東京墨田区のすみだ北斎美術館では、特別展「北斎 百鬼見参」が開催されています。
3階ホワイエのフォトスポット |
古くからその存在が信じられてきた鬼は、今でも節分の豆まきの豆を買うと付いてくる鬼のお面、旧家の屋根の上でにらみを利かす鬼瓦、古寺や博物館で見る四天王に踏みつけられている邪鬼など、今でも身近な存在として私たちの前に姿を現します。
それに、怖い鬼だけでなく、子どもの頃に読んだ浜田廣介作の童話「泣いた赤鬼」に登場する心の優しい鬼のことを思い出した方もいらっしゃるのでは。
今回の特別展は、北斎や門人たちが描いた、さまざまな顔をもった鬼たちの作品を前期・後期あわせて約145点も見ることができる、まさに百鬼が見参する展覧会なのです。
キャッチコピーは、恐れるか、戯れるか。
さて、どんな鬼が出てくるのか。さっそく会場内の様子をご紹介したいと思います。
展覧会概要
特別展「北斎 百鬼見参」
会 期 2022年6月21日(火)~8月28日(日)
前 期 6月21日(火)~7月24日(日)
後 期 7月26日(火)~8月28日(日)
※前後期で一部展示替えを実施
休館日 月曜日
※7月18日(月・祝)は開館、翌19日(火)は休館
開館時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
観覧料 一般 1,200円 高校生・大学生 900円 65歳以上 900円
中学生 400円 障がい者 400円 小学生以下 無料
※観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)もご覧になれます。
※展覧会の詳細、関連イベント、新型コロナウイルス感染症対策等は同館公式HPをご覧ください⇒すみだ北斎美術館
展示構成
1章 鬼とはなにか
2章 鬼となった人、鬼にあった人
3章 神話・物語のなかの鬼
4章 親しまれる鬼
※3階及び4階特別展の展示室内、ミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※3階ホワイエのフォトスポット、高精細複製画は撮影可。4階AURORA(常設展示室)内は一部を除き撮影可です(いずれもフラッシュ、三脚(一脚)の使用は不可)。
北斎の鬼は怖そうでもユーモラス
家の近くのスーパーで豆まき用の豆を買うと付いてくる鬼のお面は、とても人なつこい顔をしているので、豆を投げるのがかわいそうになってしまうのですが、北斎の描く鬼はちょっと違います。
ご覧のとおり、頭に二つの角をもち、牙をむき出しにして不気味な笑みを浮かべた鬼女の姿。
右手に持っているのがリンゴか何かなら、「美味しそうでしょ。」と言いたげに無邪気に指をさしているユーモアさも感じられるのですが・・・
こんな鬼もいました。
金太郎に豆を投げられて逃げまどう小鬼たちかと思ったら、なんと小鬼たちは豆を拾っているところなのです。
これでは豆まきの意味がない!?
北斎の描いた珍しい「鬼の肉筆画」3点が見られる!
数多くの作品を残した北斎ですが、鬼を描いた肉筆画は少なく、今回の展覧会で展示される3点はとても珍しいものなのです。
前期に展示されるのは、葛飾北斎「着衣鬼図」(佐野美術館蔵)。
後期に展示されるのは葛飾北斎「念仏鬼図」(すみだ北斎美術館蔵)。
こちらも煩悩と仏法を前にする鬼が描かれています。
3点目は能「道成寺」の鬼女を北斎が描いた「道成寺図」。
北斎が描く「鬼の肉筆画」も珍しいのですが、能そのものを描いた北斎の肉筆画は他に例がなく、「道成寺図」はまさにダブルで「珍しい」作品なのです。
「道成寺図」は前期展示。後期には高精細複製画が展示されます。
浮世絵作品は光に弱く退色しやすいため、展示日数を適切に管理しなくてはならないので、どうしても展示期間は限られるのです。
せっかくの機会ですので、ぜひ前期後期ともお越しいただいて、3点ともご覧いただきたいです。
迫力ある鬼女の姿にも圧倒されますが、ここには作品に関連して国立能楽堂所蔵の能衣装や、佐野美術館所蔵の能面も展示されていて、幽玄な能の世界が実感できるとても雰囲気のいい空間になっています。
展示風景 画面左から葛飾北斎「道成寺図」すみだ北斎美術館蔵(前期) 「般若」佐野美術館蔵(通期)、「赤般若」国立能楽堂蔵(通期) 「白地鱗模様摺箔」国立能楽堂蔵(通期) |
さらに注目は鬼女の持つ打杖。
これはなんと担当学芸員さんが今回の展覧会のために自作したものとのこと。
プロの方が作ったものとしか思えない見事な出来映えです。
打杖(通期) |
「人間味」が感じられる鬼も登場します
雷鳴を轟かせて得意気なポーズをとる雷神。
こちらは『北斎漫画』三編。
鬼の姿で描かれることの多い風神雷神が猛威を振るう迫力ある場面が展開されています。
葛飾北斎『北斎漫画』三編 雷 風 すみだ北斎美術館蔵(通期) |
鬼の姿をしていても、商売道具の太鼓や袋の手入れは自分で行わなくてはなりません。
風神や雷神がはさみや金づちを持っているのは初めて知りました。
市川甘斎『甘斎画譜』三編 すみだ北斎美術館蔵(通期) |
雷鳴を轟かす勇ましい雷神も、足柄山の金太郎ににらまれたらひとたまりもありません。
赦しを乞う情けない姿に哀愁を感じる作品です。
葛飾北斎『絵本和漢誉』足柄山怪童丸 すみだ北斎美術館蔵(通期) |
鬼になった人、鬼に会った人も登場します
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の登場人物で鬼になった人もいました。
兄・頼朝に追われる身となった源義経が、摂州大物浦から船で西国に逃げようとしたところ、そこに立ちはだかったのは平家の亡霊。
鬼の形相で義経一行をにらみつけているのは、壇ノ浦で敗死した平家の大将、平知盛。
そして知盛と対峙するのは、船上の義経や弁慶。
緊張感あふれる場面が稲光とあいまって劇的に描かれています。
保元の乱で敗れ、伊豆大島に流された源為朝は大男で怪力の持ち主。
ここでは為朝が弓矢で岩を打ち砕く迫力の場面が描かれていますが、鬼は為朝でなく、赤鬼のような風貌をしていて、為朝から「鬼夜叉」と呼ばれた七郎三郎という島民。
滝沢馬琴作で、葛飾北斎が挿絵を描いた為朝が主人公の小説『椿説弓張月』に為朝の忠臣として登場する人物です。
生きていたのに鬼になった人も、その鬼に助けられた人もいました。
遣唐使として入唐した吉備大臣(吉備真備)が、唐の朝廷から多くの難題を出され、現地で没した阿倍仲麻呂が鬼となって助けるという逸話は《吉備大臣入唐絵詞》(ボストン美術館蔵)で知られていますが、実際には吉備大臣が二度目に渡った時には生きている阿倍仲麻呂と会っていました(一度目は二人そろって遣唐使として入唐)。
生きていたのに後世、鬼になった阿倍仲麻呂は、後期に展示される葛飾北斎《詩歌写真鏡 安倍の仲麿》(すみだ北斎美術館蔵)で見ることができます。
(前期はパネル展示)
そしてこちらは鬼に助けられた吉備大臣。
ここでは、唐の皇帝の前で漢詩を読もうとしたら文字が順不同になっていたところ、蜘蛛が正しい順番を教えてくれたという場面が描かれています。
魚屋北溪「尚歯会番続 吉備大臣」 すみだ北斎美術館蔵(前期) |
吉備大臣の衣装は黒色ですが、これは正面摺りで、少し下から見上げると、衣装の折り目と文様が浮かび上がってきます。
後期はパネル展示になるので、ぜひ前期に来られて下から覗いてみてください。
イベントやグッズも盛りだくさん!!
4階フロアでは、「北斎 百鬼見参」展会期中、「ONI28総選挙」が開催されています。
みなさんの”推し”の鬼にぜひ投票しましょう!
3階ホワイエには鬼たちに囲まれて記念撮影ができるスポットがあります(下の写真右)。
今回の高精細複製画は葛飾北斎《琵琶に白蛇図》(原画 フリーア美術館蔵)(下の写真左)。こちらも撮影可です。
ミュージアムショップではユニークなグッズを発見しました。
右のふわふわしたものは、「もちもち邪鬼ポーチ」(税込1,870円)。
左は「仏像」と「靴下」が組み合わさった「仏下 邪鬼ソックス」(税込1,650円)。
足の裏に邪鬼がデザインされているので、四天王の気分が味わえます。
どちらの邪鬼も憎めない顔をしているので、踏みつけるというより、身に着けて疫病退散を願ってみませんか。
前期後期ともお越しいただいて、北斎や門人たちの鬼の姿をぜひともお楽しみください!