・色の魔力 -又兵衛から北斎・国芳まで-
会 期 2021年2月9日(火)~4月4日(日)
前 期 2月9日(火)~3月7日(日)
後 期 3月9日(火)~4月4日(日)
※ 前期後期ですべて展示替え(一部はページ替え)
開館時間 9時30分~17時30分(入館は17時00分まで)
休館日 毎週月曜日
観覧料 一般 1,200円ほか ※AURORA(常設展示室)観覧料含む。
※展覧会の詳細、新型コロナウイルス感染症対策等については同館公式HPをご参照ください⇒すみだ北斎美術館
※同館公式ツィッターでは展示作品を紹介しています⇒すみだ北斎美術館公式ツィッター
展覧会構成
1章 浮世絵の黎明から18世紀前期ごろまで
1節 岩佐又兵衛と近世初期風俗画
2節 師宣・安度・長春とその流派
2章 浮世絵の繁栄
1節 政信・清長・湖龍斎・春章とその流派
2節 上方浮世絵
3節 歌麿・栄之・写楽とその流派
3章 幕末を彩る領袖 葛飾派と歌川派
1節 歌川派と菊川派
2節 葛飾北斎とその一門
※特別展展室内は撮影禁止です。掲載した写真は、美術館より広報用画像をお借りしたものです。
※3階ホワイエのフォトスポット、高精細複製画は撮影可、4階AURORA(常設展示室)内は一部を除き撮影可です(いずれもフラッシュ不可)。
展覧会の見どころ紹介
今回の展覧会の見どころは、何といっても浮世絵師たちの筆遣い、筆の息吹が間近に感じられること。
そのうえ、女性の髪形や髪飾り、着物の柄など作品の解説も詳しいので、時代ごとの流行の変化もよくわかって、各章の節ごとにあるコラム(column)では、それぞれの時代に活躍した浮世絵師たちの魅力がわかりやすく紹介されているので、展示を見ながら自然と肉筆浮世絵の世界に入り込むことができるのです。
それでは、さっそく各章ごとに展示を見ていくことにしましょう。
1章 浮世絵の黎明から18世紀前期ごろまで
菱川師宣
展示作品を見て最初に驚いたのは、何百年も前の作品の色合いが鮮やかに残っていることでした。
この作品は、「浮世絵の始祖」菱川師宣(?-1694)が描いた「二美人と若衆図」。
女性たちの華やかな着物の柄が、とても300年以上も前に描かれたとは思えないくらい鮮やかです。
菱川師宣「二美人と若衆図」(前期) 個人蔵、福井県立美術館寄託 |
まさに展覧会のタイトルどおり、浮世絵師たちの筆さばき、一筆一筆に込めた魂が、長い年月を経て私たちの心にストレートに伝わってくるのです。
(ちなみにタイトルの「筆」の字の縦棒の先は筆先になっています。)
3階ホワイエのフォトスポットより |
岩佐又兵衛
「浮世絵の始祖」は菱川師宣ですが、最初に展示されているのは、師宣でなく、意外や意外、近世初期風俗画の名手で「浮世絵の先駆者」とされる岩佐又兵衛(1578-1650)の作品。
岩佐又兵衛は、織田信長に仕えた武将・荒木村重の末子。
荒木村重は、天正6(1579)年、信長に背き、明智光秀らの攻撃の前に、摂津の有岡城に10カ月もの間籠城しましたが、その後、親族や家臣たちを残し、大切な茶道具を持って脱出してしまいました。
NHK大河ドラマ「麒麟がくる」では、村重は光秀と対面するワンシーンしか登場しませんでしたが、「軍師官兵衛」では茶道具の入った木箱を大事そうに抱えながら船で川を下る場面が出てきたので、ご記憶ある方もいらっしゃるのでは。
有岡城陥落後、親族や家臣たちは信長によってことごとく処刑されましたが、岩佐又兵衛は命からがら難を逃れました。「軍師官兵衛」では、絵が上手な子として子役の又兵衛も登場していました。
歴史に「もし」は禁物ですが、又兵衛も信長によって処刑されていたら、この世に浮世絵は登場しなかったのではと思うと、ゾッとしてしまいます。
それはともかくとして、先に進みます。
2章 浮世絵の繁栄
東洲斎写楽
浮世絵が繁栄期を迎えた寛政年間(1789-1801)に突如として現れ、わずか10カ月で忽然と消え去った謎の浮世絵師東洲斎写楽(生没年不詳)の肉筆画が後期に展示されます。
これは絵本の版下絵として描かれたと思われるもので、現存する肉筆画の少ない写楽のとても貴重な作品。前期には「岩井喜代太郎・中村助五郎・坂東彦三郎図」(摘水軒記念文化振興財団)が展示されています。彩色ではありませんが、写楽の繊細な筆致を感じ取ることができます。
後期に展示されるのはこちらの作品です。
3章 幕末を彩る領袖 葛飾派と歌川派
幕末期に入ると浮世絵は隆盛を極め、歌川豊国、歌川国貞(三代豊国)、歌川広重、溪斎英泉はじめ多くのスーパースターたちが活躍しました。
中でも私のお気に入りは歌川国芳(1798-1861)。
歌川国芳
武者絵で知られた国芳ですが、猫好きでユーモアたっぷりな絵を描いたり、ひねりをきかせて幕府を諷刺した作品を出したりした国芳は、美人画も得意としていました。
前期には「立美人図」(個人蔵)、後期にはこちらの作品が展示されます。
葛飾北斎
最後に登場するのは、やはりこの人しかいません。
すみだ北斎美術館の主(ぬし)、葛飾北斎(1760-1849)です。
「冨嶽三十六景」の「神奈川沖浪裏」や「凱風快晴」などがよく知られている北斎ですが、実はおそらく最も多くの肉筆画を描いた浮世絵師と考えられているのです。
今回の展覧会でも、6人の浮世絵師たちの競演「青楼美人繁昌図」(前期 個人蔵)を除いても、北斎作品だけで前後期あわせて21点もの肉筆画が展示されます。
今回が初公開という貴重な作品もあります。
絵の中の屏風や襖に描かれたのが「画中画」で、何が描かれているか探す楽しみがありますが、美人画が多く展示されている今回の展覧会では、着物の柄がどんなものなのか細部まで見ていく楽しみがあります。
版画の浮世絵にも、髪の毛一本まで彫りで表現する繊細さ、夕焼けの色のあざやかさ、紙に凹凸をつける空摺り、角度を変えて見ると文様が浮かび上がる正面摺りなどなど版画ならではの魅力がいっぱいありますが、肉筆画にも肉筆画ならではの味わいがあります。
それに、重要文化財、重要美術品、新発見、再発見、初公開作品も約40点あって、他館蔵も個人蔵もあるので、二度と同じような内容の展覧会が開催されることはないかもしれません。
ぜひぜひご覧になっていただきたい展覧会です。お見逃しなく!
筆魂展の展示作品をカラーで収録した公式図録もおススメ。詳しい解説もあって、これは永久保存版ですね。
(1階ミュージアムショップは緊急事態宣言を受けて、当面の間、営業時間が10:30-16:00に短縮されているのでご注意を!)