東京・六本木の泉屋博古館東京では、「不変/普遍の造形 住友コレクション中国青銅器名品選」が開催されています。
泉屋博古館東京エントランス |
リニューアルオープン記念展のラストを飾るのは、世界有数の中国青銅器を所蔵する住友コレクションの中から選りすぐりの逸品が展示される青銅器名品選。
普段は泉屋博古館(京都)に所蔵・展示されている中国青銅器のオールスターが東京で見られる絶好の機会です。
そして、うれしいことに今回は青銅器の魅力をやさしく紹介する「入門編」なので、青銅器にあまりになじみのない方でも楽しみながら3000年以上前に作られた青銅器の魅力に迫る展示になっています。
それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
展覧会名 泉屋博古館東京リニューアルオープン記念展Ⅳ
不変/普遍の造形 住友コレクション中国青銅器名品展
会 期 2023年1月14日(土)~2月26日(日)
開館時間 11時~18時 *金曜日は19時まで開館
*入館は閉館の30分前まで
休館日 月曜日
入場料 一般 1000円、高大生 600円、中学生以下無料
※展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒泉屋博古館東京
展示構成
Ⅰ 神々の宴へようこそ
Ⅱ 文様モチーフの謎
Ⅲ 古代からのメッセージ-金文-
Ⅳ 中国青銅器鑑賞の歴史
※写真撮影は一部展示品を除き展示室内で可能です。撮影の際は館内の注意事項をご確認ください。
※展示作品はすべて泉屋博古館所蔵です。
SNSで発信する時のハッシュタグはこちらなのでお忘れなく!
#おでかけしきょうそん #フヘンノゾウケイ #新春は青銅器
「Ⅰ 神々の宴へようこそ」
青銅器は「器」ですので、飲み物や食べ物などを入れたり、音を出す楽器として使われたものですが、それは日常生活に用いられていたものではなく、祖先の神々をもてなすための特別な器でした。
ここでは青銅器が用途別に食器・酒器・水器・楽器に分けられて紹介されています。
「Ⅰ 神々の宴へようこそ」展示風景 |
中でも注目は、大きな口を開けた虎と今にも食べられそうな人間がかたどられた《虎卣(こゆう)》。
虎卣 殷後期 紀元前11世紀 |
正面から見たら人間が虎の口の中に入ってしまいそうに見えたのですが、横から見るとこの人は、まるで赤ちゃんのように安心しきった表情をして虎にしがみついているようにも見えるのです。
はたしてこの虎は人に危害を加えるものなのか、それとも人から邪鬼を払ってくれる守護神なのか、ぜひその場で想像をめぐらせてみていただきたいです。
虎卣 殷後期 紀元前11世紀 |
青銅器は重そうに見えますが、実は厚さはわずか約2mmで、この《虎卣》でも5㎏ぐらいとのこと。
それだけ薄く作る技術もさることながら、酒に香りづけするための香草の煮汁を入れても香りが逃げないように蓋が密閉できるようになっていたり、把手は蓋をぎりぎりではずぜるところで止まるように内部でロックされる構造になっていたりと、当時の鋳造技術の高さに驚かされます。
さらに驚いたのは穀物を盛る器「簋(き)」のうち、方形の台座がついた「方座簋」。
「方座簋」の台座の内部に鈴が取りつけられているものもあって、神々に穀物をささげる儀式で持ち運んだときに鈴の音が鳴るようになっていたのです。
続いて「Ⅱ 文様モチーフの謎」へ。
「Ⅱ 文様モチーフの謎」展示風景 |
青銅器の表面にはびっしりと文様がかたどられていて動物も多く見られますが、中でも多いのが想像上の謎の動物「饕餮(とうてつ)」。
大きな二つの目が特徴で、真ん中にスッと通った鼻もあって顔だけの動物のように見えるのですが、バリエーションがさまざまあって手足や胴体もあるのです。
こちらは饕餮文方彝(とうてつもんほうい)。
実はこの饕餮は邪悪な動物とされていました。
饕餮がにらみをきかせて人に害悪を及ぼす邪気を払うという、まさに「毒をもって毒を制す」という役割があったのですね。
邪悪な動物といえば、西洋では知性の象徴とされているなどプラスのイメージがあるフクロウやミミズクの類を指すとされた「鴟鴞(しきょう)」も、意外なことに当時では縁起の悪い鳥とされていたのです。
マイナスのイメージがある「鴟鴞」の形をした酒器(「尊」)がこの《鴟鴞尊(しきょうそん)》ですが、実際に見てみるとどうでしょうか。
愛嬌のある顔、ぐっと胸を張ったようなユーモラスなポーズから、今なら「ゆるキャラ」として人気が出るかもしせん。
今回の展覧会のメインビジュアルになっているのもうなずけます。
鴟鴞尊 殷後期 紀元前13-12世紀 |
冒頭でご紹介したハッシュタグ「#おでかけしきょうそん」とは何だろうと思われた方も多いかと思いますが、実は京都からはるばるお出かけしてきてくれた《鴟鴞尊》のことだったのです。
「Ⅲ 古代からのメッセージ-金文-」
泉屋博古館東京のリニューアルオープン前の2019年に開催された特別展「金文-中国古代の文字-」はご覧になられましたでしょうか。
この展覧会では、青銅器に刻まれていた漢字の祖先「金文」から当時の歴史的事件や人々の生活の一端を垣間見ることができたので、発掘されなければ永遠に知りえなかったであろう事柄がわかって、とても興奮したことを覚えています。
今回もこのエリアでは、タイトルどおり3000年前の人たちのメッセージを読み取ることができるので、とても楽しみにしていました。
下の写真の左は、軍功が上司に認められて器を作らせたことが記された《彔簋(ろくき)》、右が西周時代中頃に異民族の侵入に悩まされた時代背景がわかる《競卣(きょうゆう)》。
「Ⅳ 中国青銅器鑑賞の歴史」
住友コレクションの中心、中国青銅器の始まりは、住友家第十五代当主の春翠氏が、大正期に流行した煎茶会での床飾りのために購入したとされる筒型の卣《夔文筒型卣(きもんつつがたゆう)》(下の写真右手前)でした。
ここでは、煎茶の床飾りが再現されています。
中国古代の青銅器は、近代日本の文人たちの美意識の中にこのように受け入れられていたのです。
本場中国で青銅器の本格的なリバイバルが起こったのは、約千年前の北宋時代のことでした。
こちらは北宋の皇帝、徽宗の命で編纂された青銅器図録『宣和博古図録』。
宮廷にコレクションされていた800点以上の青銅器が収録されていて、先ほどご紹介した「饕餮文」はじめ、この時代の命名が現在も用いられているなど、後世の青銅器図録に大きな影響を与えるものでした。
(『宣和博古図録』は泉屋博古館の名称の由来でもあるのですね!)
『宣和博古図録』 初版:北宋 11世紀 亦政堂修版:清 18世紀 |
それにしても、おそるべし徽宗。
政治には熱心でなかったものの、自ら筆をとり独自の書体「痩金体」を創始し、国宝《桃鳩図》(←昨年、京都国立博物館「茶の湯展」で期間限定で公開された時に見てきました)はじめ絵もたしなんだ徽宗は、古美術を収集して『宣和書画譜』を編纂させるなど文化に力を入れていましたが、まさか青銅器まで収集していたとは。
展示室内では、今回の展覧会にあわせて3Dデータを用いたデジタルコンテンツを制作して公開しているので、こちらもぜひご覧ください。
中国青銅器の入門書発売中!
今回の展覧会の公式ガイドブックも発売中です。
タイトルもずばり『中国青銅器入門』(新潮社 とんぼの本)。
著者は今回の展覧会を担当された泉屋博古館(京都)の山本堯さん。
展覧会のガイドブックですが、とんぼの本のシリーズなので書店でも販売しています。
カラー写真もふんだんにあって、やさしい解説やわかりやすいイラストもあるので、まさに入門にピッタリです。
デジタルスタンプラリーに挑戦してみよう!
港区内の3館(根津美術館、松岡美術館、泉屋博古館東京)に中国古代青銅器が大集結しているのを記念して、3館をめぐるデジタルスタンプラリーが開催されています。
期間は2月5日(日)まで。
詳しくはこちらをご覧ください⇒港区内3館をめぐる中国古代青銅器デジタルスタンプラリー
今年の新春は港区内の3館をめぐって、青銅器に親しんでみてはいかがでしょうか。
ハッシュタグは「#新春は青銅器」です。