2023年2月12日日曜日

東京都美術館「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」

東京・上野公園の東京都美術館では、「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」が開催されています。

展示室入口のフォトスポット

今回の展覧会は、220点以上のエゴン・シーレ(1890-1918)の作品を所蔵し、「シーレの殿堂」として知られるウィーンのレオポルド美術館の所蔵作品を中心に、油彩画、ドローイングなど50点を通して画家の画業の変遷をたどる回顧展。
同時に、クリムト、ココシュカ、ゲルストルをはじめとする同時代作家たちの作品も紹介されて、シーレをめぐるウィーン世紀末美術の雰囲気を感じ取ることができる展覧会です。

それではさっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2023年1月26日(木)~4月9日(日)
開室時間 9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
休室日  月曜日
※会期等は変更になる場合があります。
会 場  東京都美術館(東京・上野公園)
観覧料  一般 2,200円/大学生・専門学校生 1,300円/65歳以上 1,500円
※本展は、展示室内の混雑を避けるため日時指定予約制です。詳細は展覧会公式サイトをご覧ください⇒エゴン・シーレ展

※展示室内は一部を除き撮影禁止です。掲載した写真は美術館より広報用画像をお借りしたものです。

エゴン・シーレ展_会場 撮影:山本倫子




クリムトの影響を受けた初期作品

1906年、16歳でウィーン美術アカデミーに入学したシーレが保守的な教育に不満を抱いていた頃、当時のウィーン美術界の中心人物だったグスタフ・クリムトに出会い影響を受けました。
その影響が見られるのが1908年に描かれたこの作品。

      エゴン・シーレ《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》 1908年           油彩、金と銀の顔料/カンヴァス レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna


正方形のカンヴァスや背景に金や銀を用いるところにクリムトの影響が見られるのですが、背景に描かれた金や銀の四角い升目模様の境目が金箔や銀箔を貼った箔足のように見えて、一瞬、これは日本画ではと思ったほど装飾的な作品でした。

シーレが影響を受けたクリムトの作品は、やはり正方形のカンヴァスに描かれていました。
当時、オーストリア帝国を支配していたハプスブルク家の夏の離宮・シェーンブルン宮殿にある庭園を描いた作品です。

       グスタフ・クリムト《シェーンブルン庭園風景》 1916年 油彩/カンヴァス     レオポルド美術館に寄託(個人蔵) Leopold Museum, Vienna



風景画には人物を描かないことが多いクリムトにしては珍しく人物を描いた作品ですが、一面緑が生い茂る中、人物の服装の色がいいアクセントになっています。


自画像は何を物語るのか

今回の展覧会のメインビジュアルの一つにもなっている《ほおずきの実のある自画像》は、シーレの自画像の中でもっともよく知られている作品です。

     エゴン・シーレ《ほおずきの実のある自画像》 1912年 油彩、グワッシュ/板             レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna


日本ではお盆にご先祖様をお迎えするために飾るほおずきは、西洋では「deception(ごまかし)」の花言葉で知られています。
ほおずきを背景にして少し斜めに構えたシーレは、見る人に何を訴えようとしているのでしょうか。


照明を落とした展示室の中で神々しい光を放つのは、25歳の若さで自ら命を絶ったリヒャルト・ゲルストルの《半裸の自画像》。
だらりと垂れた両腕はキリストの受難、白い腰巻と頭部をおおうオーラはキリストの復活を表わすとされるこの作品は、今回展示されている自画像の中でも特に強く心に響きました。

         リヒャルト・ゲルストル《半裸の自画像》 190204年 油彩/カンヴァス               レオポルド美術館蔵Leopold Museum, Vienna


エゴン・シーレ展_会場 撮影:山本倫子



独自の視点から描かれた女性像

シーレの描く母子像は、キリスト教絵画の伝統的な聖母子像を思わせる構図をとりながらも、母親は何かを案じているかのように目を閉じ、子どもはおびえているかのように大きく目を見開いています。
掌を広げた子どもの左手は何かを拒絶しているようにも見えて、これから不穏なことが起こるのではないかという不安な様子を感じさせる作品です。


           エゴン・シーレ《母と子》 1912年 油彩/板                            レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna



筆ではなく、指を使って描いていて、一部には指紋が残されているこの作品は、筆という道具を介さない、まさにシーレの魂が直接体からほとばしる絵と言えるのではないでしょうか。


シーレの描く女性像は少し違た角度やポーズで描かれているのが特徴です。

シーレの妻・エーディトは、少し上から見た角度から描かれています。
普段着を着て、少し伏し目がちで遠慮したように見えるエーディトの姿は、とても親しみがもてるように感じられました。

     エゴン・シーレ《縞模様のドレスを着て座るエーディト・シーレ》 1915年          鉛筆、グワッシュ/紙 レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna


伝統的的な裸婦像は、立っているか、横たわるポーズをとっていることが多いのですが、シーレの描く裸婦像はなぜかアクロバティックなポーズをとっています。

      エゴン・シーレ《頭を下げてひざまずく女》 1915年                         鉛筆、グワッシュ/紙 レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna


最初はどういう姿勢なのかわかりませんでしたが、ひざまづいた状態から突然に前かがみになった瞬間が描かれているようです。
女性のたくましい太腿に目を奪われますが、他に展示されている裸婦像を見て感じたように、シーレは特に女性の太腿に注目していたのではないでしょうか。


世界遺産の街を描いた風景画がロマンチック


人物画のイメージが強いシーレですが、今回展示されている作品の中でも風景画ののどかな雰囲気が特に心地よく感じられました。

描いたのは現在のチェコ共和国南部の小さな町・チェスキー・クルムロフ(当時はクルマウ)。
今でも中世の街並みをとどめるこの町は、現在は世界遺産に登録されていて、観光の名所になっているので、行かれた方もいらっしゃるのでは。


    エゴン・シーレ《モルダウ河畔のクルマウ(小さな街Ⅳ)》 1914年                   油彩、黒チョーク/カンヴァスレオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna


母親の故郷クルマウをたびたび訪れたシーレは、まるでメルヘンの世界のような街並みを油彩や素描で繰り返し描きました。

シーレが描く家々はどれもがおもちゃのようにロマンチックで、道路に向けて開かれた小さな窓が窓枠だけが小さく描かれていてとても可愛らしく感じられます。

※上記作品を含め「第9章 エゴン・シーレ 風景画」は撮影可です。撮影については展示室内の注意事項をご確認ください。


シーレ作品50点が集結したこれだけ大規模な展覧会が日本で開催されるのは30年ぶり。
巡回展はありませんので、この貴重な機会にぜひ東京都美術館までお越しいただいてウィーンが生んだ若き天才の作品をお楽しみいただきたいです。

エゴン・シーレ展_会場 撮影:山本倫子



鏡の前でポーズをとるエゴン・シーレにも会えます。
展示室外のこのパネルは撮影可なので、記念にシーレと一緒にポーズをとってみてはいかがでしょうか。

フォトスポット