横浜駅東口・そごう横浜店6階のそごう美術館では、「面構(つらがまえ) 片岡球子展 たちむかう絵画」が開催されています。
そごう美術館入口パネル |
昭和から平成にかけて活躍した日本画家 片岡球子(1905-2008)は、大胆な構図で鮮やかな色彩の赤富士をはじめとした「富士」シリーズがよく知られていますが、今回は、片岡球子がライフワークとした「面構」シリーズのみで構成された初めての展覧会です。
それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2023年1月1日(日・祝)~1月29日(日) 会期中無休
開館時間 午前10時~午後8時(入館は閉館の30分前まで) 事前予約不要
入館料 一般:1,400円、大学・高校生:1,200円、中学生以下無料
展覧会の詳細等は同館公式サイトをご覧ください⇒そごう美術館
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は美術館より広報用画像をお借りしたものです。
展示室に入ると、何人もの人物が番傘を振り回して入り乱れている場面が目に飛び込んできて、いきなり驚かされます。
《面構 狂言作者河竹黙阿弥・浮世絵師三代豊国》 1983(昭和58)年 神奈川県立近代美術館蔵 |
画面左手前の煙管を持っている人物が幕末明治期の歌舞伎狂言作者 河竹黙阿弥、画面右手前が江戸時代後期の浮世絵師 三代豊国。
そして後ろは三代豊国の錦絵から着想した河竹黙阿弥作の「白浪五人男」の5人の盗賊たち。
三代豊国は、「白浪五人男」の面々が急に目の前に現れて驚いているようにも見えますが、このように作者と作品の登場人物が同じ画面に描かれるのが「面構」シリーズの見どころの一つ。
展覧会の冒頭に展示されるのにふさわしい作品だと思いました。
続いて、「面構」シリーズ第1弾となった足利家の将軍、尊氏、義満、義政の3人。
京都・等持院の霊光殿に徳川家康の像とともに安置されている足利歴代の将軍像をモデルにしたとのことですが、こちらも大画面で迫力満点。
《面構 足利尊氏》 1966(昭和41)年 神奈川県立近代美術館蔵 |
等持院で尊氏像を見た時には、最初は後醍醐天皇に仕え、のちに反旗を翻して楠木正成らと戦った尊氏だけあって、いくつものいくさを経験した武将としての面構えをしていると感じたのですが、片岡球子の描く尊氏は温和な表情をしています。
《面構 足利義満》 1966(昭和41)年 神奈川県立近代美術館蔵 |
等持院の足利歴代将軍像の中でもひときわ大きくて目立つのが第三代将軍足利義満像。
明との交易で繁栄をもたらした「面構」シリーズの義満は、いかにも威風堂々とした雰囲気が感じられます。
《面構 足利義政》1966(昭和41)年 神奈川県立近代美術館蔵 |
応仁の乱をよそに京都東山に隠棲した第八代将軍義政は、やはりたより気なさそうに見えます。
ほかにも豊臣秀吉、今年のNHK大河ドラマの主人公・徳川家康はじめ武将や将軍たちの「面構」が展示されているので、史実や各々の性格などを思い浮かべながら見てみるのも面白いかもしれません。
展覧会のメインビジュアルになっている《面構 葛飾北斎》のように浮世絵師とその代表作が同じ画面に描かれている作品も見かけます。
こちらは歌川広重と『名所江戸百景』シリーズのうち「大はしあたけの夕立」。
「大はしあたけの夕立」は、ゴッホが模写したことでも知られています。
《面構 安藤広重》1973(昭和48)年 神奈川県立近代美術館蔵 |
浮世絵師と浮世絵に出てくる登場人物が同じ画面に描かれる作品もあります。
右が歌川国貞(のちの三代豊国)、左が歌舞伎作者の四世鶴屋南北。
こちらは歌舞伎役者が出てきても、二人とも動じた様子は見せていません。
《面構 歌川国貞と四世鶴屋南北》1982(昭和57)年 東京国立近代美術館蔵 |
瀧澤馬琴が文章を書き、葛飾北斎が挿絵を描いた『新編水滸画伝』をはじめとした、当時の売れっ子コンビの読本は大人気でした。
最後はお互いの個性がぶつかり合い、喧嘩別れするのですが、二人が向かいあっていないのはそのせいか、などと勘ぐってしまいます。
背景には二人が手がけた作品が描かれています。
《面構 葛飾北斎・瀧澤馬琴》1979(昭和54)年 愛知県美術館蔵 |
浮世絵師 歌川国芳とともに描かれているのは、なぜか背広にネクタイの男性。
この方は浮世絵研究などのにすぐれた業績を残した鈴木重三氏。
「面構」シリーズには、このように時間軸を越えた組み合わせも描かれているのです。
《面構 浮世絵師歌川国芳と浮世絵研究家鈴木重三先生》 1988(昭和63)年 北海道立近代美術館蔵 |
今回の展覧会では、初公開となる片岡球子の小下絵やスケッチが展示されています。
小下絵やスケッチは作品の手前の展示ケースに入っているので、作品と見比べながら見られるように工夫されています。