2021年10月5日火曜日

アートが身近に感じらる本が出ました!『植田工の展覧会のミカタです』

アートが身近に感じられる本が出ました!

本のタイトルは植田工(うえだたくみ)展覧会(てんらんかい)のミカタです』


絵と文 植田工『植田工の展覧会のミカタです』
2021年 発行:株式会社オデッセー出版、
販売:株式会社ワニブックス 定価:本体1500円+税


そしてサブタイトルは、「僕が絵に描いて皆さまをアートの旅にお連れします。」

植田工さんは、東京藝術大学 絵画科油絵専攻を卒業後、東京藝術大学大学院 美術解剖学を修了されたのち、脳科学者・茂木健一郎さんに師事してアーティストとしての活動を始めた方。

その植田さんが、国内各地のミュージアムで開催された展覧会を見に行って、その様子を絵と文章で紹介しているのがこの本なのです。

紹介されているのは、現代美術日本美術西洋美術のそれぞれの分野から、草間彌生さん、村上隆さん、山口晃さんはじめ今を時めく日本のアーティスト、尾形光琳、伊藤若冲、葛飾北斎らの江戸絵画・浮世絵、円空、木喰の仏像・神像、菱田春草ら近代日本画、さらに西洋絵画ではルネサンス期、ラファエル前派、新印象派、さらにデュフィ、マグリットら20世紀のアーテイストまで、全部で40の展覧会。

分野も幅広く、バラエティーに富んでいて、一つの展覧会について長くても10ページ、だいたい6ページぐらいなので、読んでいて飽きることがありません。
それに最初からでなく、好きなところから読んでもいいのです。


本の中身をちらっとお見せすると、植田さんが「ポストイット画」と呼んでいる絵で展覧会の様子を紹介していて、文章もとても読みやすいので、何の抵抗もなくスーッと展示会場に入っていくような気分で読むことができます。



そして何より素晴らしいのは、展覧会を見ながらうれしそうにしている、絵の中の植田さんご自身の表情。

小難しいことは考えずに、「わあ、すごい!」「かっこいい!」と感じて楽しむのが展覧会の醍醐味だと思うのですが、植田さんはプロの画家であるにもかかわらず、素直に感動するという気持ちを忘れずに持っているお方なのです。




植田さんの文章が私たちを惹きつけるのはそれだけではありません。

展示に感動したところで、「なんですごいのだろう。」「なんでかっこいいのだろう。」と次のステップに進んでいくので、読者はすいすいとページをめくっていくことができるのです。

たとえば、植田さんの藝大の大先輩、15歳で東京美術学校(現・東京藝術大学)に入学した菱田春草のすごさを、アニメーションにたとえてこう表現しています。

「・・・春草の風景は色自体が空間の奥行きを無限に感じさせます。
 ・・・春草の絵はアニメーションでいえば手前のキャラクターにあたる人物や植物が緻密に描かれ、その背後に広がる風景は、繊細な色彩のグラデーションによって、見えない空気や空間がどこまでも続くような背景として描かれます。」
(同書p141~p142)



各ページの下の1行コメントにも注目です。




重要文化財の《鮭》(東京藝術大学蔵)で知られる明治初期の代表的な洋画家・高橋由一の絵については、こんなにわかりやすいコメントをしています。

「高橋由一の絵は、不透明色ゴリ押し粘り描きで質感を追って、妙な真の迫り方をする気迫のある絵です」(同書p148)


そして、日本美術の宝庫、ボストン美術館については、読んでいてズルッと椅子から落ちそうになったユニークなコメントも。

「20歳のころ、ボストンに行ったとき、若気の至りでボストン美術館の前を素通りしたことを、後悔しています」(同書p127)


まさに『植田工の展覧会のミカタです』は、楽しいアートの旅に連れて行ってもらえる本。

展覧会によく行かれる方も、これから美術展めぐりをしようかなと考えられている方も、誰もが楽しめて、展覧会に行きたくなる本なのです。


実はプロレスファンの私としては、最初にこの本を目にしたとき、タイトルにある「ミカタ」は、作家・村松友視さんの『私、プロレスの味方です』と同じく「味方」だと思っていましたが、ご紹介したように「ミカタ」は「見かた」だったのです。

 
プロレスの場合、「たかがショーではないか。」と言う「アンチ」に対して、プロレスファンが「味方」するという対抗の図式が成り立つのですが、展覧会の場合、アートに興味があるかないかだけなので、プロレスのような「アンチ」は存在しませんでした。

ところが、最近になって意外なところからアートに対する「アンチ」が出てきました。

新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言の中、「アートは不要不急だ。」と考える人たちです。
 
それでも、植田さんがこの本の元となるコラム『アートの交差点』を書いたのは2014年から約2年間なのですが、そのときすでに「アンチ」に対する回答を用意していたのです。
なんという先見の明でしょうか。

「元来人間の創造の根源には、その存在の不安、逃れられない死に向かう魂を救済するという面が、少なからずあるように思えます。」(同書p183)

やはりこの本は展覧会の「見かた」であると同時に「味方」でもあったのです。



 
現在、植田工さんの個展「Wander」が東京・青山の「Akio Nagasawa Gallery Aoyama」で開催されています。

2021年9月30日(木)~10月30日(土)
開廊時間 木~土 11:00-13:00、14:00-19:00
休廊日  日~水・祝日
※新型コロナウイルスに関する状況により、会期や内容が変更する可能性があります。
展覧会の詳細はこちらです⇒Wander

「Wander」には、「歩き回る、さ迷う」という意味があります。
さっそく『植田工の展覧会のミカタです』を読んで、「今も彷徨いながら描いています」と語る植田さんのWanderlandを訪ねてみませんか。