2023年2月21日火曜日

サントリー美術館 没後190年 木米

東京・六本木のサントリー美術館では、「没後190年 木米」展が開催されています。

展覧会チラシ

さて、今回の展覧会のチラシをご覧になって、「もくまい?」「きごめ?」、没後190年というと1833年なので江戸時代、さて誰だろう、と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そういう時は迷わず、展覧会のPR動画をぜひご覧ください⇒展覧会関連動画

「もくべい、もくべい、もくべい・・・」

一度聞いたら忘れられないこのフレーズ。
そうです。
京都祇園の茶屋「木屋」に生まれ、氏は青木、名は八十八、それをもじって「木米」と名乗り、陶芸、煎茶、絵を愛した京都の文人「木米(もくべい)」(1767~1833)のことなのです。

展覧会のキャッチコピーは、木米がもう、頭から離れない。

木米のやきものや煎茶道具、山水画を見たらもう木米が頭から離れないこと請け合い。
こんな楽しい展覧会は見逃すわけにはいきません。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2023年2月8日(水)~3月26日(日)
     ※各作品の出品期間は、出品作品リスト(PDF)をご参照ください。
     ※作品保護のため、会期中展示替を行います。
     ※会期は変更の場合があります。
開館時間 10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
     ※2月22日(水)、3月20日(月)は20時まで開館
     ※いずれも入館は閉館30分前まで
     ※開館時間は変更の場合があります。
休館日  火曜日 ※3月21日は18時まで開館
入館料  一般 1,500円 大学・高校生 1,000円 
     ※中学生以下無料
     ※障害者手帳をお持ちの方は、ご本人と介護の方1名様のみ無料

※チケット購入方法、展示替情報等は同館公式サイトをご覧ください⇒サントリー美術館

展示構成
 第一章 文人・木米、やきものに遊ぶ
 第二章 文人・木米、煎茶を愛す
 第三章 文人・木米と愉快な仲間たち
 第四章 文人・木米、絵にも遊ぶ

展示室内は撮影禁止です。掲載した写真はプレス内覧会で美術館の特別の許可を得て撮影したものです。

展示室内のフォトスポットのみ撮影できます。
中国の書聖・王羲之さんがにこやかにお出迎えしてくれるので、記念写真をぜひ!

フォトスポット



第一章 文人・木米、やきものに遊ぶ

それではまず第一章から。
今回の展覧会は各章ごとのタイトルが洒落てます。
なにしろ文人(※)らしくやきものに遊んでしまうのですから。
こういうタイトルですと、見る方も肩の力がスーッと抜けてリラックスして展示を見ることができるというものです。

※文人とは(展示パネルより)
 木米が生きた時代の日本における文人とは、中国の文人の「詩書画三絶(詩と書と画が共に優れていること)の世界に憧れをもち、中国の学問や芸術の素養を身につけた人たちです。彼らは独自の文人ネットワークを作り、全国規模で活発に交流しました。そして、お互いの個性を尊重しながら、思い思いに文人としての生き方を追求したのです。

第一章展示風景


木米は、「やきものに遊ぶ」といってもいい加減にやきものを作っているわけではありません。

こちらは二段の重箱に提げ手がついた重要文化財《染付龍濤文提重》。

重要文化財《染付龍濤文提重》木米
江戸時代 19世紀 東京国立博物館 通期展示


重箱に描かれているのは、中国・明時代に景徳鎮で焼かれた磁器に倣った五爪の龍。
日本で描かれる龍は三爪のものが多いのですが、中国では五爪の龍は皇帝の象徴とされ、皇帝の持ち物にしか表されてはいけない龍なのです。

そして、「古染付(こそめつけ)」といわれる明時代の染付磁器の中には土と釉薬の収縮率の違いから釉の表面に小さな傷ができるものがあり、日本の茶人たちはそれを「虫喰い」として愛でていたのですが、この重箱の角や縁も「虫喰い」のように表面を加工したとの見方もあるので、木米が細部までこだわりをもってやきものに遊んでいたことがわかります。

また、提げ手の規則的な紗綾文様や雷文は、明時代末の染付磁器「祥瑞」の雰囲気にも通じるものがあるので、木米が中国陶磁の様式をしっかり押さえた上でオリジナリティーを発揮していることがよくわかります。

第一章では、一つひとつのやきものに見られる木米のこだわりをぜひお楽しみいただきたいです。

第一章展示風景




第二章 文人・木米、煎茶を愛す

18世紀半ば、煎茶道具を担いで道行く人たちに茶をふるまった売茶翁(1675-1763)の生き様が文人たちに大きな影響を与え、煎茶道が文人たちの間に広まりました。

売茶翁と聞いて、2年前の正月にNHK総合で放送された「ライジング若冲」で、売茶翁役の石橋蓮司さんが味のある演技をしていたのを思い浮かべた方もいらっしゃるのでは。

その煎茶道に使われた茶道具が展示されているのが「第二章 文人・木米 煎茶を愛す」。


第二章展示風景

冒頭でご紹介したフォトスポットのモデルとなった《白泥蘭亭曲水四十三賢図一文字炉》(木米 江戸時代 19世紀 布施美術館 通期展示)(上の写真右手前)も展示されています。

これは中国の書聖・王羲之が東晋時代の永和九年(353)、蘭亭に名士を招いて、蛇行する川に盃を浮かべ、盃が自分の前を流れ過ぎるまでに詩を作り、作れなければ罰として酒を飲むという曲水の宴を設けた時の様子が表されたもので、正面の手すりから身を乗り出しているのが王羲之、炉の側面には蛇行する川の様子がほどこされています。
正面下には王羲之のアイコンともいえる鵞鳥も描かれています。

この作品の拡大版のフォトスポットとあわせて、ぜひぐるりと一周して模様をご覧いただきたいです。

こちらは木米作の「交趾」という名の付いた、緑、黄、紫など独特の色合いの急須(下の写真右の2点)。


右から《交趾釉梅花花鳥文急須》《交趾釉鳳凰文急須》
どちらも木米 江戸時代 19世紀
《交趾金花鳥香合》 明~清時代 17世紀
いずれも個人蔵 通期展示

「交趾」とはベトナム北部のことで、交趾との交易船が運んできた陶器も「交趾(焼)」と呼ばれていたのですが、実際には中国南部で焼かれたものが多かったそうです。

木米はその「交趾」の焼物のデザインも茶道具の急須に取り入れていました。
上の写真中央の《交趾釉鳳凰文急須》と左の《交趾金花鳥香合》が並んで展示されているので、鳳凰の姿をよく見比べることができます。


木米作の茶道具の特徴の一つは、器に文字を入れることでした。
遠くから見ると真っ白な炉に見えますが、器の表面には本を開いたように四角い枠があって、中には茶詩(=茶を主題とした詩)が彫刻されているので、ぜひお近くでご覧ください。

第二章展示風景




第三章 文人・木米と愉快な仲間たち

木米が生きた時代の京都は、文人たちが集まり多士済々の様相を呈していました。
木米の親友で、豊後(現在の大分)からやってきた田能村竹田(1777-1835)もその一人。

下の写真左は、竹田が描いた木米の肖像画《木米喫茶図》、右は池大雅(1723-76)《密林草堂図》(どちらも個人蔵 展示期間2/8-2/27)。
(3月1日から26日までは、大雅との交流があり詩書画に長じ、木米が若い頃、文人としての教養を学んだ高芙蓉(1722-1784)の《竹石図》(宝暦12年(1762) 個人蔵)が展示されます。)


左 《木米喫茶図》田能村竹田 文政6年(1823) 
右 《密林草堂図》池大雅 江戸時代 18世紀
どちらも個人蔵、展示期間2/8-2/27


「ライジング若冲」でも豪放磊落そのままに演じられていた池大雅が54歳で亡くなった時、木米は10歳でしたが、木米は大雅に背負われたり、手を引かれたりして京都・東山のあたりを歩いたそうです。
大雅の命日にその霊前に供えるために描いた《重嶂飛泉図》(木米 江戸時代 19世紀 静嘉堂文庫美術館 展示期間2/8-2/27)が第四章に展示されています。

第三章では、木米が交流した文人たちにあてた書状も展示されています(展示替えあり)。

第三章展示風景

書状の解説パネルには現代語訳の大意もあるので、木米の人となりを感じとることができ、文人・木米と愉快な仲間たちが楽しそうに会話している様子が目に浮かんでくるようです。

第三章展示風景



第四章 文人・木米、絵にも遊ぶ  


文人・木米はやきものだけでなく絵にも遊んでいました。

第四章展示風景

木米の絵画は、山水画が大半を占めることと、誰かのために描いた「為書(ためがき)」が多いことが特徴です。

そして山水画の中には小さな人物が描かれているものもあるので、絵の中の人物を探してみてください。
それはもしかしたらこの絵を贈った人なのかもしれません。



今回の木米展では、木米の絵画が前期後期で約40点展示されますが、これだけまとまって木米の絵画が見られる機会は多くないでしょうから、ぜひ前期後期ともご覧いただきたいです。

展覧会のフィナーレを飾るのは、京都に生まれ、京都で生涯を送った木米にふさわしく、京都の名所の山水画が描かれた桐製茶心壺でした。


《栂尾・建仁寺・兎道図茶心壺》木米
江戸時代 19世紀 個人蔵 展示期間2/8-2/27
(3/1-3/26には同じタイトルで別の茶心壺が展示されます。) 


展覧会図録も充実!

展示作品のカラー図版や詳しい解説、木米関連年表、担当した学芸員さんたちの論文が盛り込まれた展覧会図録(一般 2,800円、メンバーズ 2,520円 どちらも税込)は読みごたえがあって、展覧会の記念にもなるのでおすすめです。


やきもののように見えますが、やきものではありません。
軽妙なトークを聴いているような静嘉堂文庫美術館 河野元昭館長の巻頭の論文も必読です。 

この春はぜひ文人・木米のやきものと絵画をお楽しみください!