京都・岡崎公園の京都国立近代美術館では、独特の雰囲気の美人画を描き、演劇や映画にも「越境」した甲斐荘楠音(1894-1978)の全貌に迫る展覧会が開催されています。
今までは日本画家としての甲斐荘楠音しか知りませんでしたが、幼少から歌舞伎が好きで自ら女形として舞台に立ったり、映画の衣裳・風俗考証に携わるなど、ジャンルを越えて個性を発揮した甲斐荘楠音の、まさに全貌を見ることができる内容盛りだくさんの展覧会です。
展覧会開催概要
会 場 京都国立近代美術館(京都・岡崎公園内)
会 期 2023年2月11日(土・祝)~4月9日(日)
開館時間 午前10時~午後6時
金曜日は午後8時まで開館
*入館は閉館30分前まで
*新型コロナウイルス感染拡大防止のため、開館時間は変更となる場合があり
ます。来館前に最新情報をご確認ください。
休館日 月曜日
観覧料 一般:1,800円、大学生:1,100円、高校生:600円
※中学生以下、心身に障がいのある方と付添者1名、母子家庭・父子家庭の世帯
員の方は無料(入館の際に証明できるものをご提示ください)
※本料金でコレクション展もご覧いただけます。
※日時予約制ではありません。チケットは同館の発売窓口でも購入できます。
展覧会の最新情報・詳細は、同館公式サイトでご確認ください⇒京都国立近代美術館
巡回展情報
【東京会場】 東京ステーションギャラリー 2023年7月1日(土)~8月27日(日)
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より許可を得て撮影したものです。
展示構成
序章 描く人
第1章 こだわる人
第2章 演じる人
第3章 越境する人
終章 数奇な人
5章の展示構成に5つの「人」が登場しますが、これはすべて甲斐荘楠音のこと。
それではさっそく5つの側面から甲斐荘の姿を見ていきたいと思います。
序章 描く人
序章で紹介されるのは、「描く人」甲斐荘楠音。
序章展示風景 |
甲斐荘楠音の美人画というと、中には少しおどろおどろしいものもあって、独特の雰囲気をもっていて、同じく京都で活躍した上村松園をはじめとした日本画家の美人画とはちょっと違うなと感じていたのですが、その理由がここで初めてわかりました。
京都の洛中、御所の近くで生まれ育ち、御所伝来のひな人形などに親しんだ甲斐荘楠音が京都市立美術工芸学校に進み、そこで影響を受けたのはレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロなどの陰影をつけて立体感を表わす西洋美術の人物表現だったのです。
情念の深さや官能の豊かさを表現することを追求した甲斐荘の人物や肉体への「こだわり」が感じられるのが第1章に展示されている数多くのスケッチ。
第1章展示風景 |
そして、第1章での大きな見どころのひとつが、おそらく本邦初公開、ニューヨーク・メトロポリタン美術館から里帰りした《春》(上の写真左から2つめ)。
金屏風と草花や鳥が描かれた金色の敷物を背景に、華やかな色彩の衣裳をまとい笑みを浮かべる女性が描かれ、画面全体から春のうららかな雰囲気が感じられる作品です。
《春》は今回の展覧会公式図録の表紙に採用されています。
全作品のカラー画像や充実のエッセイはじめ甲斐荘の魅力がいっぱい詰まって全310ページの図録は3,200円(税込)。展覧会の記念におすすめです!
続いてはこちら。
壁一面を占めるのは、この下の展示ケースに展示されている甲斐荘楠音のスクラップブックのパネルです。
このおびただしい数の写真や新聞の切り抜きなどが彼の「こだわり」を感じさせてくれます。
第2章 演じる人
歌舞伎や文楽など芝居に取材した作品が多いのも甲斐荘の特徴ですが、自ら女形として素人歌舞伎の舞台に立って演じたり、遊女や女形に扮した写真資料も多く遺されています。
下の写真左のパネルは、甲斐荘が女形を演じてる写真ですが、パネル中央上の火鉢を前にほおづえをつく女形姿の甲斐荘は、その右の作品《桂川の場へ》(京都国立近代美術館)の女性とポーズがそっくり!
自分が美人になりきらなければ美人画は描けないというこだわりなのでしょうか。
この徹底した心意気に驚かされます。
第2章展示風景 |
こちらは甲斐荘が遺したスケッチブック。
全部のページを展示することはできないので壁面のパネルには主な場面が拡大されています。あわせてご覧ください。
甲斐荘は、画壇の陰湿な人間関係が性に合わなかったこともあって、1940(昭和15)年頃、絵画から映画制作の世界に「越境」して、主に衣裳・風俗考証者として活躍しました。
彼が係わった映画の数はなんと236本!
展示室内にはそれらの映画作品がスチール写真やポスターとともに年代順に紹介されています。
もしかしたら、と思いましたが、やはり彼が出演している作品もありますので、ぜひその場で探してみてください。
第3章展示風景 |
テレビが一般に普及するまでは映画が娯楽の中心だった時代にあって、絵画制作の経験が豊富で、もともと芝居好きの甲斐荘にとって映画界は格好の活躍の場だったことでしょう。
彼が衣裳をてがけた『雨月物語』がアカデミー賞衣裳デザイン賞(白黒部門)にノミネートされたときの資料なども展示されています。
そして今回の展覧会のもう一つの大きな見どころはこちら。
「眉間に冴える三日月形、天下御免の向こう傷」の名セリフで知られる市川右太衛門主演の人気シリーズ「旗本退屈男」をはじめとした時代劇衣裳が作品のポスターとともに並んだ様はまさに圧巻そのものです。
京都国立近代美術館内カフェ「café de 505」で、会期中、提供される本展とのコラボレーションメニュー、一日10食限定の「ふるへる女心の情念パフェ」もおすすめです!